宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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お絵かきに挑戦中。でも、彩色に才能がないことが判明。
俺は……無力だ……orz


第二十一話

2208年3月11日21時29分 冥王星基地内病院

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト2199』より《虚空の邂逅》】

 

 

その後、体調を崩して倒れた俺を病室のベッドまで連れ戻してくれた二人は、ことのあらましを話してくれた。

二人が話してくれた事を纏めると、こんな感じだ。

 

西暦2199年。人類がイスカンダルという存在を初めて認識した年。

惑星イスカンダルからの使者サーシャを乗せた宇宙船は、地球に到達する直前に火星に墜落した。

サーシャを発見したのは、後に宇宙戦艦ヤマトに乗艦する、古代進と島大介。

彼らの証言では、サーシャは脱出艇から離れた所に倒れていたらしい。

彼女の遺体と、彼女が握りしめていたカプセルは地球に移送され、カプセルは科学局へ、サーシャの遺体は一度火星の土に埋葬されたが、掘り返して地球連邦生命工学研究所異星人研究課で預かることになった。

死んでいるとはいえ、地球人外の知的生命体を初めて目の当たりにした彼らは文字どうり狂喜乱舞した。設置以来、ほとんど成果を上げられていなかった異星人研究課としては、千載一遇のチャンスだったのだ。

彼らは彼女を徹底的に調べた。外見的特徴の観察からDNA採取まで、ありとあらゆる方法を試した。

そして一番最初に分かったことは―――彼女は完全に死んではいなかった、ということだった。

もちろん、ひとつの生命体としては死んでいた。しかし細胞レベルでは、まだ多くの部分が生き残っていたのだ。

その時点で、死後一週間は経過していた。地球ならばとっくに腐敗して白骨化が始まっていてもおかしくなかったのに、腐敗どころか細胞が生きていたのだ。

さらに詳しく調べると、イスカンダル人の異常さが次々と判明した。まず、彼女の死因は火星表面に生身で降り立ったことによる窒息死ではなかった。直接の死因は、内臓破裂による多機能不全。どうやら、墜落時に腹部を強打したらしい。細胞レベルでは驚異的な再生能力を持つS細胞を以てしても、生命体としての死は免れられないようだ。

次に、イスカンダル人の身体は地球人類に酷似しているが、相対的に宇宙空間に適していることが分かった。

特に研究者を喜ばせたのは二点。一つは、血中の酸素結合たんぱく質が地球上の生物には存在しないもので、地球人の持つヘモグロビンよりもはるかに多い量の酸素を蓄えられる構造になっている点。これはつまり、体内に大量の酸素を備蓄することで無呼吸での活動時間が飛躍的に向上することを意味する。

もう一点は前述の通り、細胞の驚異的な再生、修復能力だ。こちらは怪我、菌やウィルスだけでなく、放射線による細胞破壊や遺伝子損傷にも耐性が強いことを意味する。

地球人類の常識を一蹴するような衝撃的な事実を受けて、異星人研究科は新たな研究の指針を策定した。

 

人工進化。

地球人類の身体的性能をイスカンダル人並みに引き上げるのだ。

 

ガミラスの遊星爆弾による放射能汚染は、地球人類を絶滅まで残り一年というところまで追いつめていた。しかし、地球人がイスカンダル人並みに放射線に強い体を手に入れれば、放射線による死亡はほぼ無くなる。つまり、滅亡までのタイムリミットを大幅に遅らせることができる。ヤマトがコスモクリーナーDを受領して還って来るまで人類は耐える事が出来るのだ。

そして、驚異の再生・修復能力と無呼吸活動時間の延伸は、宇宙・真空空間での生存可能性の向上を意味する。

科学技術の未発達な地球連邦の艦艇は、ガミラスの戦闘艦に比べて装甲が貧弱で、会戦でも七面鳥撃ちのように撃ち落とされている。そして、撃沈された艦から生きて脱出できても生きて救助される者はほんの僅か―――全員戦死が当たり前だ。

しかし、真空・宇宙空間でも一定時間活動できれば、救助によって助かる可能性は上がる。戦死による急激な人口の減少に歯止めを掛ける事ができると期待したのだ。

 

