拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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運命は動き出す

 

 今更だが、メリスの服はオレの古着が主な主体だ。それ以外だと、《国家機密研究局(ゲマトリア)》から逃げてきた際の拘束服だ。

 

 なんでこんなこと言い出したかって?

 

 有り体に言おう。下着がない。

 

 つーか、なんで今まで買わなかったんだオレは。いや、そもそもそういうのはメリスから言うべきなのでは? と本人に聞いてみると、

 

「だって別に必要ないと思ったから」

 

 なんて言いやがる。

 

 うるせぇ、オレの服じゃサイズ合わないからだぼだぼなんだよ。肩どころか、胸の谷間まで屈むと見えるし(もっとも最初に見えるのは《悪魔の心臓/デモゴルゴン》だが)、上の服しか着なかったりするから生足がちらちらと目に毒なんだよ。

 

 初めは警戒心が強い犬みたいだったのに、すっかり野生を失いやがって。チワワか、オメェは。

 

 外に出る時は、オレの服をいくつか縫合してマシなのを着ているのに、なんで部屋着は雑なんだ。

 

 なので服を買う。だが、流石に女の服をオレが買うのは、明らかな犯罪臭がやばい。通報待ったなし。つー訳でオレとメリスは買い物に出かけ、近くの服屋に来た。

 

「この中からオメェの好きなモン選んで来い」

 

「ゲドウは来てくれないの?」

 

「オレはオメェの母親じゃねぇんだぞ。何から何まで面倒みさせるなっつーの」

 

 不服そうなメリスをしっしっと、追い払う。女子の服コーナーにこんな強面がいたらやべぇーだろうに。

 

 そうして暫し待つとメリスが戻ってきた。

 

「あ、どうゲドウ? 自分じゃかなり良いと思ってる! 特にこの鎖のジャラジャラがね、カッコよくて……!」

 

「……返してこい」

 

 なんかすっげぇ厨二病みたいな格好を、嬉々として見せに来た。オレは無言ですぐにその服を戻してくるように命じた。その後もキワモノばかり選んでくるメリスに、オレはため息を吐いて、結局一緒に選ぶことになった。

 

「結局ゲドウ色に染められちゃった」

 

「変な言い方すんじゃねぇよ、あほが」

 

 何やら満悦な顔でメリスがほざく。

 

 別に外に出る服で、自身が気に入ったのならオレも何にも言わなかったが部屋着で鎖の装飾がジャラジャラしたやつを選ぶのは、もうあほかと。おちおち昼寝もできねぇだろ。音もうるせぇし。

 

 でも、戦闘服としては良いと思う、うん。

 

 そのままメリスを連れてオレは食料を売っている店へと顔を出す。オレの顔を見てもビビることないくらいに、顔馴染みとなっている店だ。

 

「親父、いつもの挽肉を2キロくれ」

 

「あいよ! 運が良いな、普段より質の良いのが入っているぜ。やっとこさ、物流が安定したしな」

 

 機嫌良く語る隷属人(イクリプス)の店主。

 

「ふーん、まぁ平和になったっつーことだな」

 

「全くだよ。迷惑だった『キュクレウスの眼』が鎮圧されたからな。これで過ごしやすくなるってものだ」

 

「迷惑……」

 

 どうやらカエレスティス帝国への恭順を決めた店の店主にとって『キュクレウスの眼』は目障りだったらしい。世知辛いな。どっちも元は同じ国の人間だったのに。

 

 隣にいるメリスも、何とも言えない顔をしていた。

 

 その後もオレとメリスは色んな店を回って日用品を買っていく。

 

「ふぅー。色々買ったな」

 

「うん……」

 

 道の脇に設置されていた椅子に腰掛ける。メリスは相変わらず何か考えるように黙り込んでいた。

 

「なーに、辛気臭い顔してやがる?」

 

「『キュクレウスの眼』のこと、考えてた。あの人達も、手段は良く無かったとは思う……けど、それでも国の為に命を捨てる覚悟があった。それを理解されないのが、悲しいと思うのは間違ってる?」

 

「そんなことはねぇ。これはどちらが正しいとかそういう問題じゃねぇのさ。正解はねぇ。どうやって折り合いをつけるかだ」

 

