宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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お待たせしました、ようやく対艦戦闘です。
竣工前に戦闘をするのは、ヤマトのお約束ですよね?


第六話

2207年 10月5日 12時25分 冥王星周回軌道上 『ニュージャージー』第一艦橋

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト2199』より《絶体絶命》】

 

 

「ワープアウト反応多数!本艦進行方向より方位314度、距離45000宇宙キロ!」

「やはり来たか。総員戦闘配置!」

 

 

レーダー班のクレア・G・ローレイターが焦りを含んだ声で叫ぶが、十分想定されていた敵の出現に、エドワード艦長は落ち着いて対応した。

戦闘班長を勤めるベテラン宇宙戦士、アンソニー・マーチンは艦長の命令を待たずに警報スイッチに手を伸ばしている。

 

 

「クレア、艦種、艦数、所属、すぐに調べろ。カレン、君は冥王星基地と『シナノ』に常時送信し続けるんだ」

 

 

通信班長のカレン・ホワイトが警報に負けない大音声で返事する。

 

 

「既にやってます!」

「スティーブン、本艦と『シナノ』の位置は?」

「『シナノ』は現在本艦進行方向より169度、50宇宙キロ。内火艇はまだ正体不明艦の上空です」

 

 

エドワードは彼我の位置関係を脳裏に描く。

ワープアウトしてきた複数の艦と『ニュージャージー』、『シナノ』と正体不明艦がほぼ一直線に並んでいる。幸運にも、本艦は『シナノ』や正体不明艦を敵性艦隊の攻撃から守る位置にいるようだ。

この位置を移動しなければ、『シナノ』が内火艇を収容する時間を稼げるだろう。

 

 

「よし、左舷回頭90度。敵性艦隊をひきつける。お披露目前の艦だ、乙女のやわ肌を傷つけるんじゃないぞ!?」

「アイアイ、キャプテン!」

 

 

艦首右舷に光が点ると眼前の星空が右方向へと流れ、艦が旋回する。

80度ほどまで回頭したところで今度は艦首左舷が煌めき、90度でぴたりと旋回は終了した。敵艦隊の右舷側へ艦首を向ける格好だ。

 

 

「艦長、敵性艦隊の詳細、出ました! 所属は……ガトランティス帝国です!」

「ガトランティスだと!?」

 

 

ガトランティス帝国――通称白色彗星帝国といえば、2201年に太陽系を次々と侵略し、ついには地球に降り立って降伏勧告を突きつけてきた星間国家だ。

全宇宙の支配などという誇大妄想じみた野望を実現するために各所に軍を派遣し、太陽系には自ら都市帝国に座乗してやってきたズウォーダー大帝という傲岸不遜な男。

彗星帝国撃退後、太陽系内に潜伏している残存艦隊の掃討作戦が行われたが、生き残った部隊がいたとでもいうのだろうか。

 

 

「敵の編成は大戦艦4、高速中型空母2、ミサイル艦2、駆逐艦8。……わりと小規模な艦隊ですね。一隻で相手できる規模でもありませんが」

 

 

いや、それならば正体不明艦を追いかけてワープアウトしてくるのもおかしい話だ。

すると、この艦隊は別方面に派遣されていた軍に所属しているのか?

それとも、地球の勢力圏外で海賊行為をしていたのだろうか?

いずれにせよ、太陽系外に張り巡らされた防衛軍の哨戒網に引っかからなかったとなると、かなりの超長距離ワープだ。まだまだ、我々の知らない太陽系の外側には血なまぐさい戦場が満ち溢れている。

 

 

「艦長、既に対艦ミサイルの射程内です。いかがいたしますか?」

「待て、ミサイルだけでは心もとない。この際、主砲の射程まで進出しよう。砲雷撃戦用意」

「了解、交戦開始距離は31000宇宙キロに設定します」

 

 

悲観はしていないし、勝てないとも思っていない。

後の調査で艦艇の性能は地球防衛軍とほぼ互角であることが分かっているが、こちらの衝撃砲の方が敵のそれよりも若干射程が長い。速射性能では敵の回転速射砲塔の方が圧倒的に有利だが、アウトレンジから大戦艦に火力を集中させて速攻で撃沈させることができれば、戦況は一気にこちらに傾くはずだ。

