宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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『星の方舟』観ました。
過去のヤマト作品のオマージュがふんだんに盛り込まれて、でもオリジナル要素がよく混ぜ込まれていて、とても良かったですね!
これで終わりといわず、ガトランティス帝国編も作ってくれないかなぁ……。


第八話

2208年3月2日22時14分 『シナノ』医務室

 

 

「な、何者ってそら、貴女何を言ってるの? 知ってるでしょ? 私は簗瀬あかね。簗瀬由紀子の長女、地球連邦大学4年生よ?」

 

 

顔をひきつらせて何を言ってるのか皆目分からない、という表情を見せるあかね。だが、そらの厳しい視線は緩まない。

今までの友好的だった態度はどこへ行ったか、そらの言葉はどんどんと鋭利さを増していく。

 

 

「……随分と饒舌ね。『地球連邦大学の4年生』なんて情報、自己を規定するのにわざわざ言わなくてもいいことよ? 人は嘘をつくときにはよく喋るって言うけど、地球人も同じみたいね?」

「―――意味がわからない。今の私の言葉のどこに嘘があるっていうのよ? 私と母さんが親子じゃないとでも言いたいわけ?」

 

 

あかねは大げさな仕草であきれた声を上げ、かぶりを振った。

 

 

「ええ、疑っているわ。だって、貴女が由紀子の娘だとは思えないもの」

「!!」

 

 

その言葉を聞いた途端、今まで困惑交じりだったあかねの表情が一変する。

 

「由紀子の娘とは思えない」

 

それは、あかねには到底受け入れられない言葉だった。

幼いころにガミラスの遊星爆弾で父を失ったあかねは、母と兄代わりの恭介だけを心の支えに戦時下を生き残ってきた。

そして恭介が宇宙戦士訓練学校に入学してからは、文字通り母一人子一人で生きてきたのだ。

家族の絆というものに対して特別な想いを抱いているあかねは、何も知らないそらが由紀子とあかねを繋ぐ「家族」という関係を否定することが許せなかった。

 

 

「ふざけないで! 私は簗瀬あかね、簗瀬幸彦と近藤由紀子の長女! アジア洲日本国東京府白山生まれ、何一つ間違ってなんかいないわ! 証拠でもあるの? あるんなら持ってきなさいよ! そんなに疑うなら、戸籍でもDNAでも調べてみなさいよ!」

 

 

激昂したあかねは目を吊り上げて視線を向ける。

視線がぶつかりあって火花を上げた。

 

 

「そんなことをしなくても分かるわ。アレックス星第一王女サンディ・アレクシアの名にかけて断言する。貴女は、地球人ですらない」

 

 

それを聞いたあかねは、

 

 

 

 

 

パァン!

 

 

 

 

 

激情に身を任せて右手を振り抜いた。

金糸のような髪がさらさらと流れて、サンディの左頬を覆う。

 

しばしの間、沈黙が場に流れる。

片や興奮に肩をいからせて息を荒げ、片や頬を叩かれた姿勢のまま彫像のように動かない、対称的な両者。

 

 

張り詰めた硬直は、あかねが胸の怪我の痛みに耐えかねてベッドに崩れ落ちるまで続いた。

 

 

……やがて、髪の隙間から覗いたそらの瞳があかねを捉える。

あかねの憤怒の顔は、視線だけで人を殺せるのではないかと思わせるほどだ。

視線をぶつけるのは一瞬、そらはゆっくりと瞼をつむる。

一息吐いて気持ちを抑えつけた彼女が再び向けるは、先ほどとは打って変わって眉間の皺を緩めた同情的な視線。

 

 

「あかね……本当は自分でも気づいているんでしょう? いいえ、気付いてないはずないわよね? 貴女は聡い娘だもの」

「だから、さっきから何なの!? 意味がわからない!」

 

 

あかねはシーツの上に這いつくばって胸の痛みをこらえながら、それでも髪を激しく振り乱して拒絶する。

 

 

「貴女には重大な秘密がある。それは、私にとってはとても重要なことなの。私は、どうしてもそれが知りたいの」

「奥歯に物が挟まったような言い方しないで、ハッキリ言いなさいよ!」

 

 

あかねを刺激しないように、抑揚を抑えた声で問いかける。

しかし、普段ならまだしもそらの許せない一言のせいで興奮状態にあるあかねには、そらの態度は余計に神経を逆なでするものでしかなかったようだ。

 

 

「ハァ……本当に気付いていないの? それとも、現実から目をそむけてるだけ? ……いいわ、ハッキリ言ってあげる」

 