 オレの言葉に、メリスは俯いた。

 

 それはまるで答えを必死に見つけようとしているようで。とてもオレの記憶にある、良くも悪くも自らにとって敵が味方のみで判断する、『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』の主人公と同じだとは思えなかった。

 

 ……いや、寧ろこれが復讐者でも何でもない本来のメリスか。

 

 そうだよな。オレは『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』という作品の、ある種限られた世界線のメリスしか知らない。知っているのも、ある種未来予知(ルート)のメリスだけだ。

 

 まぁ、だからこそ今くらい純粋に楽しんでもらいたいと思うのは、オレのわがままだろうか?

 

「おいお前、ふざけるなよ!」

 

「い〜やいやぁ、ボクは微塵もふざけてないよぉ」

 

 そんなオレの考えを壊すような怒声。

 

 見れば、揉めていたのは二人の男女。

 

 片方は知っている。この辺りの隷属人(イクリプス)の店を全て潰して、大型の店を建てたカエルム人だ。もう片方は……遠いからわからないがやたらとダボっとした服を着た女だ。

 

「ふざけているのはキミの方さぁ。なんだいこの値段は? ぼったくりにも程があるよぉ?」

 

「バカ言いやがれ。需要があれば高くなるのは必然だろうが!」

 

「それが本物ならねぇ。《霊耀晶(マテリアルーツ)》の欠片……だったかい? 違うねぇ、これは《エーテリアル水晶》の欠片さ。純度も色合いも何もかもが違う。まぁ、幸いボクは今《エーテリアル水晶》が欲しかったから買っても良いけどさぁ。値段は……そうだね、ここの値札の4分の一ってところだね」

 

「っ、ふざけんじゃねぇ!」

 

 カエルム人が拳を振り上げる。

 おいおい、いくらなんでも暴力に訴えるのかよ!

 

「っ!」

 

「おいメリス!」

 

 止める暇無く、メリスが割って入った。

 

「あぁ!? なんだ、テメ……いだだだだ!? 離しやがれ!」

 

「謳い文句とは違う品を売って見破られたら暴力とか、恥ずかしくないの?」

 

 カエルム人は振り払おうとするが、メリスの力が予想以上に強いせいで振り払えない。

 

「助かったよぉ、どことも知らぬお嬢さん。それにしても……残念だよぉ。商品詐称だけでなく、暴行にも訴えようとするだなんて。これはボクとしても、然るべき処置をしなくちゃならなくなってしまうねぇ」

 

「なにを……なっ!?」

 

 メリスに抑えられたカエルム人だが、女が何か懐から取り出したのを見せると同時に顔色が変わった。なんだ? 何を見せられた?

 

「わ、わかった! あんたの言う値段……いや、5分の1で良い! だからっ、これで勘弁してください!」

 

「おや? 良いのかい? すまないねぇ、じゃああるだけ全部もらおうか」

 

「ぜっ!? わ、わかりました。すぐ用意します……」

 

 変わり身の速さに、「どうしよう?」と目をキョロキョロさせるメリスにとりあえず離してやれとジェスチャーする。まぁ、オレもあのプライド高いカエルム人が何を見てあんな風に考えを変えたのか気になった。

 

「いやはや、助かったよぉ。話の通じない輩との会話は実に不毛だねぇ」

 

 パンパンと自らの服を叩く。

 

 間延びするやたらとねっとりとした話し方。

 

 こちらを見上げてくる女の顔を認識すると、オレは血の気が引いた。

 

「メリス、サッサといくぞ」

 

「え、ゲドウ?」

 

 半端強引にメリスの手を引く。驚いているメリスだが、オレには彼女を慮る余裕はない。早急に離れるべきだ。

 

 くそ。

 

 ニェーニといい、ヴァンサンといい、なんで急にこんなにネームドが現れるんだ……!

 

「待っておくれよぉ、礼くらいさせてくれたって良いじゃないかい?」

 

 女はニヤついた笑みを浮かべる。

 

 オレはそいつを知っている。

 

 トイープ・ホルミス。

 

 『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』でどのルート(・・・・・)であろうとも、メリスの《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に勘づく曲者(・・)だ。

 

「おいお〜い、待ってくれたまえよ。礼のひとつさせておくれよ〜」

 

「礼は結構だ。オレたちは急いでいるから失礼する」

 

「助けてくれたのはそこの彼女で、きみは何もしてないけどねぇ。というか、中々すごい顔しているねぇ」

 

 うっせぇ!

