ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第48話:『白銀の光』

竜魂装衣(ドラゴクロス)――灼夜竜聖騎士鎧(ナイト・オブ・ブレイジング)!!』

 

 戦乙女決闘祭の決勝戦。真っ黒な雲が覆い尽くす世界で、スカイと一つになり、白き竜翼を手に入れたルシアスはまず、顔を上げた。視線の先には黒き六枚の鴉羽を大きく広げる、この世界の『王』と化したラーミアがこちらを睥睨している。

 

「なんだ? その、羽は……?」

 

 だが、ラーミアは今、まるで魂が抜けてしまったみたいに口を無防備に開き、眼に焦点が合っていない。白銀の翼にまさしく眼を奪われてしまっていたラーミアだったが……背中の羽から黒雷を自分の身体へ流し込まれると、絶叫と共に意識を取り戻した。

 

「ぐぅ、があああああああ……!! いいや、違う!! どんなに美しい羽だろうと――(ワタシ)の前では、墜ちるのみだ!!」

 

 眼に強い力を宿したラーミアが、黒き魔力を溜めた腕を振るう。すると、天を覆う黒雲から数百発の黒き雷が降り注いだ。

 

 黒雷は決闘場全体へ隙間なく着弾。円形のフィールドを完全に黒で染め上げる。だが、その『黒』の中から一つの『白』――白銀の鎧を身に纏ったルシアスが飛び上がった。

 

 重装の白銀の騎士鎧を纏っているのにも関わらず、ルシアスは観客席の最上段と同じ高さにまで跳躍し、地を這う黒雷から完全に逃れた。だが、そのままではいつか地に落ち、黒雷に取り込まれてしまうだろう。

 

 ここで、ルシアスの魂が赤く輝いた。

 

『――行くよ、ルシアス!』

 

「ああ!」

 

 魂から魔力が流れ込み、白き竜翼が赤く光る。竜翼を一度大きく羽ばたかせると、炎が噴射され――ルシアスは、跳躍による最高到達点からさらに高く、高く、高く飛翔。黒に満ちた世界に差す、一筋の光となった。

 

「は、はははははは……っ!! これが、空の感覚か……!」

 

 羽を広げ、空を飛ぶことに成功したルシアスは、顔面の全てが隠れる重装兜からでも分かるほど眼を見開き、全身を使ってその感覚を味わっている。そんな彼の魂が再び赤く光り、頭の中にスカイの声が流れてきた。

 

『いいや、まだだ。まだ、ここじゃルシアスに空を見せたっていえない! もっと、高みに行ける!』

 

「……もっと、高みに?」

 

『うん! もっと高みに――てっぺんに行こうよ、ルシアス!!』

 

「うぉおっ……!?」

 

 スカイの言葉に押されると同時に竜翼から純白の炎が噴射され、ルシアスの身体が超高速で上昇を始める。最初の一瞬は炎に振り回されていたルシアスだったが、すぐにコツを掴み、自らの意思で推進力を作って天を目指していた。

 

「させるか!!」

 

 だが、当然、『王』となったラーミアが自身に()向かう者を許すわけがない。両腕に魔力を溜めて片方を魔法陣の生成、もう片方を黒雲に向けて放つことで、二倍の速度で魔法の展開を行っている。

 

 やがて、ラーミアが指を鳴らすと魔法陣からは数十発の黒濁魔力砲が、黒雲からは先程決闘場へ放たれたのよりさらに多い数千発の黒雷が放たれ、戦乙女の代名詞である広範囲の魔力殲滅によってルシアスを確実に撃ち落とさんとしている。

 

『ぶち抜こう、ルシアス!』

 

「ああ!」

 

 もはや黒色の壁と化したラーミアの魔法に対して、ルシアスはただひたすらに真っ直ぐ上へ進み続ける。だが、ただ無策で突っ込んでいるわけではない。その証拠にラーミアと向かい合うように、一つの白き魔法陣が展開されていた。

 

 魔法陣から放たれた白き魔力が、黒き世界を突き進むルシアスを覆う。ルシアスを覆う白き魔力に衝突した黒雷は、特に干渉することもできずに弾き飛ばされた。

 

「なにっ!?」

 

