拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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メリスの変化

 

 バルザックの討伐作戦は失敗。

 

 カエレスティス帝国は、断固としてバルザック・ダレイオスの討伐を決行すると発表。

 

 その中に一人、《天刑護騎士(アストロノーツ)》の最精鋭である《サイデリアル》から、《灼炎》の異名を持つ一人が赴任することになったと記事にあった。

 

「いや、絶対に《火焔魂/イフリート》を所有する輩じゃん。うわぁ、かわいそうに。こいつが、バルザックに輝征装(エアラリス)を奪われるのか」

 

 世間じゃ、これで悪名高いバルザックが討ち取られるのが確定したかのような記事だが、オレには死刑宣告にしか見えなかった。

 

 将来バルザックに輝征装(エアラリス)を奪われるのが確定している男の冥福を祈りつつ、オレはひとまずは解決すべきことに目を向ける。

 

「で、だ。なぁーんで、オメェがオレの跡を着けて来たんだ? お?」

 

「額を指でぐりぐりしないで……」

 

 へにゃへにゃとした顔をするメリス。

 

 こいつ、オレの事を追っ掛けて来やがった。

 

 そこまでは良い。

 問題は、オレですらメリスの尾行に気付けなかったということだ。

 

 もしやと思ってメリスに問い詰めたのだが、どうやら《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に宿る悪魔と契約して、更なる力を得たらしい。

 

「なんてこった、完璧に馴染んでやがる」

 

 メリスの胸の《悪魔の心臓/デモゴルゴン》は前日よりも馴染んでいた。

 

 とはいえ、それは《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の力を引き出す以上、時間の問題であったから良いんだけどさ。

 

 何でこんな短時間で力を解放しているの?

 

 オメェ、その姿になるの『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』でもまだ先の展開だったよな?

 

 怖い。外伝ゲーム主人公としての主人公補正の強さに驚愕する。

 

 しかも見た感じ、その力を普通に扱えてる。

 

「オメェなぁ。言いたい事は色々あるが、更に力を解放してんじゃねぇよ。呑まれたらどうするつもりだったんだ」

 

「……だって、そうまでして力を解放しないと置いてかれるって、思ったから」

 

「そりゃ、仕事に行くわけだからな。軍人じゃねぇ、オメェを連れて行く訳にはいかんだろ」

 

「違うっ! そんなんじゃない。今此処でゲドウを追いかけなきゃ、もう会えなくなるって思ったから……」

 

「なんだよそりゃ」

 

 やめてくれよ、オメェの勘結構当たるんだぜ。

 

 ゲームでも、勘だけで敵の罠を看破したりもしていたし、狙いだって見抜いていた。野生の勘ってのが鋭すぎるのだ。

 

 会えなくなるという言葉に、オレは少し考える。

 

 もしや、オレが革命軍に行ってしまうのを危惧したのか? いや、心情を吐露していないし、そんなことをメリスが知る術はない。

 

 だとすれば、会えなくなるっては一時的にではなく、永遠にという訳か?

 

 思い返せば、あそこに居たのはムメイだ。

 

 暗殺技術に秀でたあのムメイが、最初に狙うとしたら誰だ? それはオレだろう。何せ、彼女にはバルザックを迎えに来た使命があったのだから。

 

 あの時、揉み合いながらメリスと共に現れなかったらと思うとゾッとする。

 

 あれ? 普通にオレ死にかけてた?

 

 今になって、明確な死が迫っていた事実に心臓がバクバクし、冷や汗を流す。やべぇな、最近強敵との戦いを経てないから勘が鈍ったか? そうなるとメリスは命の恩人という訳になる。

 

 しばらく悩んだ末、オレは大きく息を吐いた。

 

「……助かったのも事実だ。ありがとよ」

 

「えへへ」

 

「だが、オメェ。その為に何を差し出した?」

 

「うぐっ!?」

 

 オレの礼に照れていたメリスが、泡を食ったような顔をする。

 

 それに伴うように、メリスの尻尾(・・)がびくりと強張った。

 

「髪の一部の色が変わってやがる。それに、尻尾までも生えて自由に動かせていやがるな」

 

 灰色の髪であったメリスの髪は一部が赤いメッシュへと変化していた。

 更にはふりふりと動く尻尾は、自らの意思で動いているように見えた。それはつまり、それだけメリスの身体がそっちへと傾いたという訳になる。

 

「やっぱり、ダメだった?」

 

「オメェの身体がきちんと出来上がっていれば問題なかった。無理に力を引き出そうとした結果、それに耐える為に肉体が変化したんだよ。そうならねぇように徐々に慣らしていくつもりだったんだがな」

 

 実際、『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』でも最初の頃に調子に乗って《悪魔の心臓/デモゴルゴン》を使う選択を選び続けると、精神乗っ取られるBADに直通してしまう。精神的に弱い状態で頼りすぎたからだ。

 

 しかし、短期的に強くなれるのも事実だ。

 

 よくないことだとわかっていても、序盤で無双するの楽しいからついつい選んじまうんだよなぁ……!