 

 とりあえず早く離れようとする。正直会話をしたくない。

 

 コイツは危険だ。

 

 『リベリオン/戦禍の夜明け』には登場しない『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』の限定キャラクターだが、代わりに主人公のメリスとは深い関わりを持つ。。

 

 ルートによって関わり方は違ってくるが、どのルートでもトイープはメリスに埋め込まれた《悪魔の心臓/デモゴルゴン》について勘づく。

 

 さらにトイープはカエレスティス帝国のとある皇族直属の組織、《特務兵装開発部(アルカナム)》の主任だ。そして何を隠そうあの戦戎具(サテライト)の製作者でもある。

 

 そう、オレがぶち壊した追っ手の武器のことだ。……もしかして、その調査にここに来たのか? ちっ、なら戦戎具(サテライト)もかけらも残さず破棄しとくべきだったか。

 

 とにかくトイープと関わりを持つのは、いくらなんでもまだ早過ぎる。そう思い足早にメリスを連れて去ろうとするが。

 

「なんの騒ぎですかこれは?」

 

 オレの通り道。その先にオレよりも高身長の男が立ち塞がる。

 

「待っていたよ〜、モルモットくぅん」

 

ヴェルヌント(・・・・・・)です。それでいったいどういうことです、これは?」

 

 生真面目そうな声色に、全く無表情な顔。

 

 やつだ。トイープの護衛(・・)のヴェルヌントだ。間違いない。

 

「いやねぇ、そこの彼女たちにお礼をと思ったんだが、にべもなく断られてしまってねぇ」

 

「……なるほど。どうせまたトイープが何か人をイラつかせることをしたのですね。でしたら、こちらも相応の対応をしなければなりませんね」

 

「いらねぇ。大丈夫だから、ほっといてくれ」

 

「ゲ、ゲドウ。話だけでも聞いてあげても良いじゃないかな?」

 

 メリスが見るに見かねて口を出してくる。

 善意なのはわかるけど、今は言ってほしくなかった。そして、トイープはオレの名前に反応する。

 

「ゲドウ、そうゲドウかぁ。そういえば聞いたことがあるねぇ。このトリンガース区には、有名なアスデブリがいるって。なるほどぉ、きみがそうだったのかぁ」

 

 にんまり、と笑みを浮かべるトイープ。

 

 その上で先ほどのカエルム人に見せていたであろう、軍の上層部しか持ち得ない証を、ダボつき、もはや萌え袖とかしている袖から見せつけてくる。

 

「な〜らば要請だ。ボクをこの区の基地に案内してくれたまえ。いやだとは、言わせないよぉ?」

 

 そして断れない頼みをしてくるのだった。

 

 

 

 

「ところできみぃ? 随分と力が強いんだねぇ? 何かスポーツでもやっていた口かい?」

 

「え? いや、スポーツはべつに……。運動はきらいじゃないけども」

 

「そうなのかい? でもさっきの動きは、明らかに戦い慣れてそうな動きに見えたけども」

 

「え、と。たまにいちゃもんつけてくる輩がいるからそれらをぶちのめしてたら自然と……」

 

「ほーう? つまりきみは、あの程度の輩なら難なく倒せるほどに経験を積んでいたと? それはそれは、随分と波瀾万丈な人生を歩んできたんだねぇ」

 

「あ、う」

 

 拒否することも出来ず、基地へと案内をする道すがら。当のトイープの興味はメリスに集中していた。

 トイープからの質問の嵐に、メリスがたじたじとなっている。くそ、メリスを先に帰らせることもできなかった。とりあえず助け舟を出す。

 

「おい、あまりいじめないでやってくれないか」

 

「え〜? でも、気になるじゃないかぁ。ふっふっふ、ボクの知的探究心はぁ、その程度の言葉じゃ止められないよぉ?」

 

「なんとかならないのか? ヴェルヌントさんよ」

 

