宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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年末ですが、できる限り投稿して行こうと思います。


第二話

2206年4月1日21時20分 名古屋基地駅前居酒屋『リキ屋』

 

 

姉さん、事件です。

 

いま俺は、地球防衛軍の前長官と酒を飲んでいます。

 

親父、見てるか?

 

隣には、地球を何度も救った不朽の名艦、宇宙戦艦ヤマトの副長さまがいらっしゃるんだぜ?

 

母さん、信じられるか?

 

藤堂前長官とウチの所長は同郷の顔なじみで、真田局長は所長が宇宙戦士訓練学校で技術科の講師をしていた頃の生徒なんだそうだ。

 

何より信じられないのは、そんだけ人脈を持っている所長がなんで地球防衛軍じゃなくて一国家の研究機関で所長をやっているのかってことなんだけどな。

 

 

 

 

 

 

「どうしたぁ篠田、手が止まっているぞ! 若いもんが進んで酒を飲まんでどうする!」

「……はい。いただきます」

 

 

そんな篠田の少々現実逃避じみた心の声なぞ露知らず、飯沼所長は空になった彼の徳利に酒を満たす。うわばみな篠田だからこそ今まで問題にはなっていないが、やっていることは完全なパワハラである。

 

 

「飯沼君は変わらんな、またそうやって全員酔い潰すつもりか? しかし篠田君、君もこいつの部下なら鍛えられてるんだろう?まぁ飲め飲め」

 

 

同じく御猪口を持った藤堂前長官は、止めるどころか便乗してはす向かいの席から徳利を持った手を伸ばしてくる。

愛想笑いをしながら酒を受け取る篠田だが、本心では「こんな合成酒じゃなくてたまには天然もののいい酒を飲みてぇな」などと不満たらたらである。

酒を飲ませてくる事自体を問題視していない時点で、彼もたいがい変わっているのだが。

 

 

「お前も厄介な人を上司に持ったものだな」

「はぁ……、ご理解いただき、痛み入ります」

 

 

隣でマイペースに酒をちびちびとなめていた、真田局長だけが同情してくれる。

同情するだけで助けてはくれなかった。

 

藤堂と真田が一足先に差し向かいで飲んでいたため、飯沼と篠田は空いてる席に座ることになった。

従って、篠田の正面には飯沼、右斜め前には藤堂、右隣には真田がいることになる。

つまり、押しの強い二人が彼の前面に立ちはだかっているのだ。

歳も立場も一番低い篠田としては、小っこくなって勧められるがままに杯を乾かすほかなかった。

 

 

「それで局長殿、合流してから1時間経ちますがずっと飲んでばかりなんですが。今日は打合せと聞いていますが、大丈夫なんですか? 御二人はいい感じに出来上がっちゃっていますけど」 

「別に直接の上司じゃないから、真田でかまわない。あの二人は会うのは久方ぶりなんだそうだ、大目に見てやれ。それに、」

 

 

真田さんが苦笑いしながら御猪口を持った手で前を指さすと、

 

 

「だから、無人戦艦を設計したのは俺じゃないと言っておろうが! 聞かれたって答えられんわ、設計したイタリアか局長の真田に聞け!」

「真田にはさんざん言われておるわ! 『血が通っていない』だ、『戦闘マシーン』だと。だからその後の戦艦は有人に戻っておるではないか!」

 

 

いつしか二人は、先輩後輩の垣根を越えて喧々囂々の議論をしていた。さっきまで中学生時代の暴露話をしていたはずなのだが……どういう経緯で今の話題に至ったのか、全く想像がつかなかった。

 

 

「羽目を外しているように見えて、なんだかんだでお二人はもう打合せを始めているんだよ。はは、さすが同郷の友だけあって、息ぴったりだな」

「では、今回の打ち合わせというのは、無人戦艦に関することですか?」

 

 

二人の会話から艦内要員に関することかと思って予想してみたが、真田さんはゆっくりと首を振った。

 

 

「いや、3年後から始まる環太陽系防衛力整備計画についてだ」

「それって地球連邦の重大政策じゃないですか。こんな防諜設備ゼロの居酒屋で話していいこと……というよりも、私がこの場に居合わせてよろしいのですか?」

 

