宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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艦これに信濃が出ないかなぁ。そうすれば、シナノin艦これを作れるのに。


第九話

2208年3月5日23時30分 うお座109番星系第七惑星周辺宙域

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト2199』より《草原》】

 

 

ミルクを入れて掻き混ぜているコーヒーカップの中に顔を突っ込んだら、こんな光景が見られるのだろうか。それとも、コーヒーキャラメルの中に閉じ込められたら、こんな景色だろうか?

焦げ茶色、黄土色、灰色。それらが幾筋もの帯となって眼前を右から左へ猛スピードで流れている。ずっと見ていたら目が回って酔ってしまいそうだ。

ここからは漆黒の宇宙空間もガラスをばら撒いたような星々の瞬きも見えない。何故なら、目の前に鎮座坐します巨大惑星が視界を遮っているからだ。

現在、戦艦『エリス』、『ストラブール』、空母『シナノ』、『ニュージャージー』、『ペーター・シュトラッサー』の五隻はうお座109番星系第七惑星『スティグマ』を周回する小さな岩塊の影に隠れ、ひたすらに出番を待っていた。

 

 

「こんな作戦で上手くいくんかねぇ……」

 

 

坂巻が暇そうな声でボヤく。

操縦桿を握る北野も、いまいち得心がいかないといった表情で同意した。

 

 

「ええ、まったくです。そりゃ上手くいけば一網打尽ですけど、下手すれば各個撃破されますからね」

「囮になる水雷戦隊が不憫だぜ……」

 

 

両手を頭の後ろに回し、退屈しのぎに椅子を揺り籠のように揺らす坂巻。

 

 

「坂巻、北野。馬鹿なことを言ってないで仕事に集中しろ。見ろ、島津機関長を。さっきから黙々と自分の仕事をこなしているじゃないか」

 

 

南部は二人を窘めて、視線を落としている島津機関長を指差した。

 

 

「………え?」

「見ろ、仕事に集中しすぎて俺達の会話も聞こえていないじゃないか」

「南部さん、今のは褒めていたんですか?」

 

 

館花の呟きを、南部は聞かなかったことにした。

 

 

「でも南部さん。仕事って言ったって、敵さんが来るまでは俺達なんの仕事もないっスよ?」

「第一、僕も坂巻さんも波動砲を撃った後じゃないと本格的に動けないんです。むしろ南部さん仕事をしてください」

 

 

坂巻の軽口はともかく、北野からのおもわぬ苦言にたじろぐ南部。

とはいえ、南部にしても敵が現れてくれないことには何の手の打ちようもなかった。

南部は今一度、進行中の作戦の内容を思い出す……

 

 

 

 

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト2199』より《ファースト・コンタクト》】

 

 

「地球からわずか2000光年の位置に、ガトランティスの無人要塞が2基も発見された。この事実は、平和の惰眠を貪っていた我々の目を覚ますには、十分すぎる衝撃だ」

 

 

第三辺境調査船団司令、アナトリー・ゲンナジエヴィチ・ジャシチェフスキーのこの発言が、会議に集まった者達の心情を的確に表していただろう。

『シナノ』『ニュージャージー』の報告を受けて、司令部は全艦を『エリス』の下へ集合させ、船長・艦長を集めて対応を協議した。輸送船団側からの強い要望もあって、109番恒星系の完全な安全が担保されなければ、資源調査も開拓もできないという結論に至った。そして、星系内に潜んでいると思われる敵勢力を掃討すべく、艦隊を挙げての大捜索が始まったのである。

 

効率の面を考えれば分散して索敵するのが一番なのだが、会敵した際に集中砲火を受けることを危惧して、艦隊も船団も引き連れた大所帯での行動となった。

捜索対象の星に接近するとまずは太陽が当たっている昼間の星を遠距離から観測し、敵艦隊や無人要塞の有無を調べる。影になっている夜の部分の捜索は、各空母より派遣されたコスモタイガー隊が担当した。

 

変化が現れたのは、2日後のことだ。

地球標準時間5日18時14分、第七惑星『スティグマ』の地表を索敵中の「ペーター・シュトラッサー」艦載機隊の一機が、準惑星ゼータ星方向の空に、青い光が多数出現したのを目撃した。パイロットはすぐに母艦に打電、光の正体を探るべくゼータ星へ向かったが、ゼータ星周辺宙域で消息を絶ってしまう。

調査団司令部はこれを109番恒星系に駐留する敵艦隊による攻撃と推定したが、対応については意見が真っ二つに割れた。

 

