ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第49話:『てっぺん』

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 夜の闇に閉ざされた貧民街の裏路地で、黒いフードを被った小さな少女が一心不乱に走っている。フードからちらりと見える口元は唇を強く嚙んでおり、その足取りは何に追われているようだ。

 

炎球魔法(ファイアボール)

 

 そんな少女へ向かって、赤き炎球が放たれる。炎球は少女の近くで着弾し、余波の爆風で少女を紙くずのように吹き飛ばした。

 

「うわっ……!」

 

 飛ばされた少女の胴が建物に激突し、呻き声と共に地面へ倒れた。そんな少女を二人の人影が取り囲んだ。人影の手で輝く魔法陣は、少女へと向けられている。人影の片方――高級そうな服を着た公爵家の使者が、嘲るようにスカイへ口を開いた。

 

「あら、どうして逃げるのかしら? 私達公爵家に引き取られるという、この世界の人間であれば誰もが羨む栄誉が与えられているのに」

 

 使者の言葉に対して、フードを被った少女は何も答えず、ただ地面にうずくまっている。使者は高笑いしながらそんな彼女を見下し、踏みつけた。

 

「うぐっ……!」

 

「さあてと、まずそのフードをはずしてもらおうかしら。新しい家族の顔を拝みたいからね。……その前に、ちょっと顔燃やしちゃうかもしれないけど、許してくれるわよね? 家族なんだし」

 

 使者が手から炎を出し、少女の顔へ火傷をつけようとした――。

 刹那、黄金の雷が人影の片方に直撃、叫び声もあげずに地面へ崩れ落ちた。

 

「……え?」

 

 使者が素っ頓狂な声と共に顔を上げる。その目線の先、月に照らされた家屋の上にいたのは……目を真っ赤に血走らせ、身体から雷を迸らせた黄金の獣だった。

 

「な、なに……!?」

 

 使者が炎を黄金の獣へ向けたその瞬間、黄金の獣は跳躍し使者の首へその爪を突き立てた。黄金の獣の爪が使者の首へ食い込むと、爪から黄金の雷が放たれる。

 

「きゃぁあああああっ!?」

 

 黄金の雷を浴びた使者が甲高い叫び声をあげながら地面に倒れ、白目をむき、泡を吹いて動かなくなる。それを確認した黄金の獣は、慣れた手つきで使者の服を奪いにかかった。

 

「え、ええ……?」

 

 いきなりの襲撃に、フードを被った少女は困惑しながらも顔を上げる。そこで、少女は気づいた。黄金の獣の正体は、ぼろ布を身につけた五歳ほどの金髪の少女。だが、その身体は見るからに痩せこけ、髪がボロボロに痛み、泥まで付着している。

 

 倒れる二人の服を剥ぎ取った金髪の少女の目が、フードを被った少女へ向く。

 

「……うっ」

 

 真っ赤に血走る視線に貫かれたフードの少女はまるで凍り付いたように縮こまり、動けなくなってしまった。金髪の少女は雷を剥き出しにしながら一歩また一歩、堂々とフードを被った少女へ近づく。

 

 やがて、フードの少女の前に来た金髪の少女は……少女のフードをめくりあげた。

 

「……なんだ、わたしとおなじくらいか」

 

「あ……」

 

 めくれたフードから現れたのは、中性的な見た目をした銅髪の少女。綺麗に整えられた髪が月明かりに晒されたその少女に対して、金髪の少女は自分の持っている高価そうな衣服を押し付けた。

 

「いくぞ」

 

「え、あ、うん……」

 

 

 金髪の少女が、背中を向けて歩き始める。有無を言わせぬ言葉に圧されたのか、銅髪の少女はその後に続いて、ぽてぽてとついていこうとした、その時……金髪の少女が崩れ落ちるように膝をついた。

 

「……えっ?」

 

 驚いた銅髪の少女が近づくと、金髪の少女のお腹が鳴る音が聞こえた。金髪の少女が苦悶に満ちた顔をしながら、歯を食いしばる。

 

「はやく、このふくをうって、パンを……」

 

「パンが、ほしいの? じゃあこれ、あげる」

 

