拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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武闘大会

 

「朗報よ!」

 

 ばーん! と、勝手に自宅のドアをあけて現れたのは、アホ毛が目立つおかっぱの髪の女。それが誰だか認識したオレはすぐさまドアを閉める。

 

「まってまって!? どうして閉めるのよ!」

 

「そりゃ不法侵入されるなら追い出すに決まってんだろ」

 

「あたしはニェーニよ! それよりも! あんたたちにも知らせてあげようと走って来てあげたんだから入れてよ! 入れて! 入れなさい! いれ、いれ……ぐすっ、いれてよぉ〜……!」

 

「ゲドウ……」

 

「……はぁ」

 

 その後もドアの前で泣いていたニェーニを、仕方なく部屋に入れる。

 

「ぐすっ、……まったく! このあたしを放置するだなんて良い度胸しているじゃない!」

 

「戯言抜かすならまた追い出すぞ」

 

「あぁ待って! 追い出さないで! それよりも、これを見なさい!」

 

 涙目のニェーニが取り出したのは一枚のチラシ。ふふんとドヤ顔で見せてきたその内容は。

 

「〝武闘大会〟?」

 

「そうよ! 新たな強者を集めるために、あのセレスティアラ第二皇女が直々に観戦するとお達しがあったわ!」

 

「第二皇女……それってあの時会った?」

 

「にぇっ!!? 会ったの!!? いつどこで!?」

 

「昨日だよ。そういえば、なんであなたは基地にはいなかったの?」

 

「そ、それは……フーディ卿と一緒に食事した後、お腹こわして……」

 

 そのままやいのこいのと話す二人を他所に、オレは紙の内容に釘付けとなる。

 

「セレスティアラ、武闘大会。これって、もしかしなくてもアレ(・・)か?」

 

 『シャヘル=シャレム/黄昏の境界線』における、《改革》ルートに行くための条件。

 

 それは時折開催される武闘大会で強さを知らしめることだ。『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』では、メリスが生活の足しにする為に参加することになる。その活躍が偶然観戦していたセレスティアラの目に留まり、軍へと配属されるのが《改革》ルートの筋書きだ。

 

 それは良い。問題は、だ。

 

「わからねぇ。何故、このタイミングで開催された?」

 

 開催されるのは、原作主人公であるシドウが革命軍に身を投じた時期。つまりはあと最低一年は後なはずだ。

 

「良い? これはチャンスよ! 何せ皇族直々に視察してもらえるのだから!」

 

「なんでそれをわざわざ教えにきたの?」

 

「あら? メリス、あんた強くなりたいんじゃないの? この大会には強者たちが集まるわ。絶好の機会よ」

 

「強くなる絶好の機会……」

 

 ニェーニの言葉を噛み締めるように、メリスが反芻(はんすう)する。

 

「まぁ、優勝するのはあたしだけどね! じゃあ、用も済んだしあたしはいくわ!」

 

「いくってどこに?」

 

「当然修行よ! 良いところを見せつけてあたしは《サイデリアル》になるんだから! 本戦で当たっても恨まないでよね! それじゃあね!」

 

 それだけ言ってニェーニは嵐のように過ぎ去っていった。

 あいつほんとうにそれだけのために来たのか。しかもメリスが強くなりたいと思っているのを察していた。そのために知らせに来たと考えたら、意外と面倒見が良いな。

 

「強さ……ねぇ、ゲドウ。わたし、これに出たい」

 

「むぅ」

 

 案の定、メリスが興味を持った。

 別に、オレ自身はメリスが強くなることには歓迎だ。

 

 過酷なこの世界で生き抜く為には、強さが必要不可欠だしそもそもメリスの成長は約束されたようなものなので、その経験が積めるのであれば万々歳だ。

 

 だが、どうしてもあのセレスティアラがいるというのがなぁ。そしてセレスティアラがいることに加え、あのトイープまでもがいることが気にかかる。

 

 特にトイープが《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に勘づく可能性が非常に高い。確か《改革》ルートだと気付いた理由は、戦戎具(サテライト)を託した際に破損が相次いで、その理由がメリスの圧倒的な力に耐えきれなかったから、変化型の輝征装(エアラリス)による身体強化だと当たりをつけたのがきっかけだ。

