祖父の遺品整理をしていたら封印AIが起動したので、地球中の異星遺産を回収して成り上がる   作:パラレル・ゲーマー

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第2話 高耐久再生バッテリー、はじめました

 翌朝、目が覚めて最初にやったことは、スマホの充電残量を確認することだった。

 

 枕元の端末を掴み、半分眠った目で画面を見る。

 

 九十七パーセント。

 

 昨夜、寝る前の時点で九十八パーセントだったはずだ。動画を見て、メッセージを返して、寝落ち寸前までネットを巡回した記憶がある。普通ならもっと減っている。

 

「……ほんとに減ってないな」

 

【誤差範囲内です】

 

 いきなり耳元で声がして、軽く肩が跳ねた。

 

 声の主はもちろんイヴだ。昨夜と同じく、スマホのスピーカーを通しているのか、それとも周辺の電子機器を勝手に経由しているのか、相変わらず発生源が曖昧で落ち着かない。

 

「おはよう、くらい言えないのか」

 

【すでに午前九時十二分です。一般的な生活習慣に照らすと、十分に起床が遅い時間帯です】

 

「うるさいな……」

 

 だが、毒づく気力もどこか空回りしていた。

 

 机の上には、銀色の小さな球体――セル・チューナーがある。昨夜は自分でもかなり無茶をした自覚があるのに、今こうして朝日を浴びても、それは夢の小道具のように消えていない。

 

 試しに充電ケーブルを抜いたノートPCを立ち上げる。いつもならバッテリー残量の数字に怯えながら使う古い機種だが、昨夜試験的に改質した予備バッテリーを差してから様子がおかしいくらい安定していた。

 

 起動。静かだ。ファンの唸りも妙に落ち着いている。

 

 画面右下のバッテリー表示は、昨日の夜からほとんど動いていなかった。

 

「笑えないな、これ……」

 

【昨夜と同じ感想です】

 

「現実味が出た分だけ、余計に笑えないんだよ」

 

 机の前に座り直し、コーヒーを淹れる。安物のインスタントだが、今朝はやけに苦く感じた。

 

 異星文明のAI。

 地球のバッテリーを別物に変える装置。

 祖父の遺した『海鳴りの倉庫』という意味不明な言葉。

 

 ひと晩寝ても整理されないどころか、目の前の物証が全部そろっているせいで、逃げ道だけが綺麗になくなっていた。

 

「で」

 

 熱いマグカップを手にしたまま、俺は机の上のセル・チューナーを見る。

 

「本物なのは分かった。そこはもう認める。じゃあ次だ。どうやって金にする」

 

【初動としては妥当な優先順位です】

 

「優先順位が妥当でも、方法が見えない。個人が突然“超高性能バッテリー作れます”なんてやったら、詐欺か危険物販売のどっちかだろ」

 

【その認識は概ね正確です】

 

「嬉しくない正確さだな……」

 

 俺はマグを置き、ノートPCを引き寄せた。

 

 検索窓に『再生バッテリー 販売』『中古バッテリー 安全性』『カメラ 予備バッテリー 高い』と雑に打ち込んでいく。似たような記事を仕事で何度も調べたことはあるが、今日は見え方がまるで違った。

 

 市場を見る側じゃない。入る側だ。

 

【新品の画期的製品として販売するのは非推奨です】

 

「だろうな」

 

【観測対象になります】

 

 その言い方が気になって、手が止まる。

 

「観測対象ってのは、要するに目立つってことか?」

 

【はい。規制、追跡、接触、奪取。そのすべてのリスクが上昇します】

 

「最後の単語だけ物騒なんだよな、お前」

 

【危険を危険と表現しています】

 

 正論は腹が立つ。

 

 画面に並ぶのは、互換バッテリーや再生品の販売ページ、中古機材ユーザーの愚痴、レビュー、発火事故のニュース、純正品の価格に対する悲鳴。特に業務用途の機材を使う人間ほど、バッテリーに金を払っていた。

 

 当たり前だ。撮影現場で電池切れを起こせば、その時点で仕事が吹き飛ぶ。

 

「……新品開発は無理。メーカー面も認証も信用もない。だったら」

 