 眼を剝くラーミアをよそに、白き魔力に包まれた流星はさらに加速と上昇を続け――遂には、天より睥睨し、世界を照らす黄金の魔法陣の真ん中をぶち抜いた。

 

 

空覇聖炎竜(ブレイジング・スカイ)!!』

 

 

 白き魔力に包まれたルシアスが数十キロの厚みがある黒き積乱雲をかき分け、流星を思わせるほどの超高速での上昇を続ける。雲の中は雷鳴で満ちており、ルシアスが少し動くたびに黒き閃光として炸裂し、轟音と共に超至近距離での魔力放出が行われる。しかし、聖竜の炎でできた白き膜はそれからも守る盾となり続けた。

 

 30秒も経たないうちに、ルシアスが黒雲を抜ける。

 闇を抜けた先にあったのは雲一つない『青』に満ちた世界だった。

 

「あぁ……」

 

 空気が清く澄んでいるおかげで、無限大の蒼穹を邪魔するものは何もない。

 下を見ると、世界を覆う真っ黒な雲海が地平線の果てにまで続いていた。

 黒き雲の中では常に雷鳴が響き続けているはずなのだが、今のルシアスにはどこか遠くの出来事のように思われる。

 

 空気は真冬のように冷たいのに、身体の奥から滲むような確かな熱を感じる。

 熱の正体は、陽光。祝福のように、ただ与えられ続けるそれを両手を広げて受け止めながら、ルシアスは――。

 

 

「きれいだ――最っ高に」

 

 

 ただ、天を仰いだ。

 兜に隠れているはずのその眼から溢れる雫が陽光に反射し、黄金に煌く。

 ルシアスが空の美しさを全身で味わっていると、魂が赤く輝いた。

 

『ふえへへへ……』

 

「……どうした、スカイ」

 

『いやぁ、やっと――()()()()()()()()()!』

(ちょっと形は違うけど、『綺麗だ』って!)

 

「……? どういう……」

 

 魂の中で満足げなスカイへルシアスが問いかけようとしたその瞬間――ルシアスの顔を覆っている兜の半分が弾けた。日の光に晒されたルシアスの眼が見開かれ、強い力を帯びる。

 

「……っ! スカイ、大丈夫か!?」

 

『大丈夫。その鎧はあくまでボクの魔力で作られてるだけだから、影響ないよ』

 

「そうか。だが、なんでか……はもう分かってるな。雲突っ切るときに食らったか」

 

 ルシアスがキャッチした兜の破片は、黒雷を帯びていた。ルシアスの推論通り、雲を突っ切る際に黒雷が一発掠ってしまっていたようだ。自分達が作り出した新しい可能性すら、王たる黒雷の前では塵芥に等しいことを理解したルシアスが、口の端を強く歪める。

 

「……どうやら、長期戦は無理そうだな」

 

『ボクもそう思う。あと、実はさっきこの雲に触れた時、分かっちゃったんだよね。この黒雲の、役割が』

 

「……なんだ?」

 

『この、一面に広がる雲は、らーちゃんの外付け脳みそなんだ。外側に情報を集積させて、らーちゃんの背中の羽を通して受け渡しをしてる。あの黒い羽が、らーちゃんを闇に染めてるんだ』

 

「……つまり、あの羽ぶっ壊せばラーミアは元に戻るってことか」

 

『うん。それにね、まだこの雲は完成してない、完全にはらーちゃんの頭と同期できてないんだ。だから、らーちゃんはずっと場当たり的に魔法の展開をしてる。この雲が世界の全てを覆った時……らーちゃんは『完成』するんだ』

 

「……不完全なのにこの強さか。『完成』したら、本当に誰も勝てなくなるぞ」

 

 肝が急速に冷えるような感覚に襲われたルシアスだったが、すぐに首を振って思考を取り戻すと……ある結論へ帰着させた。

 

「つまり、どの道短期決戦以外の選択肢はないってことだな」

 

『うん。で、ルシアス。その……勝つための策とかって、思いついてたりする?』

 

「ああ、ある」

 

『あるの!? なに!?』

 

 姿が見えないのに前のめりになっていることが分かるほど、熱心に食いついてきたスカイの問いかけに対し、ルシアスは迷わず口を開いた。

 

「――――ってのは、どうだ?」

 

『……え? それって……?』

 

