ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう 作:マテリ-AL
これは、ルシアスとラーミアが10歳の時の話。日の光がほとんど射さない薄暗い森の中で二人は出会い、肉を食らい、笑い方を教え合い……そして、別れの時が来た。
「……木でほぼ空が見えんが、そろそろ一日は経ったな。行かなければ、
「そうか。じゃあこの森の果ては知ってるから、そこまで案内してやるよ」
「いや、不要だ」
「うん? じゃあ、どうやってこの森から出るんだ?」
ルシアスの問いかけに対し、ラーミアは手に魔力を溜めることで応えた。
「ふふっ……貴様に、
ラーミアが背中から黄金の羽を生やす。
「…………は?」
それを見たルシアスが魂が抜けてしまいそうなほど口を大きく開いてのけぞった。その表情はまるで、世界にあってはならないものを見たかのような驚愕と困惑で満ちていて。その反応を見たラーミアは嬉しそうに微笑みながら、地面を蹴り、羽を広げて飛び立った。
(くくっ。流石に驚くか。当然だ、この年齢で空を飛べる戦乙女など、無駄に長い歴史の中で
チロッと舌を出すラーミア。その表情はいたずらが成功した子供のような無邪気な笑みに溢れ、体から漲る魔力は黄金の雷と化し、邪魔な枝葉を撃ち落としている。
「――てっぺんで、また会おう!!」
再会の誓いと共に森を抜け出し、夜空の黒に羽を広げ、ラーミアは星となった。
「なんで……なんで……」
ルシアスは指先も動かせずに、天に瞬く黄金の光を呆然と眺めている。
ここで一つ、ラーミアには誤算があった。
「なんで、
――ルシアスの
ルシアス・アルスターは、戦乙女を知らなかったのだ。
赤ん坊ですら知っているはずの、この世界の『特別』を。
戦乙女を酷く憎むアルスター騎士家の主は、自らの家に生まれた天才に対して読む本を指定し、空の見えない場所で修行を行わせることで、戦乙女の存在を徹底的に遮断した。それがここに来て……強烈な裏目と化し、ルシアスの世界を壊したのだ。
「はっ……、はっ……、はっ……」
ルシアスの胸中で酷く痛みを放つ何かが膨れ上がり、何もしてないのに息がつまってしまう。それでも、頭の中で巡る、透き通ったように明瞭な、それでいて絡まったひものように複雑で答えの出ない思考を止めることはできなかった。
(戦乙女? 空が飛べて……あれは、魔法? 魔法も、使えるのか……? なんで家は、戦乙女について教えてくれなかったんだ? そんな存在がいるのに、俺が剣を振って戦う意味はどこにある? 俺は、俺は……?)
ルシアスはこれまでの人生で、剣以外を求められてこなかった。剣の才こそが、ルシアスの存在意義だった。そんな彼は今、自分の剣を否定した。
「あぁ……」
黄金の光へ向かって手を伸ばす。その眼から涙が溢れて止まらないのは、瞬き一つせずにずっと光を見続けたせいか、それとも……?
