ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第9話:『モブ』と『主人公』

「こんにちは」

 

「お、ルシアスか。新しい本入ったぞ。読んでくか?」

 

「はい。いただきます」

 

 いつものように図書室へ来ると、司書さんが眼鏡をキランと光らせながら俺へ本を渡してくれたため、ありがたく受け取る。……なんか、顔と名前を覚えられてんな。まあ、ほぼ毎日来てるから仕方ないか。

 

 いつもの席に座り、司書さんから受け取った料理本を開く。そろそろ、ハンバーグ料理のレパートリーが減り始めている。毎食肉料理(ハンバーグ)を食わせる以上、飽きが一番の敵なため、常に改良を続けなくてはならない。

 

 だが、図書室の料理本にはハンバーグのレシピはない。ゲーム的には、ハンバーグのレシピは、周回ボーナスで貰えるためだ。そのため、他の料理からアレンジをすることで、新しい料理を考えなければならない。

 

 ハンバーグシチューにするのはありだな。砕いてボロネーゼやミートパイにする……のは、少し早いか? 他には……。

 

「う、うぅ~~~~~~っ!!」

 

「うるさいぞ。叫ぶなら談話室行け」

 

「痛いっ!」

 

 ……なんか、俺の斜め前に座っていた艶のある黒のミディアムヘアに、星を模った髪飾りを付けた少女がいきなり叫び出したかと思うと、司書さんが放った魔法を食らい、机に突っ伏した。

 

「どうした?」

 

「うぇ~ん! 勉強の本を読むのが辛いよぉ……! 小説や絵本は読めるのになぁ……!」

 

「……そうか」

 

 あまりのスピード感に、つい倒れた少女に声をかけてしまった。少女は本をまき散らした机に突っ伏したまま、しょんぼりとしている。よくよく見ると、まき散らされている本は全て戦乙女(ヴァルキリー)関係の教本だった。

 

「……君さ、わたしが見るたびにこの図書室にいるよね? ということはきっと、頭がいい。だったらさ、わたしに色々教えてくれたり……しない?」

 

「…………」

 

「お願い! なんでもするから!」

 

 頭を机に擦りつけて懇願する黒髪の少女。断るとさらにうるさくなるかもしれない。……それは、ちょっと困るな。

 

「…………見せてみろ」

 

「いいの!?」

 

「その代わり、静かにしてくれよ」

 

「はーい!! 分かりました!!」

 

 ……声量が変わっていないのが不安だが、まあいい。とっとと分かってないだろう部分を教えて静かになってもらおう。

 

 俺が少女に近づくと、少女は該当のページらしき場所を俺へ見せつけてきた。本に書かれたタイトルは『戦乙女(ヴァルキリー)のきほん』。

 

 …………。

 ……もしかしてこの子、マジの素人か?

 

「……どこから分かってないんだ」

 

「そもそも、なんで戦乙女(ヴァルキリー)だけ魔法が使えるかが分かんないんだよね」

 

「そこからか、了解」

 

 そういう質問なら大歓迎。前世の俺は布教の鬼。『ご新規さん』に説明をすることには慣れきっている。

 

「まず、戦乙女(ヴァルキリー)だけ魔法が使えるというのはちょっと間違いだ。厳密には戦乙女(ヴァルキリー)だけが使えるのは()()魔法。それ以外の、一見他者を害さない魔法は普通の人でも使える。ゴーレム作成や治癒みたいにな」

 

「それって、もしかして……わたしでも使えちゃったりする?」

 

「魔力は誰でも持ってるから、あとはそれを生かす才能さえあれば使えるはずだ。まあ、実用化できるのはほんの一握りだがな」

 

「ほうほう、それは……ワクワクしちゃうな! はぁああああああっ!」

 

 眼を光り輝かせながら右手を掲げ黒髪の少女、何か力を溜めるように叫び始める。それを見た司書さんが、再び少女へ魔法を放った。

 

「叫ぶな。うるさい」

 

「わっと! ふっふっふ、流石に二回目は…………ぎゃふっ!?」

 

 少女はそれを身をよじらせて躱すが、魔法は少女の後ろにある本棚に当たり、少女は本棚から降ってきた本に埋もれた。

 

 本の海から、少女の手だけが出てくる。

 

「いてて……あ、いいよ。続けて続けて」

 

「……じゃあ、次。戦乙女(ヴァルキリー)は誰と戦うのか。それは、魔物や魔族といった、地の下に住む魔の存在だ。特に高い知性を持つ魔族は、長年、神様と地上の覇権を賭けた争いをしている」

 

「人間って神様側なんだよね」

 

