宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

74 / 83
連投です。
今度は、ヤマトがSUS要塞と戦っている裏で起きていた出来事です。


外伝2 ―ありえるかもしれない未来―

2220年 4月9日 惑星「アマール」周回軌道上

 

 

【推奨BGM:「宇宙戦艦ヤマト2199」より《ファースト・コンタクト》】

 

 

「本艦正面にワープアウト反応!」

 

 

優衣の声が、沈黙に張りつめた場の空気を切り裂いた。

正面上部の大型モニターを見ると、進行方向正面の遥か遠く、惑星アマールの丸い地平線の先が、僅かに歪み始める。まるで波立つように空間が歪むと、青い染みが次々と現れてアマールの曙光を汚した。

 

 

「レーダーに反応、敵艦隊出現。方位11時34分、伏角12度、距離14万1000宇宙キロ!!」

「やはり現れたか、星間連合め。決戦の留守を狙ってくるとはなんて卑怯な奴らなんだ……」

 

 

続いてレーダー班の真貴が報告を上げる。

予期していたこととはいえ、決戦の間隙をぬってアマール本星を攻めようとする敵の所業に、南部艦長は侮蔑の意思を隠さない。

 

 

「ま、『こんなこともあろうかと思って』の我々ですからね」

「技師長、その台詞は真田さんの専売特許だ。今後その発言を禁止する」

「代々技師長が受け継いでいくものだと思っていたんですが?」

「篠田なんぞ、真田さんに比べたらまだまだだ」

「この艦、設計したのは俺なのにな~」

「馬鹿、そんなこと言ったら造ったのはうちの会社だぞ」

 

 

艦長と技師長の軽口に、艦橋が明るい笑いに包まれる。敵の出現にあって第一艦橋要員は皆プレッシャーも無く、冗談を笑う余裕もある。前回の護衛戦ではガチガチに緊張していたが、今回は若い奴らも大丈夫そうだ。

 

 

「よぉし庄田、全艦に通達! 『第三戦隊は波動砲のチャージを開始、第二戦隊に突撃命令。第一戦隊は本艦に続け』。笹原、本艦進路面舵30度伏角20度。遠山、対艦対空戦闘発令。砲雷撃戦用意、艦載機の発進を急げ」

『了解!』

 

 

矢継ぎ早に出された命令に、篠田より10歳は若い部下達が気力に満ちた返事を返す。この状況でも元気なものだ、と篠田は少し羨ましくなる。

もっとも、元気なのは南部艦長も同様だ。確か艦長は小規模とはいえ艦隊の指揮を任されるのは初めてのはずだが、まるで初めて会った時の頃のような生き生きとした声で命令を飛ばす。

 

 

(きっと、ようやく戦闘空母らしい働きができるからだろうな)

 

 

篠田は、そうアタリをつけている。

前回の移民船団護衛戦は、避難民を載せながらの戦闘であったがゆえに思うように戦う事が出来なかった。

南部艦長も、歳を重ねた今こそ落ち着いてきているが元来の性格としては熱血漢だ、さぞやストレスの溜まる思いだっただろう。

今回は避難民がいないだけでなく、艦載機を満載した上での戦闘だ、張り切るのも無理はないというものだ。

かくいう篠田自身も、生みの親としてこの艦が万全の働きができることを喜ばしく思っていた。

 

 