 

真田さんはくいっと御猪口を呷って空にすると、まっすぐな視線で俺を射抜いた。

歴戦の戦士だけが持つ鋭い眼光に、篠田は酔いも忘れて緊張する。

 

 

「この場に呼ばれたということは、きっと所長はこの計画にお前が役に立つと判断したんだろう。ならば俺がどうこう言う必要はないさ。篠田といったな、お前最近何かやっているのか?」

 

 

最近やっている何か、というと、やはり自主残業のことだろうか。

確かに、最近は就業時間後に資料室に籠る日が続いている。もっとも、自分がやっているのはあくまで興味本位であって、それほどきちんとしたものではないのだが。

 

 

「そうだ篠田。お前が今残業してやっていることを説明してやれぇ」

 

 

このような場所で話していいのか躊躇ったが、そろそろ呂律が怪しくなってきた飯沼所長に促されて、篠田は躊躇いがちに口を開いた。

 

 

「所長が仰るなら申し上げますが……。個人的な興味ではありますが、防衛軍史料室から映像資料をお借りして、現用宇宙艦艇の艦体構造上の問題点を運用実態の面から検証しております」

「ほう、ガミラス戦役から対ディンギル戦までか。ヤマトの映像もか?」

「個人的興味でよくも史料室が貸し出してくれたな」

 

 

真田さんと藤堂前長官の疑問に、篠田は苦笑いして答える。

 

 

「そこは、所長が手を回してくださいましたので。今は主にヤマトの戦闘記録と、過去に行われた艦隊戦の記録を比較検討しております」

 

 

二人は顔を見合わせ、何かに納得したように頷いた。

 

 

「―――そうか。技術士官の目から見て、何か面白いことが分かったかな?」

「ヤマトの戦闘は基本的に一対多数のものであり艦隊決戦とは一概に比較しづらいのですが、私見ながらいくつか興味深いことが分かりました。しかし所長、それが環太陽系防衛力整備計画とどう関係するのですか?」

「篠田、そこは俺から説明しよう」

 

 

真田さんは一段声を低くした。

 

 

「ディンギル帝国との決戦で破れて以降、連邦政府が地球防衛艦隊の再建を急いでいることは、お前も設計畑の人間なら知っているだろう。現在進行中の、第三次環太陽系防衛力整備計画だ。現在、殆どの艦種の選考が終わって残るは第三次選考中の戦艦のみとなっている。中国が設計した案が主力艦級、オーストラリアがアンドロメダⅢ級の最有力候補となっているな。

問題は、3年後に始まる第四次整備計画で、どういったフネが採用されるかだ。建造が始まるのは6年後だが、艦の設計自体は計画がスタートするのと同時に行われる。そこまではいいか?」

 

 

篠田は黙って頷いた。

ガミラス戦役以降、地球連邦は数年おきに整備計画を更新し、それに基づいて世界各国は宇宙船を建造する形式を採っている。

ガミラス戦役までは各国が独自の基準で宇宙船を造っていたため混成艦隊を組む事が難しく、各国ごとに艦隊を編成せざるを得なかった。準同型艦で艦隊を編成するガミラスに太刀打ちできなかったのである。

 

第一次計画は戦況が急速に悪化した2197年に始まる。

当初は、戦時急増型の単一艦種を大量建造することによりコストを抑えつつ短期間で数を揃えることを主眼としていたが、イスカンダルから波動エンジンがもたらされたことで急遽、波動砲による大艦巨砲主義の思想を強めた設計に変更された。

この変更による時間の浪費が災いして、設計が終了する頃にはヤマトが太陽系からガミラスを一掃してしまっていたのだった。

第一次計画によって再編された地球防衛艦隊は、白色彗星帝国の襲来に際して勃発した土星決戦で艦隊を全滅させるという大金星を挙げた。

しかし、要塞都市の攻撃に敗れ、防衛艦隊は壊滅してしまう。

 

主力艦隊の喪失によって丸裸になった太陽系防衛線を早急に回復させたのが、ヤマトが帰還した直後に始まる第二次整備計画である。

第二次計画のコンセプトは「画一性と多様性の両立」であり、単一種の建造による大量生産と並行して、艦隊運動に必要な最低限の規格以外は各国の設計思想を反映させた個性的な艦の建造を認めた。

