宇宙戦艦ヤマト外伝 宇宙戦闘空母シナノ   作:榎月

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挿絵が間に合わなかったけど、一応投稿します。
絵は描け次第追加の予定。
※挿絵を追加しました。(2016/4/9)


外伝6 ―語られるかもしれない未来―

『シナノ』第一艦橋

 

 

【推奨BGM:『宇宙戦艦ヤマトpartⅡ』より《傷ついたヤマト》】

 

 

戦闘開始から20分。

敵の反撃を食らってからはまだ5分と経っていない。

しかし、皆一様に先日の艦隊護衛戦のときよりも遥かに疲労していた。

その原因は、なによりも地球連邦艦隊の必殺兵器である波動砲であやうく命を落としかけたという点に尽きる。

 

地球防衛軍にとって最強の兵器であり、戦術の根幹を担っている波動砲。

それは、逆に言えば波動砲を封じられてしまったら地球軍には為す術がないという事だ。

かつて、白色彗星に拡散波動砲を無効化された防衛艦隊が、超重力に引き込まれて壊滅してしまったように。

拡大波動砲を小ワープで回避された防衛艦隊が、水雷艇の放ったハイパー放射ミサイルによって一網打尽にされたように。

今もこうして、大気との摩擦で赤く発光し始めている『マヤMk-Ⅱ』を遠巻きに追尾することしかできないように。

 

絶望感が、満ち潮のようにじんわりと第一艦橋に蔓延し始める。

それは、隣にいる遠山の表情を見れば明らかだ。

気丈に構えているように見えるが、目に覇気がない。

心がネガティブに落ちている人によくある症状だ。

戦闘が再開すれば、彼の傷口はまた開くだろう。

 

だが笹原達也という男は、「絶望」などという非生産的な感情は持ち合わせていない。

彼は、「絶望」は決まっていない勝負を確定付ける作用を持つと思っている。

つまり、諦めたらその時点で終了……死ぬということだ。

絶望している暇があったら、その分のリソースを思考に回した方がよっぽどましだ。

起死回生の一手、最悪でも相討ちに持ち込む策が思いつく可能性はある。

現に、艦長と技師長はまだ諦めていない。

二人が依然、沈黙を保っているのは、思考し続けているからだ。

他のクル―のように、諦念が心を蝕み始めているからではない。

 

 

「太陽系内第4救出部隊。構成は波動実験艦『武蔵』を旗艦に、アンドロメダⅢ級戦艦『ネトロン』、航宙戦艦『紀伊』、空母『ミズーリ』『ウィスコンシン』、改ドレッドノート級空母『まつしま』『リア』『バイエルン』、ほかに第三世代型巡洋艦3隻、駆逐艦11隻。更には脱出カーゴを連結した旧型巡洋艦が33隻。航空機は『まつしま』『リア』『バイエルン』に搭載されているコスモパルサーがそれぞれ60機ずつです」

 

 

ワープアウトから1分後、IFFとの照合で主な艦の艦名が判明した。

送られてきたデータを泉宮が読み上げる。

第三世代型の艦と改ドレッドノート級空母は見たことがあるが、他の艦は若い世代には初めて聞く名前ばかりだ。

その中で、艦長と技師長はある艦の名に反応した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「なんと、『武蔵』だけでなく『紀伊』まで来ているとは……これも何かの運命か?」

「全く、今日ほど都合のいい展開というのを思い知ったことはありませんよ」

 

 

そうやって、顔を見合わせて不敵に笑う二人。

しかし俺達には、二人が何故笑っているのかが分からない。

 

 

「あの、艦長に技師長。なにが、そんなにおかしいのでしょうか?」

「そうか、庄田は知らないのだったな。泉宮、メインパネルに『武蔵』と『紀伊』の映像を出してくれ」

「了解」

 

 

すぐに映し出される、『武蔵』と『紀伊』の映像。

 

 

