ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第7話:『大人』の視点

「ふぁあ……今日は本当に頑張ったし、疲れちゃった。もう寝ちゃうね。お休み」

 

「おう、お休み」

 

 ゴーレム訓練場での鍛錬を終え、へとへとの状態でお風呂に入り、ハンバーグを山盛り食べたスカイの眠気は、すでに限界だったようだ。眼を半分閉じながら、ふらふらと共用居間から自分の部屋へ戻っていった。今夜はぐっすりだろう。

 

 さて、ここから俺の自由時間になるわけだが、どうするか。まだ夜にしては早めの時間だから、できることはそこそこあるはずだ。ならば……。

 

 *

 

 と、いうわけで、俺は図書室に来ていた。この学校の図書室は巨大で、戦乙女《ヴァルキリー》関係の資料なら大体ここを使えば手に入る。

 

 図書室にはベレー帽を身につけた、年齢不詳のミステリアスな眼鏡美少女である司書さん以外に人がいない。その司書さんも入ってきた俺を一瞥したら、興味を失ったかのように読みかけの本へ視線を戻した。

 

 そりゃそうか、確か、司書さんもS級戦乙女(ヴァルキリー)だったはずだし、そんな人からすれば俺なんてちっぽけな存在だろう。

 

 それはいいとして、ここに来たのはちょっと気になることがあったためだ。

 

 それは端的に言えば、現実と『原作知識』の差異。ここ数日で『黒鉱熊の先制攻撃』、『ラーミアの宣戦布告』、『ゴーレムの認証不適格』等、原作で発生しないイベントが立て続けに起こってしまっている。

 

 多分だが、俺の前世で発売された『ソルキリー』は全てにおいて()()()()だったんだ。システムとシナリオの両方で。システム側は前世の俺が人生を賭けて解明させたんだが、いくらゲームシステムを掘り下げたところで新しいシナリオが出てくるわけではない。設定資料集も未発売だしな。

 

 だとすると、厄介だ。情報に不足があるせいで俺の破滅への道筋が不明瞭になっている。ラーミアに負けた俺は闇落ちした――以上の説明がないせいで、逃げて不戦敗もダメな可能性がある……勝利以外の選択肢が消えてしまっているのだ。

 

 今の俺にできるのは、ゲーム知識から多少逸脱したとしても大丈夫な対応力を身につけたまま、スカイをラーミアに勝てるよう育てること。そのために、図書室の本で知識のすり合わせを行い、可能な限り情報のズレを減らす。これが、今の俺にできる精一杯の対処法だ。

 

 というわけで、めぼしい本がないかを探す。

 

 まず目についたのは、装飾が新しめの本。タイトルは……『折羽姫《アンフェザリオン》』? なんだこれ。

 

 内容は……昔々、ある所に、名家の出なのに、病弱で生まれつき羽が折れていた戦乙女《ヴァルキリー》がいた。彼女は継母や義理の姉から『折羽姫』といじめられ、その日食べるご飯にも困るくらい冷遇されてしまう。

 

 そんな悲惨な境遇のせいで空を飛ぶことを諦めていた折羽姫はある日、天から落ちてきた青年を拾う。なんとその青年は、事故で飛ぶ力を失った天界に住む竜の王子様だった。

 

 始めは警戒していたが、甲斐甲斐しく自分を介抱をしてくれた折羽姫の優しさに絆される王子様。だが、折羽姫は王子様を義理の姉の結婚相手として狙っていた継母達の怒りを買い、命を狙われてしまう。そんな折羽姫を助けるために王子様は力を取り戻し、継母達を撃退。最終的には、竜の翼で折羽姫を空に浮かぶ自分のお城へ連れていき、幸せな結婚をしてめでたしめでたし……か。

 

 ……なんか、前世で似たような童話を読んだことがある気がするな。世界や文化が違っても物語のフォーマットは同じってことか。面白い発見だ。

 

 こっちのボロい本は……『剣聖伝説:一章・無銘剣抜刀』か。

 ……死ぬほど読んだし、今はいいや。

 

 こっちの簡素な装飾の本は……『S級災厄:ニーズヘッグに関する研究史録』。

 えーと? 凶悪な魔族が呪いと化し、戦乙女《ヴァルキリー》へ取り憑いて、周囲に災厄を振りまき、できた死体を餌として食らって立ち去っていく災厄。

 

 …………ん? 

