拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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原作があるなら、それを元にした外伝ゲームもあるって話

 路地裏で小汚い少女を見つけた。

 

 しかもそれが『リベリオン/戦禍の夜明け』のアドベンチャーゲーム版タイトル、『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』の主人公だった。

 

「は? いや、なんで……いや、それよりもまずいな」

 

 固まった思考を直ぐに再起動して。一先ずオレは、メリスを抱えてその場を立ち去った。

 

 周囲には、姿こそ見えないがじっとりとした視線を複数感じた。此処は治安が悪い。あのまま居たらオレも外伝主人公(暫定)も危ない。

 

 一先ずは腰を落ち着ける必要がある。暫し歩き、後に見えてきたのはとある一軒家。つまり、オレの家だ。

 

 意外と思うだろうが、それなりの強さを誇るオレはこうして一軒家を持つことを許されているのだ。他のアスデブリなら寮という名の檻みたいな所にぶち込まれることもあると考えると、オレはまだ恵まれている方だ。

 

 さて、件のアドベンチャーゲームの主人公様はまだ目を覚さない。

 

 オレのベッドに一先ず寝かせたが、浅い呼吸を繰り返すだけだ。

 

 しかも、抱き抱えた時にわかったが、かなり痩せているし腕や脚には幾度にも刺された注射跡にアザがあった。

 

 とりあえず、治療の為にほとんど意味を為していなかった服を剥いで傷を確認する。

 

「これは」

 

 オレの目は吸い寄せられた。

 

 それは女性らしい柔らかい身体……ではなく、丁度胸の真ん中に描かれた不可思議な紋章、その中心部に肌と一体化したような赤い宝石。

 

「いや、どう見ても輝征装(エアラリス)……それも《悪魔の心臓/デモゴルゴン》だよなぁ」

 

 輝征装(エアラリス)

 カエレスティス帝国の初代天帝が最高峰の《霊耀晶(マテリアルーツ)》に生物の素材、それに技術者を結集することで製作された至高の武具。この武装は、装備することで一騎当千とも言える力を有することが出来る。

 

 ある者は、素材となった生物の力を宿すことでその力を振るうことが出来た。

 

 ある者は、純白の翼を得て、人が夢見てきた大空へと羽ばたくことを可能とした。

 

 ある者は、必中の矢を放てる弓を持ってして、数々の敵の指揮官の頭に風穴を開けた。

 

 そんな華々しい逸話を幾つも馳せたこの輝征装(エアラリス)によってカエレスティス帝国は、大きく躍進し今では世界の土地の3分の1を支配するに至っている。

 

 長い戦争において半数近くは何処かに分散したらしいが、それでも半分はカエレスティス帝国が所持している。

 

 そしてその中の一つ、《悪魔の心臓/デモゴルゴン》。

 

 アドベンチャーゲーム版でも主人公が有していた輝征装(エアラリス)に間違いなかった。ってことはやっぱりこの少女は、『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』の主人公で間違いない。

 

「マジかぁ。そんな時期だったのか? 確かにアイツ(・・・)がまだ軍に居るから原作開始前だとはわかっちゃいたが……」

 

「ん……」

 

「あ?」

 

 パチリと視線が合う。

 

 どうやら目を覚ましたらしい。

 

 灰髪とは裏腹に、鮮烈なまでに紅い瞳がオレを映した。

 

 さて、ここで問題だ。

 

 目が覚めたら、自身の身体がはだけていてそれを見ている顔つきが明らかに悪人の男がいる。それを見たらどう思うか。

 

 そうだね、犯罪者だね。

 

「くッ!」

 

「おっと」

 

 咄嗟に突き出された拳。

 

 とても痩せた少女とは思えないほどの鋭く重たい突きであったが、それでもこの帝国で兵士として鍛えてきたオレにとっては軽い拳だった。

 

「はっはっは、突然な挨拶だな。あー……勘違いしているが別に何か邪な気持ちがあった訳じゃねぇ。オレは」

 

「ふっ!!!」

 

「うぉっ! あぶねぇなぁ!」

 

 拳がダメと見るやすぐに蹴りを加えてきた。

 

 それもオレは防ぐ。細い四肢とは思えない重さだ。少女はぎりっと歯を食いしばった。

 

「はっはっはっ、こちとら、これでも長いことこの世界で生きてんだ。この程度で、あだだだだッ!!!?」

 

「ぐぅぅぅ! ふぃうぅぅぅッ!!!」

 

 噛むな噛むな!? 