――2220年4月7日、第三次移民船団団長古代進の判断により、地球連邦は星間連合に対して宣戦を布告。

アマール国首都へと侵攻していた敵陸上部隊を、ヤマトはミサイル攻撃で一掃した。

その後、直ちに護衛艦隊司令部と地球連邦大統領、地球連邦科学局長官真田志郎を交えて協議がなされ、報復に訪れるであろう星間連合艦隊を積極的に迎撃する事が決定された。

移民先である惑星アマールとその月を戦場にするわけにはいかないので、できるだけ離れた宙域に進出して決戦を挑むのだ。

第三次移民船団がアマールに到着した時点で、地球防衛艦隊の戦力は第一次・第二次船団の生き残りを合わせて約200隻。

地球へ戻った移民船6隻の護衛にスーパーアンドロメダ級2隻を伴わせ、ヤマトは残りの護衛艦のうち180隻を率いて、再び宇宙へと上がった。

残りの20隻は『シナノ』とともにアマールに残り、本土防衛の任に就くこととなった。

地球艦隊とアマール艦隊が出撃した事は、向こうも把握しているだろう。

万が一だが、星間連合が決戦を避けて本星を直接攻撃して来る可能性も無いとは限らない。

そうなった場合、主力艦隊が舞い戻ってくるまでの間、持ち堪えるだけの戦力が残されたというわけだ。

 

残されたのは、ドレッドノート級が12隻、スーパーアンドロメダ級が8隻。航空戦力は、各艦が搭載していたコスモパルサーの残存機が、合わせて100機。既に全機『シナノ』に収容して再編成され、5個飛行隊となっている。

本土防衛艦隊の司令を兼ねることになった南部艦長は、21隻からなる艦隊を3つの戦隊に分けた。『シナノ』と6隻のドレッドノート級からなる第一戦隊、6隻のドレッドノート級からなる第二戦隊、スーパーアンドロメダ級戦艦8隻からなる第三戦隊である。

艦隊編成が終わるや否や、艦長は艦隊を周回軌道上に上げ、戦闘配置のまま哨戒活動を行ってきた。

 

 

哨戒を始めて40時間あまり、果たして懸念した通り星間連合はやってきた。しかも、主力艦隊との決戦と同時並行である。

ヤマトからタキオン通信で敵艦隊及び巨大要塞との開戦が伝えられてきたのが、20分ほど前。

今頃は、両軍相乱れての総力戦になっていることだろう。

とてもではないが、増援がやってくるとは思えない。

つまり、現状の戦力だけで敵艦隊を殲滅しなければならないという事だ。

交戦の報を受けて、既に陣形は変更してある。

それまでは正面火力を確保しつつ正対面積を減らすため、単横陣を逆三角形に敷いていた。敵の突撃を真正面から受け止めつつ、戦闘時間を引き延ばす作戦だった。

しかし、増援が来ない事が判明した現在は、敵の撃破を企図した陣形になっている。航行序列は鶴翼の陣、第三戦隊を波動砲戦隊形、他の2個戦隊が第三戦隊よりやや上空に占位し、単縦陣で第二戦隊の両脇を固める形だ。

 

作戦としてはこうだ。

会敵と同時に第三戦隊の半数は波動砲のチャージを開始。その間、第一・第二戦隊が敵を両側から挟みこんで敵艦隊の散開を阻止するとともに、チャージの時間を稼ぐ。しかるのち、第三戦隊が波動砲を一斉射。固まっている敵をまとめて吹き飛ばす。

すかさず第一・第二戦隊が肉薄し、混乱している残敵を掃討する。

両戦隊による掃討が困難な場合、第三戦隊の残り半数が波動砲の第二射を見舞って更に敵数を減らすのだ。

 

―――地球連邦軍の戦訓からして、波動砲戦は失敗に終わる事が多い。過去の事例では、ガトランティス戦役では波動砲よりリーチの長い火炎直撃砲によるアウトレンジ攻撃、またディンギル帝国戦役では小ワープ戦法によって波動砲を避けられ、必殺のハイパー放射ミサイルを撃ち込まれて全滅した。

それ以来、波動砲戦についての研究が盛んに行われた。

その結果得た結論は、

 

「波動砲のみに頼った戦術は柔軟性を欠き、敵の対応策に対して脆弱である」

「波動砲を発射する場合、発射担当艦を護衛する艦の存在が必要不可欠である」

「波動砲発射までの間、敵を波動砲の射線から外さない方策が必要である」

 