ひとつは先制攻撃を行い、これを殲滅する案。

もうひとつは、ひとまずここは戦わずにやり過ごして、しかるのちにタキオン通信で地球に連絡を取って連邦政府の判断を仰ぐ案。

 

調査船団の護衛である本艦隊は、当然ながら遭遇した敵を実力で排除することが認められており、またそれが任務である。

さらに、ガトランティス帝国前線基地である旧テレザート星宙域の威力偵察も任務に含まれていることを考えると、ここで戦闘を仕掛けるのは決して間違いではない。

 

しかし一方で、この一戦がガトランティス帝国との全面戦争の発端になるのではないかという意見もある程度の説得力を持っていた。

『シナノ』『ニュージャージー』が冥王星宙域でガトランティス艦隊と遭遇戦を繰り広げてから、五ヶ月が経とうとしているが、ガトランティス側が報復に出るといった行動は見受けられていない。敵艦隊の一部は生きて戦闘宙域を離脱しているので、ガトランティス側が戦闘の事実を知らないはずがない。しかしながら今もって艦隊が太陽系に来寇してないのは、少なくとも現状で地球と事を構える気はないということではないか。

しかし今ここで再び戦端を開いたら、ガトランティスもやられっぱなしというわけにはいくまい。今度こそ艦隊を率いて侵略しにやって来るだろう。第三次環太陽系防衛力整備計画が主力戦艦の事故により暗礁に乗り上げている現在、2201年侵攻時と同等の規模で攻め込まれたとき、果たして地球防衛艦隊は勝てるだろうか。

 

喧々囂々の議論の末に、ジャシチェフスキー司令が支持したのは決戦論だった。司令は昨年10月の時点で既にガトランティスとは交戦状態にあること、偵察機が既に敵に撃墜されていること、威力偵察が戦闘を前提とした任務であること、109番恒星系の航路安全の為にはガトランティスの影響力を完全に排除する必要があることを理由として挙げ、ゼータ星宙域に現れた敵艦隊は殲滅させなければならないと宣言した。

 

とはいえ、こちらは非武装の輸送船団を抱えている上、圧倒的に戦力が不足している。

輸送船団は2隻の駆逐艦による護衛の下、恒星周辺の宙域へと避難することになった為、作戦に参加する艦艇は以下のとおりである。

 

アンドロメダⅡ級戦艦『エリス』

リシュリュー級戦艦『ストラブール』

前期量産型無人戦艦『アスカロン』『ネグリング』

空母『シナノ』『ニュージャージー』『ペーター・シュトラッサー』

第一世代型巡洋艦『すくね』『ブリリアント』

第二世代型巡洋艦『デリー』『クォン・イル』『キー・ルン』『チェンクン』

第一世代型駆逐艦『ズーク』『パシフィック』

第二世代型駆逐艦『カニール』『ラジャ・フマボン』

 

調査船団の護衛としては過剰である艦隊編成だが、敵艦隊と正面切って戦うにはいささかバランスを欠いた、いかにも寄せ集めですと言わんばかりの編成。さらに悪いことに、主力艦の多くは実戦経験が乏しかった。

対して、偵察機が発見した青い光―――ワープアウト時に発生する光と思われる―――の数は50を超えていたらしい。一撃だけ加えて反撃される前にさっさと逃げる威力偵察と違って、がっぷり四つに組む砲撃戦では絶対に勝てないだろう。

そこで司令部が目を付けたのが、第七惑星『スティグマ』だった。

茶褐色の分厚い大気を抱え込んでいるのが特徴の『スティグマ』は、木星型惑星に分類される大型ガス惑星だ。その周囲には数多くの衛星や、環という程ではないが数多くのガスや粒子が赤道上空に浮遊している。ここで敵にアンブッシュを仕掛けるのだ。

 

作戦はこうだ。まず、陽動部隊が敵艦隊と接触し、注目をひく。陽動部隊は戦闘を継続しつつ退却し、『スティグマ』の衛星のひとつに隠れている主力艦隊の鼻っ面まで引き付ける。敵艦隊が無防備な横っ腹を見せて眼前を通過するのを見計らって、波動砲で串刺しにするのだ。

 

ちなみに南部が艦長から作戦を聞かされた瞬間、名古屋の居酒屋『リキヤ』で食べた鰻の蒲焼き(合成品)を思い出したが、口には出さなかった。

 

陽動部隊は無人戦艦『アスカロン』『ネグリング』を中心に、巡洋艦および駆逐艦が帯同して艦隊の体裁を整える。無人戦艦は人的被害を気にせずに心置きなく使い潰せるし、巡洋艦や駆逐艦はその速力と機動力で追撃を躱してくれるだろう。最悪、無人戦艦を置き去りにして逃げてしまってもかまわない。

