ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第45話:『灼翼聖炎竜』VS『頂雷熾天』

 これは、決勝の二日前――つまりは準決勝前夜。スカイが自分の部屋にルシアスを招き入れた時の出来事。スカイはルシアスに、ラーミアに勝つための秘策を見せようとしていた。

 

「じゃ、見せるね! じゃん!」

 

 スカイが、揚々と秘策の隠れた部屋のドアを開く。部屋の中にあったのは――『ラーミア』だった。ラーミアとの思い出、ラーミアのことが書かれた本、ラーミアから貰ったもの……スカイがラーミアと出会って得た全てが、一つの空間に溢れそうなほど満ちていた。

 

「お、おぉ……!?」

 

 それを見たルシアスが、怯んだように眼を見開き、重心を後ろへ逸らす。異様な光景の部屋に強い衝撃を受けたようだ。だが、少し部屋を見渡した彼は……その部屋の奥にある紙の束を拾い上げ、口を開いた。

 

「この辺にある資料って……もしかして、ラーミアのデータか?」

 

 ルシアスが拾い上げた紙の束には、ラーミアがどういう風に成長をして、どのタイミングで魔法を使ったのか……これまでの依頼での証言や痕跡から研究した結果が記載されていた。それに気づいたルシアスへ、スカイが好戦的な笑みを見せる。

 

「うん! ボクなりにずっと集めてたんだ。一部は焼かれたり水浸しにされちゃったりしたけど、頭の中には全部入ってる。これが、ボクなりのらーちゃん対策だよ!」

 

「……なるほどな」

 

(だから、原作でスカイはラーミアへ勝てたのか)

 

 あまりの情報量に冷や汗を浮かべるルシアスの頭の中では、目の前の光景とある原作知識が結びつけられていた。その原作知識とは、スカイ以外のヒロインをどれだけ効率よく育成しても何故かこの決闘祭ではラーミアに勝てないというものだった。

 

 ステータス的には明らかに勝っていても、スカイ以外では何故か決勝のラーミアだけは突破できず、準優勝で終わってしまう謎仕様。この問題について、前世ではスカイだけシナリオの都合上勝てるようになっていると目されていた。だが、真実は、スカイからラーミアへの執着が半端なく強く、それが研究に結びついて勝っていただけだったのだ。

 

 一通りデータを見終えたルシアスは、その目線をデータ以外の部屋の構成要素、スカイがラーミアへ向ける感情の欠片へと向けた。一通り視線を動かし……棚の上にあるポーションの空き瓶が目に入ると、ルシアスは動きを止めた。

 

「この瓶は?」

 

「あっ、それはね。去年貰ったらーちゃんからボクへ送られた誕生日プレゼントだよ。なんだっけ、魔力を高める効果がある、黄金樹から採れたシロップ……だっけ。すっごい甘かったから頼めばまたくれたりするかな?」

 

「……確か、黄金樹のシロップって金貨百枚(ひゃくまん)単位で取引されてるんじゃなかったっけか?」

 

「……えっ。そ、そんな高いものだったの!?」

 

 ルシアスの指摘がよほどの衝撃だったのか、スカイの顔はみるみるうちに色を失っていく。それに気づいたルシアスが、慌ててフォローに入った。

 

「これ貰った時のスカイは、まだ魔法が使えなかったんだろ? ラーミアはそれだけ……スカイに魔法が使えるようになって欲しかったんじゃないか?」

 

「はっ! そうかも!」

 

 ルシアスの言葉でショックから立ち直ったスカイは、さっきまでとは逆に、その表情を綻ばせていた。

 

「ふえへへへ……。そっか。だったら……その期待に応えて、ボクはらーちゃんに並んでみせないとね! らーちゃんを、独りにしないために!」

 

「……ああ、そのためにまず、準決勝を勝ち切らないとな」

 

 厳しい言葉とは裏腹に、ルシアスの表情は僅かに綻んでいる。

 だが、彼は知らなかった。実はスカイはもう一つ、部屋を購入していて。そこには、今までルシアスから貰った外套などの……『全て』が飾られていて。

 

 ルシアスも、スカイの執着の対象となっていたことを。

 

 *

 

 雲一つない晴天の下。戦乙女学園決闘場――学園が出来て以来数百年間使われ続けていたその場所で今、二人の戦乙女が対峙していた。

 