 

 

「敵艦隊より通信が入っています!」

「何? メインパネルに映せ。」

 

 

エドワードは眉をひそめてその意図を訝しむ。

ガトランティス帝国の艦と聞いてこちらは既に敵艦隊だと断定しているのだが、彼らはそうでないということなのか。

好戦的で、基本的に異星人を支配と搾取の対象としか見ていない彼らが、地球人と何か対等な交渉をしてくるとも思えない。

それとも、よっぽどの理由があるのだろうか?

 

開かれる敵艦との回線。

画面いっぱいに映ったのは、暗めの緑色の肌をした、禿頭の髭男だった。

太いこげ茶の眉に、同じ色をした顎髭が揉み上げと繋がっている。

小鼻から口元までの間に刻まれた深い皺。

軍人とは思えない、腹に脂肪がたっぷりとつまった肢体。

地球人に換算すれば、50代か60代だろうか?

 

 

「ガトランティス帝国さんかく座銀河方面軍第19・19遊動機動艦隊司令官、オリザーだ。貴様らが保護しているそこの船を即刻引き渡してもらおう」

 

 

自動翻訳機を通して、エコーのかかった尊大な声が聞こえてくる。

 

 

「地球防衛軍宇宙空母『ニュージャージー』艦長、エドワード・デイヴィス・ムーアだ。いきなり随分と高圧的な態度だな。そう上から目線では、引き渡すものも引き渡したくなくなるというものだ。物事を頼むにはそれ相応の態度が必要であろうに」

 

 

いきなりの喧嘩腰な返答に皆がぎょっとして振り返っているが、かまうものか。

 

 

「ほう……。つまりそれは、我々の要求を拒否していると受け取るがよろしいかね?」

「どう受け取ろうと勝手だが、その前に聞かせてもらおう。君達はどこから来た? 我々が保護している艦はどこの国のものだ?」

「ふん、あの船がどこのものだろうと貴様には関係なかろう。だが、我々の名前は覚えておけ。我々は、全宇宙を支配するズォーダー大帝が統治なさる国、ガトランティス帝国だ」

 

 

こちらの質問を一切聞かず、自分の名だけを喧伝する不遜な態度。

どうやらこいつら、自分の仕えるべき相手が既にこの世から消滅していることに気付いていないらしい。

そういえば先ほど、この男は「さんかく座銀河方面軍第19・19遊動機動艦隊司令官」と名乗っていた。

自動翻訳機が間違っていなければ、こいつは「司令官」とはいえども随分と枝分かれした下っ端の方の役職という事になる。

まさか、ズウォーダーが巨大戦艦ごと消滅したのを知らないのか?

情報を聞き出すために、もう少し茶番を続けてやることにした。

 

 

「ガトランティス帝国、か。覚えておこう。あの艦を引き渡すことは、別に構わない。こちらとしても星間戦争に巻き込まれるのは勘弁でな、早々に御引き取り頂く分には一向に問題ない」

 

 

こちらが引き渡しをあっさりと了承したことに気を良くしたのか、オリザーは勝ち誇ったかのように見下したような視線を下す。

 

 

「ならばすぐにその艦を離れてどこなりとも消えたまえ。こちらとしても任務地から遥か離れたこんな僻地でいつまでも時間を潰している暇はない。今ここで引き渡すならば、我々もこのまま立ち去ろう」

「……」

 

 

どうにも怪しい。

16隻もの軍艦を率いるガトランティス帝国の軍人が、たかだか1隻の傷ついた艦とその周囲にまとわりついた2隻の軍艦を相手に、強硬手段に出ずに対話で済まそうとしている事が不自然でならない。

機嫌次第で破滅ミサイルを放って惑星一つ破壊してしまう彼らの所業とは思えない。

よほど、正体不明艦を無傷で手に入れたいのか?

