ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第6話:『天才』、石を穿つ

 ラーミアとひと悶着あった翌日の放課後。俺とスカイは学園から真南へ下り、山の麓を探索していた。

 

「おお……改めて見るとすごく高い山だね。普段、こんな山の上で勉学に励んでるなんて、信じられないなぁ」

 

 山頂が見えないほど高く広大な山を見上げるスカイ。

 

 実は、戦乙女学園(ヴァルキリーアカデミー)はこの国の中心部に位置する霊峰にあり、そこから()()()ことで、国内のいろんな場所に行けるようになっているのだ。

 

 ……まあ、降りると言っても学園設備である転移魔法陣で、国中に設置された祠に転移するだけなんだけどな。

 

戦乙女(ヴァルキリー)として一人前になって羽が生えたら……転移じゃなくて飛んで降りてみたいなぁ。風とか、絶対気持ちいいでしょ!」

 

「確かに気持ちいいが、事故には気を付けろよ。墜落したら死ぬほど痛いぞ」

 

「死ぬほど痛いというか死ぬよねそれ?」

 

 スカイと山についての起伏がない話をしながら、目的の場所の入り口を探す。

 確か、この辺に滅茶苦茶小さい穴、洞窟の入り口があるはずなんだが……。

 

「あっ! あそこに洞窟の入り口っぽいものあるよ!」

 

「おぉ。ほんとだ。よくやったスカイ!」

 

「ふえへへへ……ありがとう!」

 

 昨日のような曇った表情をしなくなり、緩んだ笑顔を俺に見せてくれるスカイ。どうやら、スカイの機嫌は元に戻ってくれたみたいで、ハンバーグの力は偉大だ。

 

「……で、ルシアス。どうしてここに来たの? 洞窟だから……もしかして、ダンジョン攻略とか!」

 

 空色の眼を輝かせながら、俺へずいと距離を詰めるスカイ。……顔が近い。スカイには自分が美少女だという自覚がないのか?

 

「……半分正解ってところだ」

 

 今のスカイは肉体が貧弱。どんな攻撃でも一発ダウンしかねないため、いつどこから攻撃が飛んでくるかが分からないダンジョンはまだ早い。

 

「……半分?」

 

「入ってみれば分かる。行こうぜ」

 

 スカイを引き連れて、小さな洞窟へ入る。すると、洞窟に入ってすぐ、突き当たりの壁に、何も書かれていない石板が飾られていた。

 

 ……さて、まずは、合言葉を言うんだったか。

 

『われらにだいちのしゅくふくを』

 

 俺が合言葉を発すると、石板にじわりと文字が浮かび上がってきた。ちなみに、この合言葉は作中人物の誰も知らない。ゲーム終盤の特別イベントでやっと分かるため、ゲームでここを使えるのは二周目以降だ。

 

「……わっ! 文字が浮かび出てきた! えっと、なになに……? 『戦乙女(ヴァルキリー)の証を示せ』。……多分、ボクの右手にあるこれだよね?」

 

 スカイが迷いなく石板に戦乙女(ヴァルキリー)の紋様をかざす。すると、石板が赤く光り、同時に、轟音と共に、地面が地下へ沈んでいく。

 

「う、うわっ……!? え、何これ!? 石板が上に上がって……」

 

「石板が上がってるっていうより、俺達が下がってないか?」

 

「あぁ! なるほど! ……いや、何このすごい技術!? 誰が作ったの!?」

 

 おろおろわたわたしているスカイと共に岩製エレベーターで地下へ降りる。十数秒後、ズズンッ、という重々しい音と共にエレベーターの動きが止まり、石板のあった側の岩が開いた。

 

「おぉ……すげえな」

 

「わぁ……とっても綺麗」

 

 岩が開いた先にあったのは――これ以上ないほど美麗に磨き上げられ、魔力まで流し込まれている白い大理石でできた遺跡だった。

 

 ごんぶとな円柱が何本も立てられ、脇にはそれぞれ『肉体』、『魔法』、『飛行』と書かれたプレートが張られた大きな扉がある。部屋ごとに行える訓練が分けられているのだ。

 

 そして、遺跡の一番奥。豪華な紋様が書かれた壁の前には――二メートル強の大きさをした、魔力を帯びた鋼鉄でできた流線形の体躯が特徴的な人型が鎮座していた。前世風に言うのであれば……ゴーレムといったところか。

 

「……あれって、もしかしてゴーレム? 初めて見た……かっこいいね」

 

「俺も見るのは初めてだな。ここを知ったのは本の知識だから」

 

