宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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一年ぶりの投稿です


第六話

2208年3月20日 11時00分 うお座109番第三惑星

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』より《ガトランティス襲撃》】

 

 

北野が焦燥に強張った手で操縦桿を握り、大きく左右に動かす。

それに連動して、ヤマト型宇宙戦艦特有の巨大艦橋が大きく振られる。

その様、さながら激浪に小突き回される小舟のごとし。

いくら慣性制御で絶え間なく体を襲うGを大きく相殺しているとはいえ、完全に相殺しきれるものではないし、外の景色がぐらぐらと揺れ動くのは見ているだけで船酔いしそうだ。

4基あるサブエンジンのうち下2基がウィングごと破壊されているため、艦のバランスが取りづらい。

折れたウィングの断面が乱気流を生み出し、不愉快なノイズを生み出す。薄い大気のおかげで音自体はそれほどの大音量でもないが、艦体を通して伝わって来るモスキート音のような甲高い音が耳障りで仕方ない。

 

 

「くそ、引き剥がせない……!」

 

 

必死に操舵で追跡を引き剥がそうとする北野から、悪態が漏れる。

北野の巧みな操艦で、艦は高度を極力維持しつつ蛇行を繰り返す。真っ黒な星空と薄茶色の砂山が振り子のように互い違いに視界に入り込む。遠心力は人工重力で大きく軽減されているのに外の風景が大きく揺れ動いている光景は、船酔いを誘いかねない。

 

メインパネルに映っている航空指揮所からの映像には、望遠鏡で覗いたのではないかというくらいドアップに映ったガトランティス高速駆逐艦。真っ白な艦橋が間近にあって、じっと見られているような錯覚を覚える。いや、実際にあの艦橋にいるガトランティス人は目を皿のようにして睨みつけ、振り払われないように艦を操っているのだろう。

藤本は自席のディスプレイに表示されている艦のステータス表示を見て、苦虫を噛みつぶしたようなしかめっ面をした。

艦の下半分が被弾を表すオレンジから赤に染まっていた。

特に装甲の薄い後部の損害がひどく、補助エンジン二基、艦底部スラスターの破損に加えて補助ウィングが脱落していた。

このような状態でよく艦を操縦できるものだと、藤本は逆に感嘆する。

北野の操艦技術もさることながら、残るメインエンジンと補助エンジン二基の出力をこまめに調整して北野のアシストをしている島津機関長の手腕によるものだろう。

 

 

「坂巻、本当に後方に撃てる火器はないのかよ!?」

「無茶言わないでください、南部さんも分かってるでしょ!? 後ろに撃てるのは三連装パルスレーザーが2基のみ! 主砲も副砲も無けりゃ魚雷発射管もないんです!」

「藤本!」

「坂巻の言う通りだ。本艦は後部に航空設備をあてがっているから、主砲も副砲も魚雷発射管もないし、パルスレーザーも指向できん」

 

 

正確に言えば、側面のパルスレーザー砲塔の駆動範囲は0度から180度にまで及ぶので、後方にも砲身を向けることはできる。しかし、他の砲座や艦橋構造物が射界に入り込んで邪魔してしまうため、敵艦がいる真後ろには2基6門しか発砲することができないのだ。ゼータ星無人要塞攻略戦で活躍した追加装備の単装対空パルスレーザー砲も、航空隊を収容する前に全て取り外してしまった。

 

 

「本来、後方の敵に対しては煙突や舷側のミサイルによる迎撃とソフトキルで対応する予定なのだが、ここまで至近距離にまで近付かれると逆に何もできないんだ」

「設計の時には想像もしなかったな……俺のミスだ。『ヤマト』に乗っていたときは何度も接舷攻撃を経験したというのに、」

「気にするな。『ヤマト』も艦載機発進口は弱点だったろ?」

 

 

藤本のフォローにも、南部は苦い顔を崩さない。

本人曰く、彼は『ヤマト』の運用経験から用兵側の意見を求められて、ビッグY計画に最初から参加していたという。おまけに解体・建造は南部重工だ。

『シナノ』の設計・建造に携わったというのに、それを生かせなかったことを悔やんでいるのだろう。

藤本に言わせれば、『ヤマト』の防空網はもっと穴だらけだったから、『シナノ』はまだマシな方だと思う。

 

 

「結局、どうするんですか? このままだと、いずれ増援に囲まれてジリ貧ですよ?」

「何でもいいから早くしてくれ!」

「ほら、航海長もいっぱいいっぱいですし」

 

