宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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久々に地球での日常回です。


第二十話

2207年12月12日 23時20分 アジア洲日本国愛知県名古屋市某アパート2階1号室 篠田恭介宅

 

 

月で過ごした秋が過ぎ、地球で過ごす冬がやってきた。

 

冥王星遭遇戦から二ヶ月。

思い返せばわずか30分あまりだったあの戦闘は、俺たちにあまりに多くの変化を与えた。

 

まず、完成前ながら獅子奮迅の戦いを見せた『シナノ』は中破し、月面基地での応急修理の後に地球に降ろして本格的な修理と残された検査の消化に入った。

 

出港時の巻き戻しのように名古屋軍港第一ドックに入渠した『シナノ』はしかし、もはや修理用の装甲板が枯渇してしまっていた。

元々宇宙戦闘空母『シナノ』は、沈没していた空母『信濃』の艦体をベースに余っていたヤマトの予備パーツと戦艦『武蔵』の鋼材を使って建造された。

その建造当時から懸念されていた事だが、軽金属による鋼板が主流の今、ヤマトと同じ装甲板の鋳造を行える工場が極端に少ないのだ。

だからこそ、市松装甲――――――正式名称は「チェッカーフラッグ装甲」になった――――――が開発されたが、竣工前に不足する事態が発生するとは、誰が予想しただろうか。

 

しかたなく被弾箇所の装甲板やら鉄骨を剥がし、戦場掃除で拾ったものと合わせて溶鉱炉に放り込んで、装甲板として再利用することになった。

それでも装甲版が弱くなるわ、鋳造にやたら時間と金がかかるわ、面倒なわりには効果の薄いものとなったのは、今後改善すべき点だろう。

なんとかして安くて頑丈で大量生産が可能な装甲板を開発しないと、『シナノ』の建造理念のひとつが達成できない。

 

開発といえば、さんかく座銀河からやってきたみなしご―――サンディ・アレクシア改め簗瀬そらからは、いまだに有力な技術提供を受けることが出来ないでいる。

飯沼さんはさんかく座銀河から地球までやってくるほどのアレックス星脅威の科学力に期待しているようだが、彼女は地球人と出会ってまだ二ヶ月。当分の間は地球人として生きなければいけない以上、日常生活を送る上で覚えなければいけないことは数多く、とてもじゃないが造船学云々まで手が回らない。

日本語も英語も地球数学もまだまだ小学生程度の学力の彼女に、技術提供を期待する方が大人げないというものだ。

 

……出会って二ヶ月で、小学生高学年程度の学力を身につけた彼女が天才であることは認めざるを得ない。

それを本人に言うとまた調子に乗るだろうから、絶対に言わないが。

 

お姫様から地球の一般市民へと身分を変えた彼女は、意外にも平民としての生活に溶け込んでいる。

もともとお忍びで城下町を出歩くほどだったらしいから、質素な生活にも慣れているし、豪奢な生活にほとんど未練がないのだろう。

王族として見られる視線が無くなった以上、彼女がその快活な性格を押し隠して「窈窕たる姫君」を演じる必要も無い。

おかげで今では、好奇心と大胆さと行動力を兼ね備えたナイスレディと進化を遂げたのである。

 

 

 

 

 

 

 

人はそれを、手のつけようがないという。

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

地球に帰ってからも、『シナノ』の修理とテストが延々と続いて過労がピークに達した頃、そらがあかねと一緒に地球に降りてくるという連絡が届いた。

どうやら、由紀子さんがそらの身体を調べた結果、地球に滞在していても問題ないと判断したらしい。

聞いた話によると、本来アレックス人やその祖先であるイスカンダル人は地球人と身体の構造が極めて似ていて、地球に降りて生活しても何ら問題ないそうだ。

それでもそらが二ヶ月も月面基地にいたのは、由紀子さん曰く「彼女の成長が止まっている事を確認したかったから」だそうだ。

 

正直なところ恭介は、そらの相手はあかねに丸投げしたかった。

彼女といるといつも喧嘩になるし、たまに恭介が優位に立つと研究所の先輩方から手痛いしっぺ返しが来る。

仮にも兄貴分――――簗瀬家とは養子縁組をしていないから、あくまで兄貴分だ―――になったのだから、妹分には優しく接したい、仲良くしたいという気持ちも無くもない。

しかし、ファーストコンタクトがアレなだけに、どうにもあかねの時のように庇護欲が湧かないのである。

 