手元のディスプレイに視線を一瞬だけ見やり、ありえないと断言する。

破口から噴きでた煙は既に艦の後部を完全に包み込み、尾羽は完全に見えなくなっている。

臨検隊の報告では機関部で爆発が発生し、爆沈は時間の問題だそうだ。

鹵獲したいのなら、いくらなんでも徹底的に痛めつけ過ぎではないか?

 

 

「そうしたいのは山々だが、こちらとしても上司に報告しなければならない身でね。せめてあの船の艦名と所属する星だけでも教えてくれまいか? そうすれば、我々はすぐにこの宙域から離れよう」

 

 

とにかく、今は交渉で時間を稼ぐ。

万が一戦闘になったら、臨検隊が生存者を救出して『シナノ』に戻るまで『ニュージャージー』が敵の攻撃を吸収する。

そのときは、『シナノ』の参戦を待つ必要もない、堂々と正面からぶつかって撃破してやる。

と、こちらの煮え切らない態度にオリザーがついに激昂した。

 

 

「ええいしつこい! 貴様、いいからすぐにそこをどけ! さっさと戦艦『スターシャ』をこちらに引き渡さんか! さもないと、実力行使に出るぞ!」

 

 

瞬間、エドワードの思考は停止した。

 

 

「……いま、『スターシャ』と言ったか?」

 

 

第一艦橋の誰もが、驚愕の表情でメインパネルを見上げる。

はるか遠く、14万8000光年の大マゼラン星雲から地球に救いの手を差し伸べてくれた女性。

星の資源が戦争に使われるのを嫌い、最後は自爆して星に殉じた女王。

地球人類が今生きていられるのも、全ては彼女あってこそのものだ。

地球人ならば誰もが知っている、感謝しても感謝しきれない存在。

まさか、ガトランティス帝国人から「スターシャ」の言葉が出てくるとは思わなかった。

 

そして、その名前を冠する艦を、こいつらはあれほどまでに痛めつけてくれたのか。

頭の中を巡っていた「交渉」とか「時間稼ぎ」とか、みみっちい考えが全部吹き飛ぶ。

心が鉄のように冷え込み、頭の中に拳銃の撃鉄のイメージが浮かび上がる。

 

 

「もう一度お尋ねする。戦艦『スターシャ』はどこの星の所属だ? イスカンダルではないのか?鹵獲してどうするつもりだ?」

 

 

語気が強まるのが自分でもわかる。

眉間に皺が寄り、体中の気が逆立つような幻覚。

シリンダーが回転してリボルバー式拳銃の撃鉄が下ろされ、ガチリと硬い音を鳴らすイメージが脳内に浮かぶ。

彼我の距離は32190宇宙キロ。少々遠いが、牙を剥くにはそろそろ頃合いだ。

 

 

「イスカンダル? そんな変な名前の星なぞ知らんな。貴様らのような未開地の星が知っている星だ、さぞかししょぼくれた星なのだろうな」

「…………もういい。カレン、回線を切れ。主君がとっくに死んでいる事にも気付いていないド阿呆と話すことなど、もうない」

 

 

こいつの戯言をこのまま聞いていたら、頭に血が上って血管がブチ切れそうだ。

尊大な態度が崩れて眼を剥いたオリザーがなにか言いきる前に、ディスプレイから消え去る。

 

 

「針路そのまま、速力33宇宙ノット。目標、敵大戦艦。主砲が射程に入り次第、攻撃開始!」

 

 

頭にイメージされたトリガーを引く。撃鉄を叩かれた心は、もはや敵を叩きのめすことしか考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

12時30分 冥王星周回軌道上 『シナノ』航空指揮所

 

 

惰性に任せてゆっくりと進む正体不明艦―――オリザーとムーアの会話から艦名が『スターシャ』と判明している―――に付き添って微速で同行していた『シナノ』のクル―は、突然の状況の変化に困惑した。

 

 

『《ニュージャージー》増速! 攻撃を開始しました!!』

「なんだと?馬鹿な、こっちはまだ内火艇の収容が済んでないんだぞ!?」

 

 

航空指揮所に詰めていた恭介は、スピーカーから飛び出た報告に驚愕する。

異変の前まで恭介はワープアウト後の艦内チェックを行っていたが、航空科のクルーがいまだ配属されていないため臨時に生活班、技術班が艇の発進・収容を担当していたのだ。

 