 

館花が視線を向けた先には、操縦桿とサブエンジン、スラスターをひっきりなしに操作して辛うじて艦を安定的に航行させている北野の姿。目がキョロキョロと動いている割に顔は正面を向いたまま、微動だにしていない。彼に精神的余裕が全くないことが丸分かりだ。

 

 

「小回りが利くミサイルを真上に打ち上げて、そのまま敵艦に落とすのは?」

「ガトランティスの駆逐艦は対空兵器のバケモノだから、打ち上げている間に撃ち落とされるだけだろう」

「じゃあ、機雷とか波動爆雷は?」

「安全距離を割り込んでいるし、接触信管にしても爆発に巻き込まれるぞ」

「艦をドリフトさせてパルスレーザーを浴びせるのは?」

「スラスターが壊れているのにどうやって?」

「ならば、アンカーを岩山に打ち込んだらどうだ?」

「なるほど、それなら駆逐艦の旋回半径より内側に入り込める……!」

 

 

坂巻の言葉に、南部が顔をぱっと輝かせる。

しかし、すぐに館花が慌てて否定した。

 

 

「そんな事をしたら、いよいよ艦がコントロール不能になります。敵を撃破できても、そのまま回転しながら墜落してしまいます!」

「軟着陸できれば、できるんじゃないのか。どうだ、藤本?」

「艦底部スラスターが全て機能停止しているから、着陸は不可能だ。修理が完了するまで飛び続けるしかない」

「つまり、今の状態を維持したまま敵を倒す必要がある、と……」

 

 

誰ともなく、落胆の吐息が漏れる。打開案が思いつかないという事実が、諦観の空気を滲み出しつつあった。

操縦に必死で隣席の議論を聞く余裕が全くない北野、被弾の影響か出力が不安定になりつつある波動エンジンから目が離せない島津。焦燥感が、平常心をすり減らしていく。

 

 

「じゃあ、どうすればいいんですか……艦長、どうしましょう?」

「……敵が至近距離にいる以上、どう攻撃してもこちらへの被害は避けられない。ならば、手当たり次第にやってみるしかなかろう」

「艦長、それでは……」

「技術班には迷惑をかける」

「……分かりました」

 

 

沈黙を保っていた艦長が、ようやく口を開く。サングラス越しに見える覚悟を、振り返った第一艦橋要員たちは感じた。

南部と坂巻が、彼の意を酌んでただちに動いた。

 

 

「煙突ミサイル、側面ミサイル発射用意。目標、敵高速駆逐艦!」

「煙突ミサイル一番から八番、側面ミサイル一番から十六番、諸元入力開始!」

 

 

南部の命を受け、坂巻はミサイル発射の準備を指示する。

坂巻、そして弾薬庫付きのミサイル手の手元には、航海科から館花を通じて送られてきた周辺宙域の気象状態のデータ、来栖からはコスモレーダーによる索敵で判明している敵艦の詳細な高度、進行方向、速度などのデータが送られている。

アクティブ誘導ミサイルは発射後にこちらの管制を受け付けない仕様なので、事前に入力した情報が多ければ多いほど命中率は上がる。

しかし、航海科から送られてくる情報量にはムラがある。特に地球連邦の勢力下にない宙域は事前情報が少ないせいで得られる気象データは量・質ともに心もとないのが現実だ。

さらに、ほとんどの場合は限りある時間の中で装填・入力・発射をこなさなければならない。

坂巻が務めるミサイル担当士官は、大量のデータから必要なデータを取捨選択したり、足りない情報を経験と勘で補ってミサイルへと転送する、技術とセンスが必要だった。

 

坂巻の席のディスプレイには、早くも「煙突ミサイル発射準備完了」「側面ミサイル発射準備完了」の文字が浮かび上がった。

背後の煙突は煙突ミサイル発射機と側面ミサイル発射口には、ワープ前に既に初弾が装填されているので、発射準備命令から準備完了までの時間は早く、データ入力と信管のロックを解除するだけだ。煙突ミサイルはところてん式、側面ミサイルはベルトコンベア式に給弾ができるようになっているから次発装填も早い。

 

 

「第一艦橋より第三艦橋、『攻撃委任を解除、続いて側面機雷発射準備。準備後は命令あるまで待機』」

『第三艦橋了解、委任解除、機雷発射準備の指揮を執ります』

 

 

