新たな日常の中で
今や世界の三分の一を支配し、多数の
そんなカエレスティス帝国、天都プリマヴィスタ。
《
「そんなぁ〜! ボクが作った
大きい嘆く声をあげているのは、紫色の髪をした女性だった。一見すると美人な顔立ちも、目にある深い隈とダボダボな白衣を服の上から着ていることで、だらしないという印象を受ける。
そして何より目立つのは瓶底眼鏡をかけていることだろう。
そんな女性ことトイープ・ホルミスは、粉々となった
「どうやら中央部に嵌めていた《エーテリアル水晶》を制御する回路が不具合により爆散、使い手であった兵士達もそのまま巻き込まれて死亡。以上が報告となります。尚、この件については抗議が来ています」
トイープの側に居た、無表情で背の高い男性が答える。
「うぅ、ボクの可愛い
「いやいや、死んだ兵士達に悼みましょうよ」
あくまで自らが手掛けた
「そうは言ってもだねぇ、
「
「元々、まだ試験中の所を上からの指示で強制的に召し上げられた訳じゃないかぁ。確かに現行の武器よりは優れているけども、その分危険はあるとボクは何度も言ったんだよぉ?」
心底不満そうにトイープは語る。
「……確かに上からの指示とはいえ、安全性もクリアしていない試作段階にも関わらず持っていくとは。確かに急ですね。理由は危険な晶獣を退治する為と仰っていましたが、だとしても爆散したのが街中とは……」
腑に落ちない。
ヴェルヌントはそう考える。何故ならば、
だからこそ、戦闘相手であるはずの晶獣の生息する森林地帯ではなく街中で使用したことが引っかかる。
「いくら爆散したとはいえ、そもそも起動しなければ不具合による爆散する余地はない。なら、街中で爆散したということは彼らが武器を抜いたということのはず。なら、その理由は……」
「詮索はよしたまえよぉ、ボクは所詮は一構成員に過ぎないんだ。あまりに深入りし過ぎるとぉ、ろくな目にあわないよぉ」
「貴方がそれをいいますか。武器密造及び
「おっとぉ、それは過去の話さ。今はこの《
悪びれもせずに宣うトイープに、ヴェルヌントはため息を吐く。
「確かに《エーテリアル水晶》が爆ぜたのはぁ、間違いない。だけどねぇ、どうにも内部からというよりかは、外部から何かしら干渉を受けたように見受けられるんだよねぇ」
此処にゲドウが居たならば、「これだけでそんなにわかるの? こわ……」と言ってドン引きしていた。
「そんなことはありませんよ。実験のし過ぎて憶測どころか妄想にまで飛躍してるんですか? バカと天才は紙一重と言うのですから、その紙破いてバカにだけはならないでくださいよ」
「辛辣にもほどがあるだろうがねぇ、モルモットくぅん」
「ヴェルヌントです。良い加減きちんと名前を覚えてください」
ニマニマとしたトイープのからかいに対して、ヴェルヌントは淡々と言葉を返す。
「ぶー、からかいがいのないねぇ。ま、確かに此処じゃこれ以上の情報が得られないしねぇ。あまり気が進まないけど、現場に行ってみるしかないねぇ。という訳で、外出届けを頼むよモルモットくぅん」
「だから……もういいです。それで、私が行くのは妥当ではないでしょう。《
「行ったら絶対
「そっちが本音ですか」
いやそうな顔をするトイープに、ヴェルヌントはため息を吐くがその表情は微塵も変わっていない。
「でもまぁ、あそこなら丁度《
トイープは、心底意地が悪く……にちゃついた顔で笑ったのだった。
「……なんと醜悪な笑み。見ていて怖気が走りますね」
「ほんとうにひどいねモルモットくぅん!? ボクも一応おんなだよぉ!?」
「そう言えば、トイープ。件の
「そうかそうか。殿下も一緒……いっしょ? うぇぇぇぇ〜〜〜!!?」
ヴェルヌントの言葉に、トイープは情けない悲鳴をあげたのだった。
彼女らが向かう先は、
◇◇◇
既に此処がカエレスティス帝国の支配地になってから数年が経過している。
オレとしても赴任してから、それなりに長い年月が経ってすっかりと馴染んだ土地だ。
そんな中で今日もオレは、軍人としての務めを果たしていた。
「確かによぉ、軍人として税を公禄に食む以上働かざるもの食うべからずとは言うが、だとしても最近の頻度は異常だろ」
「ぐはぁ!?」
「治安維持に、晶獣退治。おまけに、要人の護衛だぁ? 手が足りてねぇにも程があんだろ。してきたことがしてきたことだから恨み辛みが多いのは理解できるがよ」
「このっ、よくも仲間を。がぁっ!!?」
「いけねぇいけねぇ、ひとりごとが多くなっちまった。ったく、これじゃ余計に陰鬱な気分になっちまう。
前までは、バルザックも兵士として働いていた為それなりに兵士として務めつつも楽が出来た。だが、そのバルザックが居なくなり、兵士の方も質の低い奴ばかりでろくに満足に仕事ができない。
え? そのバルザックが討伐部隊をほぼ殲滅したことが人員不足に拍車をかけたんじゃないかって?