 

 だから今この武闘大会に参加すると、トイープに気付きのきっかけを与えてしまうかもしれん。

 

 とはいえ、メリスを説得するだけの材料がない。

 

 何故なら、正体がバレる可能性があるからやめろと言ったところで『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』をプレイしたオレには、無意味なことがわかっている。

 何せ外伝ゲームとはいえ、主人公(・・・)なのだ。我の強さは作中屈指だ。そうじゃなきゃ、カエレスティス帝国の人民皆殺しとかいう《人類の天敵》ルート分岐なんてあるわけがない。

 

 てか、なんならこいつすでにオレのことを置いて《国家機密研究局(ゲマトリア)》に向かうという前科持ちだ。

 

 ……もし、オレの予想通りにこの武闘大会でセレスティアラに見出されたなら、メリスはやはり《改革》ルートになるのだろうか?

 

 実のところ《改革》ルート自体はそこまで悪くはない。寧ろ皇族からのバックアップを受けられるという点では、《革命軍》ルートよりも手厚い。

 

 問題はカエルム人関連でくっっっそめんどいことになるのだが。

 

 それでもメリスに明るい未来を、という点ではこっちのルートの方が悪くない。《革命軍》ルートはどうしたって、血で血を洗う茨の道になる。《エニアグラム》自体は良い人ばかりなんだけどな……。

 

 オレ的には《革命軍》ルート寄りだが、それはオレの都合(・・・・・)であってメリスに押し付けるモノじゃねぇ。

 

「当日、オレは周辺の警備を任されるだろう。とはいえ、アスデブリのオレを宰相の目の届くところに配備するとは思えねぇ。不興を買うと分かっているからな。だから、当日オレは何かあってもオメェに対して何もしてやれねぇ」

 

 恐らくオレはこの武闘大会の警備に駆り出される。とはいえ、このトリンガース区の基地長も司政官も、下賎なアスデブリを宰相の目に入るように配置はしないだろう。 

 

 武闘大会周りの警備が妥当ってところだ。なので、何かあった際にすぐにメリスに駆けつけられる保障がねぇ。

 

「わかってる。これは、わたしが決めたことだから。ゲドウに迷惑をかけな……ごめん、すでにかけてる」

 

「ん、まぁ確かにオメェが出るとなったら色々と心配事はあるが……だが、オレはオメェが前に進もうとすることを否定することはねぇよ。転びそうになったら止めるが」

 

「なにそれ」

 

 メリスが笑う。つられてオレも笑みを浮かべる。こどもが見たら泣く笑みを。

 

「やるからには全力でだ。オメェの成したいことの為、すこしでもこの大会で何か掴んでこい」

 

「うん!」

 

「なら早速槍の訓練をしてやる。流石に《悪魔の心臓/デモゴルゴン》を開け広がす訳にはいかないからな。あとはそうだな、なにが食いたい?」

 

「肉まん!」

 

 言うと思ったよ。

 

 

 

 

 

 そんな会話をしたのが数日前。

 

 突然の武闘大会の開催ではあったが、それでもトリンガース区は盛り上がりを見せていた。急遽設置された円形の闘技場では、今も外では数多くのカエルム人たちが、争いあう参加者たちを応援している。

 

「なんでやねん」

 

 そんな中でオレはおもわず関西弁で突っ込んだ。

 

 そう、オレは今この武闘大会の中側にいた。外側ではなく、中側にだ。それも舞台の中心となる通路の直ぐそばだ。もし暴れる参加者がいれば、すぐ制圧する為に配置された。

 

 配置されるとしても外側に配置されると、たかを括っていたら、実際は武闘大会の内部の防衛を任されていた。

 

「どうしたのかね? 腹をさすって、痛いのかね? いけないね、日々の健康は健全な食事からだよ。あとで私の秘蔵の奇食、うなぎパイをあげようじゃないか」 

 

「オメェが原因なんだよ。あとぜってーくわねぇ」

 

 しかも何故か《サイデリアル》のヴァンサンまでいる。隣にいるヴァンサンを見ながら、オレは痛む胃を抑える。

 

「まさかこれほど早くまた会えるとは思わなかったよ」

 

「オレは会いたくなかったけどな」

 

「やはり、我々は運命の赤い糸で繋がっているのではないかな? どうだい? この後仕事を終えたあと一緒にディナーでも」

 

「話きけよ! つーか、食事だってぜってぇいやだわ!」

 

 なんで知り合う男連中は皆オレの体が目当てなんだよ、おかしいだろ!?