 

「篠田、今はそんな事言ってる場合じゃない! 内火艇がもうすぐ飛行甲板に来るぞ!」

 

 

えらの張った顔に冷や汗を浮かべながら遊佐が叫ぶ。

 

 

「どうすんだよ! 造った俺が言うのもなんだけど、着艦誘導の仕方なんて知らねぇぞ!」

 

 

恭介も八つ当たり気味に怒鳴り返す。

 

 

「僕だって知らないよ! 向こうが勝手に着艦してくれるんじゃないの!? とにかく僕らはエレベーターで下層飛行甲板に下ろせばいいんだよ!」

 

 

いきなり下された命令に焦って余裕がないのは、左隣の席に座る武谷も同様だ。

 

 

「あ――くそ、こんなことになるんだったら着艦甲板を下にすれば良かった!」

 

 

半年前の自分を呪いながらも、手と目は止まらない。

左方、すなわち艦の右舷側からゆっくりと視界に入ってきた内火艇を見ながら左手に抱え込んだマニュアルに視線を落とし、おっかなびっくりで機器を操作して水平指示灯を点ける。

眼前で停止した内火艇が左右のスラスターを噴いて方向転換し、航空指揮所に正対する。

 

 

「航空指揮所より内火艇、甲板への着艦を許可する。既に戦闘が始まっている、急いでくれ」

「内火艇より航空指揮所、着陸許可了解、これより接近する」

 

 

再びスラスターを噴いた内火艇が、『シナノ』の人口重力に任せて高度を徐徐に下げながら前進して、飛行甲板へ接近する。

艦の右舷側が時折光に染まる。

敵弾が『ニュージャージー』に命中したものなのか、或いは敵艦に命中したものなのか、ここからでは判断がつかない。しかし、その瞬きがひとつ起こるたびに、多くの命が散華していることだけは確かだ。

 

飛行甲板の中心線上、航空指揮所直下に設置されたエレベーターの枠内に、内火艇が慎重に着艦する。

目測でタイヤが接地したとみるや、艇が落ち着くのを待たずに遊佐がエレベーターの降下スイッチを押してしまう。

前触れなく床が降りていった所為で内火艇はバウンドしたように一瞬浮き上がってしまうが、すぐに人口重力に引かれてエレベーターに改めて圧し掛かる。

 

 

『バカヤロー! 着艦しきってないのにエレベーター降ろす奴があるか!』

「緊急事態なんです、我慢してください!」

『こっちは負傷者に異星人がいるんだ! 丁寧に扱いやがれ!』

「すみません! 下層甲板に医療班が既に待機しています!」

『了解!通信終了!』

 

 

遊佐と内火艇が怒声まじりの交信をする間にも、閃光が宇宙空間を駆け抜ける。

すぐ側で起こっている実戦を初めて目の当たりにして、三人とも異様な興奮状態にあった。

それは自身と『シナノ』の初陣ゆえの興奮か、安全な位置から戦争の雰囲気を感じているという無意識の観戦気分ゆえの奇妙な安心感ゆえか、本人たちにも分からなかった。

 

 

『徳田より航空指揮所へ! エレベーターを上げて空気を充填しろ!』

「あとは俺がやっておく、二人は元の持ち場に戻れ! どうせこの艦も戦闘に参加するだろう、ダメコンに備えろ!」

 

 

遊佐に頷きだけを返し、武谷と恭介は走り出す。

機関室で爆発を起こして以来、『スターシャ』ではあちこちで小規模な爆発を起こしてただでさえ遅い歩みが千鳥足の体を為している。

艦首はひっきりなしに上下左右に振られ、艦体が横転しそうになると図ったかのように反対側で爆発が起こり、反動で傾斜が復元される。

艦内の火薬・弾薬が転げまわってあちこちで爆発を起こしているのか、それとも艦側に貯蔵されている燃料が誘爆しているのか。

いずれにせよ、漂没しつつある『スターシャ』がその身を散華するのはそう遠くない。

 