 片側で顎を上げて世界を見下すは、ラーミア・カルミナント。魂導者なしでの羽化、S級災厄との交戦、王女からの戴冠等、まさしく天に届く程の功績を挙げ続けた彼女はその生まれと性格から敵を多く作り、その全てを実力で跳ね除けた……世代最強の戦乙女。

 

 そんな彼女に正面から向かい合うは、スカイ・ジーニアス。つい一か月前まで魔法が使えなかった落ちこぼれ戦乙女にして、ラーミアと公爵家の板挟みに遭い、決闘祭終了後すぐに退学という不遇な境遇にある少女。だが、その一ヵ月という短期間で決闘祭の決勝という晴れ舞台に立てるほどに成長した天才戦乙女でもある。

 

 そんな彼女らを観客席から見るは、髪が水色と黄色のツートンカラーとなっている王女様。ラーミアに冠を授けた当人である彼女は、先日の魔族騒動でほぼ全ての王族が観戦を中止する中ただ一人、神に捧げる決闘の見届け人に立候補。丁度二人を視界の真ん中に捉えられる席で、鎧を着た戦乙女を傍らに鎮座させている。

 

 だが、決闘場を埋め尽くす観客の興味は、そんな強く尊い三人よりスカイの隣で佇む一人の白髪の少年に行っていた。元々魔法も使えない落ちこぼれだったスカイをここまで導いた天才魂導者として注目されている彼は……。

 

(ここまで来たらもう、スカイの才能に全賭けするしかねえんだよな……)

 

 その実、原作知識とスカイの才能頼りな部分が大きいため、魂導者としての能力は未知数な部分があり頼りないのだが、周囲の人間にはそう映らない。

 

 この場で魂導者としてのルシアスの価値を認めていないのはただ一人。薄い笑顔を浮かべてルシアスとスカイを眺めるラーミアだけだった。

 

「くくっ。(ワタシ)が先人として、退学後の働き方を教えてやる。だから、安心して――ルシアスを寄越せ、スカイ・ジーニアス」

 

「……ありがとね。気持ちだけは受け取っておくよ。でも、勝つのはボクだから――ルシアスは渡さないよ、らーちゃん」

 

 バチバチに火花を散らす二人の戦乙女。そんな二人を見た魔法学の先生がマントを翻し、放送用の宝珠を構えた。

 

『10秒後に決闘を始める。自陣内で移動をしておけ』

 

『戦乙女闘装――頂雷熾天(カルミエル)

『戦乙女闘装――灼翼聖炎竜(ブレイジングドラゴン)!』

 

 詠唱が重なり、ラーミアの背からは黄金の六枚羽が、スカイの背中からは真っ赤な竜翼がそれぞれ展開される。ラーミアは迷わず飛び立ち、羽毛をまき散らしながら上昇を続ける。だが、スカイは飛翔する前にルシアスの方を振り返り――。

 

「――行ってくるね!!」

 

「ああ、行ってこい」

 

 ルシアスの言葉に背中を押され、スカイは飛び立った。竜翼から炎を噴射させて超高速で飛翔する彼女は、瞬く間にラーミアに並び、正面から向かい合う。

 

「――まずは並んだよ、らーちゃん!」

 

「くくっ。すぐに叩き落してやる」

 

 好戦的な笑顔をぶつけあう二人。その身体からは魔力が漲っており、今にもお互いに向かって解き放たれそうだ。

 

『――決闘開始!』

 

天雷の裁き(ライトニングジャッジメント)

 

 決闘開始の宣言と同時に、三対の黄金羽からまき散らされた羽毛が雷弾となり、スカイという一点へ向けて放たれる。青空を全て埋め尽くすほどの黄金の光。一撃でも翼に当たれば大きな損傷となり、スカイはたちまち地面へ叩き落とされてしまうだろう。

 

 四方八方から迫りくる雷弾に対し、スカイは動じることなく魔法陣の展開を行っている。

 

炎竜槍魔法(ブレイズスピア)!』

 

 スカイの詠唱。すると、魔法陣から炎でできた巨大竜が十数匹現れ、スカイの周囲を衛星のように巡回し始めた。

 

「オオオオオッ!」

 

 炎竜はスカイを守る盾となり、その横腹で雷弾を受け止める。鉄を砕く威力を持つ雷弾といえども、もとはただの羽毛。超高熱の炎に激突した雷弾はすぐに炭となり燃え尽きてしまう。

 

 それを見たラーミアは冷静に鼻を鳴らし――腰から剣を抜いた。蒼銀の刀身が陽光に反射し眩く光る。

 