「きれいだ」
ルシアスが、膝から崩れ落ちる。その衝撃で腰に付けた剣がべちゃっという音をたてて地面に落ち、真っ白な騎士装束が泥に汚れた。
天地がひっくり返り、奈落へ落ちていく感覚と共に……ルシアスがこれまで信じていた『世界』が音を立てて崩れていく。
「ははっ……。それに比べて俺は、なんて……」
ルシアスの眼に浮かぶ白銀の星が、魂の奥より湧き出た黒い感情に沈んで消える。
「なにが天才だ」
この日からだった。ルシアスが、
*
「それが、ルシアスとらーちゃん、の……?」
「あぁ。くっだらねえだろ? 喜劇にもなりやしねえ」
黒き雨が降り、地面が泥と化してぬかるんだ決闘場。ラーミアとの出会いを話し終え、雨に濡れた白髪から覗かせるルシアスの眼には、あの日と同じ自嘲が浮かんでいた。
「……でも、忘れられないんだ。剣を振ると、引き戻されるんだ。あの夜に」
「ルシアスは……らーちゃんのことが、嫌いなの?」
「ああ、嫌いだ。大ッ嫌いだ。アイツに出会ったせいで、俺は、俺は……っ!!」
はっ、と息を吐き、ルシアスが首を振る。
「……でもよ、どうしてだろうな? 『出会わなければよかった』とだけは、言えなかったんだ」
ルシアスは言葉を見つけられないようで、何かを探すように眼を動かしている。顔を僅かに上へ向けると――その眼に、黒き雨に滲んだ黄金の魔法陣が映った。
瞬間、脳を奪われた人形のようにルシアスの動きが止まる。
口は半開きになり、顔は眼を逸らせないよう固定されてしまっていた。
「いや、当然か。だって俺は、あの光に……」
唇が震える。
「憧れたんだ」
手を伸ばす。当然、黄金の光には届かない。届かないよう、戦乙女以外が『天』という特別を手に入れないよう、この
それでも――。
「俺はあの光のように……戦乙女のように、羽を生やして空を飛びたかった。でも、いくら跳躍力を上げても、何度高山から飛び降りても、全く届かなかった。いや、当然か。人間と戦乙女は、種族からして違うんだから。戦乙女に生まれても空を飛べるなんて限らないのに、人間なんて……なぁ?」
ルシアスの言葉は、忌避する過去を吐き捨てるように真に迫っており、受けとめたスカイの背筋がわずかに震える。
「最近になって、やっと分かったんだ。現実を見て、利口に生きるべきなんだって。だって、戦乙女だけが空を飛べるのが、《当たり前》なんだから。だから、利口に生きるための金が欲しくて……スカイ、お前と契約したんだ。悪いな。噂の天才魂導者は、こんな浅ましい人間だったんだよ」
ここでルシアスが、芝居がかったかのようにわざとらしく肩をすくめた。
だが、スカイは笑うことも、目を逸らすこともなく。真っ直ぐにルシアスの言葉を受け止め……真剣な表情で口を開いた。
「お金を求めたのが最近ってことは、ルシアスが魂導者になろうとしたのは……」
「……お察しの通り、空を、飛びたかったんだ。魂導者になって、戦乙女の一番近くにいればきっと、ただの人間でも空を飛べる方法が見つかるはずだって。……馬鹿みてえだろ?」
「…………!」
スカイが言葉を失う。
だが、それは決して、ルシアスの話の内容に絶句したわけではない。
むしろ逆――軽口の裏に隠れた苦悩を、執着を、見破ってしまったのだ。
「そうだ。俺は現実を見て、利口に生きるんだ。そう、決めたはずなのに……剣を振るたびに夢を見ちまう。手をいくら伸ばしても、絶対に届かない夢を」
ルシアスが首を傾けると、眼に黄金が再び映る。魂の奥底に封じ込めていた見るに堪えない情動が泥となり、ルシアスの眼へ溜まっていく。
前世を思い出さなかったルシアスはラーミアに執着し、闇に堕ちる。
だが、殺したいほどラーミアが憎かった訳ではない。むしろ、その逆だ。
憧れて。追いつきたくて。でも、何をしても追いつけなくて。
そんな自分が嫌になって。自分を否定して。
それでも、ラーミアにだけは、自分の行く道を否定してほしくなかった。
『夢』を与えてくれた彼女にだけは、どうしても。
たったそれだけ。それだけのために、ルシアスは。
黄金の星を討つ、愛憎抱く銀の流星。それが、『ソル&ヴァルキリー』、ラーミアルートラスボス――『ルシアス・アルスター』の肖像。
ただ、当のルシアスにとって……ラーミアに執着するその姿は、ただの『かませ』にしか見えていなかったようだ。
「ああ、ムカつくぜ。どうせ人間は空を飛べねえのに。何が天才だ、おこがましいッ!!」
ずっと胸の奥で膿んでいた感情を地面へ向かって唾棄したルシアスは、鼻を鳴らしながら、再び腰の剣へ手をかけた。
「……話しすぎた。なぁ、スカイ。こんなどうしようもねえ奴のことなんか、気にする必要ないぜ? お前
あっけらかんとしたルシアスの笑顔が、スカイへ向けられる。
それはスカイが初めて見た……ルシアスの、本心からの笑顔だった。
「……じゃあな」
踵を返し、ルシアスが黄金の星堕としの
スカイが、彼を強く抱きしめた。
「……スカイ?」
ルシアスの胸の中で、スカイは顔を見せずに言葉を紡ぎ始める。
「ボクはずっと、ルシアスに受けた恩を返したかった。でも、どうやって返せばいいか、分からなかった。ルシアスが何を欲しいか、知らなかったから」
「…………うん?」
(恩? スカイが、俺に? 逆じゃね?)