続けて南部は、艦長の命であった「下方の敵を発見次第攻撃する」という命令を解除し、第三艦橋の管掌事項のひとつである機雷・爆雷の準備を指示した。

パルスレーザー群直下の六連装大型ハッチには初期装備としてチャフ・フレアが装填されていたため、機雷に装填しなおす必要がある。再装填の際には使用する弾種に応じて煙突下の弾火薬庫から弾を搬送するので、連射性も低い。

 

 

「ミサイル発射準備完了!」

「北野、回避運動を止めて直進運動に移れ」

 

 

蛇行で左右に揺さぶられていた身体がぴたりと止み、星空と大地が正しく上下に分かれる。

回避運動をしているときは気付かなかったが補助エンジンが二基とも咳き込み始めていたようで、メインエンジンとの出力バランスが崩れて艦尾が小刻みに上下する。

大時化の海に出てしまった子舟のように仰け反りと拝み込みを繰り返す『シナノ』の煙突と艦腹、二十枚のシャッターが次々と開いた。

 

 

「煙突ミサイル、側面ミサイル一斉射、攻撃開始!」

「ミサイル発射!」

 

 

艦長の号令一下、坂巻がコンソール上の四角いボタンを慣れた手つきで押す。

シャッター下の排炎口からオレンジ色の火炎と煤煙を噴き出しながら、黄色い尖頭の対空ミサイルが射出された。

被弾部からなお湧き上がる黒煙と相まって、『シナノ』の上下左右から煙が濛々と噴き出し、それらをもろに被った『サルディシシュルド』は『シナノ』が完全に視認できなくなった。

 

 

 

 

 

 

目の前が真っ暗になっても、『サルディシシュルド』の艦長は動揺しなかった。

今まで本艦を振り切ろうとジグザグに回避運動をしていた『ヤマト』が、突然直進を始めたのだ。

そろそろ攻撃を仕掛けて来るであろうことは、十分に予想出来ていた。

 

 

「赤外線画像に切り替えろ! レーダー! 『ヤマト』に動きはないか!?」

「艦長、『ヤマト』の周囲にミサイルを探知! 左右と真上です!」

「撃ち落とせ! 一発でも当たったら終わりだぞ!」

「了解、手空き全砲門開け!」

 

 

機動ロケットを兼ねた回転砲を除いた十連装回転速射砲3基、連装対空回転砲9基、四連装対空回転砲20基が一斉に稼働し、若葉色の火箭を投射した。

ヤマアラシが全身のトゲを逆立てるように、高速駆逐艦の全身から光の槍を間断なく撃ち上げる。

『シナノ』の至近距離にいるため、エネルギー弾はまだ撃ち上がっている最中のミサイルを次々に撃墜していく。

あるミサイルは胴体を貫かれ、火薬が爆発した。またあるミサイルはロケット部分に着弾し、燃料が異常燃焼を起こして粉々に砕け散った。かと思えば、あるミサイルは何発もの直撃に耐え、穴だらけになっても上昇を続けたものの、ボディがダメージに耐えられなくなって分解して果てた。

爆発した欠片が2隻に傘を掛けるように落下してくるが、『シナノ』も『サルディシシュルド』も降り注ぐ断片が当たる前に駆け抜けていく。

爆発の振動が薄い大気を通して伝わって来る不快感に眉を顰めていると、前席に座るレーダー班長が声を上げた。

 

 

「艦長……おかしいです。これ、本当に『ヤマト』なんでしょうか?」

「……どういうことだ? 『ヤマト』だと断言したのは貴様だろう」

「ええ、最初に捉えた望遠画像は、間違いなく『ヤマト』の特徴と一致していたのです。ですが、これを見てください」

 

 

艦長の手元の画面に、四枚の画像が映し出される。一枚は超長距離から敵艦の正面を映した光学画像、次の一枚は敵艦の鼻先に飛び出た時に写した、敵艦の左前方の映像、さらにたった今撮った敵艦背面の赤外線画像。最後の一枚は、旧テレザート星宙域守備隊から受け取った『ヤマト』の三面図だ。

 

 

「今までは黒煙に隠れて見えなかったのですが……艦体後部を比較してみてください。『ヤマト』は主砲があるのに対し、目の前の敵艦にはそれがありません。逆に、『ヤマト』には無いはずの位置に主砲塔があります。それ以外にも、細かな差異が随所に見受けられます」

