宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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スーパー宇宙戦艦大戦って出ないかなぁ。


第十二話

2206年12月25日23時4分  愛知県名古屋市某アパート2階1号室 篠田恭介宅

 

 

 

ヤマト量産計画、通称「ビッグY計画」が発動してからというものの、まともな休日は殆ど無くなった。

名目上は土曜の午後と日曜は休みだが、土曜の午後はサービス残業で検討委員会の会議、日曜は家で会議録の整理をしたり「リキ屋会談」が入る事が多く、仕事が終わったら寝るだけという生活を送っていた。

平日と休日の区別がつかないまま延々と仕事をしていたら、いつのまにか年末になってしまっていたのである。

 

というわけで、今は年末休暇真っ最中。8カ月ぶりのまともな連休である。

久々に一日中家にいた。久々にお昼まで爆睡していた。久々に自炊したら残念な味の料理になってしまった。食事のときくらいは外に出れば良かっただろうか。

ある者は故郷へ帰り、ある者は数少ない娯楽を求めて栄の街へ消え、またある者は仲間の家にいり浸ったりする。男子校のノリが強い社風の所為なのか、研究所の職員に妻子や彼女がいる奴はほとんどいない。

恭介は東京に帰る事も無く、今年も年末年始を自宅に引きこもったまま過ごすつもりだ。

 

あかねには帰るように口酸っぱく言われているが、あの家に帰るのは少々気が引ける。

心配してくれるのはありがたいが、あの温もりの中に居ると不意に自分が不相応な場に居るような違和感が湧きあがる事があるのだ。

それは、俺が宇宙戦士訓練学校に入った理由の一つでもある。

家族に混ぜてもらっている事への違和感……とでもいうのだろうか?

とにかく、簗瀬家の二人のことは慕っているが、このくらいの距離感でいるのが一番無難なのだ。

 

それでは東京にも帰らず家に引きこもって休暇を満喫できるかといえば、そうもいかなかった。年明け以降の事が気になって、全く休む気にならないのである。

目の前には、頭痛のタネとなっているルーズリーフ。乱雑に書きなぐられたそれは、先週行われた検討委員会でのメモだ。

年内最後となった検討委員会は、今までの会議で決まったことをおさらいした上で、どのような艦のデザインにするかの指針を議論した。

その結果内定した要目は以下の通りである。

 

 

波動砲……結局従来通りに艦首に艦体と一体化した形式を踏襲。現在、収束式と拡散式のモード変更できるようにするか、検討中。波動炉心を連装にする事で2発まで連射が可能に。但し理屈上、2発撃ってしまえばエネルギー残量が空になってしまうので、かつてのヤマトのように再起動に時間がかかる。また、アンドロメダⅡ・Ⅲ級のように双発エンジンというわけではないので波動砲チャージ中は通常戦闘ができない。

 

衝撃砲……主砲は3連装5基。内訳は上側前部に二基、後部に一基。下側は前部と後部に一基ずつ。下側の主砲塔は普段は露出しているが、大気圏突入時には対ショック・耐熱シールドに覆われる。副砲はヤマトと同様に3連装2基。

 

ミサイル発射管……艦首・艦尾には片舷に3基ずつ、合計12基。側面は艦体中央に片舷6基ずつ計12基。上下には上側が8連装旋回式ミサイル発射機、下側は第三艦橋後部にVLSが16基。使用可能な火器は対艦・対空ミサイルの他機雷や波動爆雷を散布するミサイルも発射可能。

 

パルスレーザー……ヤマトに採用されている4連装長砲身パルスレーザー砲塔を艦上部に片舷5基ずつ、計10基配置。艦下部は無砲身型連装パルスレーザーを片舷10基ずつ配置。片弦は合計で40門と、ヤマトの片舷50門に比べれば門数はだいぶ少ないが、片舷10門しかなかった第二・第三世代型主力戦艦に比べれば大きな前進だ。

 

レーダー類……主力戦艦を踏襲して第一艦橋頂上部に超長距離探知用の網状アンテナを装備。サイドスキャンレーダーで死角をカバーする。歴代アンドロメダ級に装備されている全方位型フェイズド・アレイ・レーダーは、費用対効果から断念。他にもタイムレーダーや三次元センサーも搭載する。