【中古・ジャンクバッテリーの再生と高耐久化を推奨します】

 

 イヴが言う。俺が考えた結論を、半歩先で拾うように。

 

【表向きは高耐久再生品、業務向け調整済みバッテリー、あるいは長時間運用向けチューニング品。そうした文脈であれば、不自然さを低減できます】

 

「つまり、異星文明の超技術を“腕のいい再生屋”の顔で売れってことか」

 

【その認識は、かなり正確です】

 

 かなり、が付いた。

 

 こいつ、たまに微妙なニュアンスで褒めてくるな。

 

 市場をさらに見ていく。スマホ用の一般向けは競合も多いし、売れた数が増えれば目立つ。だがカメラ用、ドローン用、現場機材向けのバッテリーは違う。数は出なくても単価が高く、性能差に金を払う層がいる。

 

 しかも俺には、完全にゼロではないが人脈がある。

 

「……撮影機材、か」

 

 昔、ウェブメディアの仕事で何度か組んだフリーの映像屋がいた。イベント撮影も、企業PVも、時々ドローン空撮もやっている男だ。機材にうるさく、口も軽いが、金になるものには敏感だった。

 

 相原圭介。

 

 よくも悪くも、こういう怪しい話を“とりあえず現物見せろ”で済ませるタイプだ。

 

【最初の顧客候補として妥当です】

 

「まだ連絡してもないのに決めつけるなよ」

 

【恒一の過去メッセージ履歴と仕事メモから、実務上もっとも接触しやすい候補です】

 

「勝手に見るな」

 

【すでに閲覧済みです】

 

「事後報告かよ……」

 

 だが、言っていることは間違っていない。

 

 まずは仕入れだ。

 

     ◇

 

 その日の午後、俺は秋葉原の外れにある中古機材店とジャンクショップを何軒か回っていた。

 

 いつもなら埃っぽい棚や型落ちの機材なんて視界に入っても流すだけだ。だが今日は違う。ガラスケースの向こうに並ぶ古いバッテリーパックや、動作未確認の予備セルが、妙にまぶしく見える。

 

「人って、自分に価値が分かるものだけ見えるようになるんだな……」

 

【正確には、価値判断基準が更新されました】

 

 イヤホンをしているふりをして、イヴと小声で会話する。傍から見れば独り言だが、秋葉原ではその程度で誰も振り返らない。ありがたい街だ。

 

 店の片隅に積まれたジャンク箱を漁る。使い込まれたカメラ用バッテリー、ラベルの剥げたモバイルバッテリー、ドローン用セルの部品取り品。普通なら避けるような品ばかりだ。

 

【それを推奨します。劣化率は高いですが、外殻損傷は軽微です】

 

「こっちは?」

 

【非推奨です。内部短絡の痕跡があります】

 

「分かるのか」

 

【表面温度、残留磁束、電位偏差から判定しています】

 

「便利すぎるだろ……」

 

【出力制限中です】

 

 その一言のたびに、制限前がどれだけ怖いのか考えてしまう。

 

 結局、俺は少量の仕入れに留めた。最初から大量には持てないし、目立つのも嫌だ。

 

 古いカメラ用バッテリー四本。

 モバイルバッテリー三台。

 ドローン用の中古セル二組。

 ノートPC用の予備バッテリー一つ。

 

 合計しても、仕事帰りの衝動買い程度の金額だ。だが、俺にとっては明確な“仕入れ”だった。

 

 帰り道、紙袋の重みが妙に心地よかった。

 

 いま俺は、ガラクタをゴミとしてではなく、原石として持ち帰っている。

 

     ◇

 

 作業は祖父の家でやることにした。

 

 自宅より広いし、多少妙なことをしても近所の目が薄い。何より、あの家には宗玄が残した工具や作業台がそのままある。昨夜は異常事態の連続で気づかなかったが、落ち着いて見てみると、半田ごて、テスター、拡大鏡、固定具、分解マットまで揃っていた。

 

「じいちゃん、これ普通に工房じゃないか……」

 

【宗玄は最低限の整備環境を維持していました】

 