波動砲を撃つ奇襲部隊は、大火力で小回りの利かない戦艦と空母が担当している。艦載機隊は既に発艦して、付近の岩石群の中で待機中だ。波動砲で撃ち漏らした残敵を掃討する役目を担っている。

 

司令部の命令を受け同日20時00分、護衛艦隊各艦は与えられた役割に従って『スティグマ』の周辺宙域に展開した。

それ以来、陽動部隊が敵艦隊に接触するのを待ち続けているのだが……

 

 

 

 

 

 

「確かに北野の言う通りだが、陽動部隊からの連絡が一向に来ないからな…」

 

 

作戦開始から既に3時間が経過しているが、波動砲の発射どころか陽動部隊が接敵したという連絡すら入って来ず、誰もが時間を持て余していた。

 

 

《こら貴様ら、ちゃんと仕事をせんか。姫様の御召艦で怠慢は許されんぞ。姫様の名誉に傷がつく》

 

 

その時背後から聞こえてくる、なんとも偉そうな声。

この艦で芹沢艦長と本間先生以外にこんな上から目線で、しかも何かと「姫様、姫様」と話すのは、一人―――いや、一匹しかいない。

振り返ると案の定、艦長席に招き猫の如く鎮座している侍従猫ブーケがいた。もはや、猫が第一艦橋にいても人語を話していても誰も驚かない。

 

 

「ああ、モフモフ……渋いオジサマヴォイスなのにモフモフ……抱き上げたらどんな反応するんでしょう……!」

 

 

そしてブーケが来て以来、陶酔した吐息交じりの声を漏らしている葦津綾音には、誰もが見て見ぬふりをしている。

17歳で老描がストライクゾーンとは、なかなかのつわものだった。

 

 

《これ芹沢、目の前で部下がサボっておるぞ。そなたの教育が足らんのではないか?》

「いやはや、これは申し訳ないブーケ殿」

 

 

黒猫のまるで小姑のようなお小言には、芹沢艦長も苦笑いするしかない。帽子を目深に被り直して口元を緩ませるばかりだ。

 

 

「あれ、ブーケさん、こちらにいらっしゃって大丈夫なんですか? サンディさんは病院船に乗って退避しているんですよね?」

 

 

来栖が言った通り、現在この艦にサンディ王女はいない。

作戦開始に当たり、サンディをはじめ先の無人要塞攻略戦で負傷した者は輸送船団に同行している病院船『たちばな』に移乗して退避しているのだ。

篠田の妹が二人ともいなくなって、篠田……よりも武谷や成田といった宇宙技研のメンバーがこの世の終わりといわんばかりに落胆していたのは御愛嬌だ。

 

 

《うむ、我輩も姫様に同行したかったのだが、姫様にこちらに残って助言をするよう仰せつかったのだ。彼奴らとの戦争は我輩たちの方が年期が入っているから、とな》

「そうですか、ブーケさんがいれば安心ですね!」

 

 

鷹揚に答えるブーケに、来栖が表情を明るくする。

 

 

「そんなこと言ったって、そらちゃんがいないんじゃ御召艦でも何でもないじゃ《おい若造、爪の露と消えたいか?》……いえ、なんでもありません」

 

 

小声でグチグチと呟いていた坂巻は、音もなく近づいて肩口に飛び乗ったブーケの一言で沈黙した。隣を見れば、北野が何事か言いかけていた口を押さえていた。

 

 

「ブーケ、そら君の容体は?」

《問題ない。今回は大事をとって安静にしていただくよう強く言い含めたが、今はもうベッドにいらっしゃるだけで普段通りのおてんば姫だ。……まったく、曲がりにもお怪我を召されているというのに、ご自愛というものを知らなくて困る》

 

 

南部の質問に、侍従猫は疲れたように頭を垂れて答えた。

ブーケは昔からこんな風にお姫様に振り回されているのだろうかと思うと、少々同情を禁じ得ない。

南部は気になるもう一人の怪我人についても聞いてみる。

 

 

「……あかね君はそら君と一緒に?」

《うむ、あかね嬢は姫様の隣のベッドで静養している。恭介と離れ離れになってか、随分と落ち込んでおったぞ》

 

 

初々しいのう、と目を瞑って前足で顔を洗う老猫。

その様子を見るに、あかねちゃんの怪我の方も大したことはないようだ。

「恭介と離れ離れ」ということは、篠田は艦に残ったのか。あいつも怪我をしているはずだが、意外と根性があるもんだ。

 

