宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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昨日は投稿できなかったので二話連続投稿です


第四話

2206年6月10日 11時02分 アジア洲日本国 国立宇宙技術研究所

 

 

 

ヤマトのダウングレード版――要するに、量産型ヤマトである――を造るには、いくつか条件がある。

 

一つ、ヤマトの特徴を受け継いでいること。

一つ、ヤマトの欠点を克服していること。

一つ、量産性に優れていること。できれば、主力戦艦級並の生産性が好ましい。

一つ、最新の装備に随時換装できる柔軟性に優れていること。

一つ、人的、コスト的リスクを可能な限り抑えること。かといって、機械に人間が振り回されることがあってはならない。

 

以上が、前長官、真田さん、局長との打ち合わせ(いつの間にか、「リキ屋会談」などという名前がついていた)を4回行った末の大方針である。

特に最後の点については、俺と局長の「設計側」と、前長官と真田さんの「運用側」で意見が対立したところだ。

普通に考えれば、機械に任せたほうが物事の精度が高まるし、ヒューマンエラーも最小限に抑えられる。乗員の居住空間も小さくて済むし、空いた空間を他の用途にまわすことだってできる。

廊下を広くするも良し、緑化空間を設けるも良し、いっそ娯楽設備をつけたっていい。

乗組員の精神的安定を保つための工夫を凝らすことは、宇宙開発創成期からの永遠のテーマで、造艦技師ならば誰でも知っている常識だ。

リスクの軽減という観点からしても、当然行き着く考えである。

ところが、実際に宇宙戦艦に乗っていた真田さんに言わせると、「戦争は人がするもの」なのだそうだ。

 

 

「計器をずっと眺めているだけなどいうのは、戦争とは言わん。俺は戦艦を造りたいのであって、戦闘マシーンを造りたいのではない」

 

 

そう断言する真田さんの目には、意志だけではない何かが込められていた。ヤマトで技師長だった真田さんは4人の中で一番計器と向き合っているはずなのだが、そこは譲れないらしい。

 

 

「そもそも、海上戦艦の時には最大3000人もの乗員がいたのを150人足らずで運用できるようになっているんだ、十分だろう」

 

 

とは前長官の言。

結局、実際に使う側の意見を尊重することになったが……無人艦がいいとまでは言わないが、人口が激減した現状で戦艦という棺桶に入る人を増やすのはどうかと思う。過去の戦訓で、無人戦艦が刻々と進む戦況の変化に対応しきれないことは分かってはいるが、アンドロメダⅡ級のように旗艦が無人艦を遠隔操作する分には問題ないと思う。

 

ともかく、6回目となった今回の打ち合わせは、前回決めた大方針の詳細を詰めることになった。これが決まったところで研究所の面々に公開し、本格的な設計に入るわけだ。

そして、相変わらず俺は軌道修正の為の質問小僧に徹していて、基本的には3人が話をまわしている。

例えば前長官が、

 

 

「装甲は?」

 

 

と尋ねれば、

 

 

「水上戦艦大和の装甲と宇宙戦艦の標準的な装甲板を重ねて二重構造にしてある」

 

 

と所長が答える。すると真田さんが、

 

 

「量産型でそこまで手間とコストのかかる装甲はほぼ不可能だな……」

 

 

と分析する。終始こんな感じである。

このときの真田さんの説明によると、宇宙戦艦ヤマトの装甲は他の宇宙戦艦にはない特殊な構造で、大和が元来持っていた装甲に、地球防衛軍が正式採用している軽金属を主とした合金の装甲を重ねた複合装甲になっているらしい。

20世紀に戦艦が絶滅して以降、装甲に関する研究は鉄などの重金属からアルミニウムなどの軽金属を主体とした合金の装甲の開発にチェンジしていた。

軽くて丈夫な装甲は宇宙往還機の開発にも積極的に活用され、そのまま宇宙戦艦の装甲へと発展していく。波動エンジンがもたらされる前の貧弱なロケットエンジンでは、分厚くて重い装甲ではとてもじゃないが大気圏離脱はできなかったのだ。

 

そういった事情により、昔ながらの重金属を主体とした装甲は一層衰退した。現在でも技術こそあるものの、主力戦艦の全てを賄うほどの生産ラインは無い。

ヤマトの場合は元になった大和の装甲を流用し、シブヤン海に沈んでいた姉妹艦武蔵を引き揚げて解体し、修理用材にしているそうだ。

ちなみに、世界中に沈んでいた船の残骸はガミラス戦役の時に殆どが回収され、地下都市の建築用材などに姿を変えてしまったようだ。ヤマトのように宇宙戦艦の素材として再利用可能なものはほぼゼロだとのことだ。

一方、宇宙に目を向ければ、太陽系内惑星からの採掘は勿論のこと、3度の宇宙戦争で破棄されたまま漂流している彼我の宇宙戦闘艦を回収すれば、手っ取り早く大量に軽金属が取れる。当分の間は軽金属による装甲は主流でありつづけるのだろう。

