とある世界の小さな悲劇   作:ただのおーとりかぶと

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「はぁ。一人は虚しく、されどどこか落ち着くものだね」

 

 普段なら自分以外に従者か客人が一人はいる図書館で、僕は一人紅茶を嗜む。

 僕を閉じ込める檻でもあるこの図書館は、一人で管理することを想定した作りではない。

 そのため、いつもなら当番制で従者達に出て来てもらっているわけだが······当然毎日掃除したところであんまり埃や汚れが溜まるような事もない。

 なので全員に休暇を与えて、僕一人が此処に残っているというわけだ。

 僕は囚われているとは言え出たければ出られるが、特に外出したいわけではないからね。

 

「今頃四人はダブルデートを兼ねた家族旅行でもしているだろうねぇ······良さそうな物があればお土産でも頼もうかな」

 

 ゆったりと力を抜き、愛用のソファに倒れ込む。

 背もたれは柔らかく、気を抜けばそのまま眠ることもできそうだ。

 ······それはそれとして────

 

「────何か用かい? グリモ」

 

 虚空に向けて声を投げる。

 すると、まるで空間が歪むかのように捩れて一人の少女がそこに現れた。

 

「流石は父上様! 知識の限り最良の気配遮断をしていたというのに、グリモの予想より早く気付かれてしまいましたね」

「知識は所詮理論だよ。あと、君の父になったつもりはないよ寄生虫」

 

 てくてくと、緋色が混じった乳白色の髪を揺らしながら、喜色を隠そうともしない満面の笑みで僕のもとに歩く少女──グリモワーレ。

 僕を父と呼び娘を自称する彼女は、僕が囚われているこの図書館の核の予備。

 つまり、図書館そのものであり、グリモは僕の魔力を啜ることで人の形と意思を得て、存在している。

 

「寄生虫とは酷い言い様ですね。事実だからこそグリモでも傷ついちゃいますよ?」

「そうかい? なら好きなだけ傷ついて消えてくれて良いよ。

 君の役割はこの図書館の核なのだから、わざわざ人の形など取らず大人しく核をやっていてくれ」

 

 不貞腐れたようにムスッとした顔のグリモは、ぼふん! と勢いよく僕の隣に座る。

 お陰でソファが跳ね、ぼんやりと微睡んでいた意識がはっきりと覚醒することとなった。

 

「そんな酷いこと言わずに······そうだ、父上様! これを読んでみてください!」

 

 頬を膨らしながらグリモは片手でテーブルのマカロンを口に頬張る。

 その間にもう片手で虚空を漁り、一冊の本を引き出して僕に手渡した。

 

「この本は······初めて見る物だね。どこから持ってきたんだい?」

「グリモの領域からです! きっと父上様も気に入ってくれると思います!」

 

 彼女の領域──即ちこの図書館に入って来る本たちを選別する領域。

 そこから持ってきているということは、この本は入って来た時点では、まだ無条件で書き換えることができた物語だった。ということだ。

 

「······となると君が干渉して書き変えた物語と言うことかい?」

 

 パラパラと大部分を流し見て、グリモに問いかける。

 すると彼女はワクワクしたような──親に褒めてもらおうとする子供のような表情で僕を見ている。

 

「はい! 父上様も気に入ってくれる物語に仕上げることができたと思います!」

 

 むふん! と自信満々だという風に胸を張るグリモを尻目に、少しの······いや、かなりの不安を感じた。

 もちろん、彼女は図書館の機能を万全に──それこそ僕以上に使える。ただ、僕の気に入る物語というのを彼女がどう認識し、解釈しているか。それが問題ではあった。

 

「······ともあれ、読んでみないとそのあたりは分からないか」

 

 結局のところ、いくら気にしたところで読むまではシュレディンガーの猫なのだ。

 覚悟を決めて、集中するためにマカロンを食み、再び紅茶を啜る。

 そうして落ち着いた僕は、彼女の介入を経て書き換わり、幕を閉じた物語の再演を読み始めた────

 

 

 

 

 

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