 

そらは鈍痛にうめき苦しむあかねのすぐ隣に座り、彼女の右肩にかかっている髪をひと房掬いあげる。

そして自分の左肩の髪もひとつまみし、手の上で並べて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――貴女、いつの間に髪を金色に染めたわけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決定的な一言を放った。

 

 

 

 

 

 

「貴女、ついさっきまで黒髪だったでしょ? それこそ、コスモハウンドが落とされるまでは。手術のついでに染めてくれるように医師に頼んだのかしら?」

 

 

あかねは俯いたまま動かない。

手に取った髪をあかねに見えるように目の前に突きつけてやると、つらそうに顔をそむけた。

やはり、気付いていないわけがないわよね。

気付いていて、何らかの理由で隠した。―――その理由のひとつは、すぐに想像がついた。

恭介に嫌われたくなかったのだ。

 

 

「初めて私達が会ったとき……恭介、あかねが髪を染めて不良になっちゃったって騒いでたわよね? 今の貴女を恭介が見たら、どう思うかしら?」

 

 

ヒントは至るところにあった。

私がこの場所で初めて恭介とあかねに会ったとき。

のちに恭介が言うには、あかねの前髪の根元が金色になっていたのを見て、不良になってしまったと勘違いしていたらしい。

その話を聞いたとき、そらは「あんたバカ?」と一笑に付しただけで深く考えなかった。

だが、今にして思えばそれは兆候だったのだ。

 

 

「今の貴女の髪は、私が見てきた地球人のそれとは全く種類の違うものだわ」

 

 

地球に戻ってからの驚異的な学力の向上。一緒にいると稀に目撃する、瞳の淡い発光。

それが一般的な地球人とは大きく違う特徴であることに、アレックス星人のそらは気付かなかったのだ。

 

そして、今日の事件だ。

 

 

「これを見て」

 

 

そらは左手に乗せた二人の髪に右手の影を被せる。

 

 

「……」

 

 

茫洋とした瞳で視線だけを向けるあかね。

彼女の見る先。そらが翳した手の中で、麻を裂いて並べたような美しい二人の髪が自ら輝きを発している。

 

 

「私の知る限り、地球人の髪は自ら光を発することはない。いいえ、地球人だけじゃない。私が生まれたアレックス星の民も、こんな風になることはないわ。ただ一つの例外を除いてね?」

 

 

私の言いたいことは分かるわよね?と言外に問いかける。

 

 

「光る髪は、私を含むアレクシア王家の血を受け継ぐ者だけに現れる身体的特徴。私の国ではこれが王家の正当性の象徴であり、光の強さが血の濃さを表しているの」

 

 

改めて、掌で月光のように煌々と光る二人の金糸を見る。

あかねの髪はそらと同じくらい、否、そらの髪よりも強い輝きを発している。

それが示しているのは、アレクシア王家の第三王女であるサンディよりも、あかねの方が王家の血が濃いということだ。こんな奇妙なことはない。

 

 

「あかね。地球人の貴女が何故、遥か26万光年彼方の私達と同じ特徴を持っているのかしら?」

「それは……」

 

 

実のところ、この質問でははぐらかされる可能性もあった。

そもそも、26万光年彼方の地球人とアレックス人が同じ姿形をして極めて似た文化文明を持ち、こうして地球人の中に混じって生活できていることが奇跡的なのだ。

あかねの髪だって奇妙な偶然だと押し切られてしまったら、そらは反論する術をもたない。

だが、激しく動揺している今のあかねならば、聞き出せるのではないかと思っていた。

 

 

「コスモハウンドから吹き飛ばされて、私とあかねはヘルメットを付けないまま空気のないゼータ星の大地に投げ出された。アレクシア家の人間は、ある程度の時間ならば宇宙空間でも無酸素で活動できる。だから私は助かった。でもね? 純粋な地球人であるはずの貴女は、5分と経たずに死んでいるはずなのよ」

 

 

真綿に水を含ませるように、じっくりと言葉を沁み渡らせる。

 

 

「これらの事が示すのはただ一つ。あかね、貴女は私達アレクシア王家ととても近い血縁関係にある。いいえ、生き別れた実の姉だといわれても、私は何の疑いもなく受け入れる自信があるわ」

 

 

現状に不満があるわけではない。

地球の人々は私を受け入れてくれるし、簗瀬家は私を家族に迎え入れてくれた。

しかし、やはり私はアレクシア王家の人間であることを完全に捨てきることはできない。

その意味では、私はどこまでも天涯孤独だ。

だが、地球に私に繋がる人がいるとなれば、たとえそれがどんなに遠縁であろうとも、私の心は本当の意味で安息を得るのだ。

それがあかねならば、どんなに嬉しいことだろうか。

 