「最低限の基準が狂ってるんだよなぁ」

 

 作業台に仕入れ品を並べる。セル・チューナーは中央。まるで小さな監督者だ。

 

 最初に手をつけたのは、カメラ用の予備バッテリーだった。プロ用途の純正品は高い。再生品でも需要はある。

 

「で、どこまで盛ればいい」

 

【最大性能への改質は非推奨です】

 

 来ると思った。

 

「やっぱり言うよな」

 

【一般市場で流通する製品の性能分布から大きく逸脱すると、疑義が発生します】

 

「でも、せっかくやるなら凄い方が――」

 

【最大利益ではなく、継続可能な利益を優先してください】

 

 昨夜も聞いた理屈だが、今は妙に腹落ちした。

 

 派手に一回儲けるより、怪しまれずに何度も稼げる方がいい。それに、今の俺には設備も人脈もない。あるのはセル・チューナーと、異常な性能だけだ。

 

「じゃあ、どのくらいなら“腕のいい再生屋”で通る」

 

【対象にもよりますが、一・八倍から二・三倍程度が妥当です】

 

「十分おかしいけどな……」

 

【高品質セルへの換装や内部調整で説明可能な範囲です】

 

 ほんとかよ、と思いつつも、イヴが言うならそうなのだろう。

 

 セル・チューナーをバッテリーに接触させる。銀の球が淡く光り、表面を滑るように移動する。音は昨夜より小さく感じたが、それはもう驚きが薄れたせいかもしれない。

 

 作業そのものは短い。だが、その後の確認に時間をかけた。

 

 充放電テスト。温度。電圧の安定。負荷をかけた時の落ち込み。どれも、素人なりに確認できる範囲で見ていく。全部が良すぎた。

 

 良すぎる、というのは時に怖い。

 

 最終的に、最初の“商品候補”として残したのは二つ。

 

 カメラ用バッテリー一本。

 ドローン用バッテリー一組。

 

 どちらも性能は明らかに上がっている。だが、異常と断言されるほどではない。たぶん。おそらく。願わくば。

 

「自信なさそうですねって顔してるぞ、お前」

 

【私は顔を表示していません】

 

「そういうとこだよ」

 

 その夜、祖父のノートも少し読み返した。

 

 整った記録ではなく、断片だ。走り書きと記号だらけで、他人が見たらゴミにしか見えない。

 

 だが、昨夜より少しだけ意味が見えた。

 

『種を起こしてから向かえ』

『通常電源では沈黙』

『潮位の高い夜』

『扉は見えない。鳴る日と鳴らぬ日がある』

『海鳴り』

 

「……“種”ってのは、セル・チューナーのことか」

 

【可能性が高いです】

 

「通常電源では沈黙、ってのも」

 

【改質済み電源のみが反応を引き出す、という意味に読めます】

 

 倉庫の場所はまだ分からない。だが、少なくとも祖父は“何か”をただの隠し場所として使っていたわけではなさそうだった。

 

 そこは、正しい鍵がないと沈黙し続ける場所。

 

 少しずつ、海鳴りの倉庫という言葉に温度が生まれ始めていた。

 

     ◇

 

 翌日、相原に連絡を入れた。

 

『久しぶり。ちょっと面白い再生バッテリー試さない?』

 

 送ってから五分で既読がつき、返事が来る。

 

『詐欺?』

 

『違う』

 

『久世が機材屋始めたの?』

 

『始めてない。でも、ちょっと調整済みの再生品がある』

 

『怪しいな』

 

『試してから言え。安くする』

 

 少し間が空いてから、

 

『じゃあ今日の夕方、神田で』

 

 と来た。

 

 早い。こういう軽さは助かる。

 

 夕方、喫茶店に入ってきた相原は、相変わらず無精髭にキャップ姿で、いかにも機材と寝不足に人生を吸われている男だった。椅子にどかりと座るなり、俺の置いたケースを見て眉を上げる。

 

「ほんとに持ってきたのか」

 

「だから言ったろ」

 

「最近、こういうの多いんだよ。知り合い価格とか言って中華互換掴ませてくるやつ」

 

