とある悪人面のプロローグ
国家とは、繁栄と衰退の歴史だ。
数多くの国が繁栄し、衰退し、滅亡してきた。栄枯盛衰、盛者必衰、どれほどの大国であろうともその摂理から逃れることは出来ない。
では、仮に一度たりとも敗北を知らない繁栄を続ける国家が存在しないとするとどうだろうか?
他国を寄せ付けぬ圧倒的技術力を誇ることで他国を侵攻することにより、領土を得、征服した領土から富を搾り上げることで、この世界において今現時点で最も繁栄を謳歌していると言っても差し支えない大国──それがこのカエレスティス帝国だ。
「おい、貴様。今、こちらを睨んだな」
「え? そ、そんなことは」
「いいや、睨んでいた。
「い、いや。誰か、助けて!」
カエレスティス帝国によって征服され、かつての国名を失い
胸元にある青い星の紋章からカエレスティス帝国の臣民、通称〝カエルム人〟。その兵士が一人の征服された民 、〝
よく見られた光景だ。
征服された土地を我が物顔で歩くカエルム人は良くあることだと気に求めず。
他の
誰も助けない、助けられない。
口を挟めば、次は自分があぁなるとわかっているからだ。
「おいおい、何だか面白そうなことをしてるじゃねぇか」
そこに割って入る声。
男には奇妙の傷跡があった。
右目辺りから首元を伝って、背中へと枝分かれした雷が通ったような跡。雷紋とも言われる雷に撃たれたもの特有の傷跡であった。
その鍛え抜かれた身体も相まって凶悪さに拍車が掛かり、誰か助けに来てくれたと思った女性もあまりにも恐ろしい風貌にか細い悲鳴をあげる。
「良いな、良いなぁ。なぁ、オレにくれよ。丁度暇していてなぁ。遊び相手が欲しかった所だ」
「何だと? 横から口を挟むな!」
「待てっ、こいつの顔をよく見ろ。この悪どい、正に悪魔そのものの顔……例の軍人だ」
「な、なんだとっ!?」
「聞いてるのか? オレはお願いしているんだ、わかるだろう?」
その恐ろしさに、閉口する。
女性を掴んでいた男達は忌々しそうに、顔を歪ませる。
「ちっ……ほら、さっさと連れていきやがれ!」
「物分かりが良い輩は嫌いじゃないぜ。ほら、あんたもさっさときな!」
複数によって集って囲まれるのも怖かったが、後から現れたこの傷跡のある大男はもっと怖い。
獲物を連れて行かれた兵士達は、後ろ姿を眺めながら大きく舌打ちした。
「
その言葉が聞こえたかどうか知らず、大男は、ぐいぐいと女性の腕を引く。
女性はというと、複数のカエルム人の軍人に囲まれた時も怖かったが、更に明らかに悪人面のやばい男に連れられてしまったことに絶望した。
生きて帰れないかもしれない、そんな考えが過ぎる。
やがては、人気のない廃墟へと入っていった。
キョロキョロと、周囲を見渡し誰もいないことを確認する。
「ほれ、さっさと行きな」
「えっ?」
背中を優しげに押され、解放される。
女性は何度も繰り返し出口と男の顔を見る。やがて、大男が自らを助けてくれたのだとわかった。
「ど、どうして……?」
「あん? どうしてってそりゃ、あのまま連れて行かれたら嬢ちゃん酷い目にあわされそうだったしな」
「そうじゃなくてっ、だって、その……」
女性の言葉に、男はがしがしと困ったように頭を掻いた。
「あー、まぁ、見るからに恐い顔の男に連れられて離されたら罠かと思うよな。悪りぃな」
「そ、そんなことは」
「良いんだよ。慣れてっからな。わかったら、不用意に顔を出して歩くのはやめることだな。嬢ちゃん、別嬪だからさっきみたいなロクでもない兵士に捕まっちまうぞ」
「っ、ほんとうに、ありがとうっ……!」
女性は、頭を下げてそのまま小走りで去って行った。
顔に傷のある男は、その後ろ姿を見送りふと上を見上げた。
パタパタと、カエレスティス帝国の象徴である、燦々と輝く国旗を見て一言つぶやく。
「末端の奴等とはいえ、あんなのが野放しになっているにも関わらず、天下一の大国だなんて笑わせやがる。『リベリオン/戦禍の夜明け』は一般人が生きていくには辛すぎるだろ。やっぱこの国クソだわ。早く滅ばないかな」
オレの名前はゲドウ・マルドラーク。
アスデブリと呼ばれる、このカエレスティス帝国へと帰化した軍人であり、そして何より、不幸な事故によってこの世界『リベリオン/戦禍の夜明け』へと転生してしまった元一般人だった。
◇
死ぬ時ってのは、突然で理不尽なものだ。
別に何か悪いことをした訳でも、かといって特別に良いことをした人生ではなかった。
「やっべ! すげぇ雨だな!」
天気が曇り、ゴロゴロと鳴ったと思ったらあっという間に土砂降りになって、こりゃやべぇと帰宅を急ぐ途中で近くの電柱に雷が落ちた。