「……似てますね、『シナノ』に」

「艦体構造とか塗装が共通してますね。『紀伊』なんて特に、飛行甲板があるところまで似ている」

「確かに、艦橋のデザインとかそっくりだね」

「まぁ、主砲が全く無いからまともに戦闘は出来そうにないがな」

「『シナノ』も『ヤマト』を基にしてデザインされているから、『ヤマト』に外見が似ている3隻がこの場に集まっている訳ですね?」

 

 

政一、有紀、優衣、健吾、真貴の順に感想を漏らす。

 

笹原はもう一度、メインパネルに映し出された2隻をまじまじと見た。

波動実験艦『武蔵』は艦体構造や主砲の配置は―――対空砲が一切ないなど、多少の差異はあるが―――ヤマトとほぼ同じ位置にある。

外見上でヤマトと大きく異なるのは、上部構造物だ。艦橋があるべきところには円盤型のグラスドーム。その上にはヤマトの艦橋を前後に大きく引き伸ばしたような異様な形状。まるで旗がはためいているかのようだ。

第二艦橋にあたる部分は、あえて言えばスーパーアンドロメダ級に似ているだろうか?

第一艦橋は第二艦橋より後ろに引っ張られていて、艦橋登頂部―――ヤマトだと艦長室の部分―――は平坦になっている。

構造物の後ろ部分―――旗のような部分だ―――には、地球連邦のマークに見ているこっちが恥ずかしくなるくらいに大きく書かれた『武蔵』の二文字。

波動砲口に砲栓をしている点から見ても、『武蔵』が特殊な艦であることが良く分かる。

 

一方の航宙戦艦『紀伊』は『シナノ』を発展させたような形状で、飛行甲板が第一艦橋側面まで侵食している。

一番、二番主砲の位置には連装、四連装パルスレーザーが合わせて42門。側面パルスレーザー群の場所には側面煙突ミサイルの発射口と無砲塔型衝撃砲が一基ずつ。第一艦橋直前には『ヤマト』と同じように副砲が装備されている。

左右の無砲塔型衝撃砲のすぐ後ろには航空機管制用の通信マストがそれぞれ一基ずつ並列に立っていて、アクセントとなっている。

一方、後部の飛行甲板は『シナノ』のそれよりも肥大化していて、艦体よりも飛行甲板がはみ出ている。

『シナノ』が艦体と飛行甲板が一体化しているのに対し、『紀伊』はそのまんま『ヤマト』に分厚い板を乗せた印象。

飛行甲板のど真ん中には地球連邦軍を示す錨のマーク。煙突基部付近から放射状に描かれた3本の白線は、どうやら艦載機が発着艦する誘導線らしい。

飛行甲板の縁には3基の四連装パルスレーザーと6枚の大型ハッチ。

横向きに設えられているそれは、どうみても艦載機を発着させるためのものではない。

大型艇の類がそこから射出されるのだろうか。

 

 

「そうだ、『シナノ』を含めた三艦は、全て『ヤマト』をベースに再設計された艦。つまり、従兄弟同士という訳だ。『武蔵』は2210年に防衛軍本部の依頼で造られた波動エネルギーに関する実験を専門に行う実験艦で、『ヤマト』再建のテストモデルとしても設計された。勿論、その成果は『シナノ』の近代化改修にも生かされているぞ」

「『紀伊』は元々、『シナノ』の近代化改装案の一つでな。航宙戦艦とはいっているが、どちらかというと強襲揚陸艦に近いコンセプトになっている。実際には、新兵器の試験艦という名目で就航したがな。メイン武装は艦橋左右に配置された無砲身型衝撃砲と艦橋前の副砲、それから三方向に向いている煙突型ミサイル発射機。飛行甲板が乗っている艦後部には最大でコスモパルサー130機が収容できる航空機格納庫に、特殊雷撃艇を射出するハッチ。上陸地点の制圧から空間騎兵隊の派遣まで単艦でこなせる万能艦だ。とはいえ、『シナノ』をもう一度バラして改装するよりは1から新造した方が安上がりだという事が分かって、新たに『紀伊』として生まれたんだよ」