スカイが顔を上げ、怪訝な顔をしたルシアスと視線を合わせる。スカイの表情からは、溢れんばかりの熱情が迸っていた。
「でも今、やっと……やっと、分かったんだ! 決めたよ。ボクは……」
ルシアスから離れたスカイが、天へ向かって真っ直ぐに指を差す。二人が初めて出会った時の自己紹介を思い起こさせるそれと共に、スカイが放った言葉は――。
「――キミを、空へ連れていく!!」
スカイの言葉に、ルシアスは目を丸くし、拒絶するかのように後ずさった。
「はぁっ!? 何言ってんだ!! そんなこと、できるわけ――!」
「――できる!! だってボクは、天才だから!!」
「…………!」
何時もと同じような、だが、決定的に違うスカイの宣言に貫かれ、ルシアスは少しの間、放心してしまったかのように目を見開いて立ち尽くす。が、やがて、ふっと息を吐いて首を振った。
「……どうやって、ただの人間を空へ飛ばすつもりだ?」
「それは……ルシアスが考えて!」
「あぁ? そんなこと言われても……――っ!?」
自分が空を飛べる可能性を考えた瞬間、ルシアスの頭の中で黄金の電流が走る。『原作知識』と『経験』が混ざり、道が――天にまで届く、一本の道が見えたのだ。
「…………っ」
(前世の知識によると、魂導者契約って本当に一瞬だけ魂が混ざり合ってたよな? だと、したら……!)
それを自覚したルシアスの体が震え、言葉が詰まる。細かく震えるルシアスを見たスカイは、指を空からルシアスへ向けなおした。
「思いついたんだね! やっぱルシアスも、天才だ!」
好戦的な笑みを浮かべるスカイから逃れるように、ルシアスは首を振った。
「……いや、これはダメだ。俺の夢なんかに、スカイの命は賭けられない」
眼を閉ざし、首を振り、ルシアスが強い拒絶の意思を示す。だが、スカイは全く意に介さず、快活な笑顔をルシアスへ向けた。
「たとえ契約で繋がってなくても、ボクはルシアスだけの、戦乙女だから。キミのためなら何だってする。だから、ボクを――信じて!!」
あまりにも真っ直ぐなスカイの言葉を受けたルシアスは、しばらくの間、口の端を歪ませて、何か言葉を放とうとしていた。が、しかし、やがて諦めたかのように口を閉ざすと……ほんの少しだけ、口角を上げた。
「……そうだな。やって、みるか」
そう呟いたルシアスは、一息、深呼吸を入れた。姿勢を正し、まるでエスコートでもするかのように真っ直ぐにスカイへ手を差し出す。
「なぁ、スカイ――俺に、お前の魂をくれないか?」
「ボクの魂を? いいよ!」
ルシアスの言葉は、スカイにとって驚きに満ちたものであったが……スカイは瞬き一つせず、心の底からの信頼を以って、ルシアスの手に自分の手を重ねた。
そのあまりの躊躇いのなさに、ルシアスは嬉しそうに眉を困らせた。
「……そうか。じゃあ、詳しい方法を説明する。まず、もう一度魂導者契約を行う。それで、一瞬だけ俺とスカイの魂が混ざり合う瞬間に――変換効率を最大まで上げた戦乙女闘装を使って、肉体の全てを魔力へ変換してほしいんだ。スカイは一回闘装の形を変化させたことがあるだろ? その経験があるなら、できるはずだ」
「分かった、けど! ……その前の『経験』は忘れて欲しいな!!」
「……お、おう。分かってる。今回ので塗り替えてくれ」
ラッキースケベを露骨に忘れさせようとするスカイの圧にたじろぐルシアスだったが、すぐに気を取り直して言葉を続けた。