これによって様々な特徴を持つ宇宙戦艦がその性能を競うことで、軍事技術の向上を図ったである。

 

また、艦隊再編までの繋ぎとして、先行して無人戦艦の大量建造が行われた。

これは第一次整備計画の延長線上にあるもので、コンセプトはコストとリスクの削減、そして建造から運用までの徹底的効率化にあった。

もっとも、遠隔操作ゆえの弱点を暗黒星団帝国に突かれて壊滅してしまったのだが。

 

その間にようやく再編成った地球防衛艦隊も、アクエリアス接近に際して勃発したディンギル帝国との艦隊決戦において、ハイパー放射ミサイルと小ワープを巧みに組み合わせたディンギル艦隊の攻撃に防衛軍艦隊は成す術もなく三度全滅してしまう。

 

現在進行中の第三次整備計画は、三度に渡って壊滅した防衛軍の太陽系防衛ラインを復旧するために、急ピッチで行われている。

計画自体は2201年から始まっていたのだが、暗黒星団帝国とディンギル帝国の地球本土攻撃によって一度頓挫し、昨年になって一からやり直す形で再開されたのだ。

ちなみに日本案は、艦載機は2回連続で採用されているものの軍艦については悉く早い段階で選考落ちして、僅かに補助艦艇が数種類採用されたにとどまっている。

 

 

「第四次整備計画では、何としても日本が設計した艦を通す必要がある。幸いにも、日本案が早々に落ちたおかげで我らには十分な時間がある。今の内に十分な検討を重ねて、第四次整備計画には万全の態勢で臨む必要があるんだ。今日は、そのための打合わせなんだ」

「そこで、話をするのにお前がやってることが役に立つんじゃないかと思ってな。本当はもっと話が進んでからお前を使うつもりだったんだが、たまたま今日居合わせたから、折角だからということでこの場に連れてきたというわけだ。分かったかぁ、篠田」

「―――え、ええまぁ。一応は」

 

 

おぼろげながらも、話の全体像が見えてくる。

所長が言っていた「大きな仕事」とは、第四次整備計画に向けて今から軍艦の設計を始めるということだったのか。

 

 

「しかし、日本案を押してくださるのは当事者の身としてはありがたいのですが、地球連邦に直属しているお二人が日本を贔屓するのはいろいろとまずいのではないですか?」

「かまわん。どうせ今の委員会なんぞ国家間対立の縮図に過ぎん。3度の宇宙戦争と80億以上の犠牲者を出してもまだ懲りぬ馬鹿どものな。篠田、貴様は戦闘の映像を見たのであろう。艦の設計に携わる者として、従来の宇宙戦闘艦は過去の宇宙戦闘の教訓を生かした設計と言えるか?」

「それは……」

 

おもわず言葉が詰まる。

前長官の言うとおり、地球連邦の艦は決して宇宙戦闘に適した構造をしていない。

量産された艦は特に、だ。

ヤマトがその生涯を殆ど単艦行動で過ごしながら数々の功績を残したのに対して、連邦が量産した主力戦艦級やアンドロメダ級はあまりいい成績を残していない。

むしろやられ役と言っていいほどの有様である。

土方司令のような名将が指揮すれば戦術次第では土星決戦のような勝利もあるのだが、基本的には圧倒的という程の大敗を喫している。

これはもはや、指揮官の戦術どうこうだけでは解決できない致命的な問題点があるのではないか、と思う。

 

そして、何より一番の問題は、3度の大規模宇宙戦争を経た現在でも解決どころか問題視すらされていないということなのだ。

ガミラスも暗黒星団帝国もディンギル星団帝国も地球連邦に比べて圧倒的過ぎて、戦訓もへったくれもないということなのかもしれないが。

 

 

「藤堂さんも飯沼さんも、現在の流行に危惧を抱いている。俺もそうだ。科学局局長としても、一技官としても、実戦を経験した一宇宙戦士としてもな。だから第四次整備計画では、なんとしても過去の戦訓を正しく生かしたフネを造る必要がある」