「へぇ……ルシアスも初めてなんだ。ここってあれだよね。訓練場って所だよね?」

 

「ああ。だからスカイには、これからここで訓練をしてもらうことになる」

 

 訓練場。学外で訓練を行うための場所で、国が管理しているものから、自然の中で作られた天然ものまで、国内に数多く存在している。

 

 ここは、百年以上前、ある天才ゴーレムマスターである魂導者(ソル)が、自分の戦乙女(ヴァルキリー)をこっそり育てるために、国からも隠れて作った『ゴーレム訓練場』だ。

 

 ここの何がいいって、訓練の質がいいのに無料(タダ)で使えるところ。他の良質な訓練場は相応の代金を払う必要があるのだが、ここは少々特殊な事情があり無料で使うことができる。そのため、最高効率育成論で必須級の有能訓練場なのだ。

 

 エレベーターから出て、遺跡へ足を踏み入れる。すると、真っ白なゴーレムの顔面に埋め込まれている大魔石が青く光り、立ち上がった。ゴーレムはそのまま数歩前に出ると、スカイの方を向き、魔石から光を放った。

 

「……認証中」

 

「お、おぉ……なんか、始まった。じっとしてた方がいいのかな?」

 

「……いいだろうな」

 

 確か、ここのゴーレムは百年以上前に主を失ってしまって、それに代わる存在を探しているんだっけか。で、原作主人公とそのヒロインは主と認められて、甲斐甲斐しくお世話と訓練をしてくれるって流れだ。

 

「……ヴァルキリー。魂認証……適格」

 

 スカイの認証を終えたゴーレムは、次に俺の方を向いた。確か、認証は基本的に通る。あっち側も、新しい主が欲しいはずだから……。

 

「……ソル。魂認証……不適格」

 

 ……ん? 俺、不適格?

 

「――敵性存在と認定。排除します」

 

 その言葉と共にゴーレムの顔に嵌められた魔石が赤く変色。腕を鉄と石で象られた巨大な斧に変形させて……俺達に向かって襲いかかって来た!? なんだこれ!? こんなの、原作にはなかった……。

 

 ……いや、あったかもしれない、のか?

 

 原作だとこのイベントは、あのゴーレムが主人公の魂を見て戦慄し、すぐに協力的になる――記憶喪失の主人公が実は格の高い魂の持ち主という伏線を張るイベントだったはずだ。

 

 なので、本来のスカイルートでは原作主人公は、裏の店で魂を質に入れて『守護の宝珠』用の金を確保する。尚、利子を払えなくなったら即ゲームオーバーなので、黒熊による金策は必須だ。

 

 だが、俺は所詮逆恨みで破滅する凡人(モブ)だ。主人公に比べて魂の格が圧倒的に足りていない。金策だって、家の剣を売り払っただけ。だから、ゴーレムも認めてくれない……ってところか。

 

「……っ! ファイア――!」

 

「――待った! スカイ!」

 

 襲い来るゴーレムに対して魔法を使って応戦しようとするスカイを手で制止する。

 

 ……スカイの魔法の威力だと、一発であのゴーレムをぶっ壊してしまう。それはダメだ。あのゴーレムはこの訓練場の管理者も兼ねているから、壊してはいけない。

 

「……ど、どうして止めるの!?」

 

「あのゴーレムが認めてねえのは、魂導者(ソル)である俺だ。だったら俺がどうにかするのが筋ってもんだろ。だから、一旦魔法は待ってくれ」

 

「……う、うん。わかった。気をつけて!」

 

 あのゴーレムも今は排除モードってだけで、話が分からないわけではない。だから、あのゴーレムは制圧する。弱点があったはずだし、それを使ってな。

 

「――排除ッ!」

 

「っぶね……!」

 

 ゴーレムが振り下ろした巨大な石斧を、白刃取りの要領で受け止める。すると、ゴーレムはその斧に赤色の魔力を込め、さらに力を入れてきた。

 

 ……ここで、腹部ががら空きになるのが、このゴーレムの――弱点だ!

