「これは一体、どういう事なのかな?ヒロくん」
二階堂ヒロ。私の
「君と話がしたくてね。その為に来てもらったんだよ」
「話、か。それは良いとしよう。問題はそこじゃない。分かっているんだろう?私が聞いているのは、何故君が
ゴクチョーを始めとする、牢屋敷の運営に関わってきた人間達。その規模がどれ程のものかは不明だが、あれ程大掛かりな施設を隠し通してきたということは、とても大きな組織か、もしくは小さい規模ながらも大きな権力や富を有する組織であると察しがついていた。
「私も、こちら側に立つとは思っていなかったよ。けれど信じて欲しい。私は、君達の味方だよ」
「……ずるいな、君は。君に信じろと言われて、私が疑えないと、分かっているんだろう?」
私の問い掛けに、彼女が口を開く事は無かった。
「それじゃあ、聞かせてくれるかい?何故君が、今こうしてここに居るのかを」
「……あぁ。そうだね」
彼女は、ゆっくりと話をしてくれた。この場へと至る、きっかけの物語を。
◇
「それじゃあ、また」
「うん。またね、絶対だよ!」
裏切り、傷付け、心を壊した私の事を、彼女は赦してくれた。求めてくれた。それがとても嬉しくて、それと同時に、罪悪感で押し潰されそうになる。それでも、彼女が私を求めてくれるなら、私という人間の全てを、彼女の為に使いたい。彼女が私を手放すまで、彼女の傍に居ると、今は亡き友にそう誓った。
日常へと戻り、彼女の為に私に何が出来るのか。そう考えながら乗り込んだヘリの中、視界がぐにゃりとねじ曲がり、私の意識は暗闇の中へと落ちていった。
「……ん」
再び意識を取り戻した時、薄暗い機内の中には、それまで無かったはずの人影があった。
「お目覚めですか?」
「……誰だ」
「おや、誰とは白状ですね。島で何度も顔を合わせて、おっと失礼。私は
人を馬鹿にしたような笑みを含んだ声と、フクロウ越しという最大のヒントを貰い、目の前に居るその人物が誰なのか、その答えへと容易に辿り着いた。
「……なるほど。貴方がゴクチョーの正体という事か」
「えぇ。この度は
「いちいち癇に障る事ばかり言うあたり、貴方はちゃんとゴクチョーの中身なんだな」
「嫌な確認の仕方をしますねぇ」
ため息をついた私を見てため息をつくゴクチョーを見て、更にため息をつきそうになるもグッと堪え、話を先へと進める事にした。
「そろそろ本題に入ってくれないか?管理人様が直々にお越し下さったんだ。ただ嫌味と挨拶に来たという訳ではないのだろう?」
「そうですね。無駄話はまた後程。貴方には、我々に協力して頂きたいのですよ」
後程という言葉に思わず突っ込みを入れそうになるも、これ以上付き合うのはゴメンだと話を進める事にした。
「協力?一体私に何を手伝えと言うんだ?
月代ユキ。私とエマの中学時代の友人。私達の関係を破壊した張本人にして、かつて牢屋敷の島で仲間達と慎ましく暮らしていた魔女の一人であり、当時友好関係を築いていたはずの人間達の手によって平穏を奪われ、その復讐を果たす事を目的としていたが、最後の魔女裁判にてエマに
「えぇ。貴方々のおかげで、人に仇なす魔女は無事に滅ぼす事が出来ました。ですが、彼女が残した物がまだ残っているでしょう?」
「魔女因子か」
「その通りです」
魔女因子。人に寄生し、人から人へと伝染していく魔女の力の欠片であり、それに適合した者達には魔法を与える、一種のウイルスのようなものだ。世界中に魔女因子をばら撒き、それをとある魔法を用いて暴発させ、世界中の人間を死に至らしめる事、それがユキの計画だった。
「貴方々の危険性は、確かに著しく減少しました。ですが、我々や大衆全ての魔女因子が消えた訳ではありません。そして、貴方々の持つ魔法も、
「……まさか、お前達の目的は、いや、待て、待ってくれ!」
「お察しの通りです。魔女が消え、牢屋敷の存在意義も無くなった今、我々が危険視しているのは、火の魔法でも怪力の魔法でも、洗脳の魔法でも無い。人類存続の為に対処しなければならない危険因子、それは───」
守りたい、守らなければならない、他の何を捨てたとしても彼女だけは守ると決めた、私の、大切な人。
「桜羽エマ。彼女がこの世に存在する限り、人類はいつでも滅亡出来るのですよ。誰に気付かれる事もなく、例え誰かが気付いたとしても、それは誰にも止められない。現状、人類を滅ぼすという点において、彼女の右に出る者は世界中の何処にも居ないのですから」
皮肉めいた笑いが静寂に包まれた機内を駆け抜けていく。
私は何も言えずに、ただ下を向く事しか出来なかった。