 

 

閑話休題。

 

さすがに話が機密に触れる可能性が出てきたので、今回の打ち合わせは研究所内の一室を貸し切って行っている。

資料が必要ならすぐ取りに戻れるし便利といえば便利なのだが、非公式とはいえ藤堂平九郎前地球防衛軍司令官と真田志郎地球防衛軍技術局長が来ているのだ、職員の動揺っぷりったらない。

そして当然ながら、同僚からは何故俺がこの場に呼ばれているのか訝しがられている。もうすぐ話せる日が来るから勘弁してもらいたい。

というわけで今回も、最初は話が進み、そしてどんどん脱線していったのだが……。

 

 

「そういえば、対艦戦闘能力に関していえば差は無いんだったな……」

 

 

前長官の呟きが、気まずい雰囲気の部屋に響く。

 

 

「そりゃ、ヤマトの衝撃砲を改良したのが主力戦艦級やアンドロメダ級に採用されてますからね……」

「ミサイルも統一規格品だし、違いといえば搭載数と発射管の数くらいか」

 

 

真田さんも諦めたような口調で言葉を漏らした。

 

 

「まぁ六方向全てに発射管があるのは特徴といえば特徴だが、さすがにそれだけというのもなぁ」

 

 

背伸びをして背もたれをギシリと軋ませながら、ため息交じりに所長。

 

 

「波動砲についてはどうなんですか、真田さん?」

「経験で言うと、対要塞戦という点では収束砲のほうが効果は高いが、散開している敵艦隊に対しては拡散波動砲による面制圧のほうが効率的だろう。子弾は一発ごとの威力こそ及ばないが戦闘不能にするには十分な性能を持っているからな」

「……当たれば、だがな」

「ディンギル艦隊との決戦のときの事を言ってるんですか?」

「そうだ。大型モニターで戦闘をリアルタイムで見てたんだが、あれには見ていた全員が唖然としたものだ」

 

 

そう言ったきり、沈黙が場を支配する。

11時半現在、ここにきて話は行き詰っている。

ヤマトの特徴を挙げるのに、主力戦艦級との比較をしていこうという話の流れになったのだが、いざ違いを挙げるといっても、意外と出てこない。

対艦攻撃力の議題に至っては、ヤマトの方が劣っているとまで言い出す始末である。

不思議なことだが、ヤマトは敵艦隊をいくつも破った実績を持ちながら、対艦攻撃力そのものについては特に優れている点はない。

修理・改装のたびに最新の装備に換装しているものの、他の艦よりもずば抜けて強い訳でもないのだ。

地球防衛軍の建艦思想は、根本的には敵艦隊の撃滅を至上目的としたものである。

したがって対艦攻撃力の向上には力を入れていて、衝撃砲の威力や射程の伸長、波動砲の性能向上などは最優先で研究されていた。拡散波動砲や拡大波動砲がいち早く実戦配備されたのも、まさにそのおかげである。

要するに、ヤマトの功績は主砲の威力以外に依るということになるのだ。

 

 

「威力以外ということなら、命中率のほうはどうだ?集弾率や発射速度からは何か言えないか?どうなんだ真田君、飯沼君」

「命中率についてはなんとも言えません。ヤマトの射撃指揮装置は性能としては主力戦艦と同等ですが、こちらには南部という天才がいましたから」

「衝撃砲の発射速度はエネルギーの回復速度に反比例して短くなるのは確かだが、それほど大きく変わるわけじゃない。アンドロメダ、アンドロメダⅡ級はヤマトより優秀なエンジンを持っていたが、速射性に決定的な差があるとまではいえないな」

 

 

二人の見解に俺も補足する。

 

 

「映像を見る限り、ガミラスや白色彗星帝国の艦ともそれほど違いはありませんから、速射性能の違いが決定的な差ではないと思います」

「集弾率は?」

「これも単純な比較はできないですね。藤堂さんは知っていると思いますが、衝撃砲というのは、実体弾と同じで発射した際に隣接する弾――この場合は衝撃波ですが、それの影響を受けて弾道が変化します。特に収束率の悪い初期の砲だと、衝撃波が一本に合流してしまう例もありましたし、射撃統制戦を行う場合、どうしても互いに干渉しあって微妙に弾道が狂ってしまうんです。その点ヤマトは単艦行動でしたから、衝撃波が合流してしまう事は別として、他艦の干渉を受けないので散布界はそれほど悪くないんですよ」

「ビデオを見ての印象論ですが、射撃統制戦でも距離や陣形によって命中率が変わるような気がします。ソリッド隊形や波動砲戦隊形のような密集した陣形よりも、単縦陣やウィング隊形のような隊列の方が弾道のズレが少ないですね。前者の例が彗星都市本体への砲撃戦、後者の例がその前に起きた土星決戦の際に土方司令が敵艦隊に罠をかけた後の掃討戦です」

