とある世界の小さな悲劇   作:ただのおーとりかぶと

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 ────心地よい温かさとまどろみに包まれながら、私は意識を取り戻す。

 柔らかな朝の日差しがまぶたに当たり、少しずつ目を開くと、光に照らされて徐々に意識が浮上する。

 

「────うん······あれ? 私······二度寝しちゃったのかな?」

 

 ベッドに染みた水分が私の温度を吸うように冷たく感じる。

 さっきと違う点といえば、水分が少し粘度を持っているということくらいで······まぁそういう事をしたんだから当然かなとも思う。

 

「······ってことはさっき見たのは予知夢みたいな感じなのかな······どういうこと?」

 

 ゆっくりと、うつぶせの身体を両腕を使って起こす。

 そうして見た世界に自分の正気を疑った。

 

「······なんで?」

 

 アジロくんのお腹と胸元から固まった血がシーツを赤く染めている。

 

「──なんで! なんでなんでなんで!!」

 

 脳がパニックを起こし、同じ言葉だけが頭の中を埋め尽くす。

 なぜを繰り返す脳が僅かに冷静さを取り戻して、その僅かな部分で少しずつ状況を見る。

 さっきまでのが夢だったのならこれも夢のはず。そうじゃないとおかしい。

 

『そうして、自らの成したことを受け止めきれぬまま嘆き続けた彼女は、聴取に訪れた獅子狼によって確保されたのだった』

 

 まとまらない思考の中で、そんな声が私の耳を通り抜けた。

 

「······と、こんなところでしょうか? ふふふ、父上様が褒めてくれるのが楽しみです♪」

 

 虚空から歩み出た少女は気味が悪いほどの明るい笑顔をこちらに向ける。

 

「······一体、何なのよ貴女は!」

「そうですね······ゲームマスター代理が分かりやすいでしょうか? ともあれ、グリモ()の書き換えたシナリオを存分に楽しんでくださいね。プレイヤーさん♪」

 

 無邪気な声でくすくすと微笑み、元からそこにいなかったように少女の姿は消える。

 同時に、私の体はくずおれて、エンプティになった車のように動けなくなった。

 

(······どうして動けないの)

『楽しんでくださいと言った手前ですが、もうエンドロールです。なのでおとなしく進行に従ってくださいね』

 

 耳鳴りのように脳に響く声が、私の意識を深層に再び引きずり込む。

 ······薄れ行く意識の中、インターホンの音が最後に私の耳を通り抜けた。

 

 

 

 そうしてまた、ゆっくりと意識が浮上する。

 

『······ドクター。検体の意識が戻りました』

 

 上から機械的な声が私の耳を揺らす。

 薄く目を開けると、そこは病院のような仄暗い部屋で、私はリクライニングチェアのようなものに寝かされているらしい。

 

「そうですか。では引き続き逃走を警戒するように」

『命令承認。警戒レベルを引き上げます』

 

 コツコツとハイヒールの靴音が遠ざかる。

 視界の端をビニールのように澄んだ白が通り抜け、私の後ろの方で靴音が止まる。

 

「さて、お目覚めですか? 人殺し。今の気分はいかがですか? さぞ楽しかったでしょう? 貴女自ら閉ざしたあり得たかもしれない一生のシミュレーションは」

 

 白衣に猫背、丸メガネと天然パーマ。

 視界に映る男は典型的な研究者らしい陰気な姿をしていた。

 

「シミュ······どういうことですか? そもそもで私なんでこんな────」

「────はぁ······面倒ですね。ドムさん、説明の方をお願いします」

『命令承認。次いで訂正、当機の型はドミニオンであり、当機の呼称を変えるのであれば可愛いものを要求する』

 

 コツコツと、ハイヒールの音が再び近づいてくる。

 そうして、私の正面に来た機械のように無機質な瞳の少女は、二つの写真を私に提示した。

 

『貴女から見て左がシミュレーション内のスクリーンショット。対して右は当機撮影の現場写真。遺体は葬式手順に沿って火葬中』

「遺体って······」

 

 写真を受け取ろうとして、腕が椅子に縛られていることに気づく。

 腕だけじゃない。動けないように全身にさまざまな拘束がされていた。

 

「······写真、逆じゃないの」

『······? 右が現場写真。間違ってない』

「······流石に冗談キツいと思うんだけど」

「だがコレが事実です。······さて」

 

 研究者の男は背を向けてカタカタとパソコンを叩く。

 ······何かのチェックをしているのかモニター上のグラフやメーターが変動を繰り返し、再び停止した。

 

「······安定剤も含め、データは十分ですね。ではドムさん、ソレの処分はあなたに任せます。しっかり破棄するように」

『承認。円滑化のため既定プログラム『ちくっとしますよ』を使用。次いで要求。呼称には可愛いものを所望する』

 

 暴れようにも固定されて動けない私の腕に冷ややかな針が通され、なにかの薬が体内に侵入してくる。

 同時に、刺された腕の感覚が無くなった。

 

「何を······」

「もう終わりなんですから大人しくしててくださいね······呼称はなるべく早く考えますよ。なるべく。······さて」

 

 私に興味を失ったらしく、そっと研究室の壁に掛けられた神棚に向かって男は祈るように手を合わせる。

 その頃には私の身体は金縛りに遭ったかのように末端まで感覚を失っていた。

 

「道を示せし知識の神よ······彼女の描きし空想が、僅かばかりでも貴方の余暇を埋められていたなれば──己が研究の甲斐在りと。声高らかに答えましょう。故に此れを授けし御神へ至上の感謝を申し上げます。

 ······それと、偶々だったとは言え、検体を得ることに繋がった彼の魂にどうか安らぎのあらんことを」

『検体の入眠まで──5、4、3······それでは、永久に──お休みなさい』

 

 ························。

 

 

 

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