 何かを思いついた様子の銅髪の少女がフードの中から取り出した麻袋をあさると……見るからにふかふかなパンが出てきた。パンを目にした金髪の少女は、銅髪の少女の手からパンを奪い取り、貪るように食らい始める。

 

「……!」

 

 一瞬でパンを平らげた金髪の少女は、目を見開いて先程までパンがあった両手をしげしげと眺めていた。そんな彼女に、銅髪の少女は微笑みかける。

 

「おいしかったでしょ。ばあやがやいたパンだからね」

 

「……ああ」

 

 金髪の少女はしばらく顔を伏せ、何かを考えていたが……やがて顔を上げると、銅髪の少女が持っていた高価そうな服を奪い取った。

 

「どこだ?」

 

「……え?」

 

「おまえ、にげてただろ。うまいパンのれいだ。まもってやる」

 

「あ、えっと、こっち……かな?」

 

 銅髪の少女が指を差した方に金髪の少女が進む。だが、今度は銅髪の少女の手を掴んで、二人で共に歩き始めていた。足並みをそろえながら、金髪の少女が口を開く。

 

「おまえ、なまえはなんだ」

 

「あ、えっと……うぅ……」

 

「? なぜいわない?」

 

 名前を問われた銅髪の少女は喉に何かが詰まったかのように言葉を出せずにいたが……金髪の少女が顔を覗き込んで来ると、諦めたかのように口を開いた。

 

「ボクは()()()()されたから、もう、じぶんのなまえ、なのっちゃだめなんだって。おうぞくの、なまえだから」

 

「は? なんだそれ?」

 

 首を傾げる金髪の少女だったが……銅髪の少女が顔面を青くして悲しみをこらえるような表情をしているのを見ると、空いている方の肩をすくめた。

 

「……あんしんしろ、わたしもなまえがないからな」

 

「えっ、そうなの?」

 

「ああ。きのうは()()()()とよばれた。おまえもそうよべ」

 

「え……」

 

(やだ。ボクをたすけてくれたひとを、そんなよびかたしたくない。のらいぬ、の……ら……)

 

 まだ五歳ながらも『野良犬』の意味を知っていた銅髪の少女は、金髪の少女を()()呼ぶことを拒否するように下を向いた。

 

「…………!」

 

 その一瞬後、銅髪の少女は何かを思いついたかのように顔を上げると、身体を跳ねさせ、金髪の少女へ顔を近づけた。

 

「――らーちゃん!」

 

「あぁ?」

 

「のらいぬじゃなくて、らーちゃんってよばせてほしいな!」

 

「……まあ、いいが」

 

(どのよびかたも、どうせすぐにきえる)

 

 そのようなやり取りを繰り返しながら十分間程歩いた二人の少女は、やがてある裏路地にたどり着く。すると、銅髪の少女は何かを探すように首を振り出した。

 

「ここの、はずなんだけど……」

 

「ヒッヒッヒ……。アタシに依頼したのは、アンタ達かい?」

 

「あっ……!」

 

 路地裏から現れたのは、カンテラをその手に持ち、背中からフクロウの羽を生やした老戦乙女だった。その姿を見た金髪の少女は身体から魔力を放って警戒を始めた。

 

「こいつは?」

 

「そんなけいかいしなくてもいいよ、らーちゃん。このひとが、こじいんの、いんちょうせんせい……だよね?」

 

「ああ、あってるよぉ? しかし驚いたねえ、こんな子供が貴族に狙われているなんて! なにがあったんだろうねえ……!」

 

 『孤児院の院長先生』と呼ばれた老戦乙女はひとしきりケタケタと笑うと……ぴんと、指を立てた。

 

「で、依頼にあった『ミア』はどっちだい?」

 

「それ、は……」

 

 ここで、銅髪の少女は察した。老戦乙女が、依頼の相手を、その名前以外何も知らないことを。恐らく、手配をした『ばあや』が、情報の伝え忘れをしたのだろう。その瞬間、銅髪の少女の頭の中である一つの『可能性』が走った。

 

(もしかして、ボクじゃなくて、らーちゃんでも……いいの? いや、でも、そんなことしたら、ボクは……)