「それでは、対艦攻撃力については変更なしだな」

 

 

これ以上は議論が深まらない、とばかりに3人とも頷いた。

 

 

「それでは、次は対空攻撃力か」

「これは言うまでもないだろう。ヤマトの対空攻撃力は、大和の伝統を受け継いでハリネズミの装備だ。というより他の戦艦が少な過ぎなんだ。いくら空襲で撃沈された先例が無いからと言って、あそこまで少ないのは異常だろう」

「地球にいたときは分からなかったのですが、ガミラスは航空機の運用に優れた国でした。デスラー戦法のような、至近距離からの多方向同時攻撃は、とてもじゃないが迎撃ミサイルだけでは対応しきれません。今の主力戦艦級では到底実戦には耐えられない」

「私も御二人と同意見です、前長官。土星決戦の折、航空機の脅威を正しく認識していたからこそ、土方司令はヤマトと宇宙空母に機動部隊への奇襲を命じたのではないでしょうか」

 

 

その通りだ篠田、と真田さんは同意する。

 

 

「ただし藤堂さん。篠田の意見に付け加えるなら、ヤマトを含め地球の船のパルスレーザーは射角が水平以上と限定されており、下方からの攻撃には非常に脆弱です。過去にはデスラーに下部艦載機発進口を狙い撃ちされたこともありますから」

 

 

真田さんの言っている事が、俺にはすぐにピンときた。

ヤマトがテレザート星から地球に帰還する直前、デスラー艦隊に包囲されて止む無く白兵戦を挑んだ時のことであろう。

 

 

「というより、ヤマトに限らず殆どのフネの下部には火器がミサイル発射管しか無いですね。やはりこれは水上船時代の名残ですか?」

「あと、宇宙開発初期の宇宙往還機が大気圏突入を想定して底面を平らにして耐熱タイルを張り巡らせていた名残だな。今でもパルスレーザーの防盾の脆弱な装甲では露出したままではさすがに大気圏の摩擦熱と衝撃波には耐えきれない。主砲塔は耐えられるんだがな」

「それでは、ヤマトはどうやって下方からの敵に対処したのかね?」

「沖田艦長のときはロールをしたり敵の下に潜り込んだりして、常に敵に腹側を見せないように操艦するよう指示したんです。ただ、このやり方は目まぐるしく上下が入れ替わりますので、ひとりふたりの飛行機ならともかく、100人以上乗り込んでいる戦艦でやることじゃないです。古代や南部が非常にやりにくそうにしていました。古代が艦長代理をしていたときは、早期発見を徹底させることでこちらに有利な体勢で戦闘を始めるようにしていたように思います。ただ、それでもデスラー戦法に手の打ちようがありません。やはり、対空砲火に死角を作らない事が一番です」

 

 

ガミラス戦役の際は、レーダーの性能が今より悪かった事、敵が幾重にも罠を張って待ち受けていた事等の理由から、その場その場での対処しかできなかったが、白色彗星帝国戦の前に施した改装の御蔭で、コスモタイガー隊を発進させて二重三重の防空圏を形成することが出来たというわけだ。

 

 

「飯沼、なんとかならんか?」

 

 

前長官は、5つの星系国家との戦いを通して急速に発達した現在なら船体下部にも設置できるのではないか、と言外に問うた。

 

 

「うーん、現状では無理だな……。他の星の技術を組み合わせればあるいは何とかなるかも知れんが、やつらの技術はまだ解析途中のものが数多い。それは今後の課題にしよう、今すぐは考えが浮かばん」

「解析は科学局で進めています。成果は随時公開していきますが、私も使える技術が見つかったらすぐに飯沼さんに伝えることにしましょう」

「その件は真田君に任せよう。……お、もうこんな時間か。そろそろ昼食の時間だな」

 

 

藤堂前長官は俺らを見渡すと、懐からメモ帳を取りだした。最後のページを捲り、何やら書き込んでいく。

 

 

「ヤマトの特徴についてのまとめだが……今までの話を要約すると、現在の主力戦艦と比べた場合、対艦攻撃力は同等、波動砲は向こうの方が面制圧に効果的、勝っているのは対空攻撃力と装甲に優れている点しか違いがないのだが、それでいいのか?」

「いえ、前長官。もうひとつあります」

 

 

話を纏めようとする前長官を遮った。今まで自分の意見を全く言ってこなかった人間がここにきて意見を言おうとしているのがよほど意外だったのか、三人とも鳩が豆鉄砲を食らったような表情でこちらを見ている。

だが俺は、ただの司会者としてこの場にいるわけではない。

真田さんとは違う、第三者の視点で地球防衛軍の戦闘を分析した者として参加しているのだ。

だから自信を持って、堂々と言った。

 

 

「ヤマトの大きな特徴……それは、航空機運用能力です」




オリ主、ようやく出番です。

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