宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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戦記小説を書いている小説家の方々ってすごいなぁ、とおもう今日この頃。
毎回違う戦闘描写を書くのって大変だよね。


第十八話

天の川銀河辺縁部 ガトランティス帝国旧テレザート星宙域ラルバン星上空

 

 

『いいか野郎共!いつでも出られるように準備しておけ! 出遅れた奴、先走った奴は後で全員に一杯のペナルティだ!』

 

 

デスバテーター551機を統率する攻撃隊総指揮官が、発破をかける。

出撃後アステロイド帯に待機していた攻撃機隊は皆、歯噛みして移り行く戦況をずっと見つめていた。

圧倒的な数で唸りを挙げて襲いかかる敵攻撃機隊。

次々と撃破されて散っていく味方の戦闘機達。

濛々と煙を上げて戦列を離れていく味方艦。

既に母艦を失ってしまった攻撃機隊もある。

待てど暮らせど出ない攻撃命令に、皆がヤキモキしていた。

 

状況が動いたのは、敵小型艦が次々と駆逐艦に対して自殺攻撃を仕掛けてきた時だ。

 

 

『旗艦より攻撃隊へ。攻撃開始。繰り返す、攻撃開始!』

 

 

旗艦からの通信を受けた総指揮官は、溜まりに溜まっていた鬱憤を一息に吐き出すように命じた。

 

 

『全機起動!』

「了解!」

 

 

パイロットは、燃料節約の為に停止していたエンジンを回す。

すると、コクピットの背後から小気味良い震動と腹に響く重低音が伝わってきた。

周りの僚機も次々と機尾に淡い明かりを灯らせ、無機質な甲殻類の身体に熱と鼓動を行き渡らせていく。

 

まるで、ようやく訪れた狩りの時間に眼を光らせ歓喜の唸り声を上げている獣のようだ。

 

エンジンに再点火した各機体は徐々に加速しながら、密集する岩々をすいすいと縫って航行する。

ラルバン星守備隊所属のパイロットにとって、アステロイド帯は普段から訓練で利用している馴染み深い場所。

アステロイド帯の中は端から端まで知り尽くしていて、敵機が徐行しながらでなければ進めない様な場所でも鈍重なデスバテーターは危なげなく通り抜ける。

視界が開けた瞬間、彼はロケットエンジンを一気に最大戦速に噴かした。

 

身体を襲う圧迫感。

両手両足が拘束される感覚を、筋肉を強張らせて必死にこらえる。

腹の底から唸り声を上げることで、血流が後ろに追いやられて意識が遠のくのを我慢する。

世界がものすごいスピードで後方へすっ飛んで行く。

慣性によって発生する重圧は、さながら自身の心を凶暴な獣へと切り替えるスイッチだ。

 

 

『全機突撃!』

 

 

総指揮官の号令一下、アステロイド帯を飛び出した我々を出迎えたのは2種類の戦闘機。

我が軍のイーターⅡに似た外見の機体と、虫の幼虫みたいな外見の機体だった。

空母から2機ずつ飛び立つや否や、すぐにこちらに機首を傾けて睨みらあう。

互いの射程に入るのは時間の問題だ。

 

 

『総指揮官より各機へ。予定通り敵空母を最優先で叩く。我々の目標はあくまで敵艦隊だ。回避行動は最小限に、一秒でも早く敵艦肉迫して撃破せよ!』

 

 

高い推進力と重装甲、そして20ミリパルスレーザー12門という重戦闘機並みの性能を持っているデスバテーターだが、どこまでいっても所詮は攻撃機。戦闘機に格闘戦を挑んで勝てる道理は無い。

故に、敵戦闘機との接触は一回きり。ヘッドオン状態で一連射してすれ違ったら、あとは振り返らずにそのまま一直線に敵空母を目指す。

ますます彼我の距離は近付き、敵機の詳細が見えてくる。

 

 

「チャンスは一度きりだ、外すなよ!」

 

 

彼はインカム越しに攻撃操作担当の二人に声をかける。

パイロット、通信士、爆撃航法士、攻撃操作担当2人の5人は、この地に任じられてから6年間生死を共にしてきた仲間だ。

 

 

「あんなイモ虫に俺達が負ける訳ないでしょう!」

「何の事は無い、毎度のことじゃないですか」

 