「いいだろ? 折角、空飛べたんだしさ」

 

 策を言い終えたルシアスは、ほんのわずかに照れくさそうに、兜の間からむき出しになった頬を掻いていた。スカイもそれに賛同したのか、ルシアスの魂がさらに強い赤の輝きを放つ。

 

『よし! じゃあ、それをやる――前に、ちょっと……いい?』

 

「どうした?」

 

『いつものように、命令(オーダー)が欲しいなって』

 

 スカイの提案を聞いたルシアスは、憮然とした顔になり首を傾げた。

 

「スカイ。今の俺達は姫と騎士だから、命令するのはむしろスカイの方で……」

 

『それ以前にボク達はやっぱり、魂導者と戦乙女だから。もう片方も欲しいなって……だめ、かな?』

 

 魂の中なのに頬を染めているスカイが見えるような、がたがたな言葉を投げかけられたルシアスは、呆れたように口を開いた。

 

「わかったよ。じゃあ――『勝つぞ、スカイ!』」

 

『うん!』

 

 胸の中のスカイが返答すると同時に、ルシアスは全身から白色の魔力を噴き出して魔法陣を展開し、天へ向かって掲げた。

 

 *

 

 黒い雲に閉ざされた世界。先程ルシアス達が天に輝く黄金の魔法陣を破壊したことで完全なる闇に包まれたその世界に、一条の光が降りてきた。

 

 その正体は、純白の竜翼を背中から生やしたルシアス。雲を突き破って降りてきた彼は、ラーミアの姿を確認するや否や、ある一つの魔法陣を展開した。

 

聖炎竜の頂来(ブレイジング・カルミナント)

 

 魔法陣から出てきたのは、白き炎の竜だった。普段スカイが展開している炎竜よりかなり細長いその白炎竜は魔法陣から完全に抜け出すや否や、自らの尾を食み、ルシアスの頭上を回り始める。

 

 白竜から放たれる光は太陽のように暖かく、そんな光を放つ物体が頭の上で回るという行為は、どうしても天使のヘイローを想起させる。そんな皮肉じみた円環を目の当たりにしたラーミアは首を搔きむしり、これ以上ないほどの不快感を露わにした。

 

「それは、我への宣戦布告か?」

 

「いいや? ちゃんと、勝つための一手だよ」

 

 ルシアスが好戦的な笑みを放って魔力を巡らせ、白炎竜を天へ放つ。放たれた白炎竜は巨大化し、先程まで黄金の魔法陣があった場所に収まることで、純白の光で世界を照らしている。黄金の魔法陣の代わりに『天』へ収まったそれは、ラーミアからすれば、明らかな挑発だった。

 

「理由などどうでもいい。ただ――我を、見下すな」

 

 額に青筋を立てたラーミアの身体から、拍手のような放電音を鳴り始める。見ると、背中の鴉羽から漆黒の雷が、ラーミアの身体へ流れ込み始めていた。

 

「見下してねえよ。あんたは最高だが、スカイはその上を行くってだけだ」

 

 それと示し合わせたかのように、ルシアスも身体へ力を入れ自らの魔力を竜翼へ回し始める。白銀の鎧に彫られた紋様を伝って白き竜翼へ魔力を入れる度、竜翼は肥大化を続け、両翼の先が丁度地平線を覆うまでの大きさに至った。当然、魔力を入れた分竜翼の輝きも増し、黎明を思わせるほどに極大なものとなっている。

 

 竜翼へ魔力が溜まりきったことを確認したルシアスが、腰から剣を引き抜く。竜を模したその剣が露わになると、ルシアスの眼に銀色の星が宿った。星が宿った瞬間、剣を持つルシアスの姿が翼から放たれる白き極光に負けない存在感を帯びる。

 

「行くぞ、ラーミア」

 

 短い呼びかけと共に、ルシアスが剣を構え、翼を一度大きく羽ばたかせる。すると、ルシアスの竜翼から放たれる光が白炎へと変わった。ルシアスの身体に、引き絞られた剛弓が放たれたかのような爆発的な推進力が与えられる。

 

「――来い! ルシアス!!」

 

 だが、ラーミアも待っていたかのように、身体から黒き雷を放出すると、一気に八種類の魔法陣を展開した。ラーミアの後ろで展開され始めている魔法陣を目の当たりにしたルシアスが、魂の中のスカイへ問いかける。