 

装甲……集中防御方式を採用。機関部分と被弾確率の高い艦前面に重点的に重装甲を配置。後方、下方は隔壁を細分化して被害の浸透を阻止。

 

艦体……量産性を考慮し、全長300メートル未満、全幅40メートル未満、基準排水量7万トン未満とする。

 

 

「……所長、やっぱりこれだけの装備を7万トンの艦体に詰め込むなんて無茶ですよ。俺も木村さんも反対って言ったじゃないですか。何であの時はっきり無理だって言ってくれなかったんですか」

 

 

俺はあえてカメラのファインダーを睨みつけながら、ディスプレイの先の所長に恨み言をぶつけた。

ちなみに今日のリキ屋会談は年末でリキ屋が混んでいるのと、真田さんと藤堂前長官が横浜から動けないために、直接会わずにヴァーチャル会議となった。

横浜の二人は大統領以下の地球連邦政府首脳陣の会議に招集されていて、今の今まで政治家達と丁々発止のやりとりをしていたのだそうだ。

藤堂前長官はともかく、真田さんが会議でなにかできるとは思えないのだが、あの人のことだから洗脳電波を発する機械とか作ったりするのだろうか?

 

 

「これくらいできないか? ワシが造ったヤマトにはこれ以上に色々詰め込んだぞ?」

 

 

ディスプレイ右半分に映る所長が、困惑と呆れを半々にしたような顔で無責任な事をのたまう。しかし、ヤマトの時と今では状況も予算も何もかもが違うのだ。

第一、単艦で他星系まで冒険するのと太陽系周辺宙域を防衛するのとでは求められるものが違うのだ、ヤマトとそっくりそのまま同じにしても意味はない。

……ああ、イライラする。

 

 

「そう言うと思って、あれから今日までに一応10パターンほど考えてみました。やっぱり、主砲5基を上下に積んでる時点でどうあがいても無理です。既存の船で要目に一番近いのはアリゾナ級ですが、それでも主砲3基に副砲2基ですからね。3連装を5基も乗っけてその上副砲2基やら大量のパルスレーザーやらミサイル発射機やらつけたら7万トンじゃ足りないに決まってるじゃないですか。やるならせめてアンドロメダⅡみたいに波動エンジン2基にしてくださいよ」

「それこそアンドロメダⅡと変わらんじゃないか、バカモン。10万トンじゃすまないサイズになるぞ」

「だから無理だと言っているんです、所長。課長も俺も空間を捻じ曲げないと出来ないって言ってるのに皆で寄ってたかって多数決して……。俺らじゃ無理です、どうしてもというなら真田さんに頼んでください」

「おいおい、いくら俺でもこれを造るのは不可能だぞ。所長、篠田の言うとおり、この要目通りに設計しようとすると13万トン……せめて11万トンはないと無理です。なんでこんなにあれこれ詰め込んだんですか?」

「いや、ヤマトを再現しようとしたらああなるだろう?」

「南部は何をやっていたんだ、こうならないように招いたというのに」

「真田さん。その南部さんが、一番ノリノリでしたよ……ハァ」

 

 

正直、今にして思うとあの検討委員会は悪ノリしすぎたような気がする。

個々の論議については非常に有意義だったのだが、それを一隻にまとめようとすると『夕張』みたいにカツカツした余裕のない艦になる、というより『播磨』並みのトンデモ艦になってしまうのだ。

結局のところ、プラモデル感覚でいいとこ全部載せしようとしても軍艦としては役立たず……そもそもフネとして成り立たないと言う事なのだ。この一週間でその事が身にしみてわかった。

こういう事態を防ぐために南部さんをメンバーに入れたというのに、あの人は「多くの種類の武器を多く詰め込めればそれだけ強くなる」と言って賛成してしまった。用兵側の意見としては正解なのかもしれないが、それをデザインする方の苦労は分かってくれなかった。

 

 

「所長、我々が造るのは主力戦艦であってアンドロメダⅣじゃないんですよ」

「いっそのことアンドロメダⅣ級にしてしまってはどうだ?」

「あれははじまりはともかく、今では艦隊旗艦用の船ですからね。一国に一隻しかいないんじゃ量産型としての意味がないですよ。……あぁ所長、ひとつだけ7万トン台に抑える方法がありますよ」