 

 戦乙女《ヴァルキリー》に取り憑く呪い? そういや、ヒロインの一人がそんな感じの詳細不明なモン持ってたな。

 

 確か、そのヒロインのルートで解呪イベントを起こせず呪いが完全に顕現したら、主人公が呪いに巻き込まれて死んでしまい、どれだけ育成が上手く行っていても強制バッドエンドだったはずだ。

 

 ……改めて考えるとひどい展開と難易度だな。そんなんだから鬼畜ゲーって呼ばれるんだぞ『ソルキリー』。

 

 まさか、そのヒロインに憑いてる呪いって、このニーズヘッグじゃねえよな?

 実はその呪い、スカイルートでも戦う羽目になるんだよな。一応、これも読んでおくか。情報はあるに越したことはない。

 

 あと、どの本読もうか……。

 

……。

…………。

………………。

 

 ……やべえ、楽しい。

 

 いや、分かってる。破滅を回避するために知識を収集しているのだから、楽しむなんてもってのほかだ。

 

 だが、俺にとっては、本一冊一冊が、前世では制作会社倒産のせいでついぞ手に入れることができなかった『ソルキリー』の()()()()()なんだから。どうしても、ページを一つめくるたびに、知識欲が満たされてしまう。

 

……いや、受け入れよう。その上で、今日で読めるだけ読んじまおう!

 

 *

 

 彼女は司書。名はない。頭の中へ本の知識を詰めるために、彼女は自分の名すらも忘れてしまった。今日も本を読む。ただそれだけが、彼女の生きがいだった。

 

 ……図書室に誰かが入ってくる。白い髪の青少年。今学園で噂の、退学寸前の少女から才能を見出した天才魂導者(ソル)。だが、司書からすれば誰であっても、図書室を使うのであれば扱いは同じ。騒いだら追い出すだけだ。

 

 入ってきた白髪の彼は、いくつか本を見繕うと、席に座って読み始めた。傍らにメモを置いており、時折メモをとっている。

 

 天才魂導者(ソル)といっても、図書室の扱い方は変わらない。であれば、司書である彼女が気にする必要もない。そんなことより一冊でも多くの本を読むことの方が大切だ。彼女は視線を本に戻した。

 

……。

…………。

………………。

 

 いつの間にか司書は、白髪の魂導者《ソル》のことをおかしなものでも見るような眼で見ていた。いや、行動自体がおかしいわけじゃない。ただ、ずっと本を読み、何かをメモし続けてるだけだ。そう、本当にずっと、一晩中。

 

 司書はそういう魔法をかけているからいくらでも本を読んでいられる。だが、あの魂導者《ソル》はそういうわけじゃない。なのに、ずっと真剣な顔で本に釘付けだ。全く休憩をしていない。

 

「……!? ……嘘だろ? もしかして……もう日が昇ったのか!?」

 

 窓から差し込む朝日に気づいた彼は、いそいそと本を元あった場所に戻して、図書室から出ようとした。

 

「えっと、部屋に戻ったらまず朝飯の準備して……」

 

「…………おい、そこの天才魂導者(ソル)

(まだ行動するつもりなのかあの魂導者《ソル》は)

 

 気づいたら司書は、無意識のうちに白髪の彼へ声をかけていた。

 声をかけられた魂導者は、きょろきょろと図書室を見渡し、自分以外いないことを確認すると……司書へ顔を向けた。

 

「…………もしかして、俺のこと言ってます?」

 

「……お前以外に誰がいる?」

 

 ……司書自身もなんで声をかけたか分からず、声に戸惑いの色が混じっている。

 だが、ため息を一つつくと、扉へ向かって指を差しながら口を開いた。

 

「まず、無理はするな。図書室内で倒れられたら私の手間になる。倒れるなら廊下か窓の外で倒れろ」

 

 司書はとりあえず、頭に浮かんだ言葉を目の前の白髪の魂導者《ソル》にぶつけることにした。司書の言葉に、白髪の魂導者《ソル》はきょとんとした顔をする。

 

「いや、本読んでただけなんで、無理なんて全然してないです。確かに日は昇っちゃいましたが、同じ徹夜でも実家の鍛錬に比べれば天国のような時間でしたし」

 