「ああ。魔族は地上含めた全てを支配しようとしているからな。神様は良くも悪くも放任主義で、地上のことは人間に任せてくれている」

 

「いやー、仕方ないなー。神様に頼まれちゃったら、頑張るしかないよね!」

 

 本の海から出てきて、ぐっと拳を突き上げる黒髪の少女。

 ……なんというか、行動の一つ一つに目を引かせる愛嬌がある子だな。

 

「それはそれとしてさ。なんで戦乙女(ヴァルキリー)だけ攻撃魔法が使えるの?」

 

戦乙女(ヴァルキリー)が、特別な魂を持っているからだ。攻撃魔法は神の起こす奇跡の再現。神の力に適合する魂を持つ女性にのみ、使用する権利が与えられる」

 

「女だけ? 男は使えないってこと?」

 

「ああ。魂の構造上、神の力を使えるのは女性だけだ。羽生やせるのもな」

 

「へー。神様が女好きだからじゃないんだねー」

 

「……不敬だぞ」

 

 メタ的に見るのであれば元ネタがワルキューレだから女性限定なんだろう。ただ、だとしたら、ワルキューレの役目であるはずの『勇士の魂を天界に運ぶ』機能がないんだよな。

 

 ……いや、これはあくまで前世の知識があるからの感想だ。深掘りは野暮か。

 

「次の質問! 戦乙女(ヴァルキリー)ってどういう人がなれるの? もしかして、わたしも今からなれたりしちゃう!?」

 

「いや、今からはなれない。戦乙女(ヴァルキリー)の血を引いている必要がある。その上、血を濃くするほど戦乙女としての素質が高まると信じられていて、血の掛け合わせによってより強い戦乙女を輩出するのを生業としている貴族も存在しているな」

 

「なるほど……ってことはわたしはなれなさそうだな~。残念」

 

 戦乙女(ヴァルキリー)じゃないのにこの学園にいるということは、この子は魂導者(ソル)なのか? にしては無知だが……一芸特化でなったタイプなら不思議ではないか。

 

「あっ、もうこんな時間! そろそろ行かないと! えっと、本は……」

 

「いいよ。俺が片付けておく。場所知ってるしな」

 

「ほんと!? あ。あとさ。もし、再び図書室で出会ったら分からないところ教えてくれたりしない?」

 

「……まあ、別にいいが」

 

「じゃ、またよろしくぅ!」

 

 その言葉と共に、黒髪の少女は走り去ってしまった。

 なんというか、周囲を巻き込む力を持った子だったな。

 

 本を片付けていると、廊下から少女の声が聞こえてきた。

 

「にひひ~。優しくて賢い人と繋がりが出来ちゃった。顔も悪くないし、やっとわたしにも、運が回ってきちゃったかな~?」

 

 ……あの子、結構俗っぽい性格してるんだな。

 

 *

 

 それから図書室に来るたびに、併設の談話室であの黒髪の少女に戦乙女(ヴァルキリー)関係の知識を教えるのが日課になった。

 

 その結果……。

 

「ちわ~、師匠! 今日も部屋をとっといたから……二人きり、だね」

 

「なんだそのノリ。あと、師匠呼びはやめてくれ」

 

「いやいや! 何の対価もなしに教えてくれるんだから、そう呼ばないとなんか申し訳ないじゃん?」

 

 ……なんか、めっちゃ懐かれた。いつの間にか師匠呼びが定着している、お互いの名前も知らないんだけどな。というか、こんな子原作にいたっけか? モブでもこんな愛嬌のある出で立ちの子は見たことないんだが……。

 

「というわけで、今日もよろしく!」

 

「ああ。それはいいんだが……距離が近い」

 

 ……前会った時は気づかなかったんだが、この子の体はかなり健康的だ。豊満と言い換えてもいい。そんな子が体のラインが浮き出るローブを着て隣に座り、たまに腕を抱いてくるのは理性に響くから正直やめて欲しい。

 

「ほら、はやく、はやく~!」

 

 全く気にしている様子がない。もしかして、完全に無自覚か?