第一、自分は名古屋で『シナノ』の面倒を見なければならないのだ。東京の家に行くであろうあかねとそらに、万が一にも遭遇するはずがない。

仕事を盾にして断れば、いくら由紀子さんでも東京に帰って来いとは言わないだろうと、タカをくくっていたのだ。

 

 

しかし、恭介は忘れていた。

彼女が、地球連邦大学特別招聘講師兼生命工学研究所バイト見習い候補生であると同時に、宇宙技研造船課技師見習いであるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて、そろそろダイジェストめいた現実逃避は止めにしよう。

目の前にある現状を受け止めて、対応策をとらなければならない。

月は12月、時刻は23時過ぎ。

夏の猛暑が嘘のように、今年の冬は例年にない厳しい冬となった。今年は冬さえも手加減してくれないらしい。

シベリア寒気団は日本海を駆け抜ける際にたっぷりと湿気を飲み込み、若狭湾から関ヶ原の隙間を通って名古屋へと雪をもたらす。

おかげで今夜も外は牡丹雪の街、空は灰白色の雲に都会の灯りが映り込んでいる。

扉を開ければ街灯の橙色が、塀にうず高く積もったふわふわの雪に降りかかり、さながらオレンジ味のかき氷だ。

もっとも、身を切る様な冷気を全身に浴びている状態でかき氷を食べたいなどとは、微塵も思わないが。

 

 

 

 

 

 

で。

 

 

 

 

 

 

外ヒンジの扉を開けた先、つまりは俺の部屋の真ン前に立つ姿。

白人のそれも霞むほどの、月明かりで染め抜いた様な金髪。

清楚ながら大人の色香を匂わせる切れ長の両目に、薄いピンク色の唇。

八頭身のスラリとした出で立ちに、コート越しでも分かるしなやかな美しい肢体。

雪をまとったような白いコートに緋色のスカート。淡い草色のマフラーをゆるやかに首に巻いている。

黙っていれば深窓の令嬢を思わせる、大人しめな佇まい。

 

間違いない。簗瀬そら、その人である。

 

彼女は肩に積もった雪を優雅な手つきで払った後、首をかわいらしくかしげて、

 

 

「来ちゃった♡」

「人違いです」

 

 

バタン(扉を閉める音)

 

 

ピンポーンピンポーン

 

 

「はーい」

 

 

ガチャッ

 

 

「中に入れて♡」

「お隣さんと部屋、間違えてますよ」

 

 

バタン。ガチャリ。(ドアノブのロックを閉める音)

 

 

ピンポンピンポンピンポーン!

ガチャリ。ガチャッ

 

 

「……どちら様ですか―――?」

「寒いから温めて♡」

「お汁粉ならすぐそこの自販機にありますよ」

 

 

バタン。ガチャリ。ジャラジャラ(チェーンロックをかける音)

 

 

ピピピピピンポーンピピピピンポンピンポンピピピピピピピンポ――――ン!!

ジャラジャラッガチャリッバン!!

 

 

「だ―――もううっせぇ! 夜中に近所迷惑なんじゃコラァ!」

 

 

隣の南部さんに迷惑だろうが!

 

 

「いい加減入れなさいよ! 寒くてしょうがないのよ!」

 

 

先程までのお嬢様然とした態度から一転、顔を真っ赤にして食ってかかるそら。

いくらストッキング履いていても、ミニスカートじゃ寒いだろう。

雪を纏った様な真っ白いコートも、太ももぐらいまでしかない短いタイプの物だ。

可愛さ重視で選んだのだろうが、名古屋は太平洋側だけど意外と雪降るのだ、甘く見ていると痛い目、もとい寒い目に遭う。

なにより、そらはこんなテンプレ台詞をどこで覚えたのか、不本意だがじっくりと問い詰めたい。

 

 

「何でお前が名古屋にいるんだよ! あかねと一緒に東京にいるんじゃないのか!?」

「だって私、宇宙技研の技師見習いだもん。名古屋にいても不思議じゃないでしょ?」

「いや、不思議だらけですから! 地球に来たことないお前がさっそく単独行動とかありえないですから!」

「お義母さんがいいって言ったから?」

「よく由紀子さんが一人旅を許したな! というかどうやってここまで来たんだ? 護衛とか監視とかは?」

「あかねは大学だし、由紀子は仕事があるでしょ? 私だって仕事場は名古屋になるんだし、だったら恭介に世話になった方が楽じゃない。ほら、合理的判断♪」

 

 