「――悪いが、何一片容赦をしない。全力を以って貴様を潰す!」

 

 ラーミアが剣へ電流を流し、六枚羽に沿ってゆっくりと回し始める。すると、まるで砂鉄が磁石に吸いつくかのように、羽毛が剣へ集い始めた。数百の羽毛が一振りの剣に集約されたことで、剣の放つ蒼銀は羽毛の黄金にかき消される。

 

天雷の熾煌鳥(ライトニング・オーラバード)

 

 ラーミアが剣を大きく振る。すると、剣に集約されていた羽毛が六枚羽の鳥となって飛び立った。眩く(きら)めく黄金鳥は雷のような速度でスカイへ飛来。高圧帯電での体当たりを仕掛けている。

 

「――炎竜さん!」

 

「オオオオオッ!」

 

 スカイの号令で、炎竜が黄金鳥へ食らいつきその身を焼き尽くさんとする。

 

「無駄だ。押し通し、すり潰せ」

 

「ピィイイイッ!」

 

 だが、黄金鳥は自分の身に降りかかる炎竜をものともせずにただひたすらに直進を続ける。スカイはそうなることが知っていたかのように迷わず魔法陣を展開し、黄金鳥へと向けた。

 

竜炎球魔法(ファイアボール)!』

 

 恒星のような熱と質量を持った炎球が黄金鳥へ放たれる。黄金鳥の全身を包んでも尚余りある大きさを持つ炎球の中で黄金鳥は全身を焼かれ、炭となって消滅した。

 

「……ちっ」

 

 ラーミアは軽い舌打ちを一つすると、六枚羽で一つの魔法陣を編み始めた。魔法陣はすぐに完成し、黄金の極光を放ち始める。

 

天雷の罰光(ライトニングネメシス)

 

 詠唱と共に、黄金色の雷魔力砲が空の青ごと、竜炎球を貫く。

 黄金魔力砲に貫かれた竜炎球は砕け散り、霧消していく……。

 

「――それを待ってたよ!」

 

 ように思われたが、砕けた破片の一つ一つが炎竜へと変化。ラーミアという一点へ向かって四方八方へ散り、襲い掛かり始めた。

 

 それを見たラーミアが煩わしそうに身体を旋回させると、それに合わせて魔法陣及び黄金魔力砲も向きを変える。軌道上にいる炎竜が薙ぎ払われ、爆散した。だが、炎竜がいなくなって晴れた視界にスカイはいなかった。

 

「隠れたか、だが無駄だ!」

 

 ラーミアはその身体をさらに捻転させ、自分へ襲い掛かる炎竜全てに対して黄金魔力砲を叩きつける。その勢いは凄まじく、百体以上いた炎竜はいつの間にか指折り数えられるほどにまで減ってしまっていた。

 

 逆に言えば数体の炎竜はラーミアの元にたどり着いたということで。残った炎竜は大口を開け、今にもラーミアの羽を食らわんとする。だが、その牙が届く寸前、ラーミアの身体から鋭く研がれた雷が発散した。

 

天雷の咎針(ライトニングロッド)!』

 

 棘のように鋭く尖るその一撃に貫かれた炎竜達は動きを止め、霧散する――寸前、その内の一つからスカイが飛び出した。

 

「――ばっ!」

 

 炎竜から飛び出したスカイは竜翼から炎を吹かせ、ラーミアを急襲。雷棘へ炎を纏わせた拳を叩き付け、粉々に砕いた。

 

『天雷駆動』

 

 それを見たラーミアが四枚羽を身体に仕舞い、蒼銀の剣を構える。黄金の雷が漲る身体が剣を構えるその姿は、まるで限界まで引き絞られた弓の弦。あらゆる力が一点に集約したそれが解放された瞬間、蒼銀の光が天を貫くだろう。

 

 スカイが剣の有効射程に入り、ラーミアが剣を解き放った、その瞬間――。

 

『――今だ』

 

竜炎衝魔法(ブレイズインパルス)!』

 

 ルシアスの指示を受け取ったスカイがその腕を爆発させ、超速で後ろに飛んだ。

 

『アルスター流剣聖道――第四章・破天寓話、飛龍薙ぎ』

 

 スカイが後ろにぶっ飛んだことで、同時に放たれた音すら越える神速の一閃は彼女へ当たらず、ただ爆炎の赤を切るだけにとどまってしまった。

 