 

返ってきたのはいつも通りの威勢のよい返事。

ウラリア帝国の最大規模の侵攻に際しても、彼らに怖気づいた様子は無い。

いつも通りの闘志と自信に満ち満ちた、堂々とした声だ。

 

 

「よく言った野郎ども、いつものをやるぞ! 攻撃準備!」

 

 

そう言うなり、彼は円形状の操縦ハンドルを右に切りながら思いっきり手前に引いた。

デスバテーターはその丸い機体を跳ね上げ、右斜め上にせり上がりながら機体を大きく傾ける。

 

視界が空転。

敵が360度回転。

それでもただ目的を見失うまいと、彼は回る視界の中心に目当ての敵機を収めつづけた。

 

こちらが回避行動を取ると思ったのか、敵機も自機の未来位置を予想して機首を持ち上げた。

しかしデスバテーターはそのまま回転を続け、イモ虫型戦闘機の機先をかわし続ける。

 

互いの射程に入ってからも、射線を巡る心理戦は続く。

円盤型戦闘機の中には散発的に射撃を試みるものもいるが、やはりこちらを捉えられずにやがて沈黙する。

 

デスバテーターが反時計回りにバレルロールし、敵機はそれを追いかけて時計回りにバレルロールを打つ。

周囲のデスバテーターも、同じように大きく機体をうねらせながら突進している。

敵にしてみれば、皆が皆ロールを打ちながらやってくるのだから、さぞかし不気味な光景なことだろう。

 

回転を続ける視界に、巨大空母の威容が入ってきた。

扁平な円盤状の艦体は正面から見れば相対面積を減らす効果があるが、上空から見れば当ててくれと言わんばかりの格好の目標だ。

戦闘機の初撃さえ突破すれば、大ざっぱな照準で投弾しても当たるのではないか。

 

こちらの動きを見極めはじめたのか、敵はこちらの動きに追従することをやめて射線にこちらが飛び込んでくるのを待ち受ける様な動きを見せた。

 

次の瞬間、ついに均衡が破れる。

 

イモ虫型戦闘機のコクピット上、2つの銃口にマズルフラッシュの閃光が生じた。

2列38発の銃弾が、デスバテーターが描く螺旋状の軌道の一点に向けて放たれる。

狙い澄ましたようにコクピット部分を斜めに穿たれたデスバテーターが、螺旋のベクトルを保ったまま炎に包まれる。

 

機尾を吹き飛ばされた一機が縦に回転しながら爆弾を誘発させたかと思えば、右翼端に被弾した機は銃弾の様に激しく錐揉み回転しながら隊列を離れていく。またある一機は、放たれた銃弾を全て真正面から受け止め、形を残すことなく爆発四散する。

徐々にコツを掴んできた敵編隊が、味方機を次々と流星に変えていく。

 

 

「3番、7番、13番機撃墜されました! 6番機も撃墜!」

「敵さんもいい加減対策をとってきたということか……?」

 

 

我が小隊からも犠牲は生まれる。

小惑星帯から飛び出した我々はまともに編隊を組んでいないし、そもそも小隊各機がバラバラだ。

互いを掩護射撃することもできず、バタバタと周囲の味方が炎に包まれるのを見送ることしかできない。

以前はこの戦法で敵機を翻弄できたのだが、さすがに対策を取られていたという事か。

 

だが、こちらも負けてはいない。

螺旋機動を保ちながら、機体正面のパルスレーザー砲で弾幕を張る。

敵戦闘機を囲うように、12条の曳痕が螺旋を描きながら敵に向かう。

回避行動が間に合わなかった機は機体をナマス切りにされ、無数の傷口から燃料と機体の破片と搭乗者の肉片をばら撒いた。

 

光の檻で周囲を絶え間なく囲い込まれたイモ虫型戦闘機は、被弾はしないものの回避行動をとれなくなってしまう。

そこに、虎の子の回転砲塔が火を噴いた。

デスバテーターの背中に搭載されている、無砲身型回転砲塔。

パルスレーザーよりもはるかに遅い連射性能と引き換えに、その弾は一発で戦闘機を貫通しる程の威力を持つ。

案の定、逃げ場を失った1機のイモ虫型戦闘機が被弾し、コクピット部分にぽっかりと大穴をあける。頭を失ったイモ虫型戦闘機は、その名を表す様な蛇行を見せた挙句に爆散した。