うーん、正論。
つまりは、皺寄せが生き残ったオレに来たという訳だ。はっはっは……ちくしょうが!
「待て! やめろよ! お前、アスデブリの軍人だろ!?」
気がつけば、周囲にはオレがのした人々でいっぱいになっていた。
あ、因みにだがオレは今絶賛〝
〝
必死になってオレを止めようとする最後の一人。そいつはオレがアスデブリであることを指摘する。
「そうだが、それがどうした?」
「わかるだろう!? オレ達は、奴等が奪い取っていったものを取り返しただけだ! 向こうが先にやったのだ! やり返して何が悪い!?」
「まぁ、その言葉には全面的に同意だけどもよ」
「ならば!」
「だとしてもなぁ、オレがアンタらを見逃す理由とはなり得ないんだわ。わりぃな」
「ぐ、ぐぅぅッ……! この、裏切り者めェッ!」
怒りと悔しさを滲ませながら、突喊してきたこの盗賊を率いていた男を斬り伏せる。
びちゃりと、槍から血が滴り落ちる。
男の剣はオレに届くことなく、喉を貫かれたことで力無く倒れ伏した。
「裏切り者、ね。そりゃ、そっちから見りゃそうだよな。だから、オレはお前らのことを何も知らねぇ。知らねぇが、奪われたから奪い返すっていうのには否定はしねぇよ」
オレはそのまま辺りに倒れ伏す
「反旗を翻したいって気持ちも理解出来る。だがよぉ、そこに堕ちちまった、同じ穴の狢だろうがよ」
そこに裸で捕らえられていたカエルム人、
そんな慌ただしい日々を過ごし、早いもので《
その間オレは、晶獣退治、
メリスは復讐相手であるナクアと決着をつけたばかり。
《悪魔の心臓/デモゴルゴン》がどこまでメリスの肉体に、変化を与えているか見極めるためだ。
軍人として日中は働き、帰ってはメリスの面倒を見る日々。
なんか、子どももった親みてぇだな。いや、あながち間違いでもねぇのか?