「……いったい、どうするってんだ」

「装甲を紙っぺらにして無人艦にしてしまえばいいんですよ。居住スペースもダメコン用の機材や資材置き場も全部撤去して、旗艦がコントロールできるようにすれば、」

「却下だ。無人艦は認めないと最初に言ったぞ」

 

 

一応言ってみただけだが案の定、真田さんが却下した。

ずっと思っていたが、真田さんの有人艦へのこだわりは何なんだろうか。人口がかつての5分の1にまで減っている現状で、無人艦は人件費も犠牲者を出さずに戦力を揃える最良の方法じゃないか。何をそんなに拘っているんだ?

……ああ、本当にイライラしてくる。

俺は一つ、わざとらしく大きなため息をついた。

 

 

「じゃあ、もういっそ原点に戻りますか。船型も飛行機型もやめて、戦闘衛星に主砲やらなにやらくっつけたような形にしたらどうですか? 正直、船型は重量バランスが悪くて、反対側にカウンターウェイトを配置したりして苦労が多いんですよ? 宇宙空間では球体に近ければ近いほど安定するものですからね」

 

 

宇宙開発創成期のISSは、今と違って人工衛星を大きくしただけのチグハグな形をしていた。しかし、あれこそが宇宙に最も適応した正しい進化だと、恭介は思っている。各モジュールが着脱可能だから、追加が来たらモジュールを組み直して最もバランスがとりやすい形に調整する事が出来る。なんという積み木感覚だろうか。

一方の船型は、一度完成したら追加装備を搭載したときの重心のバランス調整が非常に難しいのである。

 

 

「いや、篠田。宇宙船が船型をしているのにはちゃんと理由がある。その理由は訓練学校で教わっただろう?」

 

 

恭介は、不愉快そうに眉間を寄せた。

人類が本格的に太陽系への有人飛行を始めた頃から、宇宙を航行する機体は船型――前後に非常に細長い柱、或いは錐の形状を模するようになった。

あえて従来の形を捨ててまで船型を採用した理由は多く分けて3つ。

一つは、人間に馴染みがある水上船を模することで、宇宙航行のストレスを少しでも軽減させる事。

一つは、水上船のドックを宇宙船建造ドックに使い回している為に、それ以外の形のものを造りにくいこと。

そして最後は、無重力ゆえに上下の感覚がないイメージが強い宇宙空間だが、惑星や中継基地に寄港する時など、実際の運用では上下の区別を求められる事が多々あることである。

そんなことは、真田さんに言われなくても分かっている。

しかし、それも駄目ならばどうしたらいいというのか。天才技術者の真田さんまでもが「無理」だといっているのに、22歳のペーペー技術士官がどうにかできるとでも思っているのか?

 

 

「じゃあどうするんですか? こんな子供の落書きみたいなフネ、造れる訳ないじゃないですか!」

「何だと貴様? それをどうにかするのが技術屋魂だろうが!」

「魂だけでフネが作れるなら人類はとっくの昔にダイソン球殻を造ってますよ! 大体自分だって技術士官なのに自分で考証もしないで適当な事ばかり言ってるじゃないですか!」

「そこまでだ。飯沼君、篠田君」

 

 

今までずっと沈黙を保っていた藤堂前長官の低い声が割り込んで、ヒートアップしかける言葉の応酬を断ち切った。

 

 

「私はこんなことをする為に君達を緊急に呼び出したのではない。今、非常に深刻な問題が発生しつつあるのだ。喧嘩などしている場合ではないぞ」

「……なにか問題でも起きたんすか、前長官殿」

「篠田、いい加減に気持ちを切り替えろ。これは真面目な話だ。今までの話が根本から全部吹っ飛ぶかもしれないんだ」

「だから、真田さんまで何なんですか。何かあるんならはっきり言ってくださいよ」

 

 

藤堂前長官は、眉間に一層の皺を刻んでゆっくりと口を開く。

 

 

「……さっきまで行われていた連邦総会で、軍縮条約案が提出された。可決された場合、第四次環太陽系防衛力整備計画が最大10年間延期されることになる。ビッグY計画が根底から崩れることになるぞ」

 

 

