宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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別作品として投稿していた外伝1を、こちらに編入します。内容は変わりませんのであしからず。


外伝 ―〇〇かもしれない未来―
外伝1 ―あるかもしれない未来―


2220年4月1日 地球より17000光年の宙域

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマト 完結編』より《抜けるヤマト》】

 

 

窓の外が赤く、青く、鮮やかに瞬いては消えていく。

星明かりと競い合うかのように、彼我の間を多数の閃光が煌めいているのだ。

とりわけ強い、鈍い光がきらめくと、遥か遠くで味方の艦が炎を纏わせて戦列を離脱していく。

青い光線が味方の艦から宇宙に突き刺さり、その先端が赤く膨らみ、やがて色を失うと闇の底に沈んでいく。

敵か味方か分からない戦闘機が燕のように鋭いターンを打ち、隼のような獰猛さを以て突撃し、後ろを取られた被捕食者を血祭りに上げていく。

 

互いの間を光のシャワーが行き来する様子は、幻想的ですらある。

しかし、そのシャワーの行きつく先では命の火が激しく燃え立ってはかき消され、炎の雲が澄み切った宇宙を汚していくのだ。

ミサイルの白煙が、墜とされた航空機が引く黒煙が、両者の間に幾何学模様を形成していく。

衝撃砲の閃光が、爆散する艦体が、二度と取れない染みを乱雑に塗りたくっていく。

そう。そこは、まさしく戦場であった。

 

地球と惑星アマールの中間点まで辿り着いた第3次移民船団は、敵の索敵網を避けるため、ブラックホールを利用したフライバイを決断した。

しかしその作戦中に、第1次・第2次移民船団を攻撃したと思われる複数の敵艦隊が待ち伏せを仕掛けてきたのである。

地球艦隊はすぐさま敵艦隊と交戦を開始、足止めをしている間に船団はワープを続行している。

現在、全体の70%がワープで戦域を離脱したところだ。そろそろ護衛隊も撤退を開始するだろう。

本艦の遥か遠くでは今なお対艦・対空戦闘が続いている。既に互いの陣形に食い込み、両者入り乱れて乱戦の様相を呈している。その様子はさながら、古代に行われたという歩兵による野戦か、それとも水軍の海戦か。

しかし、防衛線を抜けた一部の艦が、単縦陣で航行している移民船団に向かってきている。

 

当初は船団の右舷後方で始まった戦闘は、今では左舷の戦闘が正念場を迎えている。

まずいことに、船団は今、前後を敵に挟まれている。

此方からみて11時10分の方向、仰角15度。

迂回して戦域を突破したと思われる黒地に赤い光の筋を纏った敵艦が、前方の移民船団に向かって突っ込んでくる。

武器庫とナイフを組み合わせたような、珍妙なデザイン。しかし、それは正面火力を重視した結果なのだろう、槍衾のような攻撃を見舞ってくる。

狙われている移民船は、回避行動をとれない。

ブラックホールを使ってのフライバイのために決まったコース以外の航路をとれない上にものすごい乱気流の所為で、安定翼も無い鈍重な移民船は針路の維持だけで精いっぱいなのだ。

 

今すぐ援護に行きたいが、こちらも7時32分の方角から敵の追撃を執拗に受けているため、動こうにも動けない。

 

 

「くそ、こんなときの為の戦闘空母なのに、何故肝心な時に何もできないんだ!」

 

 

篠田は思わず叫んだ。

他の軍艦と違って、この艦の後部には主砲が搭載されておらず、代わりに上下二段の飛行甲板になっている。

本来なら、そこには120機近くの艦載機が搭載されたはずだ。

戦闘空母『シナノ』は、後方へ張り出した上部飛行甲板に2基、下部格納甲板に2基のカタパルトを搭載している。カタパルトは一基につき最大2機を同時発艦可能で、最大でいっぺんに8機が発進可能となっている。緊急事態においても、10分で2個飛行隊24機が発艦可能なように設計されているのだ。

しかし今、『シナノ』には一機のコスモパルサーも搭載されていないのだ。

 

移民船は乱気流にあおられそうになりながらも必死に進路を維持し、大小の岩塊に小突き回されてひっきりなしに揺さぶられている。強大な推力を持つ戦闘艦と違い、2000メートルちかい巨艦ながら波動エンジンを4基しか搭載していない移民船団は、見るからに不安定で見ていられない。

敵の攻撃の多くは周囲の岩塊に防がれるが、余りに多くの火線に被弾する船も出てきている。

 

上部一番・二番主砲が左舷前方の敵を睨み、衝撃砲を放つ。

6門の砲口から放たれた眩い光芒がほんの一瞬、視界を青く染める。

 

 

「下部一番主砲、発射! 続いて艦首1番から6番、バリアミサイル発射!」

 

 

戦闘班長遠山健吾の、落ち着きながらも迫力ある声が聞こえた。

 

 

「『ヤマト』より全艦に通信! 『交戦を続けながら後退し、移民船団に続いてのワープに備えよ。敵艦隊はヤマトが引き受ける』」

 

 

通信班長を務める庄田有紀の報告に、南部康雄艦長が焦りを押し隠した声で航海班の佐藤優衣に確認を取った。

 

 

「移民船団がワープ完了するまであとどれだけだ!」

「あと5分7秒です!」

「技師長、艦のダメージは!?」

 