 

 悩んでいると、メリスがおずおずとオレを見上げてくる。

 

「もし、さ。わたしが本当の悪魔になったらさ。その時は、ゲドウ。わたしを殺してくれる?」

 

 その言葉は、何処か懇願するような声であった。

 

 つーか、殺してくれるって。10代半ばのガキが言うセリフじゃねぇだろ。

 

「あいたっ」

 

 軽く頭を叩く。

 

「ばーか。オメェは、復讐を果たして自分の人生を取り返すんだろ? なら、くだらねぇこと考えてないでさっさとその力を完璧に扱えるようにしろ。なっちまったモンは仕方ねぇ。なら、あとはいかに自分のモノにするかだ」

 

「ゲドウ……わかった。必ずこの力を扱えるようになるよ」

 

「良い心がけだ。なら、ちょっと確かめに行くか」

 

 とりあえずメリスの現状を確かめるべく、オルビス森林に晶獣対峙に来たのだが。

 

「はあぁぁぁ!」

 

<バオォォォンンッッッ!!?>

 

 森に雄叫びが響き渡る。家ほどの大きさの象の晶獣だ。正確には、戦牙象と言って、姿形は前世の象に似ているが牙がより殺意増し増しな感じになっている。つーか、剣そのものだ。実際、この牙に柄をつけるだけで武器になる。鼻の一振りに至っては、巨木をへし折る。

 

 昔には、輝征装(エアラリス)を使って使役していたこともあるらしい。

 

 当然、他国を圧倒する武器を所持するカエルム兵であろうとも苦戦を免れない相手だ。

 

 その存在が今、一人の少女によってなすすべなく倒された。

 

「ゲドウ、勝ったよ!」

 

「お、おぉ、よくやったな」

 

「当然! どう? すごい、えらい? 褒めて良いよ」

 

 いや、強くない?

 

 力を確認するために、晶獣を一狩りしに来たがその強さに慄く。

 

 途中、戦牙象の鼻を掴んで逆に振り回した時は、驚きを通り越して普通にドン引き案件なんだが。

 

 メリスに尻尾が生えたから、どれほど変化したのか観察するも問題無く《悪魔の心臓/デモゴルゴン》を扱えていた。

 

(だがまぁ、まだ〝不滅の魔焔(アグリアル)〟も〝黒刃翼(ベヒーゼブブ)〟も使えてねぇが、『リベリオン/戦禍の夜明け』開始前と考えると及第点だな)

 

 『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』においてストーリーが進むに連れてメリスは《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の力を引き出していく。上記の2つもその一端だ。

 

 《霊耀晶(マテリアルーツ)》を使ったモノを焼き尽くす赤黒い炎、〝不滅の魔焔(アグリアル)〟。

 

 空気を切り裂くほどの鋭い飛行を可能とする〝黒刃翼(ベヒーゼブブ)〟。

 

 この二つは《悪魔の心臓/デモゴルゴン》を扱う上で欠かせない要素だ。

 

 流石にまだその領域には達していないものの、《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の特徴である強力無比な力を引き出すことには成功している。

 

 やべぇ、もしメリスを怒らせたら単純な力じゃ、オレ抵抗できないかもしれん。当の本人は早く褒めろと言わんばかりに、こちらを期待するように見上げている。

 

「えらいなー、すごいぞー、末は博士か大臣かな?」

 

「何その言い方? ほんとうに褒める気ある?」

 

「おーけー、悪かったよ。代わりに晩御飯を好きなのにしてやる。何が良い?」

 

「なら、肉まんが良い!」

 

 またかよ。

 

「オメェ、一昨日食ったばかりだろ……」

 

「肉まんはいつでも美味しい。それは真理だよ」

 

「なんつー浅い真理だ」

 

 まぁ、作ってやるけどよ。そう伝えるとメリスは機嫌良さそうに尻尾を振っていた。

 

 どうでも良いけど、それ感情に反応して動くのな。……ふーむ。好奇心が疼《うず》く。

 

「よっと」

 

「あひゃんっ!?」

 

「おぉ、やっぱ感覚あんのな。どんな感じなんだ? 人間には元々ない器官だし、感想をおしえうごぉっ!!!?」

 

 凄まじい勢いで殴られた。調子乗りすぎた。ごめんなさい。

 

 

 

 

 

輝征装(エアラリス)も最低限でも扱えている。乗っ取られる兆候もない。なら、動いた方が賢明か」

 

 夕食を済ませたオレは食器を洗いつつ、一人そうごちる。きゅっと、蛇口を捻り水道を止めた。

 

 これ以上時間を掛ければ、奴等が研究所を捨てるか或いは、更なる追っ手が放たれる可能性がある。

 向こうが次なる手を打つ前に決着をつける必要がある。

 

「問題は《国家機密研究局(ゲマトリア)》の戦力か。ナクアはともかく、奴の造ったあれら(・・・)がいるとメリスでも荷が重いか。だが、時間もない。ちっ、分の悪い賭けは嫌いなんだがな」