「ええと、つまり『ヤマト』の設計図を流用して造られたのが『シナノ』で、再設計して造られたのが『武蔵』と『紀伊』で、でもその設計図は『ヤマト』と『シナノ』の再就役にも流用されてて……だから、えっと、ええいややこしい!」

 

 

4隻の関係を整理しようと試みた有馬が頭を抱えて叫ぶ。

難しいことを考えずに「姉妹艦」でいいじゃないかと、笹原は内心思う。

 

 

「お、お二人とも随分と詳しいですね。『シナノ』だけでなく『武蔵』や『紀伊』にまで精通しているとは」

 

 

突然饒舌になった艦長と技師長にドン引きした遠山。

見れば、他のクル―も唖然とした表情だ。

 

 

「まぁ、『武蔵』を建造したのはうちの会社の横須賀ドックだからなぁ」

「『紀伊』は揚羽財閥が受注しているが、設計が俺の元勤め先なんだ。だから、同僚とか上司を通じて情報は入ってきているし、何より設計図をこの目で見たことがある」

「『武蔵』も『紀伊』も建造を認めてもらうまでが大変だったな、『シナノ』のあと、空母も建造制限に引っ掛かってしまって」

「そうそう、実験艦とか試験艦とか、無理くり艦種を探しましたね」

「みんな同じ事やるから、「標的艦」とか「新兵器搭載試験艦」とか「実験評価艦」とか何がなんだか分からない事になってたな」

「今では『武蔵』と『紀伊』以外、みーんな退役しちゃいましたけどね。ザマーミロ」

 

 

ハハハハハハ、と高らかに声をあげて笑う二人。

 

 

「何なんだこの二人、チート過ぎる……」

 

 

思わず声にして漏らしてしまった。

 

 

「一介の軍人が知り得るレベルを越えているわよ……」

「しかもそれを平気で私達に喋っちゃっているし。」

 

 

裏事情をペラペラと暴露する二人に、誰もが若干の戦慄すら覚える。

これ以上はヤバイ方向に進みそうなので、笹原は強引に話の転換を試みた。

 

 

「艦長、彼らに増援を要請する事は出来ないのですか?」

「そりゃ、アイツを倒さないと移民船団に被害が出るだろうから、頼めばやってくれるだろうが……。しかし、打つ手がない現状では彼らが合流したところでいたずらに損害を増やすだけだ」

 

 

一応要請はしてみるけどな、と艦長は渋い表情をして答えた。

 

 

「結局、あのバリアをなんとかしない限り、何をやっても意味がないってことですか」

 

 

図らずも美奈の口からため息が漏れた。

艦隊を半壊させた攻防一体のエネルギーフィールドの打破。

問題はただこの一点であり、最大の問題であった。

 

 

「艦長、俺も敵の解析をしてみます。もしかしたら、何か弱点を掴めるかもしれません」

 

 

篠田さんの進言に艦長が一瞬躊躇する。

小康状態とはいえ、現在は戦闘中だ。

戦闘が再開すれば、ダメージコントロールを担当する技師長が第一艦橋にいないと戦闘航行に支障がでかねない。

おそらく艦長は、それを危惧したのだろう。

しかし、結局はため息一つついて首肯した。

 

 

「……頼んだ。泉宮、第4救出部隊に連絡。『こちらアマール本土防衛艦隊旗艦、宇宙空母《シナノ》。現在本土防衛艦隊はSUS中型要塞と戦闘中。支援を請う』。それから残存艦は負傷艦の支援、救助が終了次第第一戦隊に合流するよう伝えろ。遠山、コスモパルサー隊はどうなっている?」