真正面から回転砲塔の一撃をくらった円盤型戦闘機は、コクピットから光線砲発射システム、ロケットエンジンに至るまでを悉く蹂躙されて消し炭と化した。

 

 

「撃てぇ!」

 

 

彼が操る機からも、回転砲の輝きが放たれる。

パルスレーザー砲のか細い火箭とは比べ物にならない太いエネルギー流が、相対していたイモ虫を貫通して撃破した。

迎撃魚雷が誘爆して身を散らしていくイモ虫型戦闘機のすぐ脇をかすめる。

 

 

「何機抜けた!?」

 

 

敵艦隊への空襲は、何と言っても敵の防空能力を超える数での飽和攻撃が本質だ。

敵編隊の攻撃を無事かわしきったものだけが、敵空母との対決という次のステージに挑むことができるのだ。

たった一度きりの接触で、そうそう数を削られたとは思いたくない。

 

 

「確認はできませんが……敵に向かって流れる火の玉があちらこちらに見えます。見たところ、大分墜とされたようです」

「チッ……。13隻全部撃破できるか、怪しいところだな」

 

 

今までと違って、敵機はこちらの回避行動に合わせて予測射撃をしてきた。

機体下に8発の空間魚雷を露天懸吊しているデスバテーターは、下手したら一発命中しただけで――――――いや、掠めただけでも魚雷に内蔵された炸薬が高温になってしまえば――――――大爆発を起こしてしまう。

1発エネルギー弾を食らった程度では落ちない重装甲のデスバテーターでも、弾薬に誘爆してしまえばひとたまりもない。

そうやって、多くの機体が撃破されたのだろう。

 

彼の操る若草色の機体はバレルロールをやめ、すれ違った敵戦闘機群を引き離すべく最大戦速の上の最大速度にまで推力を上げる。

最大戦速より上の速度では旋回能力が低下し、状況に対するパイロットの対処にも支障が生じてくるが、この際仕方がない。

向かう先には、13隻の空母及び戦闘空母。

無理な加速に機体が悲しげな軋み音を上げる中、一番手前の1隻の巨大空母に狙いを定めた。

 

 

「目標固定、爆撃用意!」

 

 

彼の命で、胴体下部の爆弾倉に収納されていたミサイルがマジックハンドで機外へ掴み出される。

胴体下に懸吊されている宇宙魚雷だけでなく、ミサイルも同時に敵の飛行甲板にぶち込んでやる腹積もりだ。

 

 

「距離1宇宙キロ! ……9000……8000……7000!」

 

 

爆撃航法士が、敵空母との距離をカウントダウンしていく。無重力・真空空間において、投射された物体は慣性に従って永遠に移動し続ける為、理論上ではミサイルや爆弾に射程は存在しない。それでもギリギリまで肉迫するのは、できるだけ加速をつけてミサイルの衝力を増す為と、敵艦に回避の余地を与えない必中を期す為だ。

 

視界の片隅に、真っ白な火の玉が前触れなく出現するのが見えた。旗艦『バルーザ』が必殺の火焔直撃砲の射程に敵を収めたのだろう。

増速して追い抜いていった戦艦のすぐ後ろ、敵戦艦部隊を率いていた旗艦と思しき艦の100メートル眼前に現れた巨大な白炎の玉。

戦艦よりも大きいそれは、一瞬にして敵戦艦をぱっくりと飲み込んだ。

突然の炎に纏わりつかれ、パニックを起こしたように航路を外れた敵旗艦。黒くコーティングされた表面が火焔と爆発の閃光に照らされ、装甲の継ぎ目から自ら火柱を立ち上げて、レーダーマストや砲塔をバラバラを振り落としながらラルバン星の重力の底へと落ちていった。

 

突起物が極端に少ない、無機質な漆黒の航空母艦が徐々にその視直径を増してくる。

寄り添う濃紺色の戦闘空母は、主砲と対空砲が鎌首を持ち上げてこちらを迎え撃たんと身構える。

左舷側5基の三連装主砲の砲口が、緑色に点滅する。主砲がエネルギー弾を発射する兆候だ。

一斉射で15条の極太なエネルギー奔流。大小の対空砲も既にこちらを射程に収めている。

向うも彼らと同様、必中を期して攻撃機隊を十分に引きつけてから、一気に火力を開放する戦術だ。

 