 

「てか、なんでオメェがここにいるんだよ。《サイデリアル》は暇なのか?」

 

「ふむ? 今この場には第二皇女のセレスティアラ殿下がおられる。その御方の身を守るのは、《サイデリアル》として当然だろう?」

 

「だったらオメェが此処にいるのはおかしいだろ。側にいろ側に」

 

「セレスティアラ殿下は、聡明な御方でね。粗暴な挑戦者が出た際に、市民に被害が出る前に取り押さえることを優先せよと、私をこの場に遣わせたのさ。まったく出来た御方だ」

 

 嘘は言ってねぇ、ただしほんとうのことも言ってねぇな。こいつ、のらりくらりとそれらしいことを言ってかわしやがる。苦渋の決断だが仕方ねぇ。

 

「今なら少し血をやるぞ」

 

「それを早く言いたまえ! その為ならばなんでもしゃべるぞ!」

 

 それで良いのか、帝国最強の剣。

 

 だが、この際好都合だ。

 

 オレはヴァンサンの気が変わらぬうちに本題に入る。

 

「率直に言う。セレスティアラ殿下は何をこの大会で目論んでいる?」

 

「例え、辺境の地であろうとも有望な人材を見過ごさない為であるが?」

 

「勿論、それも目的の一つだろうさ。だが、本命ではないはずだ」

 

 そんな単純な目的の為に、態々あの第二皇女が出向く訳がない。

 

 深謀遠慮、権謀術数、どこまで先を見ているかわからないが少なくともオレの想像が及ばないことのはずだ。だからこそ、たとえ断片でも情報が欲しい。

 

 しかし、オレの問いに対してヴァンサンは形の良い眉を顰め、難しい顔をする。

 

「例えキミからの頼みであろうとも今回の殿下の目的を語ることは出来ない。私は《サイデリアル》。帝国を守護せし剣。その剣にかけて、国の安寧を護る。そう、例え貴公から血をもらえない、として、も……! ぐ、ふぅぅ……!」

 

「そんな血涙流してまで悔しがらなくて良いだろうがよ……」

 

「だ、だが、流石の私もバケツ一杯分の貴公の血を見せられたら本能が制御しきれないかもしれんっ、くっ、バケツ一杯分の血があればなぁ……!」

 

「ちょっと揺らいでんじゃねぇか! 忠誠心見せろばか! つーか、バケツ一杯分とか厚かましいにも程があるだろ!?」

 

 そもそも死ぬわそんな量! 

 

 はぁ、と息を吐く。コイツと会話するとほんとうに疲れる。

 

「《サイデリアル》に、サラ。そしてトイープにヴェルヌント。何人の輝征装(エアラリス)使いを動かしてやがる」

 

 ヴァンサンに聞こえぬように小声で呟く。

 

 護衛と考えるには過剰だ。

 

 『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』でも、同名のイベントはあった。だが、その時は輝征装(エアラリス)使いはいたが、《天刑護騎士(アストロノーツ)》が一人。決してその上位の《サイデリアル》を動かす展開ではなかった。

 

 この大会でセレスティアラは何を考えている?

 

 わからねぇ。嫌な予感は拭いたくとも、ひしひしと感じるのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 side:メリス

 

 武闘大会と聞いて、わたしは緊張していた。

 

 ゲドウに啖呵を切ったは良いけど、実戦経験となるとまだまだわたしは場数を踏んでいない。晶獣相手ならば、ゲドウに見守られつつも幾度と戦って勝利を収めたものの、対人戦とくれば『キュクレウスの眼』以来だ。

 

 だからこそ、気を張り詰めつつ大会に意気込んだのだけど。

 

「ぐへへへ、こんな大会に女が来るだなんてなぁ。顔は悪くないから、痛めつけてから可愛がってやぶべぇっ!」

 