しかし、イスカンダル人の解析と多能性幹細胞―――サーシャに由来するからS細胞と呼んでいるらしい―――の培養まではトントン拍子で進んだものの、臨床実験の段階で大きな壁にぶつかった。

S細胞は、地球人類の貧弱な体には劇薬だったのだ。

培養された臓器細胞を移植された被験者は高い確率で超急性拒絶反応を起こし、臓器を摘出した後も血管を通して全身に流れ込んだ細胞片が体内から被験者を破壊した。

何度試しても、ほぼ全ての人間に拒絶反応は訪れた。老若男女、人種に関係なく拒絶反応は起こり、悪い時は抹消で定着したS細胞が癌化して被験者を食い破る事すらあった。

 

研究と臨床試験は、ヤマトが帰還した後も続いた。その間、白色彗星帝国や暗黒星団帝国による地球侵略という大事件もあったが、研究所はそれすらも異星人研究の貴重な機会と捉え、敵兵の死体や捕虜を使った実験を行った。

研究所が研究した異星人の中で、とりわけ研究者の注目を集めたのは、テレザート星人のテレサ―――正確には、彼女の血が混じった地球人、島大介だが―――と、地球人とイスカンダル人のハーフ、真田澪だった。

入院中の島から血液を採取した研究所は、血中からテレサの血液だけを分離することに成功。反物質を操るというその能力の源泉はどこから来るのか調べたが、いまだに光明は見えていないという。

一方の真田澪は、ある意味では異星人研究課が求める研究成果を絵に描いたような、憧れの存在だった。

イスカンダル人と地球人の両方の特徴を兼ね備えた存在。幼少期はイスカンダル人と同様にわずか一年で成人し、以降は地球人の特徴を強く発現する。しかも、地球人には無い超能力を行使できる。いずれ本格化する宇宙進出と星間国家化の道を進む地球人類にとって、彼女の能力は垂涎ものだった。

しかし一方で、彼女は研究者の嫉妬の対象でもあった。我々が科学の粋を集め、多くの時間と犠牲を払っても成し遂げられなかった事が、人間の最も原始的な活動である生殖行為によって成し遂げられてしまったという、科学者としての敗北感。これだけの超能力を持ちながら、滅びの道に進んだイスカンダル人の愚かさを責める気持ち。

 

相矛盾する感情を持て余した科学者は、彼女を人間扱いせずに研究対象として接することで心の均等を保つことにした。まだ幼かった彼女は覚えていなかっただろうが、研究所にいる時の彼女は、実験動物扱いだった。

その現状に危機を抱いた真田さんが、由紀子さんに働きかけて急速に成長する彼女を研究者からなかば取り上げるような形で引き取った。以降、彼女は真田志郎の姪として小惑星イカルスで短い生涯の大半をすごすことになる。

 

彼女に対する態度はともかく、真田澪の存在はイスカンダル人研究を飛躍的に進展させた。S細胞についても、その発現を抑える事はまだできないものの、超急性拒絶についてはほぼコントロールに成功していた。

今、俺の左胸に埋められているS細胞は、そういった長年の研究と犠牲の上に確立された術式だというのだ。

 

 

「あかねは……いつ、移植を受けたんですか?」

 

 

ベッドに身を横たえたまま。俺は由紀子さんに問う。

思い出す限り、あかねに俺と同じような現象が起こったのは『シナノ』の試験航海のときだ。ならば、彼女に移植が施されたのは遡っても一年以内と言うことになるが……。

 

 

「あの娘がS細胞を移植されたのは、2200年……高校一年の夏よ」

「研究の、最初期じゃ、ないですか……! 貴女は、そんな危険な実験に、自分の娘を、使ったんですか」

 

 

話を聞けば聞くほど、俺の中の由紀子さんのイメージは崩壊していく。

白山の簗瀬家で見ていた仲睦まじい親娘の姿は、全て演技だったのだろうか。

全てが、悪い夢のようだ。

 

 

「仕方なかったのよ! あかねを助けるためには、一縷の望みに懸けるしかなかった!」

「恭介さん。貴方は知らなかったでしょうが、あかねさんは移植手術を受けるまで、心臓に先天的な疾患を抱えていたのよ」

「嘘だ! 具合悪そうに、していることなんて、一度も、見た事無い!」

 