――――――と。そこに、全く予期せぬ方向から戦闘空母は攻撃を受けた。

音も煙も発せずに敵陣形の内側に忍び寄った潜宙艦が放った宇宙魚雷6発は、戦闘空母の右舷後方に集中して突き刺さった。

魚雷は装甲を張りにくいサブエンジン付近に身を潜らせたところで炸薬に着火すると、発生させた膨大な量の熱と運動エネルギーで無防備な艦内施設を蹂躙した。

熱い吐息は廊下を走り、十字路に差し掛かると勢いそのままに三方に分かれ、通りすがらにある人や物を次々に火達磨へと替えながら駆け巡る。

 

三方に伸びた飛行甲板の両脇から、次々と黒煙と灼熱の炎が間欠泉のように噴き出し、格納庫・甲板を問わずそこにある艦載機全てに熱気を浴びせかける。

発艦待ちだったそれらには武器弾薬、そして燃料が満載されている。

その周囲にも、搭載待ちのミサイルが束となって並び、給油の仕事を終えたばかりのホースは揮発性の高い油で濡れている。

そんな所に、摂氏1000度を優に超える炎が襲いかかったらどんな結果が訪れるのか――――――想像に難くない。

 

ウラリア帝国陣形の右舷後方に回り込んでいた6隻の潜宙艦が、艦首魚雷発射管から第二斉射を放つ。

1隻当たり6発、6隻で36発の潜宙艦用宇宙魚雷が、ミサイルのそれよりも遥かに薄い噴射炎と航跡の煙を残して、再び6隻の戦闘空母へ殺到する。

 

初撃が艦の下部――――――水上艦艇でいうところの喫水線下――――――に集中して被弾したのに対して、第二射は上部――――――主砲塔や艦橋構造物に引き寄せられた。

右舷前部艦底部に生き残っていた三連装無砲身対空砲が慌てて向き直るが、気付いたときには既に魚雷が射界から外れてしまう。

 

着弾。

 

ある艦は砲身がへし折られ、砲塔基部がめくり上がり、レーダーマストが崩れ落ちる。

また別の艦は艦橋を支えていた四本の柱のうち右舷側の2本がねじ曲がり、引き摺られるように左舷側の二本もしなる。

空母の右側に控えていた戦闘空母は、計12発に及ぶ魚雷爆発の衝撃で左に流されていった。

 

 

「助かる……!」

 

 

彼は感謝の言葉を呟いた。潜宙艦が戦闘空母を抑えてくれるおかげで、こちらは空母への攻撃に戦力を集中させることが出来る。

戦闘空母が艦の頭脳を破壊されて対空砲の自動迎撃機能が停止した隙を狙って、デスバテーターが空母に殺到する。

対空砲の数が多くなることも厭わず、命中率を上げる為に正対面積が大きくなる頭上から、ラルバン星の引力を加えた急降下で駆け下りる。

頼みの戦闘空母の支援が受けられないと分かり、慌てて空母の表面から撃ち上がる朱い対空砲火。戦闘空母に比べればいかにも心許ないが、それでも脅威には変わらない。

とはいえ、今更もう遅い。彼が駆る機は既に必中の射程、敵の懐に潜り込んでいる。

 

 

「魚雷発射!」

 

 

待ってましたと言わんばかりの爆撃航法士が、発射ボタンを連打。

一回押すごとに機底からガコンという振動が伝わり、操縦桿の操作が軽くなる。

続いて、視界に9本の白い筋雲が現れた。

距離3000の至近距離で9発のミサイルが次々と点火、トップスピードで敵空母めがけて発射されたのだ。

彼の機以外にも、生き残った攻撃機から次々とミサイルが投射される。

18機から放たれたミサイルは162発。

ミサイル艦が搭載しているそれに比べれば如何にも貧弱な空間魚雷だが、数と衝突速度を十分に揃えれば、戦闘不能にすることも撃沈することも十分に可能だ。

 