「……何、だと!? くぅっ……!」

 

 無理がたたったのか、驚愕するラーミアの筋肉が音を立てて悲鳴をあげ、明確な隙ができる。当然その隙を見過ごすスカイではない。スカイはすぐに背中から炎を噴射させ――ラーミアへ激突した。

 

「ぐっ――」

 

竜炎牙魔法(ブレイズファング)!』

 

 スカイの拳が至近距離のラーミアを捉える。炎を帯びたその一撃をラーミアはギリギリで黄金の羽を挟み込むことで直撃を回避する。しかし、勢いを殺しきることはできず、まるで巨大な指で弾かれたかのように吹き飛ばされた。

 

「ぐぅうううううっ!!」

 

「やっ――うぐっ!?」

 

 攻撃が通って喜んだのも束の間、防御の際に飛び散った黄金の羽毛の数枚が赤鎧に触れ雷と化す。感電したことで、スカイの顔が苦悶に染まった。

 

「……ふぅっ!」

 

 だが、スカイは先日毒の解除を行ったように身体の中で魔力を循環させ、雷の魔力を拒絶した。苦痛が消えたことで若干揺らいでいた意識を戻したスカイは、先程のラーミアの剣……を通じて、先日のルシアスの言葉を思い返した。

 

『アルスター流剣聖道の弱点。それは決まった動きしかできないこと。本質が()()だから、応用性が全くないんだ。だから、『剣聖伝説』を読み込めば、構えやシチュエーションから逆算してどの剣が来るか予測できる。つまり、俺が指示すれば――絶対に、躱せるってことだ』

 

(……あんなに凄い剣なのに。ボクに剣の知見とか全くないのに。ルシアスの指示通りに動いたら躱せちゃった)

 

 ラーミアの持つ蒼銀の剣を遠目に見ながら、スカイは微妙な顔をしている。対するラーミアは、体にしまっていた四枚羽を広げ、スカイから貰った一撃の勢いを殺しきった。

 

「……ルシアスの入れ知恵か。余計なことを」

 

 憎らし気に口の端を歪めるラーミアの視線が、焼け焦げた二枚の羽へ向く。ラーミアは使い物にならなくなった羽を切り落とすと、剣に乗せてスカイへ向けて放った。

 

天雷の双熾煌鳥(ライトニング・ツインオーラバード)!』

 

「ピィイイイイイイイッ!!」

 

 二羽の黄金鳥がスカイへ向かって飛び立つ。ただでさえ一体を倒すのに相当量火力が必要な黄金鳥が二羽同時に放たれた以上、正面からの撃破は不可能。そう判断したスカイは炎を纏い、ただひたすらに直進する。

 

 まるで星が墜落するような勢いで黄金鳥に突っ込んだスカイは、まるで黄金鳥の進む道が分かっていたかのように軌道を変え……激突する寸前に躱した。

 

「――甘い!」

 

 瞬間、二体の黄金鳥が光に包まれ爆発。その身体を彩っていた羽毛が雷弾と化し、スカイへ向かって放たれた。雷をぎゅっと凝固させて降らせたかのようなスコール。そんな至近距離で放たれた数百撃に対し――スカイは一瞥もせず、炎による焼失と機動力で雷弾を御しきった。

 

「なっ――!?」

 

「せいっ!」

 

 ラーミアが眼を剥く間もなく、スカイが勢いに任せて足で円弧を描き、ラーミアへ叩きつける。ラーミアは寸前で羽根を動かし、その蹴りを躱した……ように見えた瞬間、スカイの足が爆発した。

 

『――竜炎衝魔法(ブレイズインパルス)!』

 

 まるで進む場所が分かってるように、爆炎がラーミアを巻き込む。

 

「ぐあっ――!」

 

 爆炎に吹き飛ばされた一対の羽が聖竜の炎で延焼。半分以上が燃え堕ち、六枚あった羽も残り二枚となる。

 

 ……ここで、ラーミアがスカイへ抱いていた違和感が確信へと変わった。

 

(カイちゃんに、動きを読まれている……?)