 

「ついさっきまで、同時に展開出来てた魔法は二種類までだったよな……?」

 

『うん。らーちゃん、すごい勢いで進化してる。多分、ボク達を敵と認めたから』

 

 とある草食動物が餌の競争に勝つために首を長くしたように。『堕天王権』は、目の前の脅威を排除するため、急速に黒雲内の魔道知識とラーミアの才能の接続を進め、悪魔鎧として適応と進化を始めていた。

 

堕天王権(ルシフェリオン)極天覇道(OverLord)!』

 

 八つもの魔法陣から放たれたのは、『攻撃魔法』だった。超速でとにかく放たれ続ける雷撃から、若干速度は劣るがルシアスを追尾し続ける雷弾、張り巡らされた雷の柵に、黒雷を纏った鴉の使い魔まで。とにかく手数を増やし、一発でも当たれば勝利が確定する……抽象化された『攻撃魔法』の塊だった。

 

「突っ切るぞ!」

 

『分かった!!』

 

 短い号令とともに加速中のルシアスの魂が赤く発光し、肉体から白き光が湧きだす。黒き世界を貫く白き流星と化したルシアスはさらに加速しながらも自らの軌道を完璧に制御し、ラーミアへの急速接近を可能にしていた。

 

「――甘い!」

 

 ラーミアが腕を振ると、進行方向にいた鴉が内側からめくれあがるように爆散し、数百メートルの大きさを持つ黒き球体と化す。ブラックホールを想起させる黒雷球に対して、回避できないことを察したルシアスは……。

 

聖炎竜剣星導(ブレイジング・アルスター)!』

 

 白銀の剣を、横一文字に振り抜いた。白銀の光が世界を両断し、巨大な雷球が真っ二つに裂けたことで、ルシアスが通れるだけの道ができる。

 

 新たなるルシアスの剣を目の当たりにしたラーミアは、一瞬目を大きく見開いた後、くしゃりと破顔させた。

 

「く、くくっ……はははははっ! そうか! そう来なくてはな!!」

 

 まさしく絶頂とも言えるほどの上機嫌となったラーミアが、黒き魔力を溜めた腕を振るう。すると、他の鴉も爆散して黒雷球へ変わり、ルシアスの行く道を塞いだ。

 

「もっとだ! もっと、深く、激しく――(ころ)し合おう!! ルシアスゥ!!」

「嫌だ――つっても拒否権なんてねえ癖に! いつも手前は自由過ぎんだよ――ラーミアァッ!!」

 

 感極まるラーミアに対し、ルシアスは犬歯をむき出しにし、激情を吐き出しながら剣を振るい、雷球を切り落としていく。雷球を切り続けたことで確実に道は開いていき……ついに、超速で振るうルシアスの剣が、ラーミアを捉えた。

 

『――堕天王権・恒座(Thrones)

 

「ぐっ……!」

 

 だが、剣がラーミアの鴉羽を裂く寸前、黒き魔法陣がルシアスの一撃を防ぐ。魔法陣に触れた白銀の剣に黒濁の魔力が伝う。雷速で干渉を始める黒き魔力に対抗するは、赤く輝く魂から放たれる純白の魔力だった。

 

『ボクに任せて、ルシアス!』

「勝負と行こうか、カイちゃん!」

 

 剣と魔法陣が競り合ったまま黒き雷と白き炎が互いに干渉を始める。剣と魔法陣が噛み合ったこの状態、勝敗を分けるのは互いの魔力量及び魔力操作の精度であり、それはつまり、スカイとラーミアの才能勝負ということで相違がなかった。

 

『より、高く飛ぶのは――』

「常に、天辺に立つのは――」

 

 白と黒が、剣と魔法陣の間でぶつかり合う。剣と魔法陣がこすれ合って異音と火花を咲かせ、行き場をなくした二人の魔力が周囲で炸裂、眼が潰れるほどの閃光と化していた。

 

『ボクだ!!』

(ワタシ)だ!!」

 

 才能を至高の肉体に乗せたスカイと、悠久に等しい時間を糧として才能を押し上げたラーミア、頂点に近い才能のぶつかり合いは終わりが見えず、ただ時間だけが過ぎていく。

 