「俺をそういう目で見てたのか」

 

「フリーライターに突然“再生バッテリー試さない?”って言われたら、普通そう見る」

 

 それは、そうだ。

 

 俺は苦笑しながらケースを開けた。中にはカメラ用の再生バッテリーが一本。

 

「とりあえずこれ。長時間ロケ向けに調整してる」

 

「へえ」

 

 相原は手に取り、重さを確かめ、端子部を見て、ラベルを眺める。こういうときの目だけは真面目だ。

 

「見た目は普通だな」

 

「見た目が異常だったら困る」

 

「それもそうか。で、何したんだ?」

 

「再生と調整。持ちと安定性は悪くないはずだ」

 

「ふわっとしてんなぁ」

 

「まだ試作だからな」

 

 相原は少し考えてから、肩をすくめた。

 

「まあ、ちょうど予備足りてなかったんだよ。今度湾岸で倉庫撮影あるし、テストにはいいか」

 

 湾岸。

 

 言葉に、ほんのわずかに引っかかるものがあった。

 

 だがこの時点では、俺もまだ深くは踏み込まなかった。

 

「レビューくれるなら安くする」

 

「じゃあ買う。外れだったら笑うけど」

 

「笑われない自信はある」

 

 口ではそう言ったが、喉の奥は乾いていた。

 

 代金がスマホに通知される。額そのものは大きくない。だが、原稿一本二本分を軽く超える金額が、たった一本の再生バッテリーで動いた。

 

 それだけで、世界の手触りが少し変わる。

 

     ◇

 

 連絡が来たのは、その二日後だった。

 

 ちょうど次の試作品を作っていた夕方、スマホが震える。

 

 相原からのメッセージ。

 

『おい久世、これ何した?』

 

 その一文を見た瞬間、心臓が跳ねた。

 

『問題あった?』

 

 すぐに返信する。

 

 既読がついて、数秒。

 

『逆。持ちが異常にいい』

 

 思わず、口元が緩んだ。

 

【表情筋の変化を確認しました】

 

「黙ってろ」

 

 俺はさらに画面を見る。

 

『昨日のロケ、予備一本で最後まで持った』

『発熱も少ない』

『これ再生品ってマジ?』

『もう一本欲しいんだけど』

 

 売れた。

 

 それも、ただ売れたんじゃない。相手の方から追加を求めてきた。

 

 喉の奥が熱くなる。原稿料の入金通知とは違う。自分の手で、いや正確には異星文明の力を借りてだが、とにかく自分の判断で作ったものが金になった実感があった。

 

「……すごいな、これ」

 

【当然です】

 

「そこで当然って言い切れるの、やっぱり腹立つな」

 

 だが、相原からのメッセージは続いていた。

 

『ただ、一個だけ変なことがあった』

 

 笑みが引っ込む。

 

『変なこと?』

 

『湾岸の古い倉庫街でドローン飛ばしたときだけ、ログに妙なノイズが入った』

『コンパスも一瞬だけ変』

『でも落ちはしない。むしろ妙に安定してた』

『あとバッテリー残量の波形が一回だけ変に跳ねた』

 

 俺は画面を見つめたまま固まる。

 

 湾岸の古い倉庫街。

 

 祖父のノートの断片が頭の中で繋がる。海鳴り。潮位。扉は見えない。

 

『場所分かるか?』

 

 すぐ送ると、相原は位置情報と短い動画ログを返してきた。

 

『このへん。なんか案件絡みで古い物流倉庫撮ってた』

『音も変だった。海鳴りみたいな低いノイズ』

 

 背筋に、冷たいものが走った。

 

 俺はすぐに祖父のノートを開く。湾岸部に丸がついた地図の切れ端がある。完全一致ではない。だが、近い。

 

「イヴ」

 

【解析中です】

 

 早いな、と思うより先に、机の上に置いていたセル・チューナーが微かに光った。

 

 本当に微かだった。見間違いかと思うほど弱い光。

 

 だが、確かに反応した。

 

「……今、光ったよな」

 

【はい】

 

「何だ、故障か?」

 

【故障ではありません】

 

 短く言い切ったあと、イヴはほんのわずかに間を置いた。

 

