ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第5話:『天才ちゃん』の想い

 

「悪い、部屋戻る前にちょっと購買寄ってくわ」

 

「いいよ! 何買うの?」

 

「いろいろ買うが、メインは今日手に入れた魔石を売ることだな」

 

 村から学園へ戻った俺は、依頼についての報告を終えた後、手に入れた魔石を売るために購買へ足を運んだ。

 

「いらっしゃっせー!」

 

「お、おぉ……! なんか、色々いっぱい……」

 

 購買には薬瓶から宝珠、果ては『寮の部屋を増設』などのいわゆる学内特権等、多様な商品が所狭しと置かれていて。スカイにとっては全てが宝石のように輝いて見えるのか、首を忙しなく動かしていた。

 

「にっ、20万!? ボクの持ってる宝珠ってそんなに高価なの!?」

 

「そりゃ、ランクが高めの魔石を加工して作られてるからな」

 

 宝珠コーナーに展示されていた『守護の宝珠』の値段を見て慄くスカイ。

スカイ育成には絶対必要なんだから、値段なんて気にしなくてもいいんだがな。

 

 とりあえず、スカイには気が済むまで店を楽しんでもらうとして、俺は店の奥、特徴的な言葉遣いをした、シアン色の髪をした店員さんがいるレジに向かった。

 

「この魔石、換金してくれ」

 

 俺が差し出した黒くてこぶし大の大きさの魔石を見た瞬間、店員さんは破顔して食い入るように魔石を眺めてきた。

 

「……これは! Aランクの黒魔鉱熊(オブシディアンベアー)の魔石やないですか! 入学して一日でこんなけったいなもんを手に入れるなんて、流石……噂の天才魂導者(ソル)やなぁ!」

 

 ……えっ、何それ。俺学校内でそんな評価貰ってんの? 天才なのは俺じゃなくてスカイなんだから、そんな評価貰っても実態と食い違ってて困るだけなんだが。

 

 よくよく周りを見渡すと、購買にいる他の生徒もちらちらとこちらを見て、ヒソヒソ話で何かを話している。

 

 ……多分、一々気にしてたら身が持たないなこれ。

 

「……相方が天才だっただけだ。それより、いくらだ?」

 

「毎度あり! 手数料税金諸々抜いて50万グルとなりますわ!」

 

「お、おぉっ……!」

 

 店員が魔石を回収し、机の上に金貨をじゃりん、という気持ちのいい音と共に置くと、スカイの口から感嘆の声が漏れた。俺はその金を三つに分け、その内の一つを質札とともに店員の方へ返した。

 

「じゃあ、この金で、俺が質に入れてたやつ買い戻します」

 

「元値20万、質料1万の計21万グル……しっかり確認したで!」

 

 金を受け取った店員は、いそいそと奥から一振りの剣を持ち出してきた。この剣は俺が金策のために売り払った私物のうちの一つで、騎士家である実家から持ち出している。売ったことが実家にバレると命が危ういので、キツイ出費になるが買い直さざるをえないのだ。

 

「アルスター印の騎士剣、ちゃーんと返却させてもらいます! 今後も贔屓にしてくださいな!」

 

「んっ!? ルシアス、自分の剣を売ってたの……?」

 

「ああ。大した剣じゃないが、紋様のおかげでいい金策になってくれたな」

 

「そ、そうじゃなくてさ……!」

 

 眼を見開いたスカイが、剣を持つ俺の手を掴む。どうしてそんなに驚いているかは分からないが……ちょっとフォローしとくか。

 

「確かに、クソ親父にバレたら殺されるだろうけど。たった今買い戻したんだから、もう心配とかする必要ねえだろ」

 

「え、えぇ……?」

 

 スカイは俺の言葉に納得していないようで、微妙な顔をしながら『守護の宝珠』を取り出した。

 

「だって、ボクの持ってるこれ。ルシアスが自分の剣を売ったお金で……ってことなんでしょ? ルシアスに、そんなことさせてたなんて……」

 