そのあと『シナノ』がどういった行動をとるべきかなど、考えなくてもわかる。

単艦で白色彗星帝国艦隊を相手に丁々発止の戦いを繰り広げている『ニュージャージー』を救援すべく、光線飛び交う戦場に飛び込むのだ。

本来ならば収容した異星人の安全を図るべく戦場から撤退すべきだろうが、本艦を守って戦ってくれている『ニュージャージー』を見捨てていく芹沢艦長ではないだろう。

 

 

『艦長より、全艦に達する』

 

 

予想通り、艦内のスピーカーから芹沢艦長の声が飛び出る。

 

 

『これより本艦は、《ニュージャージー》を救援すべく敵艦隊と戦闘状態に入る。実弾兵器の残量が少ないため、衝撃砲による撃ち合いとなるだろう。初めての実戦ではあるが、諸君らの奮励努力に期待する』

 

 

エレベーターで階下へ下り、オートウォークを全力ダッシュ。目指すは、艦中央の技術班用兵員待機室だ。

 

 

「ちくしょう、初陣でいきなりインファイトかよ! あの艦長、艦へのダメージとか考えてないのか!? 『ニュージャージー』の艦長のことを悪く言えないな、全く!」

 

 

廊下を遮蔽する自動ドアを次々とくぐり抜けながら、恭介は大声で愚痴る。

並走する武谷も苦笑いで応じる。

 

 

「さぁね、この船をヤマトと勘違いしてるんじゃないの?」

「艦載機のない空母2隻で艦隊相手に砲撃戦とかやるんじゃねーよ! 俺は丸裸で突攻する前提で『シナノ』を造ってないぞ! 沈んだらどうする!?」

「そうかい? 僕はこの船を信じるよ! 親が子供を信頼するのは当然のことだろう?」

「そうか? 俺は、子供の初めてのお使いに不動産物件の購入を頼む母親の気分だよ!」

「……それはまた、分かるような分からないような例えだねぇ」

 

 

そうこうしているうちに、技術班用兵員待機室に到着。

自動ドアを開けると、藤本技術班長と遊佐を除く技術班18名が既に宇宙服を着用して待機していた。

 

 

「遅い、何やってんのよ」

 

 

腕を組んで副班長の冨士野シズカに冷たい視線で睨まれた。

 

 

「班長の指示で、航空指揮所で内火艇収容に当たっておりました!」

 

 

疑いの視線でジッと睨まれる。

第一艦橋と工作室を往復する機会が多い藤本技師長に替わって、実質的に技術班をシメているのがこの女、冨士野シズカだ。

切れ長の目と小ぶりで鼻筋の通った、キレイ系美人。

細く整えられた眉は、少々凛々しさを感じさせるものがある。

髪はセミロングに伸びたサンディブロンド。

胸は控えめだががっかりするサイズという程でもなく。引き締まったウェストやヒップと総合的に判断すれば、スレンダーという評価を与えることが出来るだろう。

女性乗組員は生活班で炊事科や医療科に配属されることが多いが、22歳ながら技術班の副班長に抜擢された。

ヤマトが第二の地球探しに旅立ったときにいっとき乗艦していたらしく、同じ構造の『シナノ』の艦内構造には既に俺や武谷と同じくらいまでには精通している。

いわゆる容姿端麗、才色兼備ってやつだ。

 

それだけならいいのだが、彼女はどうにも男連中への風当たりが強い印象を受ける。激昂する訳でもなく見下す訳でもないのだが、ただそっけないというか、男を空気としか思っていないのか。

それゆえ、男性クル―からは羨望半分敬遠半分に見られているのだ。

 

 

「……そう、ならいいわ。早く自分の工具を持って席に着きなさい。もう戦闘は始まってるのよ?」

 

 

目を細めて真偽をはかっていた冨士野だったが、ため息をついて自席に戻っていった。

徳田に呼ばれて恭介が顔を向けると、ヘルメットを投げ渡される。

ヘルメットをかぶって手袋をつけて完全防備。定位置になっている徳田の隣の席に座る。

バイザー越しの徳田の顔が、からかいがいのある玩具を見つけたと言わんばかりにやけた。

 

 