 

 格闘技が通じないと見るや否や、こいつはオレの手に歯を突き立てた。くっそ痛ぇ!? なんつー顎の力してやがる!

 

「いてててッ!? やめろ、犬かオメェはよ!?」

 

「ふぅーッ! ふぅーッ! あぐっ……〜!?」

 

「お、おい!?」

 

 突然、噛みついていたメリスがうずくまる。

 傷が傷むのかと、心配するとメリスは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「ま、まずい……」

 

「失礼な奴だな!」

 

 うげぇぇと、口に入った血を吐き出す。

 

「だが目が覚めたんなら、丁度良い。来い」

 

「うっ、はな、せぇッ!」

 

「ほら、暴れない暴れない。あ、また噛まれちゃ堪らんからこれでも咥えとけ」

 

「ふぐぅっ!? ふぎゅー! ふぅぅッー!!」

 

 オレはそのままメリスを肩に抱き抱える。

 

 その際に、噛まれないようにさっとハンカチを噛ませる。……やべ、傍からみたら完全に人攫いの所業だな。

 

 暴れるメリスを連れて、そのまま歩いた先にあるのはお風呂場だ。

 オレはそこへメリスを放り込む。メリスはすぐに、ハンカチを吐き出した。

 

「ぺっ。くっ、こんな所に連れて何をする気!」

 

「とりあえず、オメェそのままだと汚れていて汚いしくせぇから洗いな。お湯はそっちのボタンを押せば出る。洗うための石鹸はそっちな」

 

「はっ? 汚れっ、くさくないし! えっ、あ、いや、あの、ちょっ、まっ」

 

「んじゃ、さっさと洗ってこいよ」

 

 返事を聞かずにそのまま扉を閉める。

 

「やっぱプレイヤーから《狂犬(・・)》って言われているだけはあるな、いつつ」

 

 オレは、棚から薬を取り出して噛みつかれた腕に塗る。

 

 かなり本気で噛んだのだろう、歯型がついて血が滲んでいた。

 

「くおぉぉっ、し、染みる……! だが、雑菌とかあって化膿したら堪らんし耐えるしかねぇか」

 

 だが、仮に化膿してもその程度で済めば良い方だ。

 輝征装(エアラリス)には、歯に装着して血を吸うことで効力を発揮するのもあるからな。その場合身体中の血を吸われて干物になっちまう。

 

「さて、現実逃避はこのくらいにして……やっぱ衰弱具合から見ても、やっぱり丁度実験施設から逃げ出した辺りって所か」

 

 オレは『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』についての記憶を掘り起こす。

 

 元々は原作である『リベリオン/戦禍の夜明け』を元にしただけあって、大筋そのものは途中までは同じだ。

 

 だが、それでは話題性を集めれない。

 そこでアドベンチャーゲームらしく、独自のシナリオが多数用意された。

 流石に細かな話までは覚えちゃ居ないが、プレイヤーの選択によっては幾つかルートが分岐したのは覚えている。

 

 カエレスティス帝国の一員として、今の状況を内側から変える《改革》ルート。

 

 カエレスティス帝国に見切りをつけ、新たなる国をつくる《革命軍》ルート。

 

 カエレスティス帝国と革命軍両方を敵として、軍民問わず殺戮の限りを尽くす《人類の悪魔》ルート。

 

 その他、細かに分岐するが重要なのは一つ。

 

 

 

 どれもカエレスティス帝国は滅ぶんだが???