 

「ま、あいつの場合それだけじゃないんだろうけどな」

 

 

誰にも聞こえない声で、篠田に同情の言葉を漏らす。

簗瀬あかねの異常―――尋常ならざる回復力と発光する金色の髪については、今のところ艦長と南部、篠田、医療班、そしてブーケが知っている。事が事だけに艦内に周知するわけにもいかず、怪我を理由に面会謝絶にして秘匿しているのだ。彼女の異常を知っている者には艦長が緘口令を敷いた。

 

そら君が主張するように、その神々しい輝きはアレックス星人の特徴とうりふたつに見えるが、両者に関連性があるかどうかは何とも言いようがない。

原因についても全く見当がつかず、そら君があかね君に何か影響を与えたのか、あかね君自身に原因があるのかすら分からない。

重度のシスコ……妹愛の篠田が、自分の義妹は宇宙人の子孫だったかもしれないとなれば、それは衝撃的だろう。南部や藤本はサーシャ=真田澪という実例を知っているからもはや驚かないが、宇宙人との接触経験がほとんどない篠田にとってはなかなか受け入れがたい出来事に違いない。

心の整理がつかないうちは、互いに顔を合わせづらいのかもしれない。

 

一時は大分近づいたように見える二人の距離だが、もしもこの一件で大きく開いてしまったのなら、陰ながら見守って来た立場としてはとてもつまらな……もとい、お互いに不幸なことだ。

この一戦が終わった後、二人がまた心を寄せあえるようになればいいのだが―――

 

と、そこまで考えて南部ははたと気がついた。

 

 

「……そういえば、二人が艦からいなくなったらコスモクリーナーEの操作と整備は誰がやるんだ?」

 

 

南部の疑問に答える者はおらず、ただ虚空へと溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

同日同刻 第七惑星『スティグマ』 周辺宙域

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト2199』より《サスペンス(動揺)》】

 

 

ガーリバーグが予想した通り、地球艦隊出現の報にダーダー司令は食いついた。

ラルバン星からの通信を受けてすぐに、カーニー率いる偵察部隊51隻を分遣隊としてうお座109番星系に送り出すことを決定したのだ。

ズウォーダー大帝の仇であり義弟ガーリバーグがその威を恐れて手出ししなかった地球艦隊を殲滅することは、ダーダーの政治的立場を大いに向上させるものであり、またダーダー個人の優越感を大いに満足させることだろう。

地球艦隊の規模がわからないとはいえ艦隊の五分の一もの数を惜しみなく動かしたのは、彼が地球艦隊を警戒しているからでも大帝の仇を確実にとるためでもなく、単に圧倒的多数で敵を袋叩きの嬲り殺しにするさまを見たいという嗜虐趣味によるものだった。

 

分遣隊の編成は以下の通りである。

 

高速戦艦16隻

高速中型空母6

高速駆逐艦重装甲型20

潜宙艦6

ミサイル潜宙艦3

艦上偵察機 デスバテ―タ―(偵察機仕様) 36機

艦上攻撃機 デスバテーター 133機

 

このうち高速戦艦とは大戦艦を軽武装軽装甲、高速力にマイナーチェンジしたものだ。主力である10連回転砲塔3基、舷側7連回転砲塔4基はそのままに、対空用の小型回転砲塔を6基に抑えることでさらなる高速機動戦闘が可能になった。これによって高速駆逐艦とともに哨戒任務につくことが可能になり、察知した敵に対して本隊の到着を待たずに攻撃を仕掛けることが可能になった。

 

高速駆逐艦重装甲型は、高速戦艦とは逆に兵装を外して発生する余剰重量を装甲にあてたもので、高速駆逐艦の弱点だった脆弱性を多少なりとも補う造りになっている。

 

またミサイル潜宙艦とは、潜宙艦の艦首に破滅ミサイル一基を外装したものだ。艦首魚雷発射管が無くなった代わりに大量破壊兵器を運用できることになったため、ステルス性能を生かして敵の哨戒網や防衛ラインの内側に浸透突破して敵の中枢施設やウィークポイントに壊滅的ダメージを与えることができるようになった。

 

これらの改装艦はすべて、アリョーダー司令率いるアンドロメダ座銀河方面軍が提供してくれた現地改装型の設計図に基づいて修理・改造されている。ダーダーが僅か四ヶ月で250隻の戦力をそろえた背景には、アリョーダーの技術提供の貢献が大きかった。

これらの改装艦に加え、索敵能力が高く運用に幅が利く高速中型空母と高速駆逐艦を加えた偵察部隊は、フットワークの軽さと火力を兼ね備えたバランスのとれた艦隊編成となっている。