 

 先程の黄金鳥を使った一連の攻撃が全く実を結ばなかったのも。炎竜を黄金魔力砲で薙ぎ払った際、スカイが入った炎竜を撃墜できなかったのも。スカイがラーミアの動きを完全に読めていないと説明がつかないからだ。

 

 思考を取りまとめ、カイちゃんに向かい合ったラーミアは……大きく、その眼を開き、驚きを顔面全体で表した。

 

「ずっと、ずっと! ボクはらーちゃんの背中を見てきた! だから、何があっても食らいついて――離さないよ、らーちゃん!」

 

 スカイの眼に浮かんでいたのは、七歳でラーミアが羽を出し、天と地に分かたれて以来8年間ずっと魂の中でくすぶっていた執着。強烈な感情は今、天にまで届く才能によって、天辺(ラーミア)への理解へと変わっていたのだ。

 

 呼吸、体の動き、魔法を使う時の癖、魔力の流れ方……ラーミアの全てがスカイの頭の中で演算され、ラーミアの行動の先読みという形で出力される。

 

 これは、スカイとラーミアが子供の頃から共に過ごしてきたからこそ分かる――だが、他者への理解と受容を捨てた今のラーミアには、できない芸当だった。

 

 唯一この状況を覆しうるのは右手に持つ蒼銀の剣だけなのだが、それはルシアスに理解されている。手札の全てを理解され、スカイとルシアスの二重レンズでラーミアは丸裸にされてしまっていたのだ。

 

「――(ワタシ)を、そんな程度で堕とせると思うな!」

 

 そのことを知ってか知らずか、ラーミアは情動を叫びながら燃え残った羽根を両手で引きちぎり、それぞれの手で握りしめる。すると、両手の中から黄金の極光が溢れだした。

 

「小細工を弄するより先に、撃ち落としてやる!」

 

 両手で極光を編み込んで、瞬きの間に魔法陣の展開をするラーミア。それは、万を超える戦闘によって培われた技術の総体にして、スカイの意識の隙を貫き通すただ一点を目的とした――雷速絶対の一撃。

 

『――天雷の罰光(ライトニングネメシス)!』

 

 強大な敵を破壊することだけを目的とした黄金魔力砲が今、最小限の工程によって放たれる。

 

「……っ!」

 

(……速い! 避けきれない! だったら、攻める、守る、どっちが……?)

 

 逡巡をするスカイの手にある赤き魔法陣が光り、その耳にルシアスの命令(オーダー)が入る。

 

『征け、スカイ。お前は――天才だ』

 

「――! うん!」

 

 深くうなずいたスカイが、最小限の工程で魔法陣を展開を始める。

 

炎竜槍魔法(ブレイズスピア)!』

 

 詠唱と共に放たれたのは、小ぶりな――といっても、スカイより一回り大きい炎竜だった。それを見たラーミアは、眼を鋭く光らせ黄金の極光へさらに力を込める。

 

「そんな矮小(ちいさ)な魔法で、どうにかなるわけないだろう!」

 

「知ってるよ! だから――こうするんだ!」

 

 スカイは、背中から炎を噴射させ炎竜へ突入。炎竜と一体化し――黄金魔力砲を正面から受け止め、弾き返した。

 

「――なっ!?」

 

「行くよ、らーちゃん!!」

 

 それは、これまでの姿を隠すためのそれと違う、完全なる一体化だった。自身と炎竜を接続し、膨大な魔力の全てを炎竜と共有するスカイは、竜の魂と化したのだ。

 

(ワタシ)は、天辺に立つんだ! だからこんな所で――負けていられないんだ!!」

 

「ぐ、ううううううっ!」

 

 だが、それでも、ラーミアの放つ最強の一撃を完全に拒絶することはできず。炎竜の形は少しずつ崩れ、内部へ電流が滝のように流れ込む。苦悶の表情を浮かべるスカイだったが、それでも竜は止まらない。

 

 友へ、そして、魂導者への想いを乗せ、ただひたすらに天を目指し直進し続ける。

 

「う、あああああああああっ!!」

「ぐ、おおおおおおおおおっ!!」

 

 二人の叫びが、赤と金の魔力が、竜と天使が交錯し、二色の大爆発を起こす。

 

 世界を揺るがす爆音が鳴りやんだ時、空に残っていたのは――竜だった。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! ボク、勝った、の……?」

 

 電流によってスカイの四肢が弛緩したかのように空へ投げ出されていたが。竜翼だけは大きく羽ばたかせ、耳鳴りに満ちた青空に留まっている。

 

 対するラーミアは――。

 

(ワタシ)、は……」

 

 六枚羽の全てが焼け、眼を大きく見開き、信じられないと言った面持ちで地面へ墜落している。だが、決闘場の砂地へ落ちる寸前、僅かに燃え残った羽から魔力を放出し、地面への不時着だけは防いだ。