 2206年12月30日10時44分  アジア洲日本国 地球連邦軍司令部ビル内・会議室

 

 

【推奨BGM:「宇宙戦艦ヤマト2199」より《ガミラス 暗躍する陰》】

 

 

当然のことではあるが、地球連邦の閣僚は様々な国籍と民族の人物から成っている。

例えば、大統領はドイツ系イギリス人だし、藤堂平九郎や土方竜などの防衛軍上層部の多くは日本人である。

アジア・ヨーロッパ・アフリカ・南北アメリカ洲の代表はそれぞれの洲の盟主国の首相が兼任している。

そして、藤堂が防衛軍司令長官時代からヤマトに、現在は日本の国立宇宙技術研究所に肩入れしているように、それぞれの閣僚も母なる国に、母なる民族に有意識・無意識のうちに便宜を図ってしまうものなのだ。

藤堂の場合はそれが結果的に地球を救う事に繋がっていたが……別の人が同じ事をしても、誰が利して誰が損するか、どのような結果に転ぶかは誰にもわからない。

少なくとも今この場において、誰かの利になると思って提案した軍縮条約案は日本に、国立宇宙科学研究所へ致命的なダメージを与えかねないものであった。

 

 

「この三年間、我々地球連邦政府は何においても先ず、防衛軍艦隊の再編を目指してきました」

 

 

軍縮条約案の発案者であるヨーロッパ洲代表、英国首相のエドワード・マグルーダーが、周囲に言い聞かせるようにゆっくりと口を開いた。

 

 

「持って回った言い方をしおって」

 

 

遠回しな前置きに、藤堂は苦虫を噛んだような顔でつぶやく。

藤堂は、この時期に軍縮条約案が提案された英国の思惑を既に察していた。

今日は連邦総会の年内最終日。今日の議会が閉じれば2週間の年始休暇に入る。

つまり、この場に居る多くの人物が徹夜になる事も翌日に延長する事も避けたいのだ。

そしてそれは、今日中に審議を終わらせ、採決に踏み切る可能性が高いことを意味している。

勿論、審議が結論付かなければ廃案になってしまうのだが……審議はあっさりと進んで今は提案者の最終演説。恐らくは事前工作が為されていたのだろう、そうでなければこんな博打めいた行動を起こすはずがない。

 

 

「ガミラス戦役の際には、我々は地球圏の経済復興を最優先しました。そのおかげで地球のリテラフォーミングを僅か2年で達成し、主要都市の復興と太陽系資源惑星への再進出を果たしました。しかし一方で、第一次環太陽系防衛力整備計画は設計の見直しもあり大幅に遅れ、結果としてガトランティス帝国襲来までに十分に戦力を揃える事が出来ませんでした」

 

 

そう言うと、マグルーダーは一度口を閉ざして会議に出席している面々を見まわした。

一見して聴衆の反応を見ているように思えるが、藤堂には裏工作をした人物への目配せをしているように思えた。

 

 

「この反省に基づき、地球防衛軍は防衛力の再建と市民生活の復興を最優先事項として同列に定め、先だって無人艦隊と環太陽系早期警戒網の再興を行い、次いで防衛艦隊を再建しました。この方針はディンギル帝国戦役以降も変わらず、現在に至っている事は皆さんが良くご存じのはずです」

 

 

頷きを以て同意を示す大統領以下の閣僚たち。その中には、藤堂が長官の時には副長官を勤めていた酒井忠雄現地球防衛軍司令長官もいる。

一方、マグルーダーを見つめる藤堂と真田の視線は厳しい。

藤堂は、条約案提出のタイミングについては推測がついたものの、イギリスが軍縮を提案する事そのものの真意を掴みかねていた。

 

 

「6月末に決定された第三次防衛計画は連邦傘下の各国で建造が順調に進んでおり、来年の5月には第三世代型主力戦艦級が141隻、再来年の2月にはアンドロメダⅢ級が40隻竣工する目算となっております。現状の防衛艦隊と合わせれば、アンドロメダⅠ級4隻、アンドロメダⅡ級7隻、アンドロメダⅢ級40隻、主力戦艦級は第一世代が21隻、第二世代が29隻、第三世代が141隻。戦闘空母は5隻、巡洋艦は第一世代が56隻、第二世代が47隻、第三世代が167隻。駆逐艦が三世代全部で344隻となっています。間違いありませんかな、酒井司令?」