「つまり貴様は、この船は『ヤマト』ではなく、全く別の艦だといいたいのか?」

「大規模な改装をしたのでなければ、『ヤマト』に似ているだけの別物ではないかと」

「姉妹艦、か……」

 

 

比較してみれば、確かに『ヤマト』と目の前の敵艦ではいろいろと相違点があることが分かる。メインエンジンノズルの位置、サブエンジンの数、兵装の配置。特に、後ろ半分は似ている部分を探す方が難しい。なるほど、後方を指向できる兵装がないから真後ろの我々を攻撃できなかったのか。

 

 

「ならば、ミサイルさえ凌げればこちらが急減速しても若干の余裕があるか?」

 

 

現状を打破するには、どちらかが撃沈されるか離脱するかの二択しかない。

高速駆逐艦ごときが戦艦を撃沈するのは不可能だし、撃沈されるのもまっぴらごめんだ。

離脱をするにも敵艦はどうみても機関に異常を抱えているようだから、そうなると折を見てこちらが退くしかない。それも、反撃を受けないようにワープで一気に逃げなくてはならないのだ。

しかし、ワープをするには一度エンジンをアイドリングにして、一連のワープシークエンスをこなさなければならない。

ワープインのタイミングおよびワープアウト地点の算出、通過する亜空間航路の設定は当然の事、亜空間へ突入するためのエネルギーを溜める必要があるのだ。

小ワープや無差別ワープならば細かい設定はある程度省略できるが、エネルギーを溜めるにはどうしても多少の時間がかかってしまう。

敵艦が転舵してこちらを射界に入れるのが先か、それともこちらがワープインするのが先か。

勝算の無い危険な賭けであることは百も承知だが、これ以外に打てる手も思いつかない。

 

 

「敵艦、側面より何かを射出!」

 

 

艦長が「撃ち落とせ」と下令する前に、待ち構えていた回転対空砲が唸りを上げる。『シナノ』が噴き上げる濃厚な煙をものともせずに貫いて、12口の多目的大型ハッチからばらまかれた機雷48発は、『サルディシシュルド』に触接する4秒までの間にひとつ残らず光と黒煙へと姿を変えた。

勢いのまま煙の中を突っ切ると、機雷の破片がトタン屋根に降る雹のごとくバチバチと艦体を叩く。

いよいよ打つ手が無くなったのか、敵艦は再び蛇行を始めることもなく、直進のまま何もしなくなった。

艦長は、今が千載一遇のチャンスだと決意した。

 

 

「総員、ワープ準備!」

 

 

眦を決して胸を張り、大音声で命令する。皆がぎょっとした顔で一斉に振り向く。

 

 

「航海長、無差別ワープだ。一秒でも早く、この場を離脱する!」

 

 

更なる命令を立て続けに下して、何か言おうするのを防ぐ。反論は受け付けない、議論をする余裕はないと、有無を言わさぬように威厳を持った態度で示した。

 

 

「どうなっても知りませんよ?」

「大丈夫、待っているのはいつもの地獄だ」

「……これだから駆逐艦に乗りたくなかったんだチクショウ! 時空連動計起動、エンジンカット!」

 

 

そんな艦長の意図を察したのか、それとも偶然か。口汚く文句を言いながらも、皆はせわしなく手を動かしてくれた。

 

我が艦がワープシークエンスを終えて亜空間に逃げるのが先か、それとも敵艦が何か新たな一手を打ってくるのが先か。

推力をカットしてエンジンパワーを全てワープシークエンスに回した『サルディシシュルド』は、星の大気摩擦を受けてじわじわと減速していく。

既に賽は降られた。いや、自分が賽を投げ入れたのだ。

艦長は臍のあたりをひと撫でして、腹に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

ミサイルも機雷も撃ち落とされた。波動爆雷は威力があり過ぎて至近距離では使えない。相変わらず、106門を誇るパルスレーザーは全て射角の外。

いよいよ、アンカーを岩山に打ち込んでドリフトをするべきかと、誰もが覚悟をした。

その時、藤本が信じられないものを見たと言いたげな表情で艦長へと振り向いた。

 

 

「艦長! 艦尾シャッターが開いています!」

「何、被弾したのか?」

 

 

芹沢はすぐに、背後にぴったり付いている高速駆逐艦による攻撃だと思い至った。

ガトランティス帝国が誇る高速駆逐艦は、威力は弱いが連射性に優れる回転速射砲を多数搭載している。

果てのないチキンレースに焦れた敵艦が、自身への被害を顧みずに回転速射砲を撃ち始めたと思ったのだ。

しかし、藤本はかぶりを振る。

 