「要するに、俺とスカイの魂が混ざり合ったまま魂へ羽を授けるんだ。俺の肉体はまあ、タフだから。それにスカイの魔力を魂ごと乗せたい。ただ、失敗したら間違いなく死ぬ。もしスカイが、ほんのわずかでも無理だと思ったら、俺を切り捨ててでも……」
「もし、失敗したとしても、ルシアスの
ルシアスへ向かって手を差し出すスカイ。その、小さくも極大のパワーを持つ手に、ルシアスがその手を重ねようとしたその時、二人の背後で衝突音が鳴り響いた。二人が目を向けると、闘装が解除された学園長が観客席に落ち、轟音と共にクレーターを作った音だった。
「――があっ!!」
「なっ!? ならば、次は私が――!」
口から鮮血を流しながら、学園長が意識を失い観客席に倒れ伏す。それを見た司書は観客の避難誘導がこれ以上必要ないことを確認すると、懐から本を取り出して、巨大化させた。
「羽虫共が、煩わしいぞ!」
だが、司書が飛び立つより先に、ラーミアが動いた。頬にできた傷から垂れる血を親指で払い、臨界点に達した不快さを叩きつけるように、魔法陣の展開を終える。
『
放たれたのは、数十本の黒濁魔力砲。世界樹を粉砕し、竜をも簡単に撃ち落とす――世界を蹂躙する一撃。もし、その魔力砲が決闘場に触れた瞬間、多くの観客を巻き込み、決闘場は粉砕されてしまうだろう。
だが、観客席よりその一撃を見上げる二つの人影がいた。二つの人影は、恋人繋ぎのように手を合わせると……その間に溜まった魔力を、天へ向けて解き放った。
『
クリーム色と水色の二色で出来た氷球が決闘場を包むように展開される。ドームと化した氷球と無数の黒濁魔力砲は、拮抗。氷のドームには大きな亀裂が入ったが……黒濁魔力砲は少しずつ浄化され、やがて消滅した。
「ぜぇ……ぜぇ……。ちょっと、ラーミアちゃ~ん。闇に堕ちたせいでわたしの聖魔法で止めやすくなったのは、けほっ、けほっ、よくないんじゃな~い?」
「ふぅ……。ミタマ、息を整えるか、煽るかどっちかに絞りなさい。あと、そんな事言ってると、対策されるわよ」
「えっ……ちょ、今のなし!」
黒濁魔力砲の雨を防ぐための『傘』を作ったのは、イリスとミタマだった。軽口をたたき合う二人は、余裕そうな言葉とは裏腹に身体から力が抜けきり、真っ直ぐ立っていられないほどにふらふらだ。
「……あとは任せたわ。スカイ」
「やっちゃって、師匠!」
二人の声援を受け止めたルシアスとスカイは、頷き、紋様の付いた手を重ねた。深い集中と共に魔法陣へ魔力を流し込むスカイの表情に曇りはなく。ルシアスの命を受けた彼女に、失敗はあり得ない。
「できた! じゃ、行くよ!」
スカイが、赤く眩く輝く魔法陣を、重ねた手の間に入れる。
そうして、二人の魂導者契約は……始まらなかった。
「……あれ? え、なんで?」
そのまま複数回、一回目の契約と同じように手のひらを合わせても、一向に契約が始まる様子はない。繰り返す度、次第にスカイの顔が青くなっていく。数回繰り返しても契約が始まらないのを確認すると、ルシアスが口を開いた。
「もしかして、魔法陣を組み替えたから、手の合わせ方も変えなきゃダメなのか?」
「どうしよう……?」
「色々試すしかない。だが、まず何から試すか……」
ルシアスとスカイが眼を合わせたその時、決闘場を覆う聖氷球に、黒雷が走った。見ると、黒雷の干渉によって氷球が端から分解されていく。それを見たスカイの顔が、さらに青くなった。