「はい。敵編隊の多数を撃破、現在は掃討戦に移っています。こちらの損害は撃墜が9、被弾が17です」

「パイロットの疲労もあるだろうし、次の出撃は無理だな……紫雲隊の出撃準備は?」

「波動砲発射の影響で準備に遅れが生じています。あと30分は無理です」

「佐藤。敵要塞が大気圏の再突入を始めてから地表に到達するまでの時間は?」

「進入角度を深くとれば30分程度、浅くとれば45分程度……といったところでしょうか」

 

 

頼みの艦載機隊が使えないことに、頭を掻き毟って苛立ちを見せる艦長。

打てる手がどんどん減っていく焦りが、俺達にも伝播する。

 

 

「―――厳しいな。第4次救助隊から艦載機を借り受けるしかないか」

「……もし、それまでに篠田さんや艦載機が間に合わなかったら?」

 

 

庄田が細い眉を八の字に歪めて不安げに尋ねる。

艦長席に振り返ったその肩は小刻みに揺れているように見えた。

 

 

「その時は……ゴルイ提督に倣うしかないだろうな」

「! ……艦長」

 

 

それで止められるかどうかは分からないが、と艦長は自嘲気味につぶやく。

最終手段を以てしてでも、アマール行きを阻止する。

いつもは強気な艦長の言外の決断に、皆一様に驚愕し、また悲壮な決意を固めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

中型要塞「アコンカグア」

 

 

「まもなく、アマール軌道を一周してしまいます」

 

 

隣に立つ副官が、SUS人特有の広い額の先に生えている短い髪を鬱陶しげに撫でつける。

 

 

「このままでは埒が明きません。膠着状態を脱するには、やはり選択肢は二つしかありません。―――艦長、ご決断を」

 

 

ベルイダは即答を避ける。

戦闘開始から既に40分、依然続く膠着状態に、艦内の緊張は限界に達しつつあった。

これ以上この状態を続ける事は、もはや無理だろう。

しかし、彼には次にとるべき手を決めかねていた。

 

 

「……副長、君ならどうする。後ろを無視して『アマール』に突入するか、反転して敵艦隊と一戦交えるか」

 

 

ベルイダの計画では、戦闘開始直後に放った超電磁反射砲―――超エネルギー反射システムによって放たれる光弾のことだ―――で敵艦隊を殲滅し、しかる後にゆっくり大気圏降下つもりだった。

しかし意外にも、敵はこちらの攻撃を察知したらしく、バリアを展開して回避運動をとった。

それでも半数以上の敵艦を食うことができたが、敵にこちらの手の内を知られてしまったのは正直痛い。

超エネルギー反射システムは、一撃必殺のカウンター奇襲攻撃であると同時に、その一度で仕留めなければ存在意義が半減してしまう兵器である。

それは、攻撃に使うエネルギーが敵から供給されるものである故、敵が撃って来てくれないと使えないからだ。

案の定、あれ以降敵は一切攻撃してこない。

艦の構造上後方へ攻撃することはかなわず、また反射システムの展開中はこちらから攻撃することもできない。

それが、この奇妙な小康状態の原因であった。

 

 

「私は前者を支持します。強行突入する場合、確かに大気圏突入中はバリアを弱めざるをえませんが、全くバリアが無くなってしまう訳ではありません。それに、大気圏突入シークエンス中に攻撃行動をとれないのは敵も同じです。一方でこちらから攻撃を仕掛けた場合ですが、確かに本艦の砲門数ならば敵を行動不能に陥らせることは可能でしょう。後顧の憂いを断つ意味でも、意義は大きいといえます。しかし、こちらから砲門を開くという事は、射撃の前後3秒間はバリアを展開するためのエネルギーを全て砲撃に回すということです。万が一その瞬間を先程の巨大エネルギー砲で狙われた場合、我々は一巻の終わりです」