「そうですね……」

 

 オレがヴェルヌントに話しかけると、彼はトイープの背後にまで移動する。

 

「さぁさぁ、もっときみのことを教えておくれ。いったいいつから戦闘経験を、きゅ

 

 ヴェルヌントはトイープの首をチョークスリーパー、そのまま締め落とした。トイープはウサギみたいな声を出して気絶する。

 

「言葉で止められないのであれば、物理的(・・・)に止めれば良いのです」

 

「「えぇ……」」

 

 ドン引きするが、『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』でもヴェルヌントからのトイープの扱いはこんなんだったな。なら、あまり気にすることはねぇか。

 

 そのままヴェルヌントはトイープを肩に担ぎ上げ、歩き出す。

 

「苦労してんだな、アンタも」

 

「いえ、いつものことなので。それと申し訳ありません。助けてもらったお礼のはずが道案内を頼むこととなってしまい」

 

「アンタの責任じゃねぇよ」

 

 その後は口うるさいトイープが静まり、これといって問題なく基地まで来ることができた。できたのだが……。

 

「なんだぁ? その騒ぎは」

 

 妙に基地が慌ただしい。ともすれば、バルザックの討伐命令の時以上にだ。もっとも、ベテランがごっそり死んだので兵士の動きは悪い。

 

「あ、貴様! アスデブリ! なぜここにいる!?」

 

 オレに向けて、怒鳴り込んでくるこの基地の基地長。

 いつもえらそーにしているヤツだ。そんなヤツが、額に汗をかきながら慌ただしく動いている。

 

「さっさと立ち去れ! 今は貴様のようなヤツが居て良いタイミングではないのだ!」

 

「申し訳ないです。彼は我々の道案内をしてもらっていたのです」

 

「貴方は、《特務兵装開発部(アルカナム)》の。しかし……」

 

 ヴェルヌントが助け舟を出してくれるが、基地長の反応は芳しくない。なんだ? 客人ってこいつらじゃないのか?

 

「おや、また会ったね」

 

「うげぇっ!!?」

 

「あの時の!」

 

 気さくに挨拶してくるのはヴァンサンだった。

 思わず汚い声をあげてしまった。メリスに至ってはわかりやすく威嚇する。

 

「そう身構えないでくれたまえ。残念だが、今は再会を喜ぶ暇がないのだよ」

 

「あぁ? それってどういうことだ?」

 

 その言葉に首を傾げる。

 

 確かに昨日の醜態と違ってヴァンサンは落ち着き払い、その様はまさに《サイデリアル》に相応しい佇まいだ。

 いやそもそも、なんでヴァンサンがこんなところにいやが──

 

 

 

「私よりも先に到着したのに、後からやってくるとは。随分と重役出勤だね、トイープ」

 

 

 

 凛と、鈴が鳴るような声だった。

 

 一斉に、周囲のカエルム人たちが整列する。ヴァンサンですら、その場で臣下の礼をとった。誰も声に出さなかった。それはもちろんオレも。声の主が誰なのかを認識すると、同時にすぐさまその場でひざまづいた。

 

「ゲドウ!? 急にどうしたの?」

 

「頭を下げるんだメリス!」

 

 オレの対応に狼狽えているメリスを叱咤する。

 

 

 ありえねぇ。

 

 

 ばかなばかなばかな!

 

 

 なぜ今このタイミングでここにいる!? 

 

 

 ニェーニに会った。ヴァンサンと対峙した。トイープとヴェルヌントと邂逅した。この数日でオレのこれまでの人生において、もっとも『リベリオン/戦禍の夜明け』と『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』のネームドキャラに会ったと言って間違いない。

 

 だが、その出会いすべてを足してもなお上回るほどの衝撃。ありえねぇ、いるはずがない人物をその目で見る。

 

「顔をあげたまえ。トイープたちに道案内してくれた恩人に、不敬だからと目くじらを立てるほど狭量ではないよ、私は」

 

 たおやかに話しかけてくる人物の声色は、こちらを慮るように優しい。だからこそ、警戒する。

 

 カエレスティス帝国第二皇女(・・・・)

 

 《帝国宰相》、セレスティアラ・オールレイン・カエレスティスを。

 

 

 

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