「自己紹介の時に言っただろ? 『天才の足を引っ張らない程度には頑張る』って。だから、天才であるスカイは何にも気にしなくていいんだよ」

 

 たまたま質に入れていい私物があっただけだし、たった今スカイが天才なお陰で買い戻せたのだから、本当に何も気にしなくていいんだが……。

 

 剣の確認を終えた俺は白き刀身を確認した後、剣をいつでも売り払えるように身につけ、残った金の内25万グルをスカイへ渡した。

 

「これ、スカイの取り分な。多少の無駄遣いはいいが、浪費癖はつけないでくれよ」

 

「…………え?」

 

「なんだその反応。手に入れた金は折半に決まってるだろ」

 

 ゲームではそうだったし、逆に言えばスカイが戦乙女として大金を手に入れた時に、俺はちゃんと半分貰うつもりだ。取り分に文句は言わせん。

 

 最終的に残った俺の取り分は4万グル。これは育成論通り、スカイの食費(ハンバーグ)に使う予定だ。

 

 だが、金を受け取ったスカイの空色の瞳は、どういう訳か強い憂いを帯びていた。

 

「で、でも、ルシアスは、大切な剣を売って……」

 

「……? それは俺が勝手にやったことだろ? 何度も言うが、スカイが余計な心配する必要はない。ほら、部屋戻るぞ」

 

「……うん」

 

 とぼとぼと俺の後をついて行くスカイの表情はまだ晴れていない。

 ……余計な心配はしなくていいと言っておいたはずなのだが。

 

 じゃあ、何か声をかけられるかと言えば何も思いつかなかったので、とりあえずハンバーグでも食わせとくか。美味いもん食えば機嫌も直るって相場が決まっている。

 

 ククッ……。元々、俺みたいな凡人(モブ)がヒロインに好かれるわけもなし。ちゃんと機嫌はとっとかねえとな。

 

 

「……戦乙女(ヴァルキリー)に全てを捧げる覚悟を持っとる。あの魂導者(ソル)()()()やろなぁ」

 

 購買から出る俺の後ろで、店員さんが何かを言った気がした。

 

 *

 

【side:スカイ】

 

 ルシアスがキッチンで料理を作っている。やることがないボクは……居間の窓から見える星空を眺めながら、ずっと、ルシアスのことを考えていた。

 

 ルシアス。ボクの魂導者(ソル)。ボクの虚勢を現実にしてくれた、本物の天才。

 ……そうだ。彼に出会うまで、ボクの言う『天才』は、ずっと虚勢だったんだ。

 

『空を見続けなさい。あなたには、天に届く才能があるんだから』

 

 天国に行ったお母さんに名前が届くようにするため。

 空に居城を構えるお父さんに、ボクが生きていることを伝えるため。

 とても高い所へ行ってしまったらーちゃんに、一人じゃないと伝えるため。

 

 ……そして。どうしようもなく辛かった時に、無理やり上を向くために。

 

 どれだけ周りから見放されても、ボクはお母さんの遺言通り自分のことを『天才』だと言い続けた。そしたら、ルシアスが現れて、ボクに魔法が使えるようにしてくれちゃったんだ。

 

 移動している最中に聞いたんだけど、ボクが魔法を使えない原因はすごい魔法に耐えられる器ができていなかったかららしい。それをこの『守護の宝珠』がどうにかしてくれたんだって。

 

 ……訓練校の先生がみんな気づけなかったその理由に気づいたんだから、ルシアスこそが本物の天才だ。

 

 それに、ルシアスはボクなんかより何倍も強い。あの巨大な熊さんと素手で殴り合ってたし。握手したり、ルシアスに抱っこしてもらったりした時になんか……ルシアスからすごい『力』を感じた。

 

 ルシアスは「騎士は皆あれぐらいできる」って言ってたけどほんとかな? ボクは、ルシアスが特別強いだけだと思う。

 