 

「だからお願い、教えて。貴女が本当は何者なのか」

「……私、は」

 

 

あかねが私を見る。

先程の獰猛といえる敵意むき出しの表情はどこへやら、心ここにあらずといった曖昧な視線。

私の言葉に心当たりがあるのか、葛藤しているのがわかる。

あかねの視線を受け止め、目を逸らさずに無言で見つめあう。

彼女の心が落ち着くのを、辛抱強く待つ。

唇が、ゆっくりと動いた。

 

 

「私は……自分が誰なのか、分からない。分からなくなったの……」

 

 

零れ落ちた一言とともに、目尻から一筋の涙が流れて頬を伝った。

 

 

「分からない?」

「―――私は、簗瀬あかね。生まれてからずっとそう言われてきたし、私もそうだと思って育ってきたわ。でも、でも…! 私、最近おかしいの。私が私じゃないみたいな感じ、私の中にもう一人の私がいるような感じがするの!」

「………もう一人の、あかね」

 

 

思わずオウム返しに聞き返す。

 

 

「夢を見たの。そらにそっくりな人が出てきて、自分の最後の記憶だとかいうのを見させられたり、今までもこれからも隣に在り続けるとか。あの人はそらじゃないの? 貴女が、アレックス人の超能力か何かで私に見せた夢じゃないの?」

 

 

あかねは一縷の望みを託すような弱々しい眼差しで、私を見つめてくる。

にわかには信じられない話だが、嘘を言っているようにも思えない。

だが、あかねの話はそらにとっては予想外のことで、困惑を隠せない。

出自の秘密を聞けるかと思ったら、二重人格疑惑?

ということは、あかねは本当に由紀子からは何も知らされていないってことだろうか?

万事うまくはいかないものだ。

 

 

「―――いいえ。アレクシア王家に、そういった精神干渉の超能力を持った者が現れたことは一度もないわ」

「だったらなんなのよ、あの女……もういや、何が何だかもう分からない……」

 

 

あかねははらはらと涙を散らし、そらに縋りついてくる。

悟られないようにひとつ溜息をついて、背中にまわした両手で力なく抱きとめた。

あかねがダメでも、もしかしたら恭介が知っているかもしれない。恭介も知らないようだったら、由紀子に直接聞くしかなさそうだ。

どちらにしても、あかねが私と血の繋がりのある存在であることはほぼ間違いない。

 

腕の中で嗚咽を漏らすあかねを抱きしめながら、そらは沈思黙考する。

 

地球人の簗瀬家がアレクシア王家と何かしらの関係があるのだとしたら、そこからイスカンダル星に関する手掛かりが掴めるかもしれない。始祖星はもうこの宇宙に無いが、そらと祖を同じにする星が、この天の川銀河のどこかに存在する可能性は、十分に考えられる。

そうしたら、その星に頼んでアレックス星へ救援を頼めるかもしれない。

 

 

「あかね、夢の中の私にそっくりな女の人について、他に何か分かったことはない?」

 

 

更に情報を仕入れるべく、あかねを刺激しないように優しい声色でそらは問いかける。

 

 

「……そういえば、自分の名前を名乗ってたわ。確か―――」

 

 

だが、あかねが告げたその名前に、そらは思わず驚愕の声を上げた。

 

 

 

 

 

 

3月2日 16時58分 天の川銀河外縁部うお座109番星系第4惑星

 

 

どこまでも続くトンネル内に、キュラキュラとキャタピラの音が響く。

灯火のないまっすぐな搬入路を、1台の車両がヘッドライトを点けてひた走る。

装軌装甲車に単装ミサイル砲を二基装備した兵員輸送車には、空間騎兵隊と同じ宇宙服および装備を身に纏った一団が搭乗している。しかし、その色は闇夜に溶け込むことを目的とした艶消しブラックに塗り直されている。

アメリカ宇宙軍特殊部隊、SEALS(SEa,Air,Land,outer Space)。『ニュージャージー』が調査船団に加わるにあたり新たに乗艦した、空間歩兵戦闘を専門としたプロフェッショナルである。

もっとも、その実態は空間騎兵隊出身の米国軍人を再訓練しただけのやっつけ仕事だ。

 

SEALSが潜入しているのは、ゼータ星に遅れること1時間後に第4惑星にて発見された無人要塞2019号。外側からの破壊を行った『シナノ』と違い、『ニュージャージー』は内側からの破壊を画策しているのだ。

