拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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《蛮獣》

 

「盛り上がっているようだね」

 

「ですねぇ〜。いやぁ、人って野蛮だねぇ。戦いあうところが見たい人がこんなにもいるだなんてぇ」

 

 試合を丸ごと見渡せる一室。

 そこにセレスティアラとトイープはいた。部屋の壁近くにはヴェルヌントも居るが、彼は黙って直立不動で立っている。

 

「自信満々に参加する割にはぁ、どれもこれも平凡な戦いばかりだねぇ。やはり、《四軸将軍(グランドクロス)》の率いる軍団とは雲泥の差だぁ」

 

「トイープの言う通り、思ったよりも参加者の質は低いようだね。やはり、統治領(コルニア)として長く統治されていた影響か」

 

「仕方がないですよー。だって、此処はあの《99人斬り》のバルザックも長年勤務していたこともあって、『キュクレウスの眼』以外の反抗人(ラウディーズ)が長いこと、大きな問題を起こして無かったんですから」

 

「おかえり、どうだった?」

 

 天井からするりと現れた自らの側近。

 ポニーテールが目印のサラに対し、セレスティアラは驚きもせずに尋ねる。

 

「いやー! ダメダメでした! あの基地長も軍の資金を着服してました! 司政官の方も、街の整備に使うはずの金を横領して自身の懐にしまっていました!」

 

「それはまた、あまり穏やかではないね」

 

 サラから渡された証拠を読み進める。セレスティアラは、行きがけの駄賃とばかりにこの統治領(コルニア)を統治する官僚の調査を行なっていた。

 

 カエレスティス帝国は強大で、多数の統治領(コルニア)を抱え込んでいる。故に、私腹を肥そうと堕落する者が一定数存在した。

 

 基地長も司政官も、セレスティアラのもてなしの為に、この武闘大会の運営に参加しており自宅の方の警備がザルとなっていた。秘匿されるべき、汚職の証拠を掴まれたあの二人はこの大会が終わった後、遠からず刑務所行きは確定となった。

 

「けど、本当にいいんですかぁ殿下?」

 

「何がだい?」

 

「いくら《サイデリアル》のフーディ卿居るとはいえ、護衛もほとんど付けずにこんな街に居るだなんて。まるで」

 

「格好の餌、といいたいのかい?」

 

 トイープの言葉を、セレスティアラは先読みする。

 

「そうさ。私は囮の餌だ。そして餌とは食い付かれてこそ、意味がある」

 

「なら、これを機に革命軍の幹部が……それこそ《紅血の先槍》が出てくると?」

 

「いいや、ディグルは食いつかないだろうね」

 

 セレスティアラは即答する。

 

 ディグル・パトリシア・バレットリガー。革命軍へと寝返った帝国の《四軸将軍(グランドクロス)》が一人。かつて《帝国の先槍》と称されたディグルが革命軍に合流し、いまや帝国からは《紅血の先槍》と畏怖されていた。

 

 そして昔から(・・・)彼女のことをよく知るセレスティアラは、だからこそ否定した。

 

「彼女は聡明な人だ。相手が私だと理解している以上、下手な手はうたないだろう。逆に追い込まれた者にとって、私は起死回生を計るにはうってつけの格好な餌ということだ」

 

 セレスティアラは指をたてる。

 

「この辺だと大規模な反抗人(ラウディーズ)は『キュクレウスの眼』しかいませんが、彼らはもう壊滅したのでは?」

 

「いいや、残党はまだ残っている。アジトをフーディ卿によって壊滅させられたとはいえ、全員があの日にアジトにいたと考えるのは早計だろう?」

 

「なら、彼らが殿下の身を狙うと?」

 

「九分九厘、そうだろう」

 

「つま〜り、殿下はこの大会で帝国の()と不穏分子をすべて根こそぎ取り除こうとしているのですねぇ?」

 

 トイープが話の内容をまとめる。

 セレスティアラは満足そうに頷いた。

 