 

 その『可能性』について思考を巡らせる銅髪の少女の瞳に、カンテラに照らされた金髪の少女が映る。改めて、明確な明かりに照らされた金髪の少女は、銅髪の少女が思っているより……美しく、ボロボロだった。

 

 体中傷だらけ、腕も脚も骨と皮しかなく枯木のようで、見るからに栄養が不足している。だが、それでも……その目は、その髪は、その在り方は……少女がこれまで見てきた何よりも、美しかったのだ。

 

 その姿を見た銅髪の少女は、無意識のうちに口を動かしていた。

 

「このこが……」

 

「ん?」

 

「――このこが、ミアです!」

 

「……は?」

 

 銅髪の少女に指を差された金髪の少女は何を言っているか分からないように呆けた顔をし、老戦乙女はきょとんと首を傾げ、金髪の少女を手で示した。

 

「あれえ? アンタ、さっきその少女のこと、『らーちゃん』って……」

 

「はい! だから、このこのなまえは――『ラーミア』なんです!!」

 

「はっ……!? な、なんだそれは!?」

 

 ここでようやく、金髪の少女も銅髪の少女が何を言っているか分かったようで、欠けた犬歯を剥き出しにした。

 

「おまえの、いらいあいてだろ!」

 

「いや、きみのほうが、こんなばしょからにげだしたほうがいい! こんなダメなボクなんかより、きみに、しあわせになってほしいんだ!」

 

「ちがう! わたしにパンをくれたきさまのほうが、しあわせになるべきだ!」

 

 少女二人の言い争いは段々苛烈になっていき……やがて、金髪の少女がその手から黄金の雷を放出させ、スカイを脅しにかかった。

 

「いいかげんにしろ!」

 

「……!?」

 

(この魔力量、全盛期のアタシより……!?)

 

 その魔力量を目の当たりにした老戦乙女が、目を見開いて、一歩たじろぐ。だが、すぐに持ち直すと、二人の間に割って入った。

 

「待った、アンタ、ラーミアといったね。もうそんな魔法が使えるのかい?」

 

「? ああ。これがつかえなかったら、わたしはとっくにしんでるからな」

 

「……そうかい」

 

 一瞬で損得勘定を終えた老戦乙女は、ぱんっと大きく手を叩いて二人の意識を自分の方へ向け、話を始めた。その態度は先程より一段と柔らかくなっている。

 

「せっかくだ。特別に、二人共孤児院へ連れてってあげよう。孤児院に来たらね、屋根のある所で眠れて、ご飯に困らない生活ができるよ?」

 

「ほんとうか!?」

 

「ああ。ただ、大成したら出世払いで孤児院にお礼をして欲しいねえ。ヒッヒッヒ……!」

 

 老戦乙女の高笑いを聞いた銅髪の少女は、顔を綻ばせながら金髪の少女へ顔を向けた。

 

「やったね! らーちゃん!」

 

「ああ、そうだな。ただ……その……」

 

「うん? どうしたの、らーちゃん?」

 

 ばつの悪そうな顔をしている金髪の少女に、銅髪の少女が顔を近づける。すると、金髪の少女は二人にだけ聞こえる声で話を始めた。

 

「ほんとうにわたしが、『ラーミア』というなまえをもらっていいのか? 『ミア』は、きみの……」

 

「いいよ。ボクはもう、つかえないし。それとも……きにいらなかった?」

 

「きにいらないわけないだろう。むしろ……」

 

「……?」

 

 金髪の少女――ラーミアは、頬をわずかに朱に染め、両手を胸の前に置いて、自分に初めて与えられた『名前』を嚙みしめている。そんな彼女の姿を不思議そうに眺めていた銅髪の少女へ。老戦乙女が声を投げかけた。

 

「……で、アンタの名前はなんて言うんだい」

 

「え、あ、ボクの、なまえは……」

 

 銅髪の少女は全く何も考えてなかったようで、身体を硬直させる。そんな彼女が一番最初に思い出したのは……亡き母の、遺言だった。

 

『空を見続けなさい。あなたには、天に届く才能があるんだから』

 

