突如として轟音が響き渡る。
時間は深夜。人だけでなく、晶獣も夜に活動するごく一部を除き眠る時間帯。外は真っ暗でほとんどなにも見えない。しかし、巧妙に隠された《
そこに繰り返し衝撃が響き渡り、火の手があがっていた。それをもたらしたのは、だれでもない。わたしだ。
「何者だ!? 此処を何処だと思ってッ」
「じゃまぁっ!!!」
わたしは警備をしていたカエルム人の兵士を蹴り飛ばす。
覚えている。覚えている!
ここだ、この場所だ。わたしは歯を食いしばり、目に付くものを片っ端から破壊する。その衝撃に慌てふためいているのは、《
そいつらも手当たり次第に殴り飛ばす。
「あの少女、間違いない。主任のお気に入りだったやつだ!」
「何故ここに!? 復讐か!? いや、そもそもなんだあの力は!?」
「すぐに主任に連絡しろ! いや、その前に兵士ども、さっさと取り押さえろ! このままでは我々は……!?」
話していた研究員を吹き飛ばす。
さらにもう一人は床に叩きつけた。痛みにうめいている隙に、喉に爪を突きつける。
「お、おまえはっ」
「あいつは、ナクアはどこ?」
「ひいぃ、し、知らない! ほんとうに知らないんだぁ!」
「ふぅん、そう。じゃあ、用無しだね」
研究員を殴り飛ばし、ナクアを探す過程でよくわからない機材を破壊し尽くす。
それでも、わたしのいちばんの目的。
《悪魔の心臓/デモゴルゴン》を埋め込んだナクアの姿形はなかった。それでもわたしは焦っていなかった。
いやになるほど顔を合わせた。泣き叫んでもやめてくれないくらい実験された。だからこそ、あいつの趣味嗜好、考えることはわかっている。
「これまで通った所にはいなかった。なら、あそこだ。あそこの奥に、アイツは必ずいる!」
目的の場所に向かって駆け出す。
走りながら、ふとわたしの頭に過《よ》ぎる。
……黙って行ったこと、ゲドウは怒っているかな。
でも、これだけは譲れない。あいつは必ずわたしがぶちのめす。
それに。
もし仮に失敗しても、わたしだけが捕まるならゲドウに迷惑はかからない。もう既に、たくさんゲドウには迷惑をかけた。だから、これ以上彼に迷惑はかけたくない。
短い間だったけど、わたしの帰る場所に、そして温もりを与えてくれたから。
だからわたしが、わたしだけが決着をつける。
「あれは」
全速力で駆け出し、やがて視線の先に見えて来た真っ白な分厚い扉。わたしの地獄が始まった入り口となったところ。これまでは通るたびにすくみ、怯え、泣き喚いた場所。
だけど、今は怖くない。
わたしはそこを蹴破り、中へと侵入した。
「相変わらず変なにおいっ……!」
白を基調とした清潔感のある部屋。
そこには大きな人が寝転べる台に、立ちこもる
わたしにとって忘れることの出来ない、居場所。
すぐさま、それらを力の限り破壊した。辺りに大小あらゆる破片と漏れ出した液体が地面に広がっていく。
「はぁー、はぁー、はぁー。あいつはどこに」
力を込めすぎて、暴れたせいで息を荒げながら視線を彷徨わせる。
「嬉しいねぇ、嬉しいねぇ! こうして戻って来てくれるとは!」
場違いに、喜びに満ちた声色が響き渡る。パチパチと、拍手の音も。
わたしはすぐに、上階に佇む男の姿を確認し、その名を吼えた。
「ナクアッ……!」
「久しぶりだねぇ、メリス! また会えて嬉しいよぉ」
ニヤついた笑みを隠そうともせず、白衣に袖を通した片眼鏡をつけた男……《
「おや、随分と大きくなったね。子どもの成長は早いというからねぇ。少し見ない間に立派になったものだ。思い出すねぇ、きみがこの場所に来たときのことを。あの時のきみは怯えて縮こまる仔犬のようだったよ」