の3つであった。

 

今回の陣形はそれらの考察を参考にして立案されたものであるが、いかんせん不安要素も多い。

まず、星の近くでの波動砲戦のため、下手を打つと敵ごとアマール星を吹き飛ばしてしまう。

次に、敵の数や出現場所などが不明な為、戦法が図に当たる保証がない。特に、第三戦隊の真後ろにワープアウトしてきたら最悪だ。

なにより、―――これが最も大きな問題なのだが―――篠田や南部艦長、それに古代司令のようなベテランはともかく、他の艦の連中はまともな実戦経験もなければ波動砲を撃ったこともない。

先の移民船団護衛戦においても殆どの艦と乗員が初陣で、敵への攻撃やダメージコントロールがちっとも訓練通りにいかずに撃沈される艦が少なくなかった。

複数の艦種による艦隊運動も満足にできないため、戦闘の際はドレッドノート級とスーパーアンドロメダ級を分けて行動させをる必要があった。

これでは、艦隊防空という点において非常に問題がある。対空火力が偏在することで、弾幕に濃淡が生まれてしまうのだ。

幸い、護衛戦の時は敵艦載機をヤマトとコスモパルサー隊が吸収したようだが、今回は上手くいくかどうか。21隻しかない小規模艦隊だから問題にはならないと信じたいが、何が起こるのか分からないのが実戦である事は、篠田自身が良く知っている。

 

 

「敵の詳細判明! フリーデ艦が10、ベルデル艦が24、SUS艦が17! 艦載機は未だ発進しておりません、敵はまだこちらに気づいていない模様!」

 

 

アマール軍との情報交換により、既に敵艦の性能は熟知している。前回のような闇雲な攻撃ではなく、敵艦のウィークポイントを狙撃する事も可能だ。

正面上部のメインパネルに映った敵の姿を、唇の端を笑みに歪めながら睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

「波動砲充填率80パーセント!」

 

 

窓ガラスの向こうには、惑星アマールの稜線近くにそばかすのようなブツブツが見える。

 

 

「敵艦隊、こちらに気付きました、全艦左一斉回頭でこちらに向かってきます! 距離、10万8000宇宙キロ」

 

 

窓ガラスの真上、艦橋いっぱいに広がるメインスクリーンには、スラスターを吹かしてその場で方向転換をする敵艦の姿が見える。

馬鹿め、回避行動も散開行動もとらずにその場で旋回するとは、狙ってくれと言っているようなものではないか。

 

 

「『シナノ』より入電。『雷王作戦開始』。繰り返す、『雷王作戦開始』」

 

 

通信班長の報告に、第三戦隊旗艦『ノース・カロライナ』艦長は頷きで返す。

作戦名は、かつて土星宙域にて行われたガトランティス帝国残党掃討戦に名付けられたもの。当時駆逐艦の戦闘班長として作戦に参加した身としては、なんとも感慨深い名だ。

あのときは、残党軍が木星圏にいた戦艦部隊と遭遇してしまい、戦場へ到達するのが遅れてしまった。だが、今回は完全にこちらの思惑通りにことが進んでいる。万一にも失敗することはないはずだ。

敵の回頭が終わらないうちから、視界の右下と左上からミサイルが次々と放たれる。

 

 

「第一戦隊、第二戦隊、攻撃を開始しました」

 

 

単縦陣を組んだ両戦隊が、敵を遠巻きに囲みながらミサイルによる一斉攻撃を開始する。事前の打ち合わせより早く攻撃が開始したのは、敵がこちらに気付いたからだろう。

旗艦を先頭に、進路を敵艦隊の真正面から真横に占位するように進撃する。敵を全主砲の射界に捉えつつ正対面積が減るように接近していく。「イの字戦法」と呼ばれる、接近と丁字を両立する水上戦闘艦時代からの伝統的艦隊運動だ。