てわけで入れて、と勝手知ったるなんとやらとばかりに部屋に入ってくる簗瀬そら改め真冬の台風娘。

相手のペースお構いなしでどんどん話を進めてくるそらが、恭介はどうにも苦手だ。

その点あかねは、わがままは言うけど最後の判断は委ねてくるし、なによりあかねにお願いされることに萌えを……おっと、それよりももっと重要なことがあるのだった。

マフラーをほどいてコートを脱ぎながらこたつの中に足を滑り込ませるそらに、恭介は後ろ手でドアを閉めつつ尋ねる。

 

 

「おい、こんな時間に来るってことは、まさかウチに泊まってくとか言うんじゃないだろうな!?」

「?」

 

 

「なに当たり前のこと言ってんの?」と言わんばかりの顔。恭介のこめかみに井桁が浮かび上がる。

 

 

「ダメに決まってんだろ! 年頃の娘が独り暮らしの男の家に上がり込むなんて、危ないだろ!?」

「男じゃないもん! お猿さんだから平気だもん!」

「そんな屁理屈があるか!」

 

 

猿の方がよっぽど危ないだろうに、性的な意味で。

 

 

「なによ恭介、アンタ可愛い妹分を追い出すわけ? こんな氷が空から降ってくるような夜に?」

「それが地球の冬ってもんだ。あと、氷じゃなくて雪な。……ハァ、分かった。金出してやるから、近くのビジネスホテルにでも泊まれ。そこまで案内してやるから」

「イヤ! ずっと寒かったんだもん、もう外になんて出たくないの!」

 

 

精いっぱいの妥協案を拒絶してコタツの中に首まで潜り込んでムゥ――――、と脹れっ面で顔だけでこちらを睨んでくる。

邂逅以来、お姫様らしい姿を見たことがないんだが、こいつは本当に元お姫様だろうか?

 

 

「そんな事言ったって、ベッドも布団も自分の分しかねぇんだよ。ここにいたって暖かい寝床はないぞ?」

「?」

 

 

オ再び「何言ってんのコイツ?」て顔。井桁が増える。

 

 

「……もしかして、俺のを使うつもりなのか?」

 

 

コクコク、と悪びれることなくコタツ布団の膨らみが上下する。

 

 

「………………」

 

 

沈黙が場に訪れる。

 

 

「……………………」

 

 

無言のやりとり。場の主導権を握る為の目線での会話――――――というより腹の探り合いがしばし続く。

 

 

「…………」

「………………」

「……………………」

 

 

30秒くらいにらみ合いが続いただろうか。

先に折れたのは、やはり恭介だった。

いくら馬が合わないからといって女を、ましてや妹分を寒空へ力づくで無理やり放り出すことはできない。

自分は二人の兄貴であり、そうでなくてはならないのだ。

 

――――――俺って、見境なく年下の女の子に弱いのかなぁ。

 

そんな思考を頭から追い出して、

 

 

「――――――まぁ、俺は今日は徹夜のつもりだったしな」

 

 

精いっぱいの強がりを言った。

 

 

「恭介?」

「好きに使えよ、俺のベッド。そのかわり文句言うんじゃねぇぞ」

 

 

さっさとどけ、とそらをコタツからと追い出す。

キョトンとした顔でこっちを見続けるそらを尻目に、俺はこたつに足を突っ込んだ。

 

 

「恭介、いいの?」

「良いも何も、お前が押しかけて来たんじゃねぇか」

 

 

放り投げていたどてらを再び着込んで、コタツ布団を太ももまで掛け直す。

 

 

「いや、そうなんだけどね? もうちょっとこう、頑なに反対されるのかな~て思ってから拍子抜けしちゃって」

「え? なに? そういうの期待してた? もしかしてお前M?」

「違うわよ!!」

 

 

ケケケ、と意地悪い笑いを演出しつつ、意識はスリープしていたノートパソコンに向かう。

今日は徹夜というのは嘘ではなく、明日が休みである事を利用して、研究所から持ち帰った宿題を一気にやってしまおうと思っていたところなのだ。

まだわーきゃーいってるそらを適当にあしらいつつ、恭介はノートパソコンを起動させる。

 

真っ暗だったディスプレイに表示される、様々な色に彩られたCG。

灰色の面が骨組みとして描かれ、赤、青、黄色に着色された各種配線やチューブ類が縦横無尽に駆け巡っている。

ミサイルなど実弾系の武器類は深い草色で、エネルギー弾系の兵器は薄茶色。

波動エンジンとそこから伸びるエネルギー伝導管は赤銅に近いオレンジに着色されている。

 