着弾を見届ける前に彼は操縦棹を左に回し、目標の空母の艦首を掠めて艦底部側へ退避するコースをとる。

重しを吐き出したからといって、ロケットエンジンを全力で吹かしているデスバテーターは旋回半径が大きくなるのだ。

空母が視界から外れる直前、真上から降ってくる脅威を回避しようとゆっくり左ロールを試みる巨大空母と、空間魚雷の大瀑布が万遍なく降りかかる瞬間がみえた。

 

 

「命中! 命中! 命中! 6隻の空母に、次々と空間魚雷が命中しています! 作戦成功です!」

「よし!」

「これで連続20隻撃破達成ですね、機長!」

 

 

副操縦士がレーダーを睨みながら、歓喜に上ずった声を上げる。

彼も右手を打ち振るって喜ぶ。

役目を終えた爆撃航法士と二人の攻撃操作担当士官も、コクピットに集まって彼らとハイタッチを交わす。

 

歓声に湧くデスバテーターの機内、レーダーパネル上では、空母を示す巨大な光点に向かって空間魚雷を指す小さな光が流星群の如く降り注いでいた。

そして、その反対側――――――ガトランティス陣営でも全く同じことが起きていて、巨大な光点が消え失せようとしてることに、彼等はまだ気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

同刻同場所 メダルーザ級火焔直撃砲搭載戦艦『バルーザ』艦橋

 

 

父を反面教師としている自覚はないが、ガーリバーグはどんなに弱い相手でも傷ついた相手でも容赦なく叩き潰すことを信条としていた。

勿論、政治的あるいは外交的配慮が求められる際には敵を壊滅させずに見逃すこともない訳ではなかったが……、こと旧テレザート星宙域守備隊司令に任じられてからは見敵必殺、無傷の撤退は許さないことを至上目標としていた。

そこには、大帝の死後に補給が一切届かなくなったことも関係しているのだが、それはこの際どうでもいい。

 

とにかく、どんな敵に対しても手を抜かないことを心掛けてきたガーリバーグは、着任以来最大規模の敵を前にしても動揺せず、いつも通りに策略を巡らせ、完全勝利を目指し万全の態勢で戦線に臨んだのだ。

 

それが、これは一体どういうことだろうか。

駆逐艦は爆炎に飲み込まれ、ミサイル艦は艦首の破滅ミサイルが誘爆を起こして跡形もなく消し飛び、空母は飛行甲板に円錐状の大穴を穿たれて紅蓮の炎を吐き、大戦艦は全身から煙を噴き出して漂没している。

戦場はインキをぶちまけたように黒煙が漂い、焦げた破片が元あるべき場所を探して所在なく浮かんでいる。

艦載機は炎を引きずりながらラルバン星へ自由落下をはじめ、ミサイルを撃ち尽くした攻撃機は送り狼と化したイモ虫型戦闘機に追い立てられて蜘蛛の子を散らすようにこちらに逃げ帰っている。

 

これが、常勝を誇ったラルバン星防衛艦隊の惨状か。

これが、俺が指揮している艦隊の惨状か。

 

 

「オリザーよ……」

 

 

後ろに控えているオリザーに助けを求めようとして……弱気になってしまった自分に気付いて、口をつぐんだ。

弱音を吐いたり態度に出してはいけない。それは司令官としてやってはいけないことだし、私のプライドが許さない。

 

 

「まだ、負けてはおりません」

 

 

しかし、そんな私の心情を察したのか、オリザーは奮起の言葉を選ぶ。

 

 

「司令が仕掛けた罠は、全て成功しております。戦況はいまだ五分五分、本当の戦いはこれからです」

「……オリザーよ」

 

 

私の経験上、『本当の戦いはこれからだ』と言って最後の力を振り絞る奴は無駄な足掻きに終わることが多い。

確かに私は弱気になってしまったが、まだ負けを認めた訳ではないのだが……。そんな内心の呆れを殺しつつ、後ろにいる臨時副官に問うた。

 

 

「やはり、誤算はあの長距離砲戦艦……だな」

 

 

今では火の玉と化している4隻の戦艦に視線を向ける。

デザインは違えど大きさや熱量は通常型の戦艦と大差なかったので、私もアレを単なる型違いの戦艦だと誤認していた。

しかしその正体は、今まで相手してきた主力戦艦とは比べ物にならないほどの超長距離の砲撃が可能な、全くの新しい艦種だったのだ。

 