「その受け皿が、顔馴染みの伝手がある日本というわけですか」

「勿論それもあるが、ヤマトを造った技術と経験が必要不可欠だ。私は、日本の建艦思想が一番正解に近いと確信しているのだ。武勲艦ヤマトという実例もあることだしな」

「話をまとめるとだなぁ。正しいフネを造るには、過去の戦訓をフネの設計に正しぃく反映させることが出来る技術者が必要ということだ。つまり、真田や俺ぇ、そしてお前のことだ。だかぁら、こーして真田と藤堂と酒を飲んでるわけだ。分かったかぁ、篠田」

「「「…………」」」

 

 

数瞬、唖然とした顔が3つ並ぶ。

またしても人の話をぶった切って所長が話を締めてしまった。

上手くまとめたつもりなのだろうが、「酒を飲んでいる」と言ってしまっている時点で色々と台無しである。

ああ、前長官も真田さんも口をあんぐりと開けてしまっているではないか。

 

 

「藤堂さん、少々飯沼さんに酒を飲ませすぎたのでは……?」

 

 

真田さんが、若干引き気味で藤堂さんに尋ねた。

 

 

「う、うむ。何せ久しぶりだったからの。忘れておったわ、こいつのたちの悪いところは、酔うと喋り上戸になるところだったわい……」

 

 

同じ量を飲んでいたはずの前長官は顔を少々赤らめただけだった。まさかこの人、相当な飲兵衛なのか。

 

 

「もしかして、もはやまともに打合せができないって状況ですか、これは」

「やって出来ないことはないだろうが、飯沼さんは覚えていないだろうな。次回は酒の無い場所でやりましょう。よろしいですね、藤堂さん」

「ああ、致し方ない。とりあえず、今日はこのままただの飲み会にしてしまうか」

「おうよ藤堂、今日は朝まで飲むぞぉ!」

「……まだ飲むんですか、藤堂さん、飯沼さん」

「泥酔した所長を介抱するのは私なんですが……。結局、私は何をすればいいんですかね?」

 

 

その後、途中で寝てしまった所長を除いた三人は本来の議題を忘れて深夜まで酒盛り三昧だった。

 

 

 

 

 

 

翌日。

気の早い鶏が鳴き始めた4時頃に帰宅した篠田はそのままベッドに倒れ込み。

頭痛と寒さに目が覚めたときには8時を過ぎていた。

 

 

「お、はよう、ございます……」

「おはよう……ってお前も二日酔いか?」

 

 

頭痛を堪えてなんとか遅刻ギリギリの時間に出社した篠田を見るなり、同僚の小川忠義が彼の昨日の動向を看破した。

開け放ったドアの前で息を切らす篠田の姿は髪がボサボサに乱れ、丸一日剃られていない髭は自己主張を始めている。シワシワの作業着に同じネクタイであることを考慮すれば、彼が徹夜で飲んでいたであろうことは丸分かりだった。

小川に気を使われながら会議室に入ると、手近の席にどっかりと座りこんだ。

 

 

「あー頭痛ぇ……仕事したくねぇ~~」

「ザルなお前が二日酔いって言うのは珍しいな」

「……というより、気疲れかな。家に帰って来てから一気に酔いが回った感じだよ」

「なんだか良く知らんがお疲れさん、と言っておけばいいのか?」

「ああ、ありがと……所長が来るまで寝かせてくれ」

 

 

そう言うなり突っ伏す篠田に、小川が意外そうな顔を向ける。「ああ、お前はまだ聞いてないのか」と呟きながら一人納得すると、何気なく言った。

 

 

「今日は所長、欠勤だぞ」

「…………何だって?」

「さっき奥さんから電話があったらしいぞ?昨日は一晩中飲んで、二日酔いなんだとさ。朝礼は宗形さんが代わりにやるって」

「……あの、くそ親父め」

 

 

人に飲ませるだけ飲ませて、自分だけズル休みしおって。

憎々しそうに呻いたきり、篠田はピクリとも動かなくなった。




早くも原作キャラ登場。しかし、肝心の宇宙人と宇宙戦艦は当分出てきません。

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