「話が早くて助かるよ。『キュクレウスの眼』は、あのバルザック・ダレイオスがいた頃でも壊滅し切れなかったほどにしぶとい勢力だ。風向きはこちらにある。この統治領(コルニア)を万全にすべく、いっぺんたりとも残さずに掃討すべきだろう」

 

「まー、そのバルザック・ダレイオスが革命軍に合流しちゃったんですけどね。結果的に『キュクレウスの眼』を壊滅させたとしてもマイナスでは?」

 

「確かにその通りだ。彼がディグルの元に行ってしまったのは、頭の痛い話だよ」

 

 なぜバルザックが上官殺しという凶行に出たのか、もちろんセレスティアラは把握している。

 だからこそ、司政官や基地長を締め上げる為にサラに汚職の証拠を掴ませたのだ。

 

 バルザックの革命軍への合流は確かに悲報だ。だが、それでもセレスティアラは今現時点ではバルザックは対した脅威にはならないと踏んでいる。

 

 なぜならバルザックは、所詮は一兵士に過ぎない。

 

 その強さも《サイデリアル》に匹敵すると言われていようとも、輝征装(エアラリス)を持たぬ以上、本当の意味で《サイデリアル》には及ばない。

 

 彼が輝征装(エアラリス)を手に入れたら、かなりの脅威だが今の所革命軍側に流れている輝征装(エアラリス)に、彼と合致するものはないだろうとセレスティアラは踏んでいた。

 

 輝征装(エアラリス)は相性が良くなければ、そもそも装着できないのだから。

 

「どちらにせよ、バルザックの出来事から始まった一連の流れ。それをそろそろ止める必要がある。少なくとも、この統治領(コルニア)に関しての問題は今日限りで全てが終わる。それに本命(・・・・)の方もね。……まぁ、難しい話はこの辺りにしておいて試合を楽しもうではないか」

 

「そうですねぇ、おや、殿下。ついに彼女が出て来ました〜よ」

 

 トイープの声に、セレスティアラも眼下の試合を行う場所へと目を向ける。

 

 見ればニェーニとメリスが今から戦う場面であった。

 

「へぇ、やはり来てくれたか。対峙しているのは、フラグラッシャーか。さて、相手は輝征装(エアラリス)を持つ現役の《天刑護騎士(アストロノーツ)》。どこまでやれるか、その力が本物かどうか確かめさせてもらうとしよう」

 

 不敵に笑うセレスティアラ。

 眼下では今まさにメリスとニェーニの戦いが始まろうとしていた──! 

 

 

 

 

 

「お〜やまぁ〜。これはこれはおもしろいねぇ」

 

「……あの、殿下。確かめるも何も、戦う前に終わったのですが」

 

「…………次の対戦相手に期待するとしようか」

 

 妙な空気になった。

 

 

 

◇◇◇

 

 いやな感じだ。

 

 わたしは槍を構え、気合いと共に突き出す。狙いは脇腹。

 これまでの対戦相手ならば確実に当たる一撃。よしんば当たらなくても態勢を崩せる。

 

 だけど、そんなわたしの思惑とは裏腹に相手は避けようともせずそのまま槍を受けた。

 

「良い、良いなぁ。お前、その歳でその力の強さ、実に良い」

 

「アンタ硬すぎでしょ……!」

 

 ギリっと歯を噛み締める。わたしの攻撃は何度も当たっている。

 だけどもこの相手にはまったく効いていなかった。

 

 試合の始まる前の台詞といい、この相手は不気味だ。だから早く決着をつけて問いただしたいのに、微塵も相手は揺らがない。

 

 フードの男が、鉤爪を振り上げた。

 

 わたしは咄嗟にそれを躱す。だけど、完全には躱し切れず薄皮一枚ほど頬が斬られた。垂れる血。

 

「これも躱すか。だが、成果はあったなぁ」

 

 今までわたしの戦う相手がほぼ瞬殺だっただけに、観客は盛り上がっているけども、わたしはそれどころじゃない。

 

 あいつ、確実に殺す気で爪を振るってきた。

 武闘大会だから、殺傷は禁止されているのに。

 