「敵は一度、本艦のノズルを正確に狙ってエネルギー砲を撃ちこんできている。つまり、一般的な偏向バリアの弱点を熟知している程度には賢いという事だ。とすると、攻撃に転じた場合、そこを再び狙われる可能性は大きい、ということになるか……。敵にただ撃たれるだけと言うのは気持ちのいいものではないのだがな」

「こればかりは仕方ありません。この艦のコンセプトは『後の後で敵を制す』にあるのですから」

 

 

『アコンカグア』が『マヤ』と異なるのは、まさに超エネルギー反射システムの一点に尽きる。

SUSでも『アコンカグア』で初めて艦載化に成功したこのシステムは、その一方で前身である空間磁力メッキと同様に磁場の展開と維持に膨大な電力を消費する。

そのためにエンジンも『マヤ』の2.3倍の出力を持つ新型を載せ、増加した重量を抑える為に装甲を『マヤ』よりも薄くしてバランスをとっている。

しかも砲撃の瞬間は砲門周辺の磁場を解除しなければならず、発射の瞬間に砲門に被弾した場合、『アコンカグア』は内部から爆発・崩壊してしまう。

 

もちろん、同じようなリスクは『マヤ』に限らず全ての宇宙戦艦に共通することである。

そして、普通ならばわざわざこちらが射撃する瞬間を狙って敵艦が弱点を狙い済ましてくることなんて事は、ほぼ無い。

しかし、敵の攻撃を防ぐ手段を持っている『アコンカグア』だからこそ、それを無くしたときに不安に駆られるのは致し方ないことだった。

 

 

「しかし、我々を追って大気圏突入してきたらどうする? 今のいたちごっこのままではないか?」

「我々が先に大気圏突入をする以上、大気圏内戦闘モードに移行するのも我々が先です。敵がのこのこ無防備な姿で降りてくるのを、今度こそ一斉砲火で一網打尽にするのがよろしいかと」

「―――副長のいうとおり、だな。よし、艦内に通達。『これより本艦はアマール本星の大気圏に再突入し、メッツラーが失敗した任務を完遂する。この任務に失敗すれば、私達はヤツと同じ穴のムジナだ。そうなれば、我々は世間の笑いものだ。総員、自らの誇りのためにも任務に一層邁進せよ。』以上」

「大気圏突入体勢に移行! 超エネルギー反射システムを前方に集中展開!」

 

 

副長の命を受けて、下の階では再びコンソールから赤い光が飛び交う。

眼前のパネルに映る外の風景が、黄色みがかった黄緑色に染まり出す。

大気圏突入時の衝撃と摩擦熱を緩和するべくバリアがその厚さを増し、濃度の上がっていく大気を磁気が掻き分けていく。

艦がガタガタと震え出し、徐々に白と青の渦へと降下していく。

戦闘は、新たなステージに向かわんとしていた。

 

 

 

 

 

 

『シナノ』第二艦橋

 

 

クルーにとっては砂時計が落ちるのをじっと見守るような、神経をすり減らす30分が経過した。

その間、『マヤMk-Ⅱ』は低軌道上を遊弋するだけで、一度は見せた大気圏降下の動きはすっかり収まってしまっていた。

現在は『アマール』低軌道上にて、いたずらに時間を浪費しているような気がする。

とはいえ、その浪費は篠田たち技術班にとっては僥倖だった。

 

 

「ついに動き出しましたか。こうなる前にヤツの弱点の一つでも掴めればよかったんですが」

「何も結果が出なければな……。おい田川、何か新しい事は分からないのか?」

「いえ……いろいろ調査はしてるんですが、バリアフィールドを突破できるようなものはなにも」

「くそっ……!」

 

 

恭介は目の前のパソコンを忌々しげに睨みつける。

そこに映っているのは、今度はもう少し前、第三戦隊が拡散波動砲を撃った瞬間だ。

筅状に広がった子弾が要塞の表面に到達した瞬間、青い飛沫のような燐光が着弾点から上がり、霧となって艦を包んでいく。

その一部始終を、一体何回見直しただろうか。

穴があくほどに見つめて、見つめ続けて、目を皿にして観察して、

 