 拮抗を破る切っ掛けとなったのは、第三の才能――天にも届く、ルシアスの剣才だった。ラーミアの展開している魔法陣がルシアスの剣に耐え切れず、少しずつヒビが入り始めていたのだ。

 

「おぉおおおおおっ!!」

「な! ぐ、うぅ……!」

 

 ルシアスの咆哮と共に、黒き魔法陣がヒビを起点として少しずつ崩壊を始め……。

 

「――だぁっ!!」

 

 遂には砕け散った。

 使用途中の魔法を中断されたラーミアに、確かな隙ができる。

 

『これがボク達の――絆の力! これでボクは、らーちゃんを、超えるんだっ!!』

 

 スカイの命令で竜翼から白き炎が放たれる。その勢いに押されたまま、ルシアスは剣を振るい、ラーミアの鴉羽を断つ――!

 

 

 

 ぶつん。

 

 そんな、太い縄のようなものが切れる音がして。

 

 ルシアスとスカイは分離し――空中へ投げ出された。

 

「はっ!?」

「え……?」

 

 自由落下に身を任せながら、驚愕の表情を向け合う二人。

 見ると、黒い鴉の羽が、ルシアスの胸に突き刺さっていた。

 ……白炎による守りを、貫通して。

 

 胸に突き刺さる鴉羽を通じて、ルシアスは肌で理解した。

 ラーミアが『竜魂装衣(ドラゴクロス)』を理解し終えたということを。

 

「時間切れ、だ」

 

「ぐっ――!」

 

 せめてもの抵抗をとルシアスが手を伸ばしラーミアの足へしがみつこうとするが、届かず空を切り、暗黒に満ちた世界へ落ちていく。その姿を見たラーミアが、堪えきれないように笑い出した。

 

「く、くくっ――ははははははっ!! ……絆の、力ぁ? (くぅだ)らない!! それはただの――魔道契約、だ!!」

 

 勝利を確信した優越で原型がないほど顔を歪ませたラーミアが、無防備に落ちていく二人を睥睨する。だが、すぐに興味をなくしたかのように顔を上へ向けた。

 

「さて、次は……」

 

 ラーミアの黒き眼に、天を回る白炎竜が映る。すると、ラーミアはこれ以上ないほど不快そうに眉をひそめ、腰の剣に手を当てた。

 

「――頭が、高いぞ!!」

 

 叫びと共に鴉羽をはためかせ、ラーミアが白炎竜へ切りかかる。ラーミアの放った黒き剣閃によって白炎竜は数十の破片に分かれ、白きチリとなって消えた。

 

「……ああ。これで、天辺だ。もう、(ワタシ)を見下すものはなにもない」

 

 黒雲を背にするラーミアの瞳に恍惚が宿る。世界の全てを手中に収めたかのように両手を大きく広げ、地を睥睨しているラーミアの耳に、風音に紛れてルシアスの声が入ってきた。

 

「本当に、そこは天辺か?」

 

「あぁ? ……負け惜しみか」

 

 初めは嘲るように鼻を鳴らしていたラーミアだったが……ある、『違和感』を覚えると、眉をひそめて黒雲へ顔を向けた。

 

「……ん?」

 

(何故、()()()()()()()()()()……?)

 

 白炎竜は既に散ったはずなのに、黒雲から放たれる魔力反応は消える兆しすらない。それどころか、どんどんと大きくなっており……流石に不審に思ったラーミアが魔法陣の展開を始めようとした、その刹那――。

 

 

 

 雲が裂け、太陽が落ちてきた。

 人の持つ傲慢を、罰するように。

 

「………………は?」

 

 白い光を放つ、黒雷球のさらに数倍の大きさを持つ白き竜炎球魔法(ファイアボール)が、ラーミアを押し潰さんと落下する。まさしく世界を灼き尽くす恒星を思わせる極大の光と熱、それに魔力を至近距離で浴び、ラーミアの鴉羽は自然発火。白く燃える羽毛が、黒き世界にまき散らされた。

 

「馬鹿な!? これだけの魔法を放つには、遠隔じゃ不可能だ!」

 

 あまりにも予想外だったのか、ラーミアは魔法陣の展開よりも先に、思考を始めてしまっていた。

 

「……さあな」

(なーんて意味ありげにしてるけど、ただ()()()()()()()()()だけなんだよな)

 

 そう。ルシアス達は何も特殊な魔法を使っていない。ただ、ぶ厚い黒雲を抜けた先にて、さらに上へ上へ向かって炎球を勢い良く放ち――それが今になって重力に負け、ラーミアの頭上へ落ちてきただけなのだ。

 

(なんだ! 何をした!? いつ、魔法を展開したっ!?!? 分からん! だが、解さなければ! (ワタシ)は――天辺に立ったのだから!!)