 

「らっ!」

 

「…………!」

 

 がら空きの腹部に蹴りを叩き込むと、ゴーレムはぶっ飛び、重々しい音と共に壁に激突する。俺は怯んでいるゴーレムに迷わずに走り寄り、顔面――のすぐ隣、真っ白な壁をぶん殴った。

 

「――ふっ!」

 

「……!?」

 

 壁は思ったより柔らかく、破砕音と共に大きなクレーターができる。それを見たゴーレムの魔石が青色に戻り、動きを硬直させた。

 

「排除失敗、排除失敗。自己保全のため、命乞いモード……対話へと移行します」

 

「名称が正直すぎる。まあ、でも、やっと落ち着いてくれたか」

 

「…………。……どうして、こんな力を持っておきながら、私を破壊しないのですか? 我々は、あなた様を排除しようと……」

 

「そりゃ、アンタを破壊しちまったらこの訓練場が使えなくなっちまうからな。俺達の目的はこの訓練場を使う。その一点だ。だから……」

 

 壁から手を引き抜き、数歩下がって頭を下げる。

 

「俺を認めなくてもいい。ただ……スカイに、この訓練場を使わせてもらうことだけはできないか?」

 

「……今のルシアス様は、私の生殺与奪の権を握っている、圧倒的に有利な立場です。それなのに、どうして、頭を下げられるのですか?」

 

「有利な立場も何も、アンタらが本気で協力してくれなきゃ意味がない。俺がここに来た目的は、スカイに、戦乙女(ヴァルキリー)に、訓練をさせるためなんだから」

 

「…………では、一つ質問をさせていただきます」

 

 ゴーレムは数秒間逡巡した後、魔石を光らせ俺への質問を始めた。

 

「あなた様の、魂導者(ソル)としてのスタンスは?」

 

「――スカイの足を、引っ張らないこと。俺みたいな凡人が天才の進む道を阻害するなど、あってはならない」

 

 ……実際今、足を引っ張りかけているため、それ以外考えられなかった。

 すると、ゴーレムは魔石をさらに強く青色に光らせてきた。

 

「…………。その強い意志、覚悟を――信じさせていただきましょう」

 

「……うん?」

 

 ゴーレムの言葉が気になって顔を上げると……何故かゴーレムが俺に跪いていた。

 ……いや、なんでだ? 頭を下げるのは俺の方だろ?

 

「……大変申し訳ございませんでした、ルシアス様。我らは、創造主様に代わる素晴らしき方を探して、魂の査定をしておりました。しかし、やり方が古かったようです。魂の質だけで、ルシアス様のような強さと献身性を持った魂導者(ソル)を、不適格とみなしてしまったのですから」

 

「……? 言ってることはよく分からんが、ともかく。この訓練場は使わせてもらえるってことでいいか?」

 

「ええ、すぐに準備をいたしましょう」

 

「ほっ。……助かったぜ。俺が凡人なせいで色々しくじるとこだった」

 

 すると、ゴーレムは何か変なものを見るように、魔石を光らせてきた。

 

「……失礼ながら。硬化の魔法によって最高硬度となっているこの訓練場の壁を軽々と砕くルシアス様は、凡人と言うには差し支えがあるのでは」

 

戦乙女(ヴァルキリー)に比べりゃこんなん全然だろ」

 

「……比較対象がおかしいと思います」

 

「……そうか?」

 

「そうです。では、準備を行います」

 

 ゴーレムは恭しく礼をした後、奥の扉へ入っていった。

 ……ゴーレムも冗談って言うもんなんだな。

 

 *

 

「ルシアス様、スカイ様。準備ができました。こちらへお入りください」

 

 ゴーレムの言葉に導かれ、『肉体』のプレートが張られた訓練部屋に入る。高い天井に嵌められた魔石照明から放たれる清く白い光。その下に、大量のゴーレムが、整然と俺とスカイへ平伏し、跪いていた。割合としては石製ゴーレムが半分、鉄製ゴーレムが半分といったところか。

 

「お、おぉ……」

 

「すごい……けど、ちょっと怖い」

 

 まるで王にでもなったかのような、異様な光景。その中心にいる、さっきまで俺と話していた管理者ゴーレム――区別のために、ゴーレムさんと呼ぶ――が、俺達へ歩み寄り、恭しく礼を行った。

 

「スカイ様、ルシアス様。これまでの非礼の分、我らが全力でスカイ様を鍛えさせていただきます。まずは、スカイ様の今の能力を測りましょう」

 

 ゴーレムさんが魔石を光らせると、腕が砂袋でできたゴーレムが両腕を構えてスカイの前に立った。

 

「殴ってみてください」

 

「分かった! えーいっ!」

 

 弱々しく放たれたスカイの拳が砂袋ゴーレムに当たる。

 ぺちっ。という軽い音が聞こえた。

 

 これは……訓練のおかげかフォーム自体は整っているが、肉体が全く追い付いていない状態だな。にしても、ここまでとは……鍛えがいがある。

 

「…………では、初級(Fランク)から行きましょう。大丈夫。すぐに強くなれますよ」

 

