ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう 作:マテリ-AL
スカイの学園残留記念パーティの翌日。俺とスカイは、学園長室に呼び出されていた。扉を開けて部屋へ入ると、椅子に座った学園長が笑顔で迎え入れる。
「おはよう。ルシアス君、スカイちゃん」
「おはよう、学園長!」
「おはようございます。本日は何の用でしょうか?」
スカイと俺が会釈して学園長に歩み寄ると、学園長は顎を支えていた手を外して立ち上がり――頭を深々と下げた。
「まずは、ありがとう。私に、生徒を退学させないでくれて」
その頭の下げ方からは、普段の軽い感じは何一つなく。何の曇りもない誠意が見て取れた。
この学園は、戦乙女排出を生業としている貴族からの『寄付』で成り立っている。当然、学園としても色々と財源を捻出してはいるが……それでも不足があり、貴族の言いなりになってしまうことに、学園長も思うところがあったのだろう。
そうして、顔を上げた学園長は……いたずらな笑みを俺達へ向けた。
「さて、本題に入りましょう。君たちに、とってもいい知らせが来たのよ」
「いい知らせ?」
スカイの問い返しに、学園長が大きく頷く。
いい知らせと言っても、スカウトとかは勘弁だから……シンプルに金がいいな。
「ええ、決闘祭の決勝は、神前決闘。つまり、神様達もばっちり見ててね。あなた達のことをたいそう気に入ったのよ。まさか、神様からの『恩賞』が出るなんて、何百年ぶりかしら。生きている間に見られるなんて思わなかったわ」
『恩賞』ってことは……まさか。
そう考えた瞬間、学園長が指を鳴らすと……虚空から巨大な麻袋が落ちてきた。
俺の身長の半分ほどもある袋が落下し、その中から重厚な金属音が鳴り響いた瞬間、心臓が爆発するように跳ねた。いや、マジか!?
「これが、魔に侵されたラーミアを倒し、世界を救ったあなた達への報酬ってところね。まあ、あの雲が成立してたら天界と地上が完全に分断された……地上の全てが魔族に征服され、天界侵略の拠点になってただろうから当然の報酬ね」
「……そうですか」
なるべく平静を装った返答をしようとして……それはそれとして、喉がこくりと鳴った。
そもそも、ラーミアが魔に堕ちた遠因は俺が原作を変えようとしたからで、つまり俺がこの金を貰えるのは実質マッチポンプということになるのだが……それは俺以外分からないし、墓まで持っていこう。
そんな決意と共に、横にいるスカイの方を見る。
「……ぁ」
するとスカイは……何か致命的な事に気づいてしまったように、眼を見開き、体を震わせていた。いや、そっちはそっちで一体どうしたんだ……?
俺達二人の芳しくない反応を見た学園長は、眼を真ん丸にしている。
「え、あ、あれ? 嬉しくないの? 神様からの恩賞よ? 非課税の大金なのよ? ほら、袋に天界を表す紋様があるし……何よりこれだけのお金があれば――これから、
「…………!!」
そう聞いた瞬間、俺の頭に原作知識が流れ込んだ時ほどの……いや、それ以上の衝撃が走った。
「いえ、ありがたく受け取らせていただきます。では、これで……」
衝撃が表に出ないよう感情を押さえつけながら麻袋を受け取る。
そのまま学園長室を出ようとした俺の背中に、学園長が声をかけてきた。
「あなたの『新しい可能性』、見せてもらったわ。その上で、戦乙女の未来のために、学園へ残ってほしいと思っているのだけど、どうかしら?」
「……考えておきます」
勧誘の言葉を背に受けて、学園長室を出た俺の眼に映ったのは……夥しい数の、光り輝く道だった。
それで、気づいた。今の俺には、薄暗い廊下も陽光の射す窓も木でできた図書室の扉も全て……
一歩一歩、噛みしめるように歩きながら、考える。学園長の言う通り、これだけの金があればなんでもできる。当初の目的通り、騎士も戦乙女もいない土地でのんびり過ごしてもいいし……何をしたっていいんだ。
そこまで考えたところで、隣で歩いているスカイが袖を引いてきた。見ると、スカイは小動物のように体を縮こまらせている。だが、俺の視線に気づくと……意思に反するように無理やり頬肉を動かし、はにかんだ。
「ねえ、ルシアス。ボクのことは気にしなくていいよ。らーちゃんとの戦いのときには色々言っちゃったけど、今のボクにはイリスもミタマも、らーちゃんもいるから、大丈夫。ボクとルシアスの契約もまた切れちゃってるし、ルシアスは好きに生きていいんだ」
「……そうか」
一見、スカイの笑顔はあっけらかんとしており、俺を送り出すことに何の迷いもないように見える。だが、少ない時間だが共に過ごした俺には分かる。貼りつけられた笑みの奥で、ほんのわずかだけ震えているその声の奥で、スカイは相当の無理をしている。青空を覆い尽くして尚、満ち足りない程の憂いを抱えていることが。
ただ、それと俺がどう行動するかはまた別の話だ。今の俺は『自由』になった。
ならば、その始まりは、俺の意思で為されるべきだ。
だから俺は。
俺の選ぶ、道は……。
「じゃ、まずは――」
歩き続け、『ある部屋』の前で足を止める。
これが、俺の選んだ道だ。後悔はない。
「――朝食ってねえから腹減っただろ? すぐ、ハンバーグ作るからさ」
「――――!!」
扉を開き、スカイを共同居間へ招き入れる。そんな俺に対し、スカイはこれまで見てきた中で一番大きく、その眼を見開いた。
「……え、い、いいの?」
「ああ。よく考えたらさ、俺はまだスカイに恩を返しきれてないんだわ。だから、もし良ければ……もう少しだけ、俺をスカイの魂導者でいさせてくれないか?」
身を翻し、部屋の中から、外にいるスカイへ手を差し出す。
すると、スカイは――朝露を吸って咲いた一輪の花のような笑顔を俺へ向け、元気よく俺の胸へ飛び込んできた。
「――うん!! ずっと、ずーっと一緒だよ! ルシアス!!」
この選択は、天才戦乙女の行く末を見たいという魂導者としての本能のせいか、『原作』から離れたくないという前世の記憶のせいか、それとも……何か別の理由があるのか、自分でも分からない。
それに、スカイは天才だ。だから、いつか俺はスカイの邪魔になる日が来る。
既に『原作』から離れ始めた以上、俺の知識が役に立たなくなるのは時間の問題だろうしな。
それでも俺は、スカイ達の傍にいたい。
その日が来るまでは。
ただ、もう一度俺の『夢』が叶うのならば。
俺がもし、本当に『天才』なら。
『ずっと、ずーっと一緒だよ! ルシアス!!』
……そんな日なんて、来なければいいな。
これにて、本作品完結です。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
色々拙い所もあった本作ですが、
本当に沢山の方に読んでいただき、想像より高い評価を頂き、
感謝してもしきれません。
改めて、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
また、どこかでお会いしましょう。