 

 ラーミアが『答え』に辿り着くことは永遠にない。

 白炎竜による魔力反応のカモフラージュ以前に、今のラーミアの天辺は黒雲で、それ以上はなく。たとえ億年経っても、()()()()()()()()()()という単純な発想が生まれえないのだ。

 

「ぐっ……!」

 

 思考を中断し、鴉羽を大きく広げて白炎球の落下軌道上から退避しようとしたラーミアは、黒雲から渡される情報の大海嘯に押し流されて忘れてしまっていたのかもしれない。スカイの――初球炎魔法(ファイアボール)を。

 

「行け、炎竜」

「――炎竜さん!!」

 

 

「オオオオオオオオオォアアアアアアアアァ!!!!」

 

 

 

 ルシアスとスカイが声をかけると白き炎球が割れ、中から竜が顕現した。黒き鴉羽をただ一つの標的と定めた聖白炎竜はその口を大きく開き、食らいかかる。

 

「なっ!? があああああああああっ!!??」

 

 自身の数倍以上の大きさを持つ聖白炎竜の口に食らいつかれたラーミアは、魔法を展開することも飛行の制御もできず、喉が裂けんばかりの絶叫をあげながら下へ、下へ、ただ下へ、落ち続ける。

 

「ぐ、おぉおおおおおおおおっ!!」

 

 ラーミアの体感で永遠にも等しい落下の時間は――地面に墜落したことで、白き爆炎と共に終了した。場外負けしないために墜落場所を決闘場に無理やり矯正したのは、ラーミアの意地か矜持か。

 

「――まだだっ!! (ワタシ)は、天に立ち続ける!! 立ち続けなければならないんだっ!!」

 

 全身が白き炎に焼かれても、爆発で全身の骨にヒビが入っても、『王』は膝をつかない。それどころか、九割以上が燃え尽きていた六枚の鴉羽を瞬時に再生させ、纏わりつく白炎を即座に()()して振り払い、またすぐに天辺にまで飛びたとうとしている。

 

 そんな彼女の耳に、ルシアスの声が届いた。

 

『アルスター流剣聖道――』

 

 地面を強く蹴る音に、超速の物体が風を切る音が重なる。

 

「無駄だ! 剣聖の剣を使う限り、(ワタシ)には届かん!!」

 

 蒼銀の剣を引き抜き、振り向いたラーミアが見たのは。

 

 

『異典』

 

「あ……」

 

 あの日焦がれた、白銀の――。

 

 

 

『天羽裂き白流星!!』

 

 

 

 神速神業の一撃が、鴉羽を根元から断ち切る。

 

 ラーミアの手から剣が落ち、甲高い音がした。

 

 それは、天才・ルシアス・アルスターが生まれて初めて自分の意思で振るった剣にして。新たな『剣聖伝説』であり――スカイが地へ堕としルシアスが剣で討つ、二人で示した『絆の力』。

 

 そんな、焦がれ続けた白銀を目の当たりにしたラーミアは、晴れやかな顔で地面に倒れた。

 

「……はっ。なんだ、できるんじゃないか」

 

 黒き羽毛が紙吹雪のように宙を舞い、ラーミアの髪色が元の金色に戻る。空を覆っていた黒雲が消滅を始め、太陽が再びその顔を見せた頃。王女様が、放送用の宝珠を取り出して口を開いた。

 

『聖レギンレイヴ女学園決闘祭、優勝は――スカイ、ルシアスペア!!』

 

 王女様の宣言を聞いたルシアスが剣を仕舞い、ラーミアへ背を向ける。

 太陽が出たことによって復活したルシアスの影が伸び、ラーミアへと触れた。

 

「……とっとと戻ってこい、ラーミア。似合ってねえんだよ……その羽」

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