メリスも身体も、精神も、異常なし。なんなら、オレが気にかけているのが嬉しいのかずっとご機嫌だった。オレがいない間は積極的家の家事だってやってくれた。なんだオメェ、新妻かよ。
ならそろそろ次に向かって良いだろう。
オレはメリスを鍛えることを決めたのだった。
「武器を買いに行くぞ」
そんな言葉から始まった一日、この区に幾つかある武器屋の一つへメリスを連れて訪れていた。
「いきなりこんな所に連れてくるなんて、ゲドウって強引」
「なんかいかがわしい言い方するのやめてくれねぇか。オメェが強くなりたいってつったんだろ」
「ふふっ、じょうだんだよ」
こいつ、ナクアとの決着をつけたから年相応の笑みを浮かべることが増えた。それ自体は良いことだが、こうして揶揄ってくることもあって調子がくるう。
しかし、そんなご機嫌も武器屋の対応ですぐに損ねることになった。
「なんのようだ。此処にはアスデブリに売るような武器は殆ど置いてないぞ」
「オレじゃねぇ。こいつにだ」
「……なら向こうにいきな。カエルム人用のはそっちに置いてある」
オレがメリスに連れ立っていることに一瞬瞠目するが、そのまま案内される。
「ほぉー、こりゃすげぇ。よりどりみどりってやつだな。……なんだ、難しい顔して」
「……あの人、感じ悪かった。明らかにゲドウのこと蔑んでた癖に、わたしのだとわかった時態度がコロッと変わったし」
「そりゃ、オレと違ってオメェはカエルム人の血を引くからな。武器の所持許可の方も緩い」
「この血のおかげって考えたらすごく不服なんだけど」
さっきの笑みは何処へやら。いやそうな顔をするが、カエレスティス帝国で生きていくのであれば混血とはいえカエルム人の血を引くのは、アドバンテージとなる。純血主義とかには混血であると知られると睨まれるが、それ以外なら多少いやな顔をされても、それだけだしな。
因みに
民族主義とかやーねー。でも、実際カエルム人は
だからって差別を肯定するつもりはねぇけど。
「おいおい、こりゃ随分と良いじゃねぇか。確か最近作られたモデルだっけか? まだオレらですら配備されてねぇのによ。一般向けには売ってるのかよ」
並べられた武器を見て思わず唸る。
アスデブリになろうとも、武器を持つには軍人になるしかない。
それでもまだ軍に属すれば持てるだけましで、アスデブリにならない
対してカエルム人であれば、その規則は緩くなっており自己防衛の為に武器を持つカエルム人は一定数いる。そして、自衛と称して一方的に無関係な
「ほんと、何処の世界もクソな輩は一定数いるもんだ」
「どうしたの? なんのはなし?」
「なんでもねぇ。で、だ。メリス、オメェはこれから武器を選べ。そんでその武器を持って鍛えあげることにする」
「でもわたしは、
「そりゃ、姿形が一つならそうしたんだがな……」
アドベンチャーゲームが元なだけあり、メリスの姿形はルートによって大きく変わる。
本来は、さまざまな相手との模擬戦や晶獣との戦いを得て経験を積んでいくのだが、現にバルザックの一件でムメイとやりやったメリスは、急速に《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に侵蝕されつつあった。
正直オレはメリスが《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に乗っ取られないか、ヒヤヒヤしていたところもある。
だが、メリスは完全に自我を保ったままナクアに勝利した。
これは恐るべき成長速度だ。
ナクア自身は下から数えた方が早い実力とはいえ、『リベリオン/戦禍の夜明け』開始前の、今の歳のメリスが勝つには厳しい相手だ。それでも勝てたとなるとそれは、《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の力を引き出せたということだ。
だがそれは楽観視するわけにはいかない。
『リベリオン/戦禍の夜明け』開始前の今の状態で使わせ続けたら、メリスの方が《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に肉体を乗っ取られる可能性は消えていないのだ。
ナクアとの戦いに決着がついたのなら、もう少し肉体が成熟するまでなるべく力を使わせるのは控えたい。
「
「それならわたしは槍が良い」
メリスは即答する。