 

「ああああうがあああ! 分からん!どこだ、どこに弱点があるんだ!?」

「ひぃっ!?」

 

 

篠田は頭を掻き毟って悶絶した。

隣の席の長田が怯えているが構うもんか。

 

 

「ビーム兵器どころか実体弾まで無効化できる兵器をどうやって突破しろと!? クールになれ篠田恭介、考えろ、過去の事例を参考にしてみるんだ! 自動惑星ゴルバのときはデスラーの吶喊や波動カートリッジ弾など実体系兵器でどうにかなったが、今回は波動弾道ミサイルもないしドリルミサイルもない。主砲は換装しちゃったから波動カートリッジ弾は使えないし、通常のミサイルを集中させたところで磁場に阻まれるばかりか敵に反撃の機会を与えるだけになってしまう。やるならば一撃必殺、それも敵に反撃の機会を与えずに瞬殺しなければならない。 となるとやはり、こちらの最大火力である波動砲をぶつけるしか方法はないのだが、それはバリアに依って封じられてしまっている。バリアを突破するには、実体弾を敵にぶつけてその運動エネルギーで装甲をぶち破るしかないのだが、最も高い運動エネルギーをぶつけられる波動カートリッジ弾は無いしうわぁぁぁぁああああ話が堂々めぐりしている!」

 

 

ふぅぅ、と篠田は細いため息を吐いて目頭をぐりぐりと揉んだ。

さっきから、考えが同じところをループしている。

考えが先に進まないのは、何か決定的な情報や考えが足りない証拠だ。

頭を冷やすために、現状のデータ分析で分かっている事を整理することにした。

 

一つ、敵要塞から放たれた砲撃のエネルギー量は、実は『シナノ』の波動砲の8割ほどの威力しかなかった。つまり、第三戦隊の拡散波動砲と『シナノ』の波動砲を受け止めた割には、エネルギー砲に再利用されたエネルギーは少ないということだ。もしかしたら、拡散波動砲のエネルギーは再利用すらされていないかもしれない。

 

一つ、磁気フィールドは2重になっている可能性がある。これは波動バースト奔流を要塞表面で対流させるにはなんらかの密閉空間がなければおかしいとの推測による。すなわち、二重になっているフィールドの隙間を波動バースト奔流をプールさせる空間として利用しているというわけだ。

 

一つ、実体弾とエネルギー弾では着弾時の反応が微妙に異なっている。実体弾はフィールドに衝突した瞬間に炸薬が起爆して黒煙を噴きだすが、エネルギー弾が衝突しても似たような煙を噴き出しているのだ。恐らくは、タキオン粒子が結晶となって霧状に拡散しているものと思われる。

 

とはいえ、これらのことが分かったからといって攻略の手掛かりが掴めるという訳でもなく。

 

 

「これがSFものなら、磁気フィールドをも突き破るような強力な一撃でも思いついたりするもんですが……」

 

 

隣の席で同じくパソコンとにらめっこしている長田が誰に言うともなしに呟いた。

『ヤマト』ならば真田が設計した全弾発射モードを使えばそういうこともできるんだろうが、戦闘空母の『シナノ』はそういう便利な機能はついてない。

発射したら艦体が耐えきれないかもしれない武器を、艦載機と武器弾薬満載の『シナノ』で使用できるわけもない。

もちろん、『ヤマト』ならばやっても構わないという話でもないのだが。

 

 

「SF、か。まさにこいつ自体がSFだよ、全く。ビーム兵器も実体弾兵器も効かないなんて、一体どうなってんだ?」

 

 

そもそも磁場はどうやって展開されている?

本当に空間磁力メッキと同じ方法なのか?