 

南部艦長が、今度は篠田に向けて怒鳴った。

篠田は慌ててパネルをタッチして艦のステータスを呼び出し、状況を確認する。

艦首左舷、および艦後部にふたつある艦載機発進口、下側にある第二飛行甲板の先端と波動エンジンの間の空間、艦尾収納庫が赤く点滅している。先程敵の衝撃砲が直撃した個所だ。

収納庫は壊滅して艦尾に大穴が空いてしまったが、ダメージが他の場所に伝播している様子は無い。延焼もしていないようだし、当面は放置しても問題は無いだろう。

しかし、すぐ前の第二格納庫に被害が及ばないとも限らない。

 

 

「被害の拡大はありません! 第二格納庫の避難民は、現在艦の中央に退避中です!」

 

 

本来艦載機が満載されているはずの第一・第二格納庫には、地球からの避難民1070人が肩を寄せ合って身を震わせている。

この艦、宇宙戦闘空母『シナノ』は本来の役目から外れて、移民船でありながら船団の護衛も任されているのだ。

 

最初にこの任務を知った時、篠田は運命を呪った。

戦闘艦として護衛任務に就くこともできず、かといって純粋な移民船でもなく、船団の航路に張り付いて敵の攻撃を防ぐ最後の盾となる。なんとも矛盾した話ではないか。

どうせもう一往復するんだから、一隻多くすればいい話ではないのか、と何度も陳情したが、あえなく却下された。

こんなことの為にこいつを造ったんじゃない。こいつも艦隊に加えて欲しい。しかし、その願いは叶わなかった。

そうしたら案の定、この状況だ。航空機という片羽をもがれた状態で、同時に二方向から来る敵を文字通り最後の盾になって受け止め、それでいて乗艦している避難民は守らなければならない。

ここまで無茶苦茶な状況、普通の宇宙戦艦だったらあっという間に袋叩きにされてしまうに違いない。

 

幾隻もの戦艦が交戦しながら強引な舵取りで移民船団の針路に合流すると、10万人の命を乗せた移民船に寄り添うように、そして盾になるように並走し、同時にワープに入る。

そんな中、『シナノ』は最後の移民船グループの左側に陣取り、前後から迫りくる敵を相手に必死の防衛戦を繰り広げている。

 

敵の攻撃がまさに移民船に着弾せんとしたとき、バリアミサイルが移民船を庇うように展開して6輪の青い花弁をひらく。

直後、立て続けに爆発が起き、6枚の青き盾は移民船に代わってミサイルを吸収した。

今ので敵艦隊がこちらの存在に気づいたのか、針路を変える。

 

 

「敵艦隊、こちらに向きを変えました! 距離、38000宇宙キロ!」

「笹原、取り舵5度、上げ舵30度! 攻撃来るぞ、避け切って見せろ!」

「庄田、こちらの映像をヤマトに送って援護を要請!」

 

 

立て続けに艦長の声がイヤホンから聞こえ、すぐに艦が敵艦隊に正対する方向へ転舵する。

間もなく、鮮血のような赤みを宿した数十本もの光の長槍が、一斉にこちらに向けて放たれた。

『シナノ』と真正面から向かい合った弾雨はこちらを恐れるかのようにすぐ手前で散開し、第一艦橋の左右を通り過ぎていく。

それでも全弾回避とはならず、4発が左舷前部、第一砲塔下部を痛打した。

 

 

「「「「「……ッ!」」」」」」」

 

 

左前方からの強い衝撃に艦橋は大きく揺さぶられ、慣性の法則に従って艦内のものがつんのめるように飛び出しながら右から左へ吹き飛んでいく。

第一艦橋の誰もがうなり声をあげ、身体を襲うGを気合いで耐えた。

体が痺れるような振動に耐えながらも、篠田の眼はステータス画面から目を離さない。

被弾箇所のダメージは……よし、軽微だ。ヤマトと同じ装甲は伊達じゃない。

お返しとばかりに放たれた6門の衝撃砲は、敵の先頭艦を貫く。敵の数は多いものの、攻撃力の性能ではこちらに劣るようだ。

その間も前後の敵はバリアの範囲外にいる移民船に砲撃をかけている。致命傷に至った船はまだないようだが、このまま被弾し続ければやがて失速し、ブラックホールへ飲み込まれていくのは必至だ。

やはり、単艦でグループ一つを護り切るのはとてもじゃないが無理があるのだ。

 

 

「艦長、ヤマトがこちらに針路を変えました!」

「『ヤマト』より本艦に入電! 『我、これより移民船団の護衛にあたる』」

「古代さん……。よぉし!」

 

 

これで、後方の敵はなんとかなる。『ヤマト』が後部の移民船を守ってくれるだろう。

ならば本艦は、正面の敵を叩くことに集中できる。

南部艦長は勢いよく立ち上がり、まなじりを決してマイクをとった。

 

 

「艦長より達する。本艦はこれより前方の敵艦隊へ集中攻撃をかけたのち、船団を追ってワープに入る。針路そのまま、速力130宇宙ノット!」

 

 

なおも迫り来る光芒の中、篠田は心の中で叫んだ。

『シナノ』よ耐えてくれ、お前はあの宇宙戦艦ヤマトの姉妹艦だろう……!

 

 

 

 

【挿絵表示】

 


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