「…………っ!」

 

 瞬間、何かを思い出したかのように目を見開いた銅髪の少女が、天に向かって指を突きつける。同時に、沈んでいた太陽が顔を見せる。闇夜を照らす一筋の光が、スカイの後ろから差し込んだ。

 

「ボクは、ボクの……なまえは……!」

 

 

「――すかい! すかい・じーにあす!! そらまでとどく、だいてんさい!!」

 

 

 銅髪の少女――スカイの名乗り上げは、天界にまで届きそうなほど真っ直ぐに、世界へ響きわたった。

 

 *

 

「……はっ」

 

 髪の色が金髪に戻ったラーミアが、その目を開く。まず目に映ったのは、黒雲が晴れた余波で、雲一つなくなった青空だった。無限大に続く青をじっと眺めていると、横からスカイの声が聞こえてきた。

 

「起きたんだね、らーちゃん。身体は、大丈夫? ボクは……もう、一歩も動けないけど」

 

「ああ、カイちゃんか。くくっ。(ワタシ)も似たようなものだ。全身の骨が痛いし、闇に堕ちている間の記憶は九割以上、黒き羽と共にぶっ飛んだ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「ルシアスが見せてくれた、『白銀の光』だけは覚えている。……それで、いい。それだけで……いいんだ……っ!!」

 

 スカイが、身をよじらせてラーミアの方を向く。腕で顔を隠すラーミアの眼のあたりからは熱い雫が流れており、まさしく感極まっているようだ。

 

「……あ」

 

 スカイには、その涙に心当たりがあった。自分が底辺にいた頃、ただ一人泣いていたのと、同じ……ひとりぼっちの涙。

 

(……そっか。やっぱり、らーちゃんも一人で……寂しかったんだ)

 

 長い間天辺を目指して孤独に戦い続けたラーミアにとって、同じ天辺の存在であるルシアスの剣がただ一つの救いだった。それを察したのか、スカイはただ、優しい微笑みでラーミアを涙を受け止めた。

 

 一通り涙を流し終えたラーミアは、腕を顔からどかすと、真っ赤な瞳でスカイの顔をじっと見ながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「……カイちゃん」

 

「どうしたの? らーちゃん」

 

「白銀の光が、思い出させてくれたんだ。天辺を目指す理由を。……聞いて、くれるか?」

 

「うん、いいよ」

 

 スカイの柔らかい笑みに導かれるように、ラーミアは身をよじらせ、さらに言葉を続ける。

 

「まずは、そうだな。(ワタシ)が羽を得た時のことを覚えているか?」

 

「『目覚めの日』のことだよね。戦乙女の力を覚醒させる儀礼の日に……らーちゃんが羽を出して、皆がすっごく驚いて……」

 

 

「――そして、(ワタシ)の後に儀礼を行ったカイちゃんは魔法を出せず、その落差で皆に酷く嗤われたな」

 

「……らーちゃん?」

 

 食い気味に吐き捨てられたラーミアの言葉を不審に思ったのか、スカイがラーミアの顔を見る。その眼に映るラーミアは、噴火をこらえる火山のような怒りと、苦虫をかみつぶしたような不愉快さが混ざり合っていた。

 

「あの時、自覚した。(ワタシ)は、見下されたくない。見下されると、口の中にあの日腹に詰め込んだ泥の味が広がって、頭がどうにかなりそうになる。だが、それ以上に……カイちゃん、君が見下されるのが嫌だったんだ。(ワタシ)に『あい』を与えてくれた、君が」

 

「…………!」

 

 それはこれ以上ないほど真っ直ぐ、凛とした宣言で。言葉を失ったスカイを気にせず、ラーミアは言葉を続けた。

 

「だから(ワタシ)は、天辺に立ちたかった。誰よりも高い所に立って……そして、カイちゃんの手を引けば、カイちゃんは、誰にも見下されないで済む。……そう、思っていたのにな」

 

 ラーミアが、ふっと悩まし気に息を吐く。その顔に皮肉気な……自嘲の笑みが浮かんでいた。

 

「いつから、自分のことしか考えなくなったのだろうな。カイちゃんを独りにして、長い間……寂しい思いをさせてしまった」

 