 

「被弾でも故障でもありません。誰かが航空指揮所の開閉ボタンを押したんです」

「コスモタイガー隊に発進命令は出してないぞ? 南部、貴様か!」

「違います、戦闘班は何も命令していません!」

 

 

艦長に睨まれた南部は慌てて首を振る。

島津は首を捻る。

 

 

「それなら誰が……まさか、敵が接舷してきた?」

「まさか。艦がぶつかって来たなら相応の衝撃があるはずだし、報告があるだろ」

「レーダーでも、敵艦はまだ本艦の後方50メートルにぴったり追随してきています」

 

 

坂巻、そして来栖が島津のつぶやきを否定する。とはいえ、二人にも何が起こっているのかさっぱりなようだ。

その時、葦津の席に設えられた通信機が鳴り、通信元を示す緑色が点滅した。

 

 

「艦長、第二航空指揮所からの通信です」

「何? 繋げ」

「艦長席に繋ぎます」

 

 

芹沢が不審な顔をして艦長席の受話器を取る。

 

 

「航空指揮所、中島です」

「艦尾シャッターを開けたのは貴様か?」

「はい、コスモタイガー隊を総括する立場として私が命令しました」

「何故だ?」

「その説明のために、艦橋に繋ぎました」

 

 

航空機管制塔の真下にある第二航空指揮所、つまり発艦用飛行甲板の最奥にて航空機の発艦を司る部屋に、中島護道はいた。

飛行甲板を睥睨する窓ガラスの向こうでは艦尾シャッターの開放を示す赤いパイロンが回転し、真っ白の照明と銀色のシャッターの向こうに漆黒の宇宙が姿を見せ始めている。

 

 

「現在、上下の飛行甲板に2機ずつ、計4機のコスモタイガーを準備中です」

 

 

窓の外が一瞬、キラッと光ったかと思うと、眼前を二枚の縦板と巨大なエンジンノズルがせり上がって来て、中島の目の前が真っ暗になる。

コスモタイガーの機尾と、それを載せた灰色の一枚板が、下から上にゆっくりゆっくりと昇っていく。先程のエレベーターに載っていたコスモタイガーのキャノピーが、照明に反射したようだ。

既にカタパルトにコスモタイガーをセットし終えた発艦用飛行甲板に対して、着艦用甲板はこれからコスモタイガーを運ぶところだ。

現在、艦載機用エレベーターに載せられた最後の一機が、上部格納庫から着艦用甲板まで運ばれている。

先に上がった一機は、赤の宇宙服とヘルメットを被った整備員が、狭い甲板を慎重に誘導しているはずだ。

 

 

「意見具申の前に動いた事のお叱りは後で受けます。しかし、先に話を聞いてください」

 

 

作戦は単純。後方へ撃てる武器が無いなら、持ってくればいい。

コスモタイガーを飛行甲板に並べて、パルスレーザーと機関砲で敵駆逐艦を撃つ、それだけだ。

発艦用甲板の1番・2番カタパルトに載った2機と、着艦用甲板に並べられてワイヤーで固着された2機。指向できる武器は30ミリパルスレーザー32門、12,7ミリ実体弾機関砲40門、数だけなら『シナノ』搭載の三連装パルスレーザー砲よりも多い。

これに後方を指向できる三連装パルスレーザー2基を加えれば、パルスレーザー38門、実体弾40門になる。

放たれた弾は迎撃する間もなく駆逐艦の艦首から艦橋にかけて直撃し、至近距離に張り付いた駆逐艦を蜂の巣にするだろう。撃沈せずとも、艦橋を破壊することができれば、敵艦を一時的に機能不全に追い込むことができるはずだ。

 

 

「……」

 

 

簡潔に説明を終えた中島は唾を飲み込み、受話器を握り直す。

受話器の向こうからは沈黙を表す微かなノイズだけが聞こえる。

その間にコスモタイガーは天井に空いた四角い穴の向こうに消え、エレベーターの床が天井を塞ぐと、ガラガラと動いていたリフトチェーンとシリンダーがガチャリと大きく揺れて止まった。

 

 

「……よし、許可する」

 

 

その言葉が聞こえてきた時には、最後のコスモタイガーが所定の位置に着こうと動き出した頃だった。




2202、終わっちゃいましたね。正直、オチはよく分からなかったけど。

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