「……嘘をつけ。だとしたら、今日だけで何十ページも書き連ねられたそのメモはなんだ。お前みたいな天才魂導者(ソル)が、何故そこまで頑張る?」

 

「いや、これは設定資料しゅ――じゃなくて、別にそういうのじゃないです」

 

 司書の言葉を受け取った彼は、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 ……なんだ? なんでそんな顔をする必要がある? と司書が首を傾げる。

 

「……それよりなんか、変な誤解されてるみたいなんで言っときますけど。天才なのは俺じゃなくて相方であるスカイの方。俺はその足を引っ張らないようにしてるだけで、戦乙女《ヴァルキリー》に比べたらただの凡人なんで、変な勘違いされても困ります」

 

「……は? 図書室に籠もりきりの私にも聞こえるくらい華々しい活躍をしているお前が凡人なわけないだろ」

 

「図書室に籠り切りは何のステータスにもならないと思います」

 

 司書にはっきりと突っ込みを入れた白髪の魂導者《ソル》は、時計を見ると、足早に出入口へと歩きだした。

 

「すいません。そろそろ行きますね」

 

 その言葉と共に図書室から出ていく白髪の魂導者《ソル》。司書が、腑に落ちないようにドアを眺めていると……入れ替わるように学園長が図書室へ入ってきた。綺麗な銀髪に、相変わらず短すぎるローブのせいで豊満な谷間と太い腿の主張が激しい。

 

「おはよ。司書ちゃん」

 

「よう学園長。相変わらずの痴女衣装で何よりだ」

 

「ぶん殴るわよ」

 

 いつものやり取りを終えると、学園長は薄い笑みを浮かべながらドアを指さした。

 

「そんなことより。……何やら、楽しそうな話してたじゃない」

 

「……聞かれてたか。じゃあ、あの魂導者《ソル》について知っていることを教えろ。特に、なんであんなに頑張っているのかをな」

 

「強引ね。といっても、あなたの興味を惹きそうな情報は……あぁ、そういえば、あの子の目標を聞かされていたわね。なんでも、『新しい可能性』を見つけたいらしいわよ?」

 

 ……新しい、可能性。それが、彼が魂導者として天才と呼ばれる現状に満足せず、謙虚に努力を続ける理由。

 

 もしそれが実れば、きっと……彼の名は、歴史の本に残るだろう。

 そう直感した司書は、学園長へ顔を向けた。

 

「学園長」

 

「どうしたの? 司書ちゃん」

 

「あの魂導者《ソル》の名前を教えろ」

 

「…………は?」

 

 司書の提案を受けた学園長は、信じられないようなものでも見るような眼を司書へ向けた。

 

「自分の名前すら覚えていない司書ちゃんが、他人の名前を聞くの?」

 

「別に、大した理由じゃない。一つ予感があるだけだ。将来、あいつの起こした偉業が立派な装飾の本になるだろうという確信にも近い予感がな」

 

「……そういえばあなた。本で読むこと以外は基本的に覚えないんだっけ」

 

「ああ、だからこれは予習だ。本に書かれていることのな」

 

 その言葉と共に司書は一冊の本を学園長に見せつけた。茶色を基調に、金色の装飾が象られた豪華な本。表紙には『戦乙女学園偉人九選』と綴られている。

 

 だが、司書は知っている。

 

 この本に書かれている『偉人』は英雄級の活躍をした戦乙女《ヴァルキリー》以外いないことを。

 もし、この本に魂導者《ソル》の名前が載ることがあれば――それは前例のない偉業であることを。

 

「じゃあ、教えてあげるわね。彼の名前は、ルシアス・アルスターっていうの」

 

「……ルシアス、か」

 

(……悪くない響きだ。覚えておこう)

 

 司書が脳内領域の隅っこに、その名前を書き留める。

 そんな彼女を見た学園長が、司書の顔を覗き込んだ。

 

「……ちなみにだけど、私の名前はちゃんと覚えているわよね?」

 

「当然だ。まさか、二十年来の友の名前を忘れるわけがないだろう?

確か……えぇと……」

 

「……司書ちゃん?」

 

「……スゥーッ……ナンダッケ」

 

「おい」

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