 

 オレはバルザックから渡された資料とこの近辺の地図を取り出す。それらを見比べ、やがて決心する。

 

「メリス」

 

「なに、ゲドウ。今日のご飯の話? ちょっと肉が硬かったよ。手抜いた?」

 

「ちげぇよ。そうじゃねぇ、オメェのその胸の心臓についての話だ」

 

 食い意地の張ったメリスに思わず苦笑する。

 

 よく見なくても、拾った当初と違って肉付きがよくなってやがる。指摘したらセクハラになりそうだから言わねぇけど。

 

「今ここに、お前にそれを施したであろう男が潜伏する場所が記された地図がある。それに関わるであろうメンバーらの名前もな」

 

「なっ、見せて!」

 

 バルザックから受け取った資料を投げ渡す。メリスは、奪い取るように資料を手に取るとみるみる眦を吊り上げた。

 

 その表情は、憤怒に満ちていた。

 

「ナクアッ……!」

 

「知り合いか?」

 

「コイツが……! わたしにこれを埋め込んだ張本人! そうか、此処にいるのね……!」

 

 思わず資料が破けんばかりに握り締める。

 

 ナクア・メルキオール。

 

 カエレスティス帝国の《国家機密研究局(ゲマトリア)》の主任。『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』におけるメリスへ《悪魔の心臓/デモゴルゴン》を埋め込んだ張本人だ。

 

「これらの資料と、オレが集めて来た地図。そしてオメェが歩いて逃げてきた範囲などを合わせて見るにオメェが囚われていた施設、《国家機密研究局(ゲマトリア)》が潜む場所は此処だ」

 

 トントンと、このトリンガース区よりそう離れていない区域を指差す。

 

 ここからそう遠くない、最早訪れる人もいない、地図にかつてあった名を記載されただけの場所が《国家機密研究局(ゲマトリア)》の本拠地であった。

 

 ここを特定するのにかなりの労力を要した。基地から地図を拝借したし、あとは原作知識も総動員した。そうでなきゃ、本気で秘匿された施設をこんな短期間で探し出すのは不可能だ。

 

 メリスのやることはわかっているが、オレは一応不正の書類を持って尋ねておく。

 

「これがあれば、あいつらの闇を告発する事だって可能だろう。信頼のおける役人に、オレが告発したっていい」

 

「冗談じゃない!」

 

 大きな声だった。メリスは、机に手を叩く。

 

「奴が好き勝手実験しているのも他ならないこの国が認めたからでしょ!!? なら告発したって何の期待も持てない。わたしが、決着をつける……!」

 

 まぁ、オレも告発しても揉み消されるだろうなとは思ってる。だから、あくまで提案しただけだ。だが、それによってメリスの意思を確認できた。

 

「いいぜ、決行は今夜だ。バルザックのゴタゴタで帝国の方も目がそっちに向いている。今なら奴等の隙をつけるはずだ」

 

「えっ」

 

「あん? 何だその驚いた顔は」

 

「……ついて来て、くれるの?」

 

「当たり前だろ」

 

 信じられないとばかりに目を見開く。

 

「ゲドウには関係ない」

 

「おいおい、もうどっぷりと関係者だろ。此処まで来て、知らんフリはできねぇよ」

 

 外伝主人公だから死んだら困るというのもあるが、それ以上にこの情緒が不安定な少女に情が湧いちまっている。

 これは、ゲームのキャラクターだからとかじゃなく、この世界に生きた一人の人間としてメリスと接してきたせいだろう。

 

「あと、単純に突っ走って罠にハマりそうなんだよ。抜けてるところあるしな」

 

「抜けてない!」

 

「そりゃ悪かった。ま、そういうわけで心構えしておけよ」

 

「…………わかった。準備する」

 

 オレの言葉に、メリスは席を立つ。

 

「ゲドウ」

 

「あん?」

 

「ありがとう。わたし、貴方にあの時に拾ってもらえてよかった」

 

 自室に向かう際、メリスは笑顔でそう溢した。

 

 ありがとう、ありがとう、か。

 

 そんなの言われたのいつ以来だ? ふわふわと浮ついた気持ちになっちまう。オレ、こんなにちょろかったか? 落ちつかねぇとな。

 

「……にしても、アイツ時間かかりすぎじゃねぇか?」

 

 オレが心を落ちつかせていると気付けば既に10分経過している。

 

 全然戻って来ないメリスに流石におかしいとオレは数ある部屋のうち、メリスに与えた部屋に向かう。

 

 そうして中を覗くと、そこには着替えてる最中のメリスが居た(ラノベのお色気シーン)──なんてことはなく。

 

 空いた窓に、パタパタと揺れるカーテンだけがあった。

 

 荒らされた様子はなく、メリスが自らの意思で出ていったのが見て取れる。

 

 ふぅん、そうかそうか。

 

 すっげぇデジャヴを感じるなぁ。

 

 なるほどなぁ。

 

「あんのクソガキぃぃぃ!!!」

 

 オレは絶叫した。

 

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