 

 

話を振られた酒井長官は、ややしどろもどろになりながらも答えた。

 

 

「え、ええ。現在、地球本星防衛艦隊、内惑星防衛艦隊、冥王星防衛艦隊の復旧率は25%、太陽系外周艦隊は第2艦隊まで復活しております。しかし、第三次計画の艦が全て完成すれば、太陽系内の艦隊は50%、外周艦隊は第4艦隊まで回復します」

 

 

自分の求めていた発言を引き出したことに満足したのか、こころもちマグルーダー氏の口角が上がった。

マグルーダーは両手を大きく広げ、聴衆の注目を一手に集めて宣言した。

 

 

「最初に資料で示したように、新設計の戦艦を少数生産するよりも第三世代型の戦艦を大量に揃えた方が軍の運用能率、生産効率、そして民生への更なる投資額の面で非常にメリットがあります。地球連邦は可及的速やかに環太陽系防衛体制を完成させなければなりません。今、我々が必要としているのは、一匹のスズメバチではありません。百万のミツバチなのです!」

 

 

マグルーダーが演説を終えた刹那、北アメリカ洲代表、アメリカ合衆国大統領のブライアン・スタッフォードが両手を打ち始めた。続いて立ちあがったのは連邦財務相と外相。さらにはアフリカ代表までもが拍手を打ち始めた。

藤堂は、不愉快そうに片目を細めながら雑な拍手をするアジア代表のワン・ドーファイと、鼻白んだジェスチャーを漏らす酒井長官を視界に入れて全てを理解した。

 

 

(つまり、今回の軍縮条約はワシントン軍縮条約の焼き直しというわけか)

 

 

ヨーロッパ……というよりイギリスとアメリカは、半年前の審査委員会で中国が権謀を巡らせて主力戦艦級の座を射止めた事がよっぽど気に入らなかったのか。

手間をかけて反米・反英感情の強いアフリカを巻き込んで、ついでに白人で軍事に影響力を持つ連邦政府外相と財務相を味方につけて、中国が第四次計画でアンドロメダⅣの座を取らないように技術的停滞を生みだしたのだ。

ただ一つワシントン軍縮条約との違いは、保有排水量の制限が条約前から係っている点だろうか。

彼らの計画のあくどいところは、一見するとこの提案が防衛戦力再生と経済復興の効率化のための政策に見える事だ。ある意味「錦の御旗」を掲げているようなもので、真正面からNoを叩きつける事を躊躇させている。

 

 

「それでは、これを以て審議を終了とします」

 

 

地球連邦大統領が、拍手を抑えて最終的な採決を促す。

史上最も困難な時期の地球を統べた彼も、来年4月で任期を終える。来期も出馬するかどうかは分からないが、退職するにせよ続投するにせよ、ここらで業績が欲しいであろう。もしかしたら、イギリスとアメリカは彼なら裏工作しなくても賛成してくれると踏んでいるかもしれないと、藤堂は考えていた。

どちらにせよ、提案された時点で既に詰んでいた、というわけだ。

二人は最初から抵抗する手段を持ち合わせていなかった。

 

 

「ヨーロッパ洲代表のエドワード・マグルーダー氏が提案された軍縮条約案、賛成の方の起立を求めます」

 

 

応、との声と共に立ち上がる者。胡散臭さに顔をしかめつつも彼らが掲げる建前を否定しきれずに立ち上がる者。

既に引退してオブザーバーでしかない藤堂と、局長とはいえ技術屋にすぎない真田は投票権がない。

いや、例え彼らに投票権があったとしても、決して立ち上がらなかったであろう。

何故もっと早く気付かなかった、何故案の提出を許してしまったのか、という後悔が彼らの脳裏を渦巻いていて、採決どころではなかったのだから。

 

 

「満場一致と認めます。これを以て、軍縮条約案は、可決されました。以後、本案をヨコハマ軍縮条約と呼称いたします」

 

 

この瞬間、彼らの9ヶ月間の努力は水泡に帰した。




戦略ゲームで『デスラーの野望』とかでもいいなぁ。

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