 

俺は初めて出会った10歳の頃―――2184年から、中学校を卒業して宇宙戦士訓練学校に入るまでの5年間、いつも一緒にいたのだ。彼女が苦しそうにしているならすぐに気が付いただろうし、そう断言できるほど彼女を見続けてきたつもりだ。

 

 

「ええ、そうでしょうね。急性の症状が出る類の病気ではなかったし、運動さえしなければ小康状態を維持できたから」

「でも、あかねの病気は、ゆっくりだけど確実に進行していた。あのままだったら、きっと二十歳を迎える前に……」

 

 

続く言葉が出てこない由紀子さん。その表情からは嘘を言っているようには思えなくて、俺は余計に混乱してしまう。

 

 

「あかねは、自分の病気のことを……」

「もちろん、知っていたわ」

 

 

幼い頃の記憶を引っ張り出す。

確かに、小さい頃のあかねはおとなしい子で、部屋の中で遊ぶのが好きだった。だが、俺はそれが変な事とは思わなかった。ガミラス戦役の終末期、日を追うごとに治安と衛生状態が悪くなっていく地下都市において街中で遊ぶことは危険と隣合わせだったのだ。

俺には、思い当たる節は全く無かった。

 

 

「何より、あかねさんが、貴方には病気のことをひた隠しにしていたからね」

「あかねが、俺に……?」

「ええ。あの娘、恭介君の前では無理していたのよ。『恭介に迷惑はかけたくない、嫌われたくない』って」

「あの、馬鹿……」

 

 

つまり、あかねは俺に気を遣ってひた隠しにしてきたということか。

目元が潤んで来て、思わず右手で目を覆う。

情けなくて、自分をぶん殴ってやりたくなる。

あれだけ一緒にいたというのに、俺はあかねの事を何も分かっていなかった。

あかねが病気に苦しんでいるのも、それを隠して無理して俺と一緒に過ごしていたのも、俺は今の今まで気付かなかった。

 

 

「恭介君」

「……何ですか」

 

 

右腕で涙顔を隠したまま、由紀子さんの呼びかけに答える。

 

 

「武内さんの言うとおり、私は、治療のためと言って自分の子供たちを人体実験に使うような人でなしよ。貴方かた地球人である権利を奪った大罪人よ。恨んでくれていい。望むなら、今この場で喉を搔っ捌いてもいいわ」

「……」

 

 

きっと今の自分は、由紀子さんに一番見られたくない顔をしているのだろう。

 

 

「でも、あの娘には何の罪もない。全て私が悪いの」

 

 

だから、お願い。そう言って、由紀子さんは胸の前で組んでいた両手をぎゅっと握った。

 

 

「あかねのことは、嫌わないであげて。傍にいてあげて。あの娘を一人ぼっちにしないであげて」

「……………………」

 

 

由紀子さんの声が震える。

しかし俺は、彼女の言葉に頷く事すらできない。

そんな自分が情けなくて、覆った袖が再び濡れた。

 

 

 

 

 

 

2208年3月18日13時53分 冥王星基地 『シナノ』艦内

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト2199』より《哀しみのBG》】

 

 

南部とブーケは、黒焦げとなったサブエンジンルームを視察に来ていた。

南部と柏木の銃撃戦から、一週間が経っている。

事件当時は事件現場に規制線が引かれて技術班と生活班による現場検証が行われたが、今はもう残骸の撤去も終わり、既に修復作業にかかっている。

ブーケは鼻先をヒクヒクと動かすと、不愉快そうに顔を顰めた。焦げた匂いか、もしくは修理作業の際に出る薬品の匂いを嫌がっているのだろう。

 

 

《これだけの爆発で、よく五体満足でいたもんだ》

「ああ、現場を見るとそう思う」

 

 

結局、物影に隠れていた南部とブーケは奇跡的に無傷で済んだ。

しかし爆発物が仕掛けられていたサブエンジンは半壊、まるごと取り換えざるを得ない状況となった。

柏木の生死は不明。爆発に巻き込まれて死んだのか、爆発に乗じて逃げ出したのかも分からない。

 

 

「全ては闇の中、か。本当はしっかり調べて柏木の奴をしょっぴいてやりたいが、今は致し方ない」

《済まぬ。本来ならしっかり調査して下手人を挙げねばならぬというのに》

 