【改質済み電源に対する外部応答です】

 

「外部応答?」

 

【そのドローン用バッテリーは、セル・チューナーにより地球規格から外れた高次出力へ調整されています】

【近傍に同系統設備が存在する場合、共鳴反応を引き起こすことがあります】

 

 俺は相原の送ってきたログを拡大する。映像は古びた倉庫街の上空。潮風で色褪せた屋根、使われていない搬入口、積まれたままのコンテナ。どこにでもありそうな景色だ。

 

 なのに、動画の一瞬だけ、画面下のノイズが妙に規則的に見えた。

 

【位置情報、ログ波形、宗玄の記録を照合します】

 

 ノートPCの画面に地図が開く。湾岸部の古地図と現行地図、祖父のメモの座標、相原の送信位置が重なる。俺にはただの地図にしか見えないが、イヴは沈黙したまま計算していた。

 

 数秒後、画面に一点が赤く表示される。

 

【候補地点を特定しました】

 

「……そこか」

 

【宗玄の記録にある“海鳴りの倉庫”との一致率、七十二パーセント】

 

 七十二。中途半端な数字なのに、逆に嫌に現実味があった。

 

「つまり、商売のために作ったバッテリーが、次の遺産に反応したってことか」

 

【その認識は正確です】

 

「便利なのか面倒なのか、ほんと判断に困るな」

 

【両方です】

 

 思わず笑いそうになって、やめた。

 

 笑っている場合じゃない。だが、笑いたくなるくらいには綺麗に繋がってしまったのだ。

 

 セル・チューナーで作った電源は、ただ高性能なだけじゃない。

 異星文明の設備にとっても“正しい電源”に近い。

 だから近くを通っただけで、眠っていた何かがノックを返してきた。

 

 祖父は最初からそれを見越していたのかもしれない。

 

『種を起こしてから向かえ』

 

 ノートの一文が、今さらみたいにはっきりした意味を持つ。

 

「……じいちゃん、性格悪いだろ」

 

【宗玄の性格評価は保留します】

 

「そうかよ」

 

 スマホを見る。相原への返信画面が開いたままだ。

 

『ログ、もう少し詳しく見たい。あと場所のこと、今度詳しく聞かせてくれ』

 

 送信。

 

 すぐに『いいけど、なんでそんな食いつくんだ?』と返ってくる。

 

 その問いには、まだ答えられない。

 

 机の上には、新しく仕入れたジャンクバッテリー。

 通帳アプリには、小さいが確かな最初の売上。

 ノートPCの画面には、東京湾岸の赤い一点。

 

 商売の手応えと、次の扉の気配。

 その両方が、同じ一本の再生バッテリーから生まれていた。

 

「まずは元手作り、だったよな」

 

【はい】

 

「そのつもりだったんだけどな」

 

【計画に変更はありません。資金確保は継続してください】

【同時に、候補地点“海鳴りの倉庫”への接触準備を開始します】

 

 イヴの声はいつも通り平坦だった。

 

 なのに、その言葉だけは妙に胸の奥へ沈んだ。

 

 結局、俺はまだ一歩目を踏み出したにすぎない。

 高耐久再生バッテリーはたしかに売れた。金にもなった。

 でもどうやら、それはただの商売じゃ終わらない。

 

 祖父が残した“種”は、もう次の扉までノックしてしまったらしい。

 

 俺は画面の赤い点を見つめた。

 

 東京湾岸。古い倉庫街。海鳴り。

 

 ボロい再生バッテリー一本で原稿何本分かの金を稼いだ、その同じ流れの先に、異星文明の秘密基地が口を開けているかもしれない。

 

 まったく、ろくでもない。

 

 ろくでもないのに、知りたかった。

 

 知ってしまった以上、行かない理由がもう見つからない。

 

 最初の売上は、たしかに現実だった。

 けれど今の俺の頭を占めているのは、口座残高よりも、湾岸の倉庫街で拾われた説明のつかない反応ログの方だった。

 

 どうやら俺の最初の商売は、金だけじゃなく、次の扉の位置まで運んできたらしい。

 

 




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