何か特徴はないのか?

 

半分諦念を含みつつ、篠田はもう一度画面を凝視する。今度は、『シナノ』の波動砲を受け止めたときの映像。

タキオンバースト奔流が、空間磁力メッキとおぼしき面に直撃した瞬間、反射されたタキオン粒子が霧状となって……

 

 

霧!?

 

 

「おい、長田! おまえ、波動エネルギーに詳しかったよな!」

「は、はひ、いったい何でしょうか!?」

 

 

思わず、ビクついている長田の肩を掴んで強引に振り向かせる。

 

 

 

「空間磁力メッキで波動砲を反射するとき、必ずタキオン粒子の霧は発生するのか?」

「い、いいえ。そんな話は聞いたことありませんが」

「なら、この霧は……まさか、消えた2割のタキオン粒子か?」

 

 

篠田の脳裏を、思考が駆け巡る。

その仮定が真ならば、謎だった波動砲と敵の反撃とのエネルギー量の差はここにあったということになる。

そういえば拡散波動砲が直撃したときも、タキオン粒子の霧は発生していたな。

もしも拡散波動砲が再利用されていないとしたら、あの砲撃は完全にシャットアウトされていたということになる。

ならば、完全にシャットアウトされた拡散波動砲とエネルギーを再利用された『シナノ』の波動砲とは何が違っていた?

 

拡散と収束?

初撃と二撃目?

後方と側面?

沈黙と反撃?

戦闘開始直後と戦闘中盤?

 

 

そういえば、一撃目は完全にシャットアウトされたなら、二撃目のときはどうやって二枚のフィールドの中に波動バースト奔流を注入したんだ?

 

 

「……待てよ、これってもしかしたら重要な事なんじゃないか?」

 

 

いつものように腕と膝を組み、目を半眼にして外部情報をシャットアウト。

回転数が上がっていく脳みそを更にギアアップ。

脳裏に単語が次々と浮かんでは消えていく。

 

 

―――実体弾とエネルギー弾の違い―――

 

―――フィールドと波動バースト奔流が衝突すると発生する霧―――

 

―――二枚の磁場フィールドとその間の空間―――

 

―――一撃目と二撃目の違い―――

 

―――それらを矛盾なく繋ぎ合わせる真実は―――

 

 

 

 

 

―――穴か!!

 

 

 

 

 

 

「長田!」

「はい!?」

 

 

再び、ビクついている長田の肩を強引に掴んで振り向かせる。

 

 

「ここは任せた! 俺は第一艦橋に行く!」

 

 

それだけ告げて、篠田は椅子にかけていた上着を引っ掴む。

そのまま第一艦橋へ繋がるエレベーターに向かった。

 

 

「ということは、何か分かったんですか!?」

 

 

長田が先程までと一転、期待に満ちた表情で振り返る。

エレベーターに入った篠田はボタンを押しながら、第二艦橋の面々を順々に見る。

 

 

「ああ。お前らの御蔭で、磁気フィールドの仕組みも、反射の仕組みも、敵要塞を倒す方法も、全部見つかった! それと、長田」

「はい!」

 

 

最後に元気を取り戻した長田の目をまっすぐ見据えると、

 

 

「見せてやるよ。SFでありきたりな方法で、アイツがアマールの海に沈む姿をな!」

 

 

自信たっぷりに言い切ってやった。




というわけで、復活篇ディレクターズカット版および小林誠カレンダーに登場した、『武蔵』『信濃』(本作では『紀伊』として登場)およびHYPER WEAPON2009に登場したドレッドノート改級戦闘空母『まつしま』、そして拙作の本編にも登場したアイオワ級戦闘空母『ミズーリ』『ウィスコンシン』、さらには旧型艦が大量に出てきました。
アニメ本編でも活躍できなかった、設定だけで本編に登場しなかった艦たちを登場させて供養しようという、本作の裏テーマ炸裂でした。

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