とある世界の小さな悲劇   作:ただのおーとりかぶと

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 そうして僕は本を閉じる。

 ふうと一息。

 視線を感じて横目に見ると、真剣な面持ちでグリモが僕を見ていた。

 ······そう言えばこの子が出してきた物語だったね。

 

「父上様、どうでした?」

「······まあ、僕の予想よりは幾分マシな程度だったかな」

「やりました! 父上様に褒めてもらえました!」

 

 館内に反響するほどの声で子供らしく見た目相応の笑顔を浮かべて喜ぶグリモ。

 飽くまで幾分マシと言っただけだというのに、ここまで喜ぶとはね······

 

「······どちらにせよ、一度目でここまで干渉出来ていることには流石と褒めてあげるよ」

「父上様······ありがとうございます!!」

 

 喜びのままに僕の腕に抱きついてくるグリモに軽く手刀を落とす。

 

「いてっ······いきなりなにするんですか父上様!?」

「なに、少し落ち着かせようと思ってね。

 ──さて、グリモ。君はこれを僕に出した際なんと言ったかな?」

「······えっと、『父上様も気に入る物語に仕上げることができた』って言いました」

 

 はっきりと自信を持って答えるグリモ。

 ひとまず、覚えていたことに対して軽く褒めるために頭をなでる。

 

「そうだ、自分の言ったことを覚えているのは偉いことだから、まずそこは褒めよう」

 

 嬉しそうに目を細めるグリモには少し申し訳なく思うが、そこそこに止めて手を離す。

 

「ただ、君は僕の好みを誤認しているようだが、ただバッドエンドであればいいわけではないんだよ」

「······違うのですか? 母様と一緒に見ていた父上様はそうだったと思うのですが······」

 

 本当に分からないようで、グリモはふにゃりと首を傾げる。

 

「まぁ単純な話さ。何かしらのキッカケで人というものは変わる。よく言うのは『男子三日会わざれば刮目して見よ』というやつさ」

「······えっと、つまりは父上様も変わったと言うことですか?」

「まぁ······そういうことだね。変わったとは言っても、俯瞰的に見れば悪い方に変わったと言えるがね」

 

 ······正直なところグリモに言ったようにかなり悪い方に捻くれてしまったものだと我ながらに思う。

 まぁ自覚した上で変える気はないがね。

 

「さて、少し逸れたが僕の好みの物語だったか」

「はい! 次こそ父上様の好みの物語に書き換えられるように、父上様のこと教えてください!」

 

  ピコピコと跳ねる耳のような癖毛をばたつかせ、目を輝かせて僕の方に詰めてくるグリモを優しく押し返す。

 

「わかった。······だけれど教えるのはヒント程度にしておこう。

 僕が好きなのは『エンド』よりも与えた機会をどうするかの『選択』だよ。

 なぜなら、君がしたように僕たちは物語を書き換えられる。つまり本来の物語をどうとでも、これのように強制的にバッドエンドにもできてしまうわけだ」

 

 テーブルに本を置き、紅茶を一口。

 一拍おいて言葉を続ける。

 

「逆に、ただ面白みもないハッピーエンドにすることも、当然可能ではある。

 ただ僕はそういった誘導は嫌いでね。

 例えば······そうだね。同じ物語を再び読むと先を知っている分、読者のワクワクは減るだろう? それと同じでルートを固定してしまってはこう進んで当然というつまらなさがある。もちろん君が見た僕のように、敷いたレールに沿って物語が進んでいくことに達成感を覚えるのも間違ってはいない」

 

 昔の僕はそうして無条件で観測した世界をバッドエンドに向けた。

 今思えば傲慢故にしょうもない事をしていたとしか思わないが。

 

「けれども、今の僕はあくまで『観測者』のスタンスでありたいからね。行ける道を提示することはあってもその道に行くかは演者次第。選択権は当人たちに委ねることにしている。

 なぜならそのほうが面白いから。

 やり直しの機会を与えたのにも関わらず、自ら再びバッドエンドを選ぶ者も居る。それは気まぐれに垂らされた蜘蛛の糸を登った終点付近で自ら放すようなものだ。

 今の僕が好きなバッドエンドはそういう愚者の物語さ。······少しヒントの領域を過ぎた気もするが、僕から教えるのはここまでだ。

 理解はできたかい? 寄生虫」

「······ふわっとですが大体わかりました! ······でも、寄生虫って呼ばれるのはちょっと嫌です」

「そうだろうね。けれどついさっき自分で認めていたじゃないか。『事実だからこそ』と君自身の口で」

 

 笑っているようでどこか悲しげな表情をするグリモに、淡々と言葉を返す。

 ······尤も、図書館自体は兎も角グリモへの嫌悪感などはもう殆ど残っていないのだが、スジを通す意味で多少の試練くらいは与えよう。

 

「······はい。······でも、父上様は『寄生虫』のグリモが渡した本を読んで、そのうえで自分の好きなことも教えてくれました」

「······だからなんだと?」

「本当なら、父上様はグリモが渡した本を受け取ることも、ましてや読む必要もなかったはずです。

 なのに父上様は本を受け取って、読み切って。少しの間だけですがグリモに優しくしてくれました。······本当なら追い返されるくらいに嫌われてると思っていたから、グリモは寄生虫と言われて肯定しました。

 ······でも、父上様はグリモに優しくしてくれました。そのせいで今、寄生虫って言われるの······ちょっと嫌だなって思いました」

「······知ったことではないよ。······自力で存在しているなら兎も角、僕の魔力を啜って存在している君を寄生虫と言わずしてなんと言えと?」

 

 グリモを冷笑するように、言葉を選んで僕は言う。

 すると彼女は伏せていた顔を上げ、何かを理解したように明るい表情を取り戻した。

 ······ヒントを与えるあたり、僕も甘くなったものだと自嘲が浮かぶ。

 

「······わかりました! 父上様に寄生虫と呼ばれないためにがんばります!!」

 

 言うが早いか、グリモは弾かれるようにソファから立ち上がり、来た時と同じように空間を歪める。

 グリモを通した歪みは、捩れるようにして彼女の姿をかき消した。

 

「はぁ······子供の相手は疲れる。が、暇つぶしにはなったね」

 

 グリモが帰った途端、疲れが表出するようにあくびが漏れた。

 どうやら思っている以上に疲れたようだ。

 

「······客人が来ないようにして、ひと寝入りしようか」

 

 姿勢を変えソファで横になると、数秒もしないうちに僕の意識は深く眠りに落ちていくのだった────

 

 

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