「あ? オメェの体躯だとそんなのよりも剣とかの方が取り回しも良くてだな」
「やだ、槍が良いもん」
「もん、ってオメェなぁ」
ぷいっとそっぽを向く。
そっかぁ、槍かぁ。
どう考えてもアドベンチャーゲームの時も使用していた剣の方が良いと思うのだが、これは考えを変えさせるのは難しそうだ。
原作主人公シドウと剣を交えたイベントスチルを見れそうにないことに、僅かにがっかりしながらオレは槍を見繕う。
「槍、槍なぁ。そうなるとこの辺りか?」
「沢山あるんだね。あっ、これすごい……硬くて大きい……」
メリスが中でも一際太く大きい槍を手に持ち、思わず呟く。
やだ、なんだか卑猥……。
って、冗談言っている場合じゃねぇ。確かにメリスは《悪魔の心臓/デモゴルゴン》のおかげで常人よりも基礎能力が高く、大の大人でも扱うのに苦労するくらいの大きさの槍を持ててはいる。だが、オレは首を横に振る。
「ダメだな、こりゃ」
「どうして? わたしにだってこのくらいの大きさ問題なく持てるよ?」
「持てると扱うは違うんだ。この大きさだと、攻撃にしろ回避にしろ槍の大きさのせいで振り回される。それは致命的な隙になる」
そもそもの話、槍の利点をあげるとなると真っ先に上がるのはそのリーチの差だ。特に剣と比べたら圧倒的に長い。反面、取り回しが難しいので乱戦や閉所での戦いは厳しい。
「オメェ、見た目に反して扱いが大雑把だからな。この大きさだとあちこちぶつけそうだ」
「うぐっ、そ、そんなことない。すぐに慣れる……はず」
「いや、無理だな。力任せにぶん回してすぐにおしゃかにする。それか、ぶつかった方が壊れるな」
実際、単純な得物を持っての技量だと如何に『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』の主人公であるメリスだろうとも、『リベリオン/戦禍の夜明け』本編の主人公であるシドウ・皇・オリエントには到底及ばない。これはメリスの適合する《悪魔の心臓/デモゴルゴン》が、素材となった《
対してシドウの方は、装備型の
なので、ゲーム版でもメリスのステータスを幾らあげようとも技術でシドウを上回ることはできない。これは絶対だ。
だがそれは武器をもたない理由にはならない。
そんな訳でオレはメリスにあった武器を物色する。
「お、良いものあるじゃねぇか」
オレは積まれた武器から一つ選ぶ。
「ほれ、これにしろ」
「……むぅ、全然可愛くない」
「なんで武器に可愛さ求めてるんだよオメェは」
大層不服そうだが、オレはメリスでも扱える程度の槍を渡す。値段もお手頃だ。頑張ればもうちょい高いのを買えるが、ぜってぇすぐに壊す予感がするから慣れるまでは安上がりので良いだろ。
「もう! さっきから言っているでしょう! 一番良い防具を用意しなさいと言っているのよ!」
「おいおい無茶言うなよ。嬢ちゃんの背丈じゃ、此処らの防具じゃサイズがあわねぇよ」
「背は関係ないでしょう! これから伸びるのよ!」
「あん?」
大声が響き渡る。
棚から顔を出して覗くと、店の店主と何やら小柄な少女が揉めているところだった。
「どれもこれも無骨なモノばかりでこれからのあたしの栄光に相応しくないわ! ……あら良いのがあるじゃない! そうよ、これよこれ! これならあたしには相応しいわ!」
「あっ、よせ! そっちは成人男性用の防具だ! 勝手に触るんじゃない!」
「にぇぇぇっっっ!!?」
少女は明らかに背丈以上の鎧を手に取るが、重かったのか重心がズレる。そのまま倒れて、どんがらがっしゃーんと、武器や防具の雪崩に巻き込まれた。
「ほらな、見ろよ。身の程を弁えない武器を持つとあぁなるんだ」
「それよりも、あの娘大丈夫なの?」
「それもそうだ。おい、アンタ無事か!」
声をかけるが、あれだけの量だ。もしかしなくても重傷だろう。
「ぷはっ! 何なのよもう!」
そう思っていると、倒れた武器や防具の山から、ぴょこん! とアホ毛が出てくる。次いで、顔が出てきた。見る限りかすり傷すらない。
マジか、あの武器の雪崩れに巻き込まれて無傷とかどんな運してんだ。
そう思い、まじまじと武器の山から顔を出した少女の顔をじっくり見て、オレはすぐ正体に勘付いた。
「《サイデリアル》、ニェーニ・フラグラッシャー!?」
帝国の誇る
革命軍の暗殺組織《エニアグラム》のライバル組織とも言えるメンバーの一人に、オレは思わず声を上げた。