第一戦隊の艦首発射管から放たれた合計28本の円筒形の物体は、発射してすぐに左上方へと駆け上がっていく。

対艦ミサイルは衝撃砲よりも速射性能で大きく劣り、また大きく鈍重な弾体が迎撃可能な為に会戦における投入火薬量の総量は決して多くない。そのかわり射程、誘導性、破壊力で通常兵器の中では最も優れているため、命中すれば敵に大ダメージを与える事が可能だ。

『シナノ』から発艦した彩雲で構成される重爆撃隊も、両戦隊の間を埋めるように右上と左下から無誘導爆弾を投下する。

彩雲の両翼端に装備された複合爆装ポッドから、次々と子弾が射出される。爆装ポッドを丸ごと投下するのではなく、一隻でも多くの敵に損害を与えんと、尾翼とスラスターをこまめに調整しながら高性能炸薬弾をばら撒いた。

泡を食ったように始まった対空射撃も空しく、第一斉射が着弾する。

先頭を行くSUS艦の、平面で構成された装甲をミサイルが突き破る。

遅発信管により艦内部まで侵入してから爆発した徹甲弾頭は、破片が隔壁を千々に引き裂き、紅蓮の炎は廊下を縦横無尽に走り渡って乗員を次々と殺傷した。

重爆撃隊の放った子弾はミサイルほどの貫通力は無いものの、絶え間なく着弾する高性能爆弾は装甲に確実にダメージを与えていく。

 

 

「第一斉射、着弾。命中率は89パーセント」

「初撃にしては命中率が高いな。最大射程からの攻撃だから迎撃されるかと思ったが」

「強襲が成功したという事でしょうか」

「というより、重爆撃隊の命中率が高かったのが理由だろうな」

 

 

続いて側面発射口から放たれたミサイル群は、第一斉射とは異なる形状をしていた。

84条のミサイルの噴射煙が再び味方艦と敵艦を繋ぎ、敵艦に接触する直前に爆発する。白い閃光が放たれたかと思うと、青い波紋が次々と広がって艦隊を阻む大きな壁となった。

その姿は、ファンタジー世界の物語に出てくる魔法障壁のようで、一種幻想的な姿である。

 

 

「なるほど、時間稼ぎとしては極めて効果的だ」

 

 

第一撃を加えた直後にバリアミサイルを敵の目の前に展開する事で、敵の攻撃を最前線で封じる。

敵は左右を塞がれて前進するしかないし、敵はバリアを張った第一・第二戦隊への報復に意識を向けることになる。それだけ、真正面にいる第三戦隊は攻撃を受ける確率が下がるというわけだ。

檻に押し込められた猛獣を思わせる激しさで、敵戦艦がバリアを壊しにかかる。

衝撃砲の驟雨のような連撃が、バリアを叩く。

緑色の光が、緋色の光が障壁に到達する度に真円状の波紋が広がる。

フリーデ艦がミサイルを放つも防がれ、バリアと敵艦隊の間に爆煙が煙幕のように展開して彼我の視界を塞ぐ。

味方の両戦隊は一切攻撃を仕掛けない。

向こうの攻撃が届かない代わりに、こちらの攻撃も届かないのだ。

やがて、円錐形の艦が一斉転舵して、次々と蒼璧へと突っ込んでいく。

業を煮やしたのか、ベルデル艦隊がバリアを強引に突破して第二戦隊へ突撃しようとしているのだ。

 

 

「無駄だよ、そんなことをしても」

 

 

一人呟いた。

バリアミサイルを構成しているのは、波動エネルギーの源泉であるタキオン粒子だ。

三次元を不安定にする性質を持つタキオン粒子に触れればどうなるかなど、見なくても分かる。

果たして、艦長が予想した光景が眼前に現出した。

バリアに接触したベルデル艦は立体を維持できなくなり、衝突事故を起こした自動車のように接触面から崩壊していく。

崩壊によって生じた煙や破片が、哀れな生贄の姿を覆い隠す。

煙で充満した空間から鈍い光が断続的に煌めいた。

ガラス張りの水槽の中で悶える魚のように、パニックに陥る敵艦隊。その眼前で第一、第二戦隊が回頭して同航戦に入る。

空いている上下の空間には重爆撃隊が殺到し、脱出せんとする敵艦に爆弾をポッドごと投下して片っ端から血祭りに上げている。

 