「ううん。仕方ないよ。らーちゃんは、すっごく頑張ってたんだから。茨だらけの道を切り開いて、悪評を跳ね除けて……本当に、すごいと思う。それに……」

 

「……それに?」

 

「こうしてまた、らーちゃんと一緒にいられる。それだけでいい。ここがボクの、てっぺんなんだ」

 

 身体を上向きにしたスカイが、無限大の蒼穹を抱きしめるように手を大きく広げる。その姿を見たラーミアは顔を綻ばせ……さっきまでの自嘲とはまるで違う、晴れやかな笑顔を浮かべた。

 

「……ああ、そうか。ここが、(ワタシ)達の天辺か」

 

 雨上がりの泥の中。

 二人の少女は、空を仰ぎながら、十年越しの友情を誓い合っていた。

 

 *

 

「立てるか?」

 

「ありがと」

 

 やがて、決闘場に回復魔法が散布され、スカイがルシアスの手を借りて立ち上がれるほどに体調を戻した。同じくラーミアも立ち上がるが……。

 

「……なんだ、その文句のありそうな顔は」

 

 ルシアスの言葉通り、その頬は少しふくれており、まるで不平不満を訴える小さな子供のようだった。

 

「ルシアス貴様、そんな剣使えるんだったらもっと早く使え。(ワタシ)がまるで道化じゃないか」

 

「いや、あの剣はついさっき手に入れたもんだ。なんか、空飛んでたらインスピレーションが湧いてきて……それを、表現したいと思っちまった。初めてだよ、『剣を振りたい』って思ったのは。……頭が、どうにかなりそうだ」

 

「……そうか。なら、いい」

 

 ルシアスの喜びとも皮肉ともとれるような独白を、ラーミアが優しく受け止める。だが、それを聞いたスカイの方が頭の中で何かが繋がったかのように、身体を跳ねさせた。

 

「あ! ルシアスのそれ、ボクが魔法を再現(ラーニング)をする時の感覚と一緒だ!」

 

「……え、そうなのか?」

 

「うん! ふえへへへ……嬉しいなぁ。ルシアスと同じ感覚を共有できるなんて!」

 

 スカイのにぱっとした笑みに釣られるように……少しずつ、ラーミアの表情も綻んでいき、やがていたずらっ子のような快活な笑みへと変わった。

 

「くくっ。カイちゃんと一緒ってことは……やっぱり貴様、天才じゃないか」

 

「勘弁してくれ。つーか、これっきりだからな」

 

 ラーミアとスカイ、二人の美少女の笑みに囲まれたルシアスは、釈然としないように首を傾ける。そんな風に三人が和やかな時間を過ごしていると……観客席より王女の声が聞こえてきた。

 

「皆様、これより表彰式を始めますので、集まってください」

 

「一応やるんだな。……観客ほぼいないのに」

 

 ラーミアの言葉通り、悪魔鎧発生の余波を恐れてみんな避難してしまったために、せっかくの決勝のはずが観客席にはほぼ人がいなくなってしまっていた。

 

「ま、名目上は神前決闘だ。勝者にはちゃんと祝福を……ってことだろ」

 

「そうか、じゃあ行くぞ」

 

 ルシアスの言葉で一応納得した様子のラーミアが歩き出す。それについていくように、スカイも一歩踏み出そうとしたその時……ルシアスが、スカイへ声をかけた。

 

「スカイ」

 

「なに? ルシアス」

 

「あー。その、なんだ。……ありがとな」

 

 頬を掻きながら、スカイへ礼を言うルシアス。その瞬間、スカイの頭の中に決闘祭前にルシアスが放った『ある言葉』が、フラッシュバックした。

 

『こういう礼とかは全部終わった後に言ってくれ』

 

 ルシアスの言葉を思い出したスカイの口角が少しずつ上がり、頬も少しずつ紅潮していく。

 

 やがて、スカイの顔に浮かんだのは……。

 快晴の空から真っ直ぐに光を放つ、曇り一つない太陽のような笑顔だった。

 

「――こちらこそ!! 本当に、ありがとう!!」

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