 

「私も、火焔直撃砲に匹敵する射程を持つ兵器があるなどとは、思いもよりませんでした。兵器としての威力が弱かったのが、不幸中の幸いです」

「しかし、現に『バルーザ』はこうして沈もうとしている」

「……」

 

 

返す言葉が無いのか、背中からの声は途絶えた。

目の前の壁面ディスプレイから火花が飛び散り、ついに画面がブラックアウトする。

艦内の可燃物が燃えているのか、異臭とともに黒煙が漂い始めている。

異臭の元は、被弾箇所からだけではない。

小さな炎を背負って倒れている、幾つもの死体。

艦橋に被弾した際に戦死した部下が、今もまだ燃えているのだ。

生き残ったガーリバーグもオリザーも煙を浴びて、至るところに煤がついて汚れている。

 

そう、乗艦『バルーザ』は満身創痍の身体を今まさに横たえようとしている。

長距離砲戦艦――――――狙撃戦艦とでもいうべきか――――――4隻と真っ向から撃ち合い、敗北したのだ。

 

あれは、こちらが敵旗艦と思わしき艦に火焔直撃砲をお見舞いして、次発装填中のことだった。

今まで幾度となく行われた会戦で、ウラリア帝国戦艦の主砲の有効射程は9万宇宙キロ程度と判明している。

対して、火焔直撃砲は最大射程が22万宇宙キロ。圧倒的なアウトレンジ攻撃が可能だ。

最初の予定では、『バルーザ』は敵主力戦艦をアウトレンジから一方的に撃ち落として味方大戦艦の突撃を掩護するはずだった。

この方法は今まででも採用してきた戦術であり、実際この戦い方で常勝してきたのだ。

 

しかし、そんな計画はあっという間に壊された。

沈みゆく旗艦を追い越した4隻の狙撃戦艦が、20万キロの長距離から『バルーザ』に向けて砲撃を開始したのだ。

 

その瞬間、『バルーザ』の火焔直撃砲が持つ最大のアドバンテージが消滅した。

そして同時に、『バルーザ』はピンチを迎える。

メダルーザ級戦艦のほぼ唯一にして絶対の兵器である火焔直撃砲。

その圧倒的威力は一撃で戦艦を火ダルマにするほどであるが、決定的な弱点を抱えている。

エネルギー弾を瞬間物質移送器でワープする関係上、敵艦と『バルーザ』の相対位置を正確に測量し、発砲の際には艦が安定している必要があるのだ。

慌てて狙撃戦艦へと目標を変更し、第二射を撃たんとする所に着弾の衝撃が艦内を走る。

正面上方から受けたベクトルの所為で『バルーザ』の艦首がほんの少し項垂れる。

既に発射シークエンスを終えていた火焔直撃砲が直後に発射され、狙撃戦艦の艦底部を掠めるように通り過ぎてしまった。

 

その後も、4隻の狙撃戦艦はこちらに攻撃の隙を与えまいと狙撃を繰り返し、その度に『バルーザ』は火焔直撃砲の発砲を躊躇し、また撃ち損じた。

虎の子を封じられて手を出せないことを知ってか、はたまたメダルーザ級戦艦が大戦艦よりも頑丈に出来ていることを知ってか、それとも旗艦であることを見抜いたのか、敵は容赦なく、一方的に、執拗にエネルギー弾を送り込んでくる。

更に上下左右からは、イーターⅡや護衛駆逐艦による必死の迎撃をかいくぐった戦闘爆撃機やイモ虫型戦闘機がミサイルをお見舞いしてくる。

対してメダルーザ級戦艦にまともな対空兵器は無く、ただ可旋式2連装有砲身砲塔が一基あるのみ。

 

勝負は、決した。

 

『バルーザ』が散々に打ち据えられている間にも進撃を続けていた大戦艦群が、狙撃戦艦の懐に潜り込み集中砲火を浴びせて一網打尽にするまでに、『バルーザ』の被弾数は大小合わせて三桁を越えていた。

一発ごとの威力が主力戦艦のそれよりも弱かったので辛うじて轟沈を免れているが、エネルギー弾やミサイルによって全身を弾痕だらけにされた状態で生きて帰れる道理もない。

『バルーザ』がその生涯を閉じるのも、もはや時間の問題だった。

 