「……う、うん」

 

 優しい口調で諭すゴーレムさんと、しょぼくれた顔のスカイ。

 

 ……初級からという訓練法には文句を言うつもりはないが、スカイにはもう少し天才という自信と自覚を持っててほしい。

 

 だから今のスカイに、あのゴーレムを砕かせて、才能を理解(わか)らせよう。

 

「スカイ。もう一回、俺の言うとおりにやってみてくれないか?」

 

「あっ、うん! えっと……」

 

「まず、構えはそのままでいい。その代わり……その状態のまま、体の中で魔力を回し続けてくれ」

 

 俺の言葉に、スカイは少しだけ眉をひそめる。

 

「うん? それは、魔法を使うってこと?」

 

「いや。ただ、体の中で魔力を回すだけでいい。とにかく、やってみて欲しい」

 

「わ、分かった。やってみるね」

 

 スカイは若干腑に落ちないような顔をしながらも、体に魔力を回し始めた。スカイの体から赤い光が漏れ出始める。

 

「そしてだな。その状態をずっと維持していると、一瞬だけ体の奥底から血が沸き立つ感覚が来るはずだ。それに合わせてゴーレムをぶん殴ってみてくれ」

 

「ちが……わきたつ……」

 

 スカイは構えたまま目をつぶり、瞑想のような形で、自分に流れる魔力と向き合い始めた。俺とゴーレムさんはそれを黙って見守っているため、魔力の巡る音以外しない静寂が部屋に訪れる。

 

「――多分、これだ!」

 

 一分と少しが経った頃。スカイは眼を見開いて叫び、その勢いのままゴーレムへ拳を突き刺した。スカイの拳は計測用ゴーレムの柔らかい腕部装甲を貫き、大理石でできている胴部分を粉々に砕く。

 

 轟音と共に、砂煙が辺り一面に舞った。

 

「…………わぁ!? なに、なんで!?」

 

「ほう……!?」

 

 困惑に満ちたスカイの声と、ゴーレムさんの感嘆が重なる。ククッ……。これが、スカイ本来の『竜側』の実力だ。

 

 スカイは竜と人のハーフ。なのに、スカイの肉体は貧弱だ。それは、スカイが肉を食べられないせいで、竜の部分が慢性的な栄養失調状態になってしまっていたためである。

 

 それでも生命を維持するために、スカイは無意識のうちに竜の力を封じ込め、人間の部分のみを使って省エネ生活するようになってしまっていた。それを今、竜側に栄養を与え、魔力を巡らせることで、ほんの一瞬だけスカイは竜の力を引き出すことができたのだ。

 

 ゲーム的に言うのであれば、会心の一撃(クリティカルヒット)といったところか。当然、これだけの攻撃には反動がつきものだが……そこは『守護の宝珠』がどうにかしてくれたのだろう。

 

「あっ、ご、ゴーレムさん大丈夫!?」

 

「大丈夫だスカイ。ゴーレムはコア……というか、魔石さえ無事なら再生する」

 

 正気に戻ってまず、自分の手でたたき壊したゴーレムを心配するスカイ。だが、スカイに壊されたゴーレムは、訓練場の素材を使って修復を半分以上完了させていた。

 

「ほっ……」

 

 ゴーレムが元に戻ったのを確認したスカイから、安堵の声が漏れる。よし。スカイの才能を示せたことだし、ゴーレムさんにはこれを目指してもらおう。

 

「――と、いうわけで。ゴーレムさんには最終的にスカイがいつでもこれくらいの力を出せるくらいにして欲しいのと、戦闘経験を積ませたいんだが」

 

「ご命令、承りました。必ずや、スカイ様を鍛え上げてみせます。訓練を始めましょう、スカイ様」

 

「分かった! ボクが頑張るとこ、ちゃんと見ててねルシアス!」

 

「ああ、見逃さねえよ」

 

 ゴーレムさんに連れられて、ゴーレムの集団の方へ歩き出すスカイ。スカイは天才だ。ここからぐんぐんと伸びてくれるだろうから、これで一安心だな。

 

 ククッ……。やっぱ、天才な戦乙女(ヴァルキリー)を持つと気が楽だわ。今後も、俺の器に合うくらいの努力(ゲーム知識)で、天才にあやからせてもらおうか。

 

「スカイ様は、よい魂導者(ソル)を得られましたね」

 

「うん! ルシアスは天才なんだよ!」

 

「……天才。そうですね、ルシアス様にはその言葉が相応しい」

 

 ……いや、だから、天才なのは俺じゃなくてスカイなんだが?

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