 

「ん? なによそれ。軍艦の設計図?」

 

 

と、再びコタツに足を突っ込みながらそらがパソコンを覗き込んできた。

 

 

「あ、こら。重要な軍事機密だ、見るんじゃない」

「何よ今さら。私だってもう宇宙技研の一員なのよ?」

「いや、アレックス人でしょ。とにかく、他国に軍事機密を売る訳にはいかん」

「だから、私はもう地球人だって。第一、私からアレックスの技術を聞き出そうとしているくせに何言ってるのよ。等価交換よ、等価交換」

「あ――――――、そういやそうか。それならいいのか。……いや、いいのか?」

 

 

……そらはもう地球人としての戸籍も市民権も持ってしまっている訳だし、現に宇宙技研の技師見習いだし、ということは身内、むしろ同僚ということになるのだから見せてもOK、というか積極的に見せて意見を聞くべき?

 

 

「へー、『シナノ』の量産化ねぇ。でもあの船、見た目からして結構複雑そうな構造だけど、量産に向いてるのかしら? どう思う?」

 

 

いやいや、そらはサンディ・アレクシアの仮の姿でしかないんだし、いずれかは母星に帰らなきゃいけないだろうし、何より一国の王女だし、機密データを見せる訳には……。

 

 

《うむ、我輩もあの艦橋は雑多に過ぎるのではないかと思っていたのだ。我がアレックス星の艦はもっと曲線美が美しいデザインだったな》

 

 

ていうか、今更ながら一国の王女にあんな態度で良かったのか?

 

 

「そうね。武装も結構むき出しだし、武器としての機能美は認めるけど軍艦美としてはイマイチよねぇ。戦艦はその国を象徴する物なんだから、あんまり無粋だとその国の美的センスも問われるわよ」

《そこはその国々に固有の美的センスがあるのだから、仕方あるまい》

 

 

あとでチクられて不敬罪で銃殺刑にされちゃったりするのか? いやでも地球では一般市民扱いだから……て、人が悶絶している間に何してやがりますか。

 

 

「この波動エンジン、『シナノ』の設計を流用してるのかしら? 機関が艦体の中心にないって、被弾したときのリスクを考えたら恐ろしくてできないわよね?」

《それを言ったらうちの軍艦は皆形が平坦過ぎて、機関部の装甲という面では《シナノ》よりよほど危ないではないか》

「あれはいいのよ。危なくなったら切り離せるし、そもそも双発だからいざとなったら片肺でもワープはできるもの」

「おいこら。何人を無視して画面覗いた上に品評してやがりますか。ていうかブーケ、あんたいつ来たのさ」

 

 

いつのまにやらコタツの上に鎮座してそらと、一緒にパソコンを眺めている黒猫。

 

 

《む? 貴様が最初にドアを開けた時にチョロッとな。その後はずっとコタツの中で暖まっていたのだが、気付かなかったか?》

 

 

気づきませんでしたよ、ええ。猫の癖にどんなスニーキングスキル持ってるんだよ。

いや、むしろ猫だからスニークが得意なのか。

 

 

「ねぇねぇ、それよりこれって『シナノ』の量産型でしょ? 見せて見せて!」

 

 

技師魂をくすぐられたのか、俺の隣に寄ってきて正面からディスプレイを覗き込むそら。

ふと、なにやらいい香りがした。

 

 

「お前、分かるのか? まだ物理は教えてないと思うんだけど」

 

 

なんか、いつもにも増して目が輝いているというか、生き生きとしてないか?

俺をからかうことに全身全霊を注いでくるような奴が、俺を目の前にして別の事に熱中しているという状況に違和感を感じる。

しかも、こういう食いつきを見せる連中をどこかでみたような……?