 

さて、ダーダーの命を受けたカーニーは艦隊編成のうえ翌4日にアレックス星攻略部隊から離脱、5日18時14分、敵艦隊がいたというゼータ星宙域にワープアウトした。

まもなく敵の偵察機らしき機体の接触を受けたことを以て、カーニー司令はそう遠くない場所に敵がいることを確信した。

 

偵察機が飛来してきた惑星『スティグマ』へと敵を求めて進軍すると、果たして23時30分、艦隊を先行していた潜宙艦『ドロミエギア』から待望の一報が入った。

 

 

「『ドロミギア』より通信、『敵艦隊発見』!」

「かかったか!」

 

 

通信士の報告に、旗艦である高速戦艦『パナエオーディア』に座乗するカーニーは待ちわびたとばかりに喜色を浮かべた。後ろに控える参謀長も、早期の敵発見に表情を明るくしている。

 

 

「さっそく獲物がかかりましたな。さすがはカーニー司令殿、敵に対する嗅覚に優れていらっしゃる!」

 

 

参謀長の惜しみない賛辞(よいしょ)にさらに気を良くしたカーニーは、司令席から立ち上がって指揮棒を手にした。

 

 

「詳細入ります。『本艦よりの方向33度、伏角44度、距離約80000宇宙キロ。敵の針路170度仰角10度。編成は大型艦2、中型艦8、小型艦2』!」

「映像をよこせ。直接確認したい」

 

 

カーニーは司令席から立ち上がってビデオパネルの前に陣取った。その傍らには参謀長が無言で控えている。

 

 

「画像、ビデオパネルに出します」

 

 

艦橋正面上部のビデオパネルに、今まさに道を引き返そうと回頭している艦隊の姿が映る。

我がガトランティスと違って艦の色形に統一感がなく、大小様々な形状をしている。あえて共通点を上げるならば、前後に細長い形をしているぐらいだろうか。戦闘行動をとる様子は見られないから、『ドロミギア』はまだ見つかっていないのだろう。

 

 

「艦型がバラバラだな……大きさだけでは戦力を判断できん」

「司令殿、この規模の艦隊に中型艦が8隻もいるというのは、いささか戦力バランスが偏っている気がします。この宙域を哨戒している部隊なのかもしれませんぞ」

 

 

カーニーの機嫌をうかがうような卑下た笑いを顔に浮かべつつ、参謀長は進言した。カーニーは両腕を組んで暫く考える素振りを見せて、

 

 

「うむ……確かに、母星から2000光年離れた宙域を航行するには貧弱すぎる。まず間違いなく、本隊が別の所にいるな」

 

 

喉で唸り声を上げて参謀長の意見に同意した。

 

 

「いかがでしょうか司令殿。ここはひとつ哨戒部隊を泳がせておき、敵の本隊と同時に叩くというのは?」

「潜宙艦で哨戒線を突破し、後方にいる本隊を攻撃するということか」

「はい、幸い野蛮人共の船はこちらに気づいておりません。ならば急いて仕掛けずとも、じっくり必勝の策を講じてからでも遅くはありません」

 

 

カーニーは眼をすがめて、ゆっくりとこちらに背を向けつつある敵艦隊を観察する。

小型艦を先頭に、大型艦を最後尾に、敵艦隊は単縦陣で大きく左旋回している。

我がガトランティスの高速戦艦のように艦橋を備えている艦もあれば、紡錘状の艦体に砲塔らしきものが乗っかっているだけの形状をした艦もある。カーニーには、寄せ集めた感が否めない編成に思えた。この程度ならば鎧袖一触で撃破できるだろうが、それではインパクトが足りない。

安全な後方にいるはずの本隊が攻撃されて、あいつらがパニックになって蜘蛛の子を散らすように逃げ回る様を映像に収めることができたら、ダーダー殿下はさぞお喜びになるだろう。

 

 

「……よし。『ドロミギア』に通信、『引き続き接触を継続』。他の潜宙艦は別働隊がいないか、周辺宙域の索敵を続けろ。本艦隊も哨戒艦隊と距離を詰める、全艦前進強速!」

「はっ!」

 

 

下段の敬礼をする参謀長を尻目に、カーニーは既にダーダー殿下から賞賛の言葉を受ける自身の姿を想像していた。




今回登場した高速戦艦と高速駆逐艦重装型は、本作のみのオリジナル兵器です。
外見的にはほとんど変わらないので、現地改修みたいなものと思っていただければ幸いです。

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