 

「ここまで御膳立てされたなら、こちらも期待に応えてみせよう! 波動砲発射準備はまだか!」

「充填率120パーセント、発射準備完了!」

「戦闘班長、操艦を渡す。頼んだぞ!」

「了解、ターゲットスコープオープン。電影クロスゲージ、明度10」

 

 

戦闘班長が眼前に現れたトリガーのグリップを握り、撃鉄を引いてコンバットスタイルに構える。

 

 

「『ワシントン』、『ライオン』、『テレメーア』も発射準備完了」

「全艦に通達、『波動砲発射準備完了、直ちに射界より退避されたし』」

 

 

右隣りには、合衆国が造ったスーパーアンドロメダ級戦艦『ワシントン』。左にはイギリスの『ライオン』、『テレメーア』。四隻の左右には護衛として『アルザス』『ノルマンディー』『サン・ジョルジョ』『クロンシュタット』が控えている。

8隻の宇宙戦艦が横一列に整然と並ぶその様は、古に聞く鋼鉄の重騎士が馬上槍の穂先を揃えて突撃をかけんと、腰を沈めて構える姿に見える。

自身の艦その戦列に並んでいる喜びに、体が震えた。

 

 

「発射10秒前、総員対ショック・対閃光防御!」

 

 

両戦隊が一斉転舵して一目散に距離を取り、コスモパルサーが我先にと避難する。

それを確認してから、艦長は黒のゴーグルをかけ、シートベルトを確認した。

タキオン圧力調整室の動作音が早鐘のように鳴り、『ノース・カロライナ』の逸る気持ちを表しているようだ。

先の護衛戦では、撤収後のワープを考慮して波動砲を発射する事は出来なかった。

あの時に溜まったストレスを今ここで晴らさんと、艦首拡散波動砲の二つの砲門が、青の燐光を纏わせて今か今かと発射の瞬間を待っている。

 

 

「5……4……3……2……波動砲、発射!」

 

 

掛け声とともに、艦橋内が白い閃光に包まれた。

艦首が夜明けの太陽のように燦爛と輝き、青暗い宇宙を光に染める。

あまりに強力な光線に、第一艦橋正面に座る三人の輪郭線をも消してしまう。

強烈な光が乳白色から鮮やかな青に変わる直前、強烈な振動と轟音が艦を襲った。

波動バースト流が二門の砲口から放たれた反動が艦体を貫き、磁力アンカーに固定されているはずの巨大な戦艦が細かく震えるのを、肘掛けを掴み足を踏ん張って耐える。

 

 

「なるほど、こいつは堪える……!」

 

 

手足を通じて伝わる振動にしびれを感じつつ、艦長は言葉を漏らす。

地球連邦軍は波動エネルギーの導入後数多くの波動砲搭載艦を建造してきたが、一つの小宇宙に匹敵するというその威力ゆえにその実射を厳しく制限してきた。

その扱いの厳重さは核兵器のそれを上回るほどで、波動エネルギーに関する実証実験は必ず地球外、波動砲に関する実験は太陽系外と定められているほどだ。

艦長自身も、普段の訓練では臨界前発射訓練しか行わないので、26年の軍人生活の中で波動砲を実際に発射した事は一度も無かった。

 