侵入経路は、籠手田と白根が命がけで発見した資材搬入路。『シナノ』が行った要塞攻略戦の情報を基に、米国艦隊は安全かつ最小限の資源投資で巨大な敵を内側から攻略しようというのだ。

 

2基のミサイル発射ドームはひっきりなしに砲身を振りかざし、どこから攻撃を受けても対処できるように警戒を怠らない。

事前に齎された情報により無人である可能性が極めて高いとはいえ、トラップの類がない保証はどこにもない。

やがて輸送車は、陸上競技場ほどはあろうかという大きな空間に出る。その中心に聳える樹木状の蓄電機の前で停車し、暗視装置をかけた隊員が音もなく下車する。下車口を中心に扇状に展開して全周警戒に移った。

やがて異状がないことを確認すると、兵士達はようやく銃を下ろして緊張を解く。

フルフェイスに髭を蓄えた壮年の男―――隊長のマイケル・ヒュータが、物言わぬ大樹を見上げながらヘルメットの右耳を押さえ、無線を開いた。

 

 

「セイバーリーダーよりホームタウン(ニュージャージー)。情報の通り、トンネルの最奥に『大樹』を発見した。周囲に敵影は無いが、『大樹』は沈黙している模様。予定通り、破壊作業に入る」

『ホームタウン了解。要塞としての機能が停止すればいい、破壊箇所は最低限にな』

 

 

マイケルは逆手に持ったライトを正面の蓄電施設にかざす。壁や天井からはケーブルとも排気口とも見分けがつかないほどの太い管が伸びて、眼前の蓄電池に繋がっている。そのいずれからもわずかなエネルギー反応が検出されていた。

 

 

「どうやらここには、他のバッテリーに溜められた電力が集まるようです。ここから要塞に伸びているケーブルを特定すれば、機器には手を付けずに沈黙されることができそうです」

 

 

古樹の周囲を音もなく歩きながら、ライトは蓄電施設の根元を照らし出す。そこには、人間が丸々納まりそうな程の太さの電気ケーブルの束。ケーブルの行き先を視線で追いかけると……どうやら、天井のケーブルで送られた電力が大樹で収束し、根元から要塞本体へ送られているようだ。

 

 

「頼んだぞ。他国がまだ手に入れていない白色彗星帝国の技術は、合衆国の繁栄には必要不可欠だ。何としても無傷で手に入れたい」

「了解、通信アウト」

 

 

ガガッという雑音で無線が切れる。その間にも、7名の部下は持ちこんだ紡錘状の爆弾を取り出していた。

 

 

「よし、総員聞け。見たところ、『大樹』は暢気に大いびきをかいて寝ているようだ。起きないうちに枝と根っこを同時に斬り落として、こいつをトーテムポールに彫刻してやる。作業にかかれ!」

 

 

ヘルメット越しに響くくぐもった笑いとともに、SEALSの隊員は散開してスラスターを噴かす。

比較的地球に近い重力にも関わらず、力強い炎と共に隊員達は天井に伸びるケーブルに難なく辿り着いた。

 

 

「しかし、この『大樹』ってのは異様だな……まるでどっかのお伽噺に出てくる豆の木みたいじゃないか。ガトランティスの野郎にしては随分とメルヘンというか、生々しいデザインだ」

「ガトランティスが征服した星が由来の兵器、なのか? 使われているのはガトランティスの文字にしか見えんが」

 

 

マイケルの独語に、背が高くて浅黒い肌の男―――副官のスティーブ・ダグラスが秘匿回線で応えた。スティーブは他の隊員とは別に、コンソールを操作して機能停止できないかを試している。

 

 

「ああ、案外ガミラスあたりから技術提供があったのかも知れないな。ガトランティスとガミラスは一時手を組んでたというし」

 

 

銃を背中に回して両手を空けたマイケルは、スティーブの隣の席のコンソールをリズムカルに叩く。

二人は、ガトランティスの言葉と文字を翻訳機を使わずに解することができる米国では数少ない人材だった。

 

 

「セイバーリーダー。結局、ホームタウンからの情報は正しかった訳だが……情報の出所はどこなんだ? 未知の存在であるはずの無人要塞にこれほど大規模な蓄電施設があるなんて、外からの観測だけじゃ絶対に分からないはずだが?」

 

 

スクロールしていくガトランティス文字を眺めながら、スティーブは尋ねた。

 

 