「……や、やりすぎだよ。らーちゃん」
「マズイな。急がないと……――っ!?」
一刻も早く最適な契約方法を模索するため、ルシアスがスカイの手を優しくとった刹那、手の間で紫の光が爆ぜた。その光が二人へ、契約に何が必要かを啓示する。
「――!? これ、は……」
(ボクが、お姫様に……?)
「……はっ。なんだこれ」
(俺に騎士紛いのことさせるなんざ……どういう巡り合わせだ?)
苦虫を嚙み潰したような顔をするスカイと、毒づくルシアス。進化させた魂導者契約に必要な手の重ね方、それは、『ルシアスが剣を地に突き刺し跪き、スカイがそれを承認する』――まるで、騎士が姫へ誓いを立てる所作のようだった。
二回目の魂導者契約に必要なのは、一回目を超える絆の力。それを試すかのように、聖竜の姫の座を追放されたスカイには、『姫』の役割を。騎士に価値を見出せなくなったルシアスには、『騎士』の誓いを強要した。
それはつまり、二人共、自分の過去を乗り越えなければ契約ができないということで……それに気づいたスカイが、慌てたように魔法陣へ手を付ける。
「そうだ! 魔法陣を組み替えて、契約に必要な手の合わせ方を変更すればっ!!」
「いや、いい。変更した後、すぐに見つかる保証がない」
契約にどうしても乗り気になれないスカイに対し……ルシアスが腰から剣を引き抜き、スカイの前で地面に突きさす。そうして跪いたルシアスに対し、スカイは怯えるように身体を竦めて小さくし、首を振って拒絶の意を隠さずに示した。
「だめだよ、ルシアス。だってボクはダメな子で、追放されて、王女様じゃなくなって……こんなのが『姫』だなんて、ルシアスへ迷惑がかかっちゃうから……」
「スカイ」
「……っ」
ルシアスの穏やかな視線に射抜かれ、スカイが言葉を失う。
「俺もスカイも、眼を逸らし続けてきた。でも、ずっとそのままってわけじゃいかないだろ。二人で、乗り越えるんだ。今、ここで」
「ボク、は……」
スカイの手が、震えながらも少しずつ、本当に少しずつ、ルシアスの剣へ近づいていく。今にも触れてしまいそうなほど近づいたその時、スカイの唇が震えた。
「ねえ、ルシアス」
「どうした?」
「る、ルシアスから見たボクって、その……お、お姫様に見えてたの?」
躊躇いながらのスカイからの質問に対し、ルシアスは特に思考を巡らせず、それがさも当然かのように答える。
「ああ。初めて出会った時から、俺の眼に映るスカイは――誰よりも最高の
「ふぇ……!? そ、そうだったんだ……!?」
「……?」
二人の間で何か齟齬が起きているような気もするが、それはそれとして。ルシアスの言葉に突き動かされたスカイは、ルシアスの突き立てた剣に自分の手を重ねた。
「……じゃあ行くぞ、スカイ」
「うん、行こう。ルシアス」
ルシアスが手を重ねたまま跪く。すると、赤と青、二色の紋様が交わり、魂が混ざり合ったような感覚が二人を襲った。ここでスカイが展開中の赤き魔法陣へ魔力を込めると――二人のいる場所から極大の魔力が放出された。
「こんなもので、
黒雷が聖氷球の分解を終える。氷球に遮られていない決闘場を見たラーミアが、その顔を強くしかめた。決闘場のスカイとルシアスがいた位置から、白色光の円柱が立ちのぼっていたからだ。
(ぐぅっ!? この、熱は……!?)