螺旋を描く波動バースト流が二筋、徐々に互いの距離を近づけながら敵艦隊へ突進していく。

左右の僚艦からも破壊の奔流が伸びていく。

四筋の青い水柱は敵艦隊の面前まで到達した刹那、四方に破裂した。

二門の砲口から放たれた波動バースト流が交わり、拡散して散弾に変化したのだ。

ディープブルーの彼岸花が咲き、細い花弁同士が重なり合う。

正方形の四隅を突くように放たれた波動砲は子弾が放射状に分かれ、一枚の巨大な網を形成して何十隻もの敵を包み込む。

 

次の瞬間、開いた花火が更に無数に炸裂する様を目撃した。

 

網から槍衾と形を変えた波動バースト流が、空間丸ごと食いちぎらんと襲い掛かる。

四散したバースト流の直撃を受けた敵戦艦が、次々と誘爆を起こして炎の花を咲かせる。

澄んだ青と濁った緋色のコントラストが、場違いなほど綺麗に見えた。

流星のような輝きがベルデル艦に命中し、円錐部に収納されていた艦載機がボロボロと零れ落ちる。フリーデ艦の巨大な艦橋構造物に命中した一発は即座にミサイルの誘爆を引き起こし、引き裂かれた艦底部だけが力なく漂う。左舷を擦過されたSUS艦は慣性のままに激しく回転しながら右舷へと流れていく。

漂流する艦同士が衝突し、弾かれると再び他の艦と激突する。密集隊形ゆえに玉突き事故が絶え間なく起こり、被弾を免れた艦も被害を受けていく。

子弾の一発がバリアの一枚に命中すると、更なる散弾となって反射し、敵艦隊に真横から降りかかる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

死屍累々

 

 

そんな言葉が当てはまる地獄絵図を前に、誰もが言葉を失う。

初めて間近に見る拡散波動砲4連一斉射撃の威力に、誰もが信じられない気持ちでいた。

50隻以上いた星間連合の戦艦艦隊が一瞬にして壊滅。生き残った艦も殆どは大なり小なりの損害を受けていて、無傷な艦はいないように思えた。

―――これが、小宇宙ひとつのエネルギーに匹敵するという波動砲の威力―――

艦長は、その威力に感嘆するとともに恐怖を抱いた。

20年前、イスカンダルからもたらされた波動エネルギー。

それと同等の兵器を、ガミラスも、ガトランティス帝国も、暗黒星団帝国も、ボラー連邦も所有していた。つまりは、それが星間国家の標準装備ということだ。おそらく、星間連合も所有しているのだろう。

広い大宇宙のどこかでは、このような大量破壊兵器を撃ち合う星間戦争が常に起こっているのか。

今眼前で起こっている凄惨な現象など、日常茶飯に過ぎないのか―――

 

沈黙は、数分だったのか、それとも一瞬だったのか。

 

場の空気を切り裂いたのは、旗艦『シナノ』からの入電だった。

 

 

「か、艦長、『シナノ』より入電。『波動砲の第二斉射に備えよ』」

 

 

艦橋内がわずかにどよめく。

目の前に広がる惨状を見て、まだ撃つつもりなのか。

これでは、ただの虐殺ではないか――

艦長は命令を実行に移すことに躊躇いを感じていた。

もう十分ではないか。あとは残存艦に降伏を促して、その後は救助活動をしたほうがいいのではないか。

 

 

「通信班長、『シナノ』に意見具申。『波動砲攻撃の効果絶大なり、第二射の必要な「艦長! 本艦後方にワープアウト反応!」なにぃ!?」

 

 

直後、ワープアウトの水色に全身を輝かせながら、巨大な物体が艦のすぐ真上を通り過ぎる。

―――数分後、彼は思い出すことになる。

この広い大宇宙には、波動砲をも無力化する技術があるということを。

 

 




復活篇本編では、アマール艦隊もヤマトに随伴することであたかも惑星アマールの防衛には一隻も宛がわれていないような印象を受けました。
そこで書いたのが、本編に登場しない『シナノ』を使ったアマール本土防衛任務のお話でした。
この話、意外と長く続きます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。