 

事件の大きさを考えれば、本来は地球連邦政府に報告の上、本星から調査団を迎えるべきだ。しかし、犯人が同じ地球人となれば話は少々ややこしくなる。

今回の事件は、日本に所属する宇宙戦艦に某国のスパイが入りこみ、破壊工作を行ったということだ。

クルー全員に事情聴取が行われるだろう。

特に柏木と同僚だった本間先生をはじめとする医療クルーは、日本への召喚命令が下るかもしれない。

柏木の黒幕―――つまり黒ずくめの宇宙服を着た集団だ―――の正体が分かれば、ドロドロの国際問題に発達する。そして、すでに正体の目星はある程度ついているのだ。

今回の調査航海に参加した国、特殊部隊を運営できる能力、動機……候補は限られている。

 

しかし、今の我々にはそんな時間は無い。

あかね君とそら君の一刻も早い救出。それは、俺達クルーの総意だ。

ただでさえ彼女たちの居場所が分からない、生死すら定かではないというのに、事情聴取やら現場検証やらの些事に時間を取られて俺達の手の届かないところに連れていかれたら。

そう思うと、南部は心臓が掻き毟られそうになる。

 

 

「構わないさ。艦長も言っていただろう? クルーを助ける方が重要だ」

《……南部。ひとつ尋ねても構わんか?》

「なんだ?」

 

 

視線を交わさず、正面を向いたまま。それでも、南部にはブーケがどんな表情をしているのか察しがついた。

 

 

《何故、君達はそれほどまでにしてくれるのだ? これだけの妨害工作を受けたというのに、それに目を瞑ってまで生きているかどうかも知れない姫様を助けに行ってくれるのは、何故だ?》

「どうした、不安になったか?」

《今回の柏木の暴挙は、どう考えても姫様を拐した賊共の仕業。言うなれば、我輩たちの存在が此度の事件を招いたことになる。疫病神と言われても文句を言えん》

「おいおい、随分と自虐的じゃないか。彼女を疫病神だなんて、誰一人思っちゃいないさ」

《しかし……》

 

 

苦笑いを浮かべながら、南部は思いつくクルーの顔を思い出す。第一艦橋のメンバー。技研出身のメンバー。シナノ食堂の坂井シェフ。本間先生をはじめとする医療スタッフ。皆、良い奴らだ。

それに、サンディ自身が皆から慕われている点も大きい。

彼女の容姿や性格が人に好印象を与えるのもそうだが、彼女が造船に精通した科学者であるという王女らしからぬ点も、クルーの皆との距離を縮めている一因だったようだ。

どうやらうちの男どもは皆理系女子が好みらしい。

不安を抑えきれないのか、項垂れたままのブーケは白髭を前足でしきりに触る。

 

 

「心配するな。ここの修理は破壊された部分をユニットごと取り換えてしまえば、3日もすれば終わる」

《しかし、北野の若造から聞いておるぞ。この船は、修理を受けるたびに弱体化しておると》

「……まぁ、それはそうなんだが」

 

 

南部は言葉を濁すしかなかった。

ヤマトの後継を多分に意識して建造された『シナノ』は、その反面融通のきかない船となっている。

元々、ヤマトの修理用鋼材として保存されていた『信濃』をそのまま再就役させた『シナノ』は、修理用鋼材が始めから底をついている。失われた技術である大和型水上戦艦の装甲を再現するための研究は宇宙技研で進められているが、いかんせんまだ始まったばかりで実現の見通しなど全く立っていない。

ヨコハマ条約の隙間を縫ってシナノ型宇宙空母が量産される頃に実用化されればいいと思っていたが、予想に反して本艦は就役以来思いもかけない連戦と損傷に見舞われてきた。

 

 

「こればっかりは最初から分かっていたし、覚悟していた事だ。それに、今回は相手が破滅ミサイルだったんだ、仕方ないだろう?」

《む……確かに、アレから生きて逃げおおせる事が出来たのは奇跡的だ。故郷では、破滅ミサイルを撃たれて生きて帰って来た者はいない》

「潜宙艦に装備するとは、さすがに思いもしなかった。敵の軍も技術発展を続けているという、当たり前のことを再認識させられたよ。俺達は本当に、運が良かったな」

 