 

「う、ぐ……っ」

 

 だが、着地した後も、ラーミアはまともに立つことができず、蒼銀の剣を地面に刺し、片膝でもついて戦闘不能扱いされないように無理矢理体勢を維持していた。

 

 そんなラーミアに、ルシアスが歩み寄る。それに気づいたのか、ラーミアは弱々しく口を開いた。

 

「なぜ、(ワタシ)は、負けた……?」

 

「イリス達が準決勝で手札を切らせてくれたのと、剣聖の剣を使ったから。特に後者の罪は重いぜ? 戦乙女用の剣術使われてたら止める方法なんてなかったのに、魔法で再現してまで、身体に合ってない騎士剣を使ったんだ?」

 

 怒気を孕んだルシアスの問いかけに対し、ラーミアは僅かに口角を上げた。

 

「……アルスターの剣の価値を貶め、貴様に、自分だけの剣を使わせるためだ」

 

「はぁ? お前、ほんとさぁ……」

 

 心底呆れた様子のルシアスだったが、すぐに顔をぶんと振ると、平静を取り戻したように頭をかいた。

 

「……降参しろ、ラーミア。ここから空へ飛ぶ方法なんてないし、これ以上の戦いはお互いのためにならねえだろ」

 

「……っ。(ワタシ)は……」

 

 ラーミアが歯を食いしばり、逡巡を始めた、その時……。

 

『あんな落ちこぼれに負けるなんて、思ったより大したことなかったな』

『圧倒的な世代最強って言われてたけど、世代自体が大したことないんじゃない?』

 

「…………っ!!」

 

 陰口が、罵声が、観客席から飛んできた。その正体は、決勝を見に来ている王族が少ないことで気が緩んだ、ラーミアのいる派閥と敵対している貴族。

 

 無敗にして無敵だったラーミアが初めて負けたため、この機に乗じてラーミアの評判を可能な限り落としておきたいという政治的な狙いがあったのだ。

 

「手前ら……っ!」

 

 青筋を立てたルシアスが反論するより先に――観客席にいる王女様が立った。その身に纏う高貴な雰囲気のせいか、決闘場中にいる人々の言葉が止まり、静まり返る。

 

「――控えなさい、これ以上神聖なる決闘を穢す前に。それに、ラーミアは(わたくし)が手ずから名を与えた戦乙女。彼女へ悪意を向けることは、(わたくし)に喧嘩を売るのと同じことなのだけど……続けますの?」

 

「…………!!」

 

 王女様の一声でラーミアへ陰口を言っていた貴族達は動きを止め、身を隠すようにその身体を丸めた。それを確認したルシアスが、ほうと息を吐いてラーミアへ顔を向ける。

 

「いい王女様じゃないか。スカイの退学を取り消すために、あとで顔を繋いでくれ……ラーミア?」

 

「――見下された。(ワタシ)は、誰にも見下されてはならないのに。(ワタシ)は、(ワタシ)は……!!」

 

 ラーミアの顔は色を失い、眼は瞳孔まで開き切っている。歯の根が合わず、カチカチ……という軽い音を立て、ラーミアの右手にある紋様が黒に染まる。

 

「やめろ、やめろっ! 見下すな……っ!」

 

「――おい、大丈夫か! ラーミア……っ!?」

 

 明らかな異変を察し、ラーミアにへ駆け寄ったルシアスは、確かに聞いた。

 

『体が陽光(ひかり)で灼かれても』

 

 フギンの、声を。

 

『魂は天へ叫び続ける』

 

 詠唱。

 刹那、ラーミアの魂が黒く弾け、右手にある黒き紋様から地面へ、魔法陣が投影される。

 

 

「――(ワタシ)を見下すなぁああああああああああッ!!」

 

 

 星が落ちたかのような、轟音の叫び。

 

 刹那、地面に投影された魔法陣から放たれるは、黒き極光。

 

 濁光に導かれるようにラーミアの背から生えるは、六枚の――鴉羽!

 

 身体から迸るは、あらゆる現象を超越した、黒き稲妻――!!

 

 

 

狂華悪魔鎧(デビルズブルーム)――堕天王権(ルシフェリオン)ッ!!』




【備考】
狂華悪魔鎧(デビルズブルーム)
悪魔鎧が『開花』した完全体
原作ルシアスも使う。

あと、明日は二話投稿です。
一気にクライマックスまで駆け抜けます。
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