 ……でも、どうしてか、ルシアスは自分のことを全く誇らない。それどころか、ボクのことをたくさん天才だと褒めてくれる。

 

『世界一の天才と契約できた、世界一の幸せもんだ』

 

『お前は天才だ。自分を、信じろ!』

 

 ルシアスの言葉を思い出すと、胸の中がぽかぽかする。でも、同時にちょっと、すっきりしない灰色のもやもやみたいなものも、胸の中にできちゃってる。

 

 さっき、ルシアスがボクの持っているこの綺麗な宝石、『守護の宝珠』だっけ。これを買うためにルシアスが自分の大切なものを売ってたのを知って、このもやもやはどんどん大きくなっていって……気づけばボクは、『守護の宝珠』を強く握りしめて、手が離せなくなっていた。

 

 なんでルシアスは、退学寸前のボクと契約してたんだろう。

 落ちこぼれのボクをこんなに褒めてくれるんだろう。

 出会ったばかりのボクにこんなにも優しくしてくれるんだろう。

 ルシアスとらーちゃんは知り合いだったのに、どうしてボクを選んだんだろう。

 

 …………も、もしかして、ボクの体目当てとか!?

 

 いや、ない。何を勘違いしてるんだボクは。

 ボクには女の子としての魅力……お胸がほとんどないんだぞ。

 

 イリスが言ってたんだけど、男の人ってらーちゃんみたいなおっきいお胸が大好きなんだよね。でもボクは、プリンを食べすぎちゃったときも、お胸やお腹より先に、お尻が大きくなっちゃう。

 

 大きいお胸、羨ましいな……。

 もしボクのお胸が、らーちゃんみたいにおっきかったら……。

 

――じゃない! 何考えてるんだボク!?

 

 首を横にぶんぶんといっぱいに振って余計な考えを吹き飛ばしても、心の中のもやもやは消えてくれない。

 

 ……結局、どうすればいいんだろう。

 

 いい考えが思い浮かばず、ぼーっと星を見てると、とても香ばしくて美味しそうな匂いがしてきた。見ると、エプロン姿のルシアスが山盛りのハンバーグに野菜が盛りつけられた皿をボクの目の前のテーブルに置いてくれた。

 

「――何浮かない顔してんだ。ほら、ハンバーグできたぞ。付け合わせの野菜はあの村からお礼で貰った特産品だ。絶対美味いから、残さず食えよ?」

 

 ルシアスは。ボクを励ますような明るい声色で説明をしてくれた。

 心配、かけちゃってるのかな。

 

 ……ああ、ダメだ。

 また、胸の中がぽかぽかするのといっしょに、もやもやとした灰色のなにかが溜まっちゃってる。

 

 ボクの気持ちに気づいたのか、ルシアスは眉をわずかに内側に寄せた。

 

「あー、何に悩んでいるかは知らねえけどさ。俺とスカイはまだ出会って数日も経ってないんだ。思いつめすぎず、時間が解決できそうならそっちに任せてみるってのもありなんじゃねえか? とにかく、食ってくれ。冷めちまう」

 

 ……そっか、そうだよね。

 まだ、時間はいっぱいあるんだから、ゆっくりと考えればいっか。

 

「いただきます!」

 

 そのために……ボクはまず、目の前のできたてハンバーグにフォークを突き刺して、口へ運んだ。

 

 ――ルシアスは、ボクのだ。

 

 胸のもやもやが晴れるまで、絶対に、らーちゃんにルシアスは渡さない。

 いや、誰であっても……たとえ神様が相手でも!

 

 そのために、いっぱい食べて……。

 誰にも負けないくらい、強くなるんだ。

 

 …………あれっ!? もう食べきっちゃった!

 もっと、食べたいな。

 

「今日もおかわりあるが、食うか?」

 

「食べる!」

 

 喜びのあまり、椅子から飛び上がる。

 恥ずかしくて少し後悔したけど、仕方ない。

 ルシアスの作るご飯が美味しすぎるから……仕方ない!

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