 

そう言って、ごまかすように南部は肩を竦める。

とはいえ、今回の損傷は特に酷い。

ガトランティスの戦略兵器、破滅ミサイルが発した膨大な熱は甲板を真っ赤に発熱させ、第二飛行甲板に待機させてあった調整中のミサイルの誘爆を招いた。艦尾シャッターが真っ先に敗れた事で爆発エネルギーの大半は船外に逃げたものの、一部は駐機中の予備機を吹き飛ばし、破片が格納庫内で暴れ回った。

被害は飛行甲板だけではない。爆風はドアを突き破って廊下にまで飛び出し、左右のサブエンジンルームにまで害を及ぼした。

南部は今回の被害を、空母特有の構造上の問題だと捉えている。

『シナノ』に限らず、宇宙空母という艦種は戦闘艦としては歪な存在だ。その目的上、艦体に占める飛行甲板、格納庫の割合が多く、また艦体から露出している。それはコスモタイガーの安全かつ効率的な離着艦、整備の効率を上げるために作業スペースを広くとる必要からだ生まれたデザインだが、その反面、航空燃料や弾薬を取り扱う艦載機格納庫が被弾しやすいという弱点も持つ。

また、大きな飛行甲板の存在は兵装や波動エンジンの数および配置にも影響を与え、遊びが無い設計を強いられている。それでいて前半分は設計のベースとなった宇宙戦艦なのだから、まさキメラとしか言いようがない。ヤマト級のように多数の艦載機と飛行甲板を艦内に収め、なおかつ戦艦としての機能と外見を保っている方が奇跡的なのだ。

今回は、その設計の歪さが被害の拡大を招いたと言えるだろう。

破滅ミサイルの爆発から背を向けて退避していたあのとき、艦は可燃物が多い艦尾を熱源に対して晒していた。その所為で、真っ先に爆炎に巻き込まれて弾薬の誘爆を招いてしまったのだ。

 

 

「四月まで時間を掛ければ、完全に修理できるんだが、さすがにそれまで待ってはいられない。最低限、艦載機が発着できるようになった時点で、出港するつもりだ」

 

 

表情を厳しいものに戻して、南部は今後の予定を伝える。

「最低限」の言葉に不安を覚えたブーケが、南部を真剣な眼差しで見上げる。

 

 

《最低限と言うが、具体的にはどうするつもりだ?》

「航空機の発着は、上部飛行甲板に統一する。中層格納庫の修理を断念する代わりに、最低限修理をした下部飛行甲板に駐機させることで、搭載数を維持する。整備や出撃準備は、下層格納庫で行うことになるだろう」

《下部飛行甲板はただの物置と化すわけじゃな》

「言い方は悪いが、そうなるな。今回の件を考えると、艦の中心にある下層格納庫は被害を受けにくい。手間はかかるが、弾薬の取り扱いはそこに限定する」

《発着を一枚の飛行甲板上で行うということは、航空隊の運用に倍の時間がかかるという事だ。航空戦力の強みを潰すことになるぞ?》

 

 

遭遇戦が当たり前の宇宙戦闘は、航空戦力の迅速な展開こそが艦の明暗を分けると言ってもいい。それを知っている老描は、目を細めて器用に渋面をつくる。

ブーケは地球の猫からは想像がつかないくらい頭の回転が良いし、表情も豊かだ。

 

 

「さっきも言っただろう? 今は時間が惜しい。……それに関連して、ブーケに頼みがある」

《我輩にできることなら。少しでもお主らに恩返しできるならば、喜んで引き受けよう》

「感謝する。それじゃあ……」

 

 

そう言うものの、ブーケに頼むのは気が引けるのか、南部はしばし口をつぐむ。

しかしそれも僅かな時間、南部は躊躇いながらも切り出した。

 

 

「俺達は今、修理の指揮と出港準備に忙しい。俺達に代わって、篠田の奴を何としても『シナノ』に乗り込ませてほしい。あいつは今……心の拠り所を失くしちまって、一歩も動けないんだ」




ただ今、鉛筆画のみでイラストを描けないか試しています。
その方が早く仕上がるし。

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