しかも運悪くオレはその近くに居たせいで側撃雷、つまりは巻き込まれたというわけだ。
結果、オレは死んだ。
身体を熱い槍で貫かれたような痛みと共にな。
一説には雷に当たる可能性は宝くじで一等が当たるのと同じだとか。なんでそんな所で運使っちまったんだ。
んでだ、次に目が覚めた時は知らない人に抱かれていた。驚いたが、声を出そうとも出るのは言葉でなく、泣き声だけ。オレは赤ん坊になっていた。
つまりオレは転生したってことだ。
死んだことについては仕方ねぇ。寧ろ、次の人生があることに感謝したいくらいだ。強いていうなら、前世の親には申し訳なかった。息子を突然失うだなんて親不孝をしちまったからな。
転生したオレは前世とは全く違う世界にそれなりに楽しい幼少期を過ごし、近所の悪ガキ達を締め上げつつ謂わばガキ大将としての地位につきつつ、やがてとある国の名前を聞いた。
カエレスティス帝国。
征服された土地を〝
その言葉を聞いた瞬間、オレはすぐに気付いた。この世界が『リベリオン/戦禍の夜明け』の世界なのだと。
『リベリオン/戦禍の夜明け』、一世を風靡した人気アニメタイトル。その作風はダークファンタジーというものだ。しかし、当時はそのような言葉は存在せず、どちらかと言うと明るいアニメが人気だったこともあり、当初この作品は異端として注目を集めた。
今となっては数多く存在するダークファンタジーの始祖、或いは先駆けといって良い。それだけに人気も根強かった。
そんなこの世界だが何というか、コンクリートとかの建物じゃなくて煉瓦の建物がメジャーな世界だ。生活様式だと、前世よりも劣っている箇所も多い。
だが、明らかに一部の技術や分野においては明らかに前世を上回っている。
そう、それだけの技術力があるならば人は豊かに暮らせるはずなのだ。
周囲を見渡せばどいつもこいつもしけた面で歩いている。
「まぁ、気持ちはわかるがな。こんな世情じゃ、希望なんて見出せやしねぇ」
オレが今此処にいる場所は、元はとある国だった場所だ。
征服されたことで、
反対に元のこの国の人々は暗い顔で道端に座り込んだり、寝ていたりする。
けどそれは征服された
オレの母国も、カエレスティス帝国に征服された。それがこの世界の日常だ。率直に言ってクソみたいな世界だ。
それでもオレの心が折れなかったのは希望があったからだ。
『リベリオン/戦禍の夜明け』の主人公シドウ・皇・オリエント。
彼が母国であるオリエントを滅ぼされ、帝国の革命軍に参入したのを始まりに物語は始まる。
「どうにかして会えねぇかな。つっても、シドウの故郷のオリエントまでかなり遠いし、そもそも今の時点じゃ、行ったとして会える保証がねぇ」
当初こそ、シドウよりも先んじて革命軍に入ろうとしたオレだが、その思いとは裏腹に全くもって反乱軍に会うことができなかった。
そりゃ、オレ如きに簡単に見つかるようならそもそもカエレスティス帝国の機密組織に簡単に捕捉されて潰されるよな。
だが、悠長に構えている訳にもいかない。生きていくには金が必要だ。結局オレは生きる為に、カエレスティス帝国の軍人として仕えることにした。
「ったく、悪人面にまではならなくてもよかったのにな」
度重なる戦いのせいで身体中傷だらけだし、ひどい人生を歩んできたせいか顔つきも荒んだ風貌になっちまった。
おかげで悪い人だと思われた数は百じゃきかない。悲しい。
「うおっ!?」
「ぐはぁっ!」
そう思いながら、歩いていると突然男がぶつかってくる。
「おい、テメェ。何しやがる?」
「うぐぐ……うおっ、顔こわっ!」
「くそっ、あの女といいこっちもヤベェやつだ。逃げろっ」
オレが声を掛けると、蜘蛛の子を散らすように屯っていた男どもは逃げて行った。ありゃ
つーか、さっきのやつら態とぶつかってきたと言うよりも飛ばされてきたような? そう思い、視線を向けると男たちが飛ばした方向に居たのは一人の少女だった。
まさか、今のはあの少女の仕業か?
「…………ぅ………………」
「おい、しっかりしろ……なっ!?」
少女はそのまま倒れた。
別に人が行き倒れることは、よくある光景だった。問題はその人物。
灰色の髪、そして顔に覚えがあった。
知っている。知らないはずがない。何せ画面越しで見たことがある。
「メリスだと? なんでここにっ……!?」
『リベリオン/戦禍の夜明け』の
『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』における