 

 

「そんなもの分からなくても、図面を見れば大体のことは分かるわよ。文化が違っても軍艦の設計図なんて似たようなものでしょ?」

 

 

そんなものか? と首を傾げる俺と、そんなものよと断言する妹分。

 

 

「それよりも、この図面について聞きたいことが山ほどあるのよ。このサクセンシレイシツって何?」

「皆で集まって会議するところだけど?」

「じゃあじゃあ、艦首のこれは?」

「波動砲最終収束装置だな」

「じゃあ、その間にあるのは?」

「生活班ブロック」

「ここの詳細な図面ない? もっと見てみたいんだけど!」

「え~~~っと、ブーケさん?」

 

 

好奇心を前面に押し出して食いついてくるそらにちょっと引きながら、侍従兼お目付け役のブーケに助けを求める。

 

 

《あきらめろ、恭介。こうなった姫様は誰にも止められん。姫様は色んな意味で、筋金入りの探究者であらせられるのでな》

 

 

その言葉で、違和感の正体に思い至った。

そうか。目の前にある物にしか意識が向いていないこの感じ、俺や宇宙技研の奴らにそっくりなのだ。

 

 

(こいつも、姫様とかお転婆娘とか言っても、俺たちと同じ技術屋なんだな……)

 

 

懐にまで近づいてきて熱心にマウスをグリグリと動かしているそらを、気付かれないくらいにチラリと覗く。

ほんの少し、彼女に対する認識を改める。

ぶつかってばかりの彼女とも、技術屋という共通点を通じて仲良くできるかもしれないことが分かって、何故か嬉しかった。

 

 

(最初からこうならもっと早く仲良く出来たかも知れないのに、勿体無いことをしていたものだ)

 

 

今まで、彼女のお転婆な面しか見てこなかった。

人をからかって、反抗して、心の赴くままに好き勝手やってる印象しかなかったのだ。

しかし、今の彼女は元からの美貌に年相応の好奇心と快活さを加えた、とても魅力的な女性だった。

 

そらが、目を爛々と輝かせながら俺に尋ねてくる。

俺は苦笑いしながら、そらが繰り出す疑問に答えていく。

今までが嘘の様な、仲睦まじい風景。

俺はいつしか、まるで昔から本物の兄妹だったような感覚に浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~5時間後~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝になった。

 

ピッチリ締めた厚手のカーテンの隙間から、白い光が室内に入り込んでいる。

低く上る冬の日は、降り積もった雪に柔らかな陽光を降り注ぐ。

 

いつしか、雪は止んでいたようだ。

 

雪が音を吸収しているせいか、雪の冷たさ故か、いつもよりも凛然した空気が街に漂う。

スズメはチュンチュンと鳴いては木の枝から枝へと飛び移り、雪を撒き散らしていた。

 

日本の冬の原風景。

そんな言葉が良く似合う。

 

恭介とそらは生まれたままの姿で、一つのベッドでお互いを抱きしめながら寝ていた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………なんて、R―18な事が起こっていたら、まだマシだったというものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ。ここの波動エネルギー伝導管の素材なんだけど……」

「…………グウ」

「ちょっと起きなさいよ恭介、聞いてんの?」

 

 

ペチペチ

頬を叩いて起こされる。

 

 

「……もう、ベッドなんて贅沢は言わない。とにかく、寝かせてくれ……」

「何へばってるのよ。元々徹夜する気だったんでしょ? まだ朝の7時よ?」

「誰の所為でこんなクタクタになってると思ってんだ……」

 

 

穏やかな気持ちでいられたのは、最初の一時間くらいだったろうか。

いつまでも終わらない質問にこっちは段々ダレてきた。

それでも、夜中になればいい加減眠くなるだろうと踏んで、怒らずに相手をし続けたんだ。

それが延々と続いて、今は午前6時50分。

怒るタイミングを失い、いつしか体力も気力も失い、現状に至る。

 

 

《……さて、我輩はもう寝るから》

「待てい」

 

 

コタツの上から跳び下りて足元に潜り込もうとするところを、首根っこをナイスキャッチ。そのままクレーンよろしくコタツの上まで運搬する。

 

 

《何をする、恭介。我輩は暖かいコタツの中で眠らなければならぬのだ》

「俺に面倒押し付けて自分は寝るつもりか! 一蓮托生、最後まで付き合え!」

《御免蒙る! これ以上付き合わされてたまるか!》

「お前ンとこの姫様だろうが! お目付け役が目を離してどうする!」

《姫様は相手に恭介を御所望なのだ! 光栄に思って最後まで付き合え!》

「シャ――――!!」

《フカ――――!!》

「ねぇ恭介ってば、この伝導管に使ってるコスモナイトの加工なんだけど――――――」

 

 

 

 

 

 

雪明けの空は青く。

 

雪化粧を施された名古屋の街は白い。

 

今朝の篠田家は、妙に騒がしいものとなった。




執筆を始めたとき、サンディ・アレクシアの私服イメージはアイリスフィールでした。
中身が全然違うぜ、どうしてこうなった。

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