 

「殿下……司令機能を移しましょう。残念ですが、この船はここまでです。まだ会戦の決着がついていない以上、速やかに指揮系統を回復させなければ」

 

 

悔しさを堪えた声で、総員退艦を促すオリザー。

確かに、まだ会戦の行方は決していない。

『バルーザ』が狙撃戦艦の攻撃を一身に受けている間に大戦艦をはじめとする主力部隊は敵艦隊を射程に収め、攻撃を開始した。

交差する赤と緑の雷光。

落雷した場所に火の雲が生まれ、やがて黒雲に変わる。

大戦艦が放った必殺の艦橋砲がリング状の衝撃波となって侵略者の艦を包み込み、木っ端微塵に吹き飛ばす。

すれ違いざまに至近距離で発射されたウラリア戦艦が放つ基門の主砲が大戦艦を貫通し、射線上にいた駆逐艦も串刺しにした。

戦争は、ここ一番の盛り上がりを見せている。

 

 

「指揮系統が回復すると思っているのか……? 既に我々が命令したところで素直に聞いてくれる状況ではないだろう?」

 

 

艦橋からみえる戦場は、既に乱戦の巷と化している。

互いの陣形が深く食い込んで、360度見渡す限り敵だらけ。

各艦の間には既に連繋や戦術など存在せず、目に入った敵をとりあえず砲撃している状況だ。

旗艦がやられたもの同士、引き際を見定めることもできずにどちらかが全滅するまで殴りあうことを止めないデッドレースが繰り広げられている。

 

事態は既に、ガーリバーグが指示を下したところでどうこうできる段階を越えているのだ。

 

 

「しかし、戦闘がまだ続いているのに指揮官が戦場から離脱する訳にはいきません。やらなければならないのです、殿下」

 

 

つい先日まで艦隊司令を勤めていた、オリザーの忠言が重く圧し掛かる。

オリザーの言うことは、非の打ちどころの無いほどに正論だ。

いくら制御不能な戦状でも、指揮官がその責任を放棄して逃げ帰っていい訳がない。

それは今も死に物狂いで戦っている将兵達への裏切り行為であり、もしかしたらあるかもしれない勝利への選択肢をすべて放棄する事だ。

今ここで司令としての義務を放棄すれば、確実に会戦は敗北する。

敵は勢いづいてラルバン星本土への降下作戦を行うだろう。

そうなれば、私が手塩にかけて開発してきた領土が戦場となる。

艦隊の支援を失った地上軍が、艦砲射撃の支援を受けられる侵略軍に地上戦で勝てる道理は無い。

万が一、か細い勝利の糸を手繰り寄せることができたとしても、残るのは焦土と化した母星だけだ。

 

そんなことは旧テレザート守備隊司令としての責任と、常に最前線で戦い続けた軍人としてのプライドが許さない。

 

しかし、最後まで指揮官としてこの戦場に在り続けるという事は、最悪の最後を迎える可能性があるということでもある。

 

……やはり、覚悟を決めるしかないのだろう。

 

ならば、私が出来ることは何か。

私がしなければならないことは何か。

私がしたいと思うことは何か。

それらを素早く頭の中でピックアップして、ガーリバーグはオリザーに向き直った。

 

 

「これより旗艦を駆逐艦『フラミコーダ』に移して、戦闘を続行する。全艦に発令、『総員退艦』。オリザー、貴様が退艦の指揮を執れ。私は一足先に『フラミコーダ』に向かう」

「了解いたしました」

「それから、基地にいるソー副司令に連絡だ。『ラルバン星放棄の準備を整えたうえで、別命あるまで待機。軍属及び民間人は今すぐに避難を開始させろ。避難に関する全ての指揮は副司令に一任する』」

 

 

指示したのは、艦隊全滅という最悪のシナリオを迎えた時の為のもの。

本土で勝てる見込みがないのなら、せめて犠牲者を一人でも減らす為にラルバン星を無血開城して撤退する。

それが、私がしてやれる唯一のことだ。

避難した後の事は副司令に一任するので、どこか近くの星に潜伏するもよし、どこか友軍の支配宙域へ移住するもよし。そこまで私が細かく指定することではないだろう。

何故なら、ラルバン星放棄が実行に移されたときには、私は既にこの世にいないだろうから。

 