「黙れ! わたしは思い出話をしにきた訳じゃない!」
「ほぅ? ならば、何しに来たのかね? まぁ、予想はつくけども」
「わかるでしょ! 返してもらう! アンタに奪われた全てを!」
わかっていてあいつはわざと聞いてきている。その余裕が腹が立つ。
「ふふ、やっぱりか。それにしても吼えるねぇ、まるで
「「「はっ!」」」
ナクアの指令に、またどこからか現れた兵士達がわたしを捕縛すべく動き出す。
「なめないで! そんな奴ら、もう何人ものしてきた!」
動きだって、あの森林にいた晶獣達の方が早い。相手の攻撃をかわして、武器を壊す為に蹴りをする。だけど、
「ぬぅッ……!」
「耐えられた!?」
しかしその蹴りは武器を砕くことが出来ない。なんで、と思ったけど兵士の持つ武器に見覚えのある機構を見つける。
「あの武器、あの男が持っていたのと同じやつ!」
わたしのお母さんを殺した仇の男。それと全く同じだった。
「ほう? なら、やはり追っ手をやったのはきみか。だとしたら、上方修正しなければならないね。だが、彼らはこの場所を守る精鋭だ。追っ手とは違う。いくらきみでも苦戦するんじゃないか?」
ナクアの言葉の通り、兵士達は極めて強かった。何よりも壊せない武器がやっかいだ。
けど、わたしには勝算があった。
「確かにその武器は強い……けど、肉弾戦ならわたしの方が上!」
「な、なんだと!?」
「武器を壊すことが出来ないのなんて関係ない。なら、力で推し通る!」
「実験体風情がっ、ぐおぉぉぉっっっ!!?」
わたしは相手が防御に回ったのを利用して、そのまま力で吹き飛ばした。同士討ちを恐れて動きの鈍った兵士に、掴んでいた兵士を投げ飛ばす。
一対多をする際に戦うための定石。乱戦に持ち込む。奴らは同士討ちを恐れて、動きが鈍くなった。その隙を突いていく。
「ゲドウとの訓練が役に立った。これなら戦える……!」
──いや、そんな戦闘の仕方教えてねぇけど。というか、それ技術じゃなくてただの力押しだろ。
どこかでゲドウの声が聞こえた。きっと、わたしを褒めてくれてるのだろう。むふー。
結局、最新鋭の武器を持った兵士とやらは全滅した。よわい。ちがった、わたしが強いのだ。
護衛が全員やられたのに、ナクアは意外そうに目を細めるだけだった。
「《
「これでアンタの手駒は終わりだ、いつまでも偉そうに見下ろすな! 降りてこい! わたしはもう、無力な人間じゃない! それをわからせてやる!」
「あぁ、良いだろう。すぐにいくよ」
「はっ?」
意外にも素直に、ナクアは言われた通り、わたしの居る位置へと降りて来た。無防備に、白衣に手を入れて佇む。
「ん? 何を驚いている? きみから誘ったのだろう? さぁ、望み通り降りてあげたよ。次はどうして欲しいんだい?」
「っ、どういうつもりかは知らないけど素直に降りてきたのなら好都合! これで、終わらせる!」
虚をつかれるもすぐさまナクアに対して、その顔面に拳を叩き込もうとする。
「きみの頼みを聞いたんだ。なら、次はぼくの頼みを聞いてもらおうか」
「なっ……!?」
殴りつけようとした拳が
拳の先にあるのは、黒く硬いアームのようなもの。ナクアの羽織っていた白衣の影から現れた4本の蜘蛛の脚のような何かがわたしの拳を防いだ。
「
「まさかっ、アンタも
「ご明答! 《影操八脚/アトラク・アハト》、これがこの
「うぐ……っ!?」
寸分の狂いなく正確なタイミングで、残った3本のアームに同時で殴られる。そのまま壁へと激突し、衝撃に息が詰まる。
こ、この威力。前に戦った象みたいな晶獣とは比べ物にならない。これが
「さぁ、立ちたまえ。
どこまでも冷静に、ナクアはそう語った。