「ああ、それか。あれは艦長から直接聞いたんだ」

「艦長が? 本国の資料室とか艦内のデータベースではなく?」

「ああ、艦長が直接資料を持ってきてくれたよ。……駄目だ、パスワードが設定されてる。こいつは本職が本格的に解析しないと、この場じゃ機能停止できない」

 

 

二人が相対するディスプレイに映るのは、パスワードの入力を求めるガトランティス文字。

 

 

「畜生、こっちもプロテクトがかかってやがる。……セイバーリーダー、君の言ってることは答えになってない。艦長はどこから情報を手に入れたんだ? 艦長はガトランティス星人に知り合いでもいるのか?」

 

 

コンソールが乗っているテーブルを苦々しげな表情で蹴飛ばしたマイケルは、スティーブの疑問を鼻で笑う。

 

 

「まさか、あの血気盛んな艦長がガトランティス人と仲良くできるとは思わんな。出会った瞬間にコスモガンを口ン中に捻じ込んでる姿が容易に想像できる。セイバーリーダーより各員、爆弾の設置は済んだか? システムの停止は失敗した、予定通り彫刻作業に入る。タイマーは60秒にセットしろ」

 

 

リーダーの号令一下、8名はタイマーをセットした爆弾をケーブルに張り付け、身を翻して兵員輸送車へと舞い戻る。

最後に搭乗したセイバー7とセイバー8がハッチを閉じると、全速力で大広間からトンネルまで後退した。

鉄製のキャタピラが路面―――コンクリートに似た外見だが素材は分からない―――を噛み砕き、ボーダー柄の轍を刻みつける。

ガタガタと激しく揺れる車両の中で、一番奥の席に向かい合って座ったマイケルとスティーブは、先ほど中断した話題を再開させた。

 

 

「で、マイケル。結局のところ、艦長が持ってきた情報の出所は? 信頼できる所からのネタなのか?」

「なんだ、やけにこだわるなスティーブ。俺がNeed To Knowと言ってしまえばそれまでだぞ?」

「お前こそ分かって言ってるだろう、マイケル。ガトランティスに無人要塞があったなんて、俺は初耳だ。それなのに、蓄電施設に繋がるトンネルの存在を艦長は知っていた。合衆国が掴んでいる情報を俺が全部把握しているなんて言うつもりはないが、こいつが不自然だってことぐらいは分かるぜ」

「……それを知ったところで、お前に何の得もしないぞ? 余計な面倒に巻き込まれる可能性は大いにあるが」

「俺はセイバー2、隊の副官だ。隊長の予備として、全てを知っておく必要がある。お前を支えるためにもな」

 

 

そう言うと、有無を言わさぬと言わんばかりの表情でスティーブはマイケルに迫る。

その真剣な眼差しを受け止めたマイケルは、左腕の腕時計を確かめる。

爆弾にセットしたタイマーがそろそろ切れることを確認すると、「やれやれ」と肩を竦めた。

手招きしてスティーブとヘルメット越しに顔を突き合わせると、マイケルは声を潜めてネタばらしを始めた。

 

 

「……今日の1500時頃、ゼータ星で日本の空母『シナノ』が無人要塞の襲撃を受けた。降下していたコスモハウンドが撃墜されて死傷者が出たが、1630時頃、ゼータ星調査団の艦艇と艦載機隊の攻撃によって、要塞は破壊された。艦長がよこした情報は、彼らがそのときに得たデータだ」

 

 

思いがけない情報に、スティーブは目を丸くする。

 

 

「おいおい、ここ以外にも無人要塞があったなんて、そんな重大な事実聞いていないぞ。しかも、とっくに解決しちまってるじゃねぇか。そんな事件が起きていたのなら、間違いなく館内放送で周知されているはずだ。……いや。そもそも、そのこと自体は別に秘匿するようなことでもないだろう?」

「いいや、問題さ。今、自分で言っただろう? ゼータ星調査団からは、まだ要塞撃破の報告はされていないんだ」

「は? そんな訳ないだろう。報告が上がっていないなら、艦長はどうやって……おいおい、それってまさか」

 

 

スティーブは自分が考え至った推測に、息を飲んで驚きを露わにした。

察しのいい副官に満足感を覚え、マイケルは意味ありげな笑みを浮かべて頷く。

 

 

「ま、そういうさ。……そろそろ時間だ。Make, my, day」

 

 

刹那、『大樹』に仕掛けられた爆弾が一斉に起爆し、名状しがたい衝撃波が二人の乗る兵員輸送車を激しく揺さぶった。




話の後半は、映画『ネイビーシールズ』を観ていた頃に書きました。
アメリカ人のユーモアセンスは難しいですね。

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