光の中でルシアスは、血管にマグマを流し込まれたような灼熱を覚えた。その正体は、ルシアスの中へ入っていくスカイの魔力。常人であれば瞬時に炭化してしまうほどの熱量でルシアスの身体を内側から焼いていくその魔力を、それでも耐え続けることができたのは、ひとえに身体が強靭だったからとしか言いようがないだろう。
「ぎ、ぐうぅ……!」
「……ルシアス?」
「いや、大丈夫だ! 続けてくれ!」
ルシアスが歯を食いしばり、ただひたすらに熱に耐え続けていると……やがて、覚えのある感覚が自分の内側へ入ってきた。それは、スカイの――他人の魂。前世の記憶という形で、人格を持つ存在を一度受け止めた経験のあるルシアスは、掌で包むような丁寧さで、その魂を受け入れた。
「ぐ、あああああああああああああぁっ!!」
二人の魂が混ざり合う間、ルシアスは、串刺しにされ、業火で焼かれ続けるような苦痛に晒され続ける。だが、それでも、ルシアスはスカイの魂を手放すことはなかった。
やがて、二つの魂が一つに重なったその時。
……ルシアスは、魂の中からスカイの声を聞いた。
『これは……』
「成功、したみたいだな」
『うん。一つに、なっちゃったね』
「ああ。だが、これだけじゃ動けない。だから――命令をくれ、お姫様」
『……あ、うん』
ルシアスの言葉に対し、スカイは一瞬怯んだように言葉を止めた。
それに気づいたルシアスが、疑問を飛ばす。
「……どうした?」
『いや、いつもはボクが命令される側だから……慣れないなって』
「確かに、立場は逆転してんな。でも逆に、いつも俺がやってるみたいにすればいいんだから、楽なんじゃねえか?」
『確かに。じゃ、やってみる!』
ルシアスの言葉で活気づいたスカイは、一拍置いてその魂を輝かせた。
『お願い、騎士様! らーちゃんを救って!!』
「――我が姫の、御せのままに」
スカイの命令を受けたことでルシアスの体を巡る熱が魂へ集約され、純白の極光となって身体から放たれる。
光が晴れた時、そこにいたのは――騎士だった。穢れのない白銀の重装鎧に彫られた竜を思わせる赤き紋様からは、際限のない聖竜の魔力が溢れ、腰に携えた剣は、それ自体が一体の竜の頭から尾を思わせるように変質している。
だが、溢れ出す魔力よりも、竜を模した剣よりも、何よりも眼を引くのは。
その背中から生える――誰も飛翔できることを疑わない程立派な、白き竜翼!!
「……翼に、誓いを」
『この手に――勝利を!!』
声が重なる。
『
Q.ルシアスの言う『最近』っていつですか?
A.原作知識を手に入れた瞬間、つまり本作品の1話冒頭です。
ここでゲーム知識を手に入れた結果、世界の事を知り尽くして尚、『人間は空を飛べない』と知り、
世界へ絶望し、金を求め始めました。
逆に言えば、原作ルシアスは空を飛ぶことを諦めきれないまま魂導者となり、学園に来ます。
そうして、ラーミアに叩き潰され、『魂導者』を否定され、『騎士』を強要され……。
生まれて初めて自分の意思でやりたいと思ったことを、当のラーミアに否定されたルシアスの絶望は、計り知れませんね。