 

 

 

 唯一マシな《改革》ルートも、最後のEDまで見るとカエレスティス帝国という国がさもこれから変わっていきますよという風に締め括られるが、あれ実は何も解決してないんだよ。

 

 ギャルゲーとかに良くある全てのルートをクリアした後に解放される真ルートの存在のせいだ。

 

 真ルートに行くと衝撃な事実が判明して、「あれ? それじゃああのルート、一見ハッピーエンドに見えるけど何も解決してなくね?」となる現象だ。真ルートとかは、全てのルートをクリアした後に現れることが多いからクリアするまでは気付けないのがタチが悪い。

 

 なので、《改革ルート》もあそこでゲームが終わっただけで実質その後はカエレスティス帝国は滅んだ可能性が高い。

 

 そもそも、ゲーム販売当初もまだ原作アニメの『リベリオン/戦禍の夜明け』も終わってなかった。そのためラスボスが原作とゲームで違ったりと齟齬があるが……とにかく重要なのはメリスの存在がカエレスティス帝国という国にとって劇物だということだ。

 

 カエレスティス帝国に対して絶許の姿勢のせいで方向性が違うだけで、壊そうとしているのには違いない。だが、方向性を間違えれば同じ壊すでも、意味が異なる。

 

 厄災(パンドラ)の箱ってレベルじゃねぇぞ。あれだって一応は一通りの厄災を吐き出した後は、希望が最後に残っていたんだぞ。どのルート辿っても壊そうとするとか、悪魔か何かか?

 

 そういや、《悪魔の心臓/デモゴルゴン》が埋め込まれてるからあながち間違いでもねぇのか。

 

「まぁ、オレは別に帝国が滅ぶのはどうでも良いんだけどな」

 

 こんなクソッタレな国、さっさと滅ぶ方が世のためだ。仮に滅ばなくても、遠からずカエレスティス帝国という国の体制は崩壊する。何故ならそれが『リベリオン/戦禍の夜明け』の結末だからだ。

 

 なら、メリスが存在してくれたおかげでよりハッピーエンドにも近づいたと言っても良い。戦力的には、この世界において最高峰まで成長するしな。

 

「選択によってルートは分かれるが、根幹となる過去については必ず同じなはずだ」

 

 まずメリスが捕らえられていたのは、《国家機密研究局(ゲマトリア)》と呼ばれる帝国の裏組織だ。非合法な人体実験もなんでもござれの負のオンパレードだ。

 

 そこから脱走し、その後生死を彷徨う。

 

 その際に、帝国の市民で助けを求めるのだが見るからに厄介ごとの気配の漂わせた少年或いは少女を好き好んで助ける奴はいない。結局誰からも助けられず、自らの力で生き残るしかないと悟り、それからはもう荒れた日々を送ることになる。あの格好を見るに、既に何回か助けてくれなかったと見るべきだろう。

 

「なら、ここで信頼を稼いであとは方向性をそれとなく導いていくのが得策か」

 

 今後の方針をまとめる。とりあえず現時点では、敵ではないと信頼されるのが安牌だろう。

 その為には好感度を稼がなきゃな。

 

 つーわけでオレは飯を用意する。

 

 先ずは栄養をつける為に、料理を食わせる。古今東西、うまい飯は人に笑顔と活力を与えるってな。これで好感度も稼いでやるぜ。ぐへへ、空腹で空かした腹にあったかい料理はさぞや効くだろう。

 

 せっせと真心込めた飯の準備が出来、風呂に放り込んだメリスの様子を伺う。

 

「おーい、そろそろあがったか?」

 

 しかし、返事がない。

 

「聞こえてないのかー?」

 

 悪いと思いつつも耳を澄ましても、湯船に浸かっている音も聞こえなかった。

 

 脱衣所から抜け出した形跡はないし、風呂場に窓はない。逃げることはないはずだが……。

 

「まさか、溺れてるとかはねぇよな!?」

 

 今のメリスは衰弱している。

 

 汚れがひどかったのでとにかく、先に身体を洗わせる為に風呂場にねじ込んだが早計だったか!? 絵面はやばいがオレも入るべきだった! 女主人公だからと、配慮するべきじゃなかったか!

 

 慌てたオレは、すぐさま風呂場に入る。

 

 しかし、そこにメリスはいなかった。あったのは薄汚れた服だけであった。

 

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