 ……よし。とっとと説明を終わらせて離れてもらおう。

 

「勉強始めるぞ。まず、何から知りたい?」

 

「じゃ、師匠に質問! 戦乙女(ヴァルキリー)って、元は神様の使いなんだよね? なんで人間が導くようになったの?」

 

「いい質問だな」

 

 この辺は『ソルキリー』の根幹に関わる設定のため、前世の知識を得る前からよく知っている。

 

「そう!? にひひ~。もっと褒めて!」

 

 黒髪の少女が、にぱーっと口角を上げる。

 ……この子あれだな。感情が全部出るタイプだな。

 

「確かに、戦乙女(ヴァルキリー)は元々神の使いとして天界から地上へ降りてくる存在だった。だが、1000年前、それが覆る出来事があったんだ。神と魔族の最終戦争――ラグナロクがな」

 

「ラグナロクはわたしでも知ってる。魔族が神様へ全面攻勢に出て。多くの神様が死んじゃったんだよね」

 

「ああ。そのラグナロクのせいで、戦乙女(ヴァルキリー)との契約を担当していた神様が死んでしまったんだ。それで、神から与えられた力によって空を飛んでいた当時の戦乙女(ヴァルキリー)は力を失い、地面へ落ちた。そんな絶望的な状況に現れたのが、始まりの魂導者(ソル)。今では『天の御子』と呼ばれてる一人の青年だ」

 

「天の御子……かっこいい響きだ。何したの?」

 

 天の御子関係の絵本を渡すと、黒髪の少女は眼を輝かせながら開いた。

 どうやらこの子、お姫様よりもヒーローに憧れるタイプのようだ。

 

「天の御子は、戦乙女(ヴァルキリー)の魂自体に、空を飛べるだけの力が内包されていることを見つけてな。多くの戦乙女の魂から力を引き出して、天界への救援軍を作ったんだ。自分の力を手に入れた戦乙女の活躍はすさまじく、ラグナロクを神側の勝利へ導いたとされているな」

 

「お、おぉ……!」

 

 天の御子が活躍している挿絵を見た黒髪の少女はよっぽど感動したのだろう。

 興奮気味に椅子から立ち上がり、拍手でも始めそうな勢いだ。

 ……本当にパワフルだなこの子。まあいい。とりあえず説明を続けよう。

 

「この出来事を経て、神様は戦乙女(ヴァルキリー)について、自分たちが力を与えるよりも、人間に引き出してもらった方がいいと判断し。人間側に戦乙女を導くための補助を与えた――というのが、魂導者(ソル)の成り立ちだ」

 

「それよりも、天の御子はラグナロクの後、どうなったの!?」

 

「神様に功績が認められて、『恩賞』として天界に迎え入れられたんだっけか? 1000年も昔のことだから、とっくの昔に寿命だろうけど」

 

 ただ、『恩賞』はここ数百年出ていないらしい。が、原作だと主人公がゲットしてるので、プレイヤー目線だとあまり貴重じゃないように思えてしまう。この辺の意識の差はちゃんと埋めとかないとな。

 

 そんなことを考えていると、黒髪の少女が首をこてっと傾げながら質問をしてきた。

 

「ねえねえ。天の御子に、子孫とか……」

 

「…………いても、おかしくはないな」

 

「だよね! どういう人なんだろう!」

 

 おかしくないというか、()()。『ソルキリー』の主人公が、天の御子の子孫だ。

 なんなら、グッドエンドで正式に二代目天の御子と認められている。

 俺みたいな天才に寄り掛かるしか能がない凡人(モブ)には縁がない存在ってことで、放置してたが……そういや今、何してるんだ?

 

 スカイとラーミア以外の誰のルートに行っているかとか、時間のある時にでも調べてみるか。憧れてるみたいだし、場合によってはこの黒髪の少女に会わせてみてもいいかもな。大喜びしそうだし。

 

「……どしたん、師匠?」

 

 と、いかんいかん。説明中だった。

 

「悪い。考え事してた。で、まだ、他に聞きたいことはあるか?」

 

「ずばり、魂導者(ソル)って――何をすればいいの?」

 

「……随分とバッサリした質問だな」

 

「こう見えて、何もわかってないからね!」

 

 少女の眼はガラスのように透き通っていた。多分世界中の人間がこうだったら、戦争は起きないだろう。いや、それ以前に滅びるな。

 

「……結論から言えば命令と育成だ。魂導者(ソル)は神の代弁者。だから、その命令に従った時……厳密に言えば、神の命令を受けた時。戦乙女(ヴァルキリー)は、その魂が活性化して多くの力を発揮する。だが、戦乙女自体の力がなければどれだけ魂が活性化しても無駄だから……各戦乙女に合った最適な成長方法を模索するのも魂導者の役割だ」

 

「ほうほう。わたし達は迷える戦乙女に対して、天の御子のように正しい命令をしながら、導くことが役目なんだね……そういやさ、どういう人が魂導者になれるの?」

 

「なること自体は、老若男女問わずできる。天の御子が活躍を始めた時の年齢が十代だったということもあって、年齢制限は実質ない」

 

「ほえ~。ここでも、天の御子が影響を与えているんだ」

 