 

「司令……。分かりました。このオリザーも、老体ながら最後まで御伴します。機械人形ごときに命をくれてやるのは癪ですが、奴らにガトランティス魂を見せつけてやりましょう」

「貴様はさんかく座銀河方面軍の所属だろう? 私に付き合う義理はない。退艦が完了したら君はミサイル艦『エンデ』に移艦して帰りたまえ」

「そのような寂しいことを仰られるな、殿下。今の私は、ラルバン星防衛艦隊の臨時副官です」

「……勝手にしろ」

 

 

意を汲んでくれた老将は、私と運命を共にすることを選んでくれだ。

ガーリバーグは、声には出さずにそっと感謝した。

 

 

 

 

 

 

その頃、月面基地内の一室は――――――

 

 

「もう! なんでこの歳になって一から勉強しなおさなきゃいけないのよ!」

「何言ってる、地球だと6歳児は勉強盛りだぞ!」

「だからって何でこんなに覚えなきゃいけないの!?」

「そんな多くないぞ、寺子屋並みの読み書きそろばんしか教えてないからな!」

「恭介、寺子屋で日本語英語に大学レベルの理系科目は教えないと思うけど……」

「そうは言うがな、あかね。こいつがどんなに頭良くたって、アレックス語とアレックス文字しか書けないんじゃ全く役に立たないだろうが。こいつが持ってる大学院レベルの知識を引き出すには、こいつが地球の言葉を覚えるのが一番手っとり早いんだよ」

「何なのよ日本語って! 何でこんなややこしい字を沢山覚えなくちゃいけないのよ! イヤ! もうイヤ!」

「うっさい! お前も簗瀬家の人間になったのなら漢検一級くらい3日でとってみせろ!」

「アンタ、簗瀬家に対してどういう認識を持ってるのよ……?」

「あかね、兄に口答えした罰だ。憂鬱という字を百回書き取りな」

「なんで私まで巻き込まれてるの!?」

「……今がチャンス! 自由への逃走!!」

 

 

ダッ

 

 

「あ、こら逃げるなそら! 追うぞあかね!」

「あ――――――、これ、どっちの味方していいのか分からないわ……」

「おーい、篠田にあかねちゃん。そらちゃんのお勉強は進んでるか?」

「あ、徳田さんこんにちわ」

「た、助けてください、徳田さん!」

「な、な? どうしたのそらちゃん、背中に隠れて」

「そ、それが……お兄ちゃんが私のことイジめるんですぅ!」

「よーし篠田動くな、歯を食いしばれ」

「ちょっと徳田さん!? そらに騙されてますって! 服掴んで弱々しそうにしてるけど背中越しにアッカンベーしてるし!」

「恭介お兄ちゃん、私が美人だからって弄んで、泣いてる私を見て楽しんでるんです! 助けて、崇彦お兄ちゃん!」

「宿題やったか? 歯ァ磨いたか? 神様への言い訳は考えたか?」

「くそ、童貞の恋愛小説かぶれはこれだから……。さらば地球!」

 

 

ダッ

 

 

「待て篠田、美人の義妹二人に囲まれやがって! 天が許しても俺が許さん! 人誅! 人誅!」

「待てといわれて待つ馬鹿いない! あと徳田さんにはシスコンの称号が追加された!」

「シスコンハーレムの貴様に言われたくない! ええい、そこに直れ!」

 

 

ドタバタドタバタッ

バン!

 

 

「俺たちも参加するぞ徳田! ガンホー! ガンホー!」

「大人しく縛につけ篠田! 今ならば気持ちよく天に昇らせてやる!」

「げぇっ、二階堂さんに米倉さん! なんでここにいるんですか!?」

「二階堂、貴様は研究所の連中に招集をかけろ! 浮気者にはアスロックを並列でケツにぶちこんでやらなければならない!」

「了解! 私刑だ死刑だ!」

「行け―――、彰久お兄ちゃんに泰人お兄ちゃん! 恭介お兄ちゃんなんてやっつけちゃえ!」

「ハァ……。何やってるのかしらね、揃いも揃って……」

 

 

――――――今日も割と平和だった。




復活篇もそうですが、宇宙空間での艦隊決戦は究極的には乱戦になりますね。
大規模になればなるほど。
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