「けっけっけ、おれの名を知っているか? 『切り裂き魔』のジャックだ。その顔を、ズタズタに切り裂いてぐはぁっ!?」

 

「ふっ、女子だろうとも容赦しないぞ。ぼくの華麗なデビュー戦の踏み台として、おごろぉ!?」

 

 

 

「……よわい」

 

 そう、あまりにも弱すぎた。

 

 当初こそ、女の身で戦いに参加したわたしを周囲の参加者は侮った。

 

 大剣を振るう男性を、ひらりと躱しそのままの流れで顎にへと槍の柄を打ち込んだ。ナイフを持った男は、ナイフごと粉砕した。語りだけは長い男は、話の途中で殴り飛ばした。

 

 どいつもこいつも強さは及ばず、心の強さでも『キュクレウスの眼』のような者はいなかった。そんな心体劣る輩にわたしの相手が務まるわけもない。

 

 結果、ほとんど一撃で終わった。

 

 周囲の観客たちが盛り上がるのとは裏腹に、わたしの気分は落ちていく。これじゃなんの経験になりやしない。ゲドウにあれだけ言ったのに、何も得られないかもしれないという焦りが生まれて来る。

 

 けれどもやっぱり相手は大したことはなくて、気付けば準決勝となっていた。

 

「ふっふっふ、遂に当たったわね」

 

 現れたのはニェーニだった。いつも通り自信満々の顔をしてる。え、というか……。

 

「え、ここまで来れたの?」

 

「どういう意味よ!!?」

 

 だって、ニェーニがここまで来ると思えなかったし。でも、『キュクレウスの眼』の時は結構戦えてたし、ここまで勝ち進んでも不思議じゃない……かも?

 

「ふんっ、すぐにその余裕を崩してあげるんだから! いくわよぉ!」

 

 試合開始の声と同時にニェーニが向かって来る。わたしはそれを見て気を引き締める。

 

 そうだ、ニェーニは《天刑護騎士(アストロノーツ)》。

 帝国でも指折りの、輝征装(エアラリス)を持っている強者。その存在相手に普段があれ(・・)だったからと言って、油断するのはばかのすること。

 

 今の自分が出せる全力でいく。

 

 迎撃しようと槍を構える。

 

「あにぇ!?」

 

「えっ」

 

 その時運悪く足元のタイルが割れてしまい、ニェーニは足を取られてすっ転んだ。

 

「いったぁ〜……あれ!? あたしの《五罰一誅/スタウロス》は!? って、にぇっ!? は、はみゅ……」

 

 しかもそのまま離してしまった《五罰一誅/スタウロス》が宙を舞って、柄がニェーニの頭を直撃。気絶してしまう。

 

『え〜……と、げ、激戦の末? にメリス選手の勝利です!』

 

「えぇ……」

 

 なにこの……なに?

 

 わたし一歩も動いてないんだけど。解説の人も、無理やり盛り上げようとしているけど全く盛り上がらない。観客たちも反応も困惑気味だし。

 

 ニェーニがそのまま担架に運ばれていく。

 

 何もせずに戦いが終わってしまった。そして次が決勝戦。

 つまり武闘大会が終わるということ。

 

 あのこれ、ほんとうにわたしなんの経験を積むことができないまま終わっちゃいそうなんだけど。

 

 や、やだ!

 

 ゲドウにあれだけ鍛錬してもらって、期待されたのに! なんにも得られないなんてやだ!

 

 強くなるんだ、強くなるんだ。

 

 そのためにこの大会に参加したのに。

 

『さぁッ! いよいよ決勝戦! 両者共に登場していただきましょう!』

 

 アナウンスが流れる。

 

 焦るわたしの前に現れたのは、全身を覆う外套を着た男。

 

 大きい。

 

 ゲドウよりも、一回りくらい。そして、腕の部分からは一本一本がわたしの手くらいの大きさの鉤爪が生えていた。そして、何より……血の臭いが濃すぎる(・・・・・・・・・)

 

「ギャバババ……なんだぁ、小娘。お前奇妙な匂いをしているなぁ。混じり合って、融け合おうとしている。まるで晶獣と人が一体(・・)となっているみたいだなぁ」

 

 その言葉を聞いて、わたしはすぐに臨戦態勢に入った。

 

 

 

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