 ゲーム的に言えば入学したばかりの戦乙女(ヴァルキリー)と同年代である主人公が教える側の立場になるために、年齢制限がないのだろう。

 

 あと、『ソルキリー』のジャンルが恋愛ではなく、あくまで育成ゲームな影響か、主人公の性別を男女で選べたりする。女性主人公にした場合、ラッキースケベのペナルティが無くなるなど若干難易度が緩くなるが、そもそも『ソルキリー』自体が鬼畜ゲーなせいで意味がないという、悲しい逸話がある。

 

「誰でもなれるのに、魂導者(ソル)の数って少ないよね。学園にいる戦乙女(ヴァルキリー)の半分にも行き渡ってないし。ということは、なるための条件があったりする感じ?」

 

「格の高い貴族以外は、厳しい試験を突破して実力を証明する必要がある……ってのは知ってるよな? アンタも魂導者(ソル)なんだし」

 

「え? あー、そう、だよね」

 

 唯一の例外が主人公だ。天界出身の主人公は貴族出身でもないし、厳しい試験を突破したわけでもない。天界から落ち、記憶喪失状態で学園に流れ着き、何故か手に魂導者(ソル)の紋様があったため、記憶の手掛かりを探すために学園へ特例入学したのだ。

 

 だが、それがバレたせいで他の魂導者(ソル)戦乙女(ヴァルキリー)から神を騙る不正者として避けられるようになってしまう。それでも主人公は諦めず、そういうのを気にしない癖強ヒロインとどうにか契約する……というのが、原作の流れだっけか。

 

「ほかに聞きたいことはあるか?」

 

「いや、今のところは大丈夫、かな? 色々ありがとね、師匠!」

 

「……だから、その師匠ってのはやめてくれ。見た感じ年齢は同じくらいだし、俺はちょっと何か教えたくらいで師匠面するつもりはない」

 

「ううん。わたしにとっては……大切な、師匠なんだ」

 

 その言葉を放つ黒髪の少女の顔からはいつもの元気さがなくなっており、深窓の令嬢のような憂いを含んだ佇まいとなっている。少女は、その口をきゅっと結んだかと思うと、意を決したかのようにゆっくりと開いた。

 

「――実はわたし、記憶喪失でさ。名前以外、何も覚えてなくて……魂導者(ソル)の証が手にあったという理由だけで、ここに入ったんだ」

 

 ……ん? どこかで聞いたような?

 

「それを言ったら、『正式な手続きをせずに魂導者(ソル)になった、神を騙る不正者』として、みーんな冷たくなっちゃったんだよね」

 

 嘘だろ? いや、そんな……。

 

「でも、師匠だけは、そんなわたしに優しくしてくれた。だから、その恩返しも兼ねて、師匠って呼ばせてよ! ……この繋がりは、切りたくないからさ」

 

 ……確かに、俺は主人公のビジュアルを見たことない。

 だが、こんな……こんな偶然あるか!?

 

「……あ。そういえば、わたしと師匠。まだ、互いの名前知らないよね。じゃ、師弟関係を深めるために、自己紹介しちゃおう」

 

 いや、待ってくれ。まだ確定させないでくれ。

 やばい! なんか、窓から差す陽光が後光みたいに見えてきた!

 

「わたしは――ミタマ! みんなと比べてちょっと独特な名前してるし、忘れにくいんじゃないかな!」

 

「…………あぁ。そうだな。そう簡単に忘れられねえよ」

 

 忘れるわけがない。その名前は――。

 『ソルキリー』主人公の()()()()()()()()なんだから。

 

 ……そうか。女性主人公ってこんな愛嬌あるビジュアルしてたんだな。

 『ソルキリー』には設定資料集がないから……知らなかったよ。

 

「あれ!? どうしたの、師匠!? そんなうなだれて……もしかして、わたしの名前、そんなに変だった?」

 

「いや、そういうわけじゃない。とってもいい名前だ」

 

「にひひ~。褒めてくれてありがとう! じゃあさ、師匠の名前を……」

 

「…………ルシアスだ」

 

「ルシアス……良い響き。わたしも、忘れられなさそうだね」

 

 尊敬に満ちた真っすぐな目で俺の名前をはんすうするミタマ。

 俺は凡人(モブ)なんだから、主人公(ミタマ)に名前とか覚えてもらわなくてもいいのに……。

 

「……で、話戻すけどさ。師匠はさ、天の御子ってどういう人だと思う?」

 

 ミタマは薄紅に染めた頬を指で掻きながら、俺へ微笑みかけてきた。

 

「わ、わたしはね。師匠のように賢くて優しい人だって、思うんだよね!」

 

 ――天の御子はおまえ(主人公)じゃい!!!!

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