「さて、味はどうだ?」

 

 爪についた血を、男が舐めた。

 

 その光景を見たわたしが思い出したのはあの変態(ヴァンサン)。流石にあんな醜態はしなかったが、それでも男のテンションがあがった。

 

「ギャバババッ!!! これはすごい! まだまだ血は薄いが、それでも将来性を感じさせる濃厚さだ! それに、宿っている晶獣もとんだ代物ではないか! やはり、貴様()そうなんだなぁ!」

 

「はぁ? なんのはなし……ッ!?」

 

 瞬間、轟く爆発音に悲鳴。

 

 開会式の時の音玉じゃない。これは本当の攻撃によるモノだとわかった。

 

「何が起きた!?」

 

「わからん! 突然、人が自爆した! それに兵士が巻き込まれた! とにかく、試合は中止、セレスティアラさまの安全をッ……!?」

 

「くたばれ、カエルム人!!!」

 

「ぐぁっ!? き、貴様ッ──!?」

 

 悲鳴に混じって聞こえてきた会話。

 視界の隅で、狼狽える兵士が一人の男に刺されたのが見えた。そして男は取り押さえようとする周りの兵士ごと、眩い閃光と共に爆ぜた。……自爆!?

 

「始まったようだなぁ」

 

「なにがっ!?」

 

「わからぬか? 闘争だ! 虐げられし者たちが、己が牙を突き立てるべきに動き出したのだ! 天高く見下す星を堕とす為に!」

 

 男はどこかを見ている。

 試合を一望できる建物。そこにいるであろう人物を。

 

「さぁ、我らも続きを始めようではないか!」

 

 周囲は騒然、混乱している。にも関わらず、コイツは戦おうとしている。

 

「っ、今はそんなことしている場合じゃっ」

 

「関係ないなぁ! 本来であれば、この場をかき乱すのが我の役目だったが、こんな極上の獲物を前にしてお行儀良く待てるほど、育ちが良くないのでなぁ!」

 

 お構いなしに振るって来た攻撃。見た目の巨躯とは裏腹に、素早い動きに虚をつかれる。それでもなんとかわたしはかわす。

 

「せっかく同族に会えたのだ! この血の滾りは止められやせぬぅ!」

 

「わたし、あんたと親戚な覚えなんてないんだけど……!」

 

「そういうことではない! わからんか!? 我もそうだってことがよォ!」

 

 ビリビリと外套を破いて現れたのは、毛皮に覆われた身体に、武装じゃなくて直接手に生えていた巨大な爪。明らかに人間ではあり得ない体毛の生えた体躯。そして何より目立つのは首に巻かれた棘のついた首輪。

 

 ずきり、胸の《悪魔の心臓/デモゴルゴン》が傷んだ。あの首輪、単なる装飾じゃない。

 

輝征装(エアラリス)!?」

 

「そうだとも! 《蛮獣変化/ジェヴォーダン》、身体を獣へと変化する輝征装(エアラリス)だ。帝国の特級指名手配犯の《蛮獣》カネイジーとは、我のことよ! それで? 貴様はなんだ? 先程の味といい、ただのものではないな?」

 

「アンタに教える義理はないし!」

 

「ギャバババッ! つれねぇなぁ。ならば先行く者としてぇ、その力との向き合い方を教えてやろうではないか。それに、最低限の仕事はせねばなぁ」

 

 カネイジーと名乗った男は、地面に爪を突き刺す。

 

「何をッ……!?」

 

「どぅぅらぁぁぁ!!!」

 

 カネイジーは、地面から整備されたリングを引っこ抜いて観客席の方に放り投げた。逃げている最中に、向かってきた瓦礫に叫び声をあげる観客たち。

 

「何してるの!?」

 

 カエルム人。お母さんを虐げた人たち。

 

 咄嗟に駆け出すも、間に合わない。どうしようもない。

 だから、諦めなよと心のどこかで囁くわたしがいた。

 

 