「さっそく睨まれたな。ご愁傷さまなことで」

「この先、あんな緊張感に満ちた日々が続くかと思うと、涙が出るほど嬉しいッス」

 

 

戦闘の前に心が折れそうだった。

 

 

 

 

 

 

12時32分 冥王星周回軌道上 白色彗星帝国さんかく座銀河方面軍第19・19遊動機動艦隊旗艦 大戦艦『オルバー』第一艦橋

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト2』より《出現と進撃》】

 

 

「『ザーランド』に攻撃が集中しています! さらに被害が拡大中!」

「おのれ……! 全艦全速前進、駆逐艦を4隻ずつに分け、半分を『スターシャ』攻撃に向かわせろ! 残りは右方に展開して大戦艦部隊の援護だ! 艦載機の発進を急げ!」

「敵艦、ミサイル第六波発射! 数は18!」

「対空防御! 全砲門を使って確実に撃ち落とせ!」

 

 

息つく間もなく艦と艦隊に指示を出す。

話がまとまりかけていたところに突如として始まった戦闘にオリザーは動揺しながらも、指揮官として懸命に対処していた。

 

 

「未開人はこれだから……! たかが一隻、全方位から包囲して徹底的に痛めつけてやれ!」

 

 

部下を鼓舞するように煽り文句を叫ぶが、内心では彼は焦っている。

艦隊決戦で勝利を受けた我がさんかく座銀河方面軍は、単艦戦場を離脱した戦艦『スターシャ』を追撃、或いは捕獲すべく、第19遊動機動艦隊の残存艦から損傷が少ない艦を選出して追撃部隊を編成した。

ワープの痕跡から『スターシャ』の逃走方向を割り出し、幾度も捕捉しては攻撃を加えたのだが、『スターシャ』はその度にこちらの追撃を振り切る為にワープを繰り返した。

 

幾度にも渡る追撃戦で、相手を大破に追い込むことには成功したが、こちらも艦載機の燃料とミサイル艦の主兵器たるミサイルの備蓄が底をついてしまった。

普段ならば手頃な資源惑星に2・3日逗留して、燃料やミサイルの材料を採掘してミサイル艦の中でミサイルの生産をするところだが、追撃戦の最中にのんびり補給をする訳にもいかない。

 

したがって、艦載機は攻撃機しか出撃する事は叶わない。

ミサイル艦には破滅ミサイルが搭載されていないばかりでなく、通常のミサイルも2斉射分しか残されていない。いくら砲塔が装備されているとはいえ、大戦艦や駆逐艦に比べたら、如何にも貧弱だ。

 

幸いなことにガトランティス帝国の軍艦はみな短期決戦を想定して、艦のサイズに見合わない過剰な数の武装をしている。

たかだか戦艦の一隻や二隻、ミサイル艦が参加しなくとも勝利は揺るがないだろう。

しかし、度重なる戦闘による疲労に加えて物資の不足。

やはり、兵たちの士気も落ちている。

加えて、あの未開人が言い放った、聞き捨てならない言葉。

 

 

《主君がとっくに死んでいる》

 

 

あの言葉が兵達に動揺を与えているだろうことは想像に難くない。

 

 

「この戦闘が最後だ! 『スターシャ』はもはや沈没寸前だ、とっととあの2隻も沈めて、母星に凱旋するぞ!」

 

 

士気の低さは戦闘の勝敗にも大きく影響する。

最後の決戦であることを強調して、反応が鈍くなりがちな部下を奮い立たせた。

 

 

「司令! 本艦および『ザーラント』、現在敵との距離27890宇宙キロ、主砲の射程に入りました!」

「よし、回転速射砲、発射始め!」

 

 

敵が放つ青白いショックカノンの何倍もの数のレーザーが、鮮やかな黄緑色に発光しながら一直線に撃ち出される。

敵に先手こそ取られたものの、戦闘の行方はこれからだった。




本編に登場する戦艦『スターシャ』とは、企画倒れになったデスラーが主人公の作品『デスラーズ・ウォー』に登場する予定だった船です。
小林誠作品集『Hyper Weapon』シリーズに度々登場しているので、ぜひ一度ご覧ください。

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