 その時、わたしの目にこどもが映った。親に連れられたのか、あの時のわたしと同じくらいのこどもが。その瞬間、迷いは消えた。

 

 

「《悪魔の心臓/デモゴルゴン》!」

 

 ごめん、ゲドウ。

 約束、破っちゃった。

 

 わたしの身体が変化する。

 両手の爪が鋭くなって、黒い尻尾が生えた。そして何より、漲る力。すぐさま間に割って入って、拳で瓦礫を蹴り砕く。

 

「あ、あ、ありが、とう」

 

「良いから! 早く逃げて!」

 

 お礼を言ってくる親子に避難を促す。

 

 わたしは今の状況を作ったカネイジーを睨みつける。

 

「ほう! それが貴様の真の姿かァッ! しかし、どうしてだぁ? 何故奴らを庇う? 自らの本心を曝け出すのに、何を恐れる? 獣の力を解放しろぉ。身を委ねるのだ」

 

「うるさいっ、わたしは……わたしは人間だ! 獣なんかじゃない! 一緒にするな!」

 

「本当にそうか? 自らを偉いと勘違いした愚物を、己が力で屈服させた時に昂揚感が僅かでもなかったと言えるのか?」

 

「っ、それはっ……」

 

 命乞いをするナクアに対して、復讐と怒りをぶつけた時ほんの僅かでもその気持ちがなかったと言えば嘘になる。

 

 だからこそカネイジーの言葉を即座にわたしは否定できなかった。

 

「驕りたかぶり、自らを強者と勘違いして爪を研ぐのを忘れ、牙を抜かれたふぬけどもを蹂躙するのは痛快だ! 己が強者だと、何よりも実感できるからなぁ!」

 

 その言葉を聞いたわたしは、ふと何かに気づく。

 

「アンタも、そうだったの?」

 

「…………あぁ?」

 

「アンタの顔、そっくりだよ。弱いものをいじめるカエルム人と」

 

 瞬間、地雷を踏んだと理解した。

 

 何故ならばカネイジーの顔が、これまでのような愉悦に浸る顔ではなく、憤怒に満ちた顔になっていたからだ。

 

「残念だァ、お前とならば同じ()になれると思ったのになぁ。立ちはだかるというならば、獲物(・・)として殺すしかないなぁ!」

 

 殺気。いっそのこと清々しいくらいにどす黒い殺意。

 

 カネイジーは、本能のままに大きな爪を振るってきた。わたしはそれを咄嗟に躱す。

 

「なん……って威力!?」

 

 爪によって大地が紙切れみたいに抉られている。あれに当たったら胴体がなき別れになる。

 わたしはその威力を見て冷や汗をかいた。……だけど、怯えてはいなかった。

 

「ならっ……!」

 

「ギャバババッ! ちょこまかと、鬱陶しいなァッ!」

 

 攻撃を避け続ける。

 

 カネイジーの攻撃は確かに凄まじいけども、どれも大振り。

 

 ナクアの《影操八脚/アトラク・アハト》みたいな手数が多いことはない。《悪魔の心臓/デモゴルゴン》で強化された今の状態なら、避けれる。だから、あとは完璧に見極めて相手にカウンターを喰らわせる。

 

 ……ここだ! 

 カネイジーの腕の振りを見極めて、接近する。

 

「〝巨猿腕(ゴリラミング)〟」

 

「えっ……!?」

 

 カネイジーの腕が膨張する。一回り以上大きくなる。

 ニィ、と牙をみせながらカネイジーが嘲笑った。

 

 時間がゆっくりになっていく。

 

 ギリギリで避けようと思ったのが仇となった。当たる。あれは耐えられない。

 

 こんなところで。

 

 まだなにも成せてないのに、わたしは。

 

「ぐがぁ!?」

 

 その時、横合いからカネイジーが何者かに蹴飛ばされた。

 

「ゲドッ」

 

 その名前を呼ぼうとして、

 

「ふっ、大丈夫かいフロイライン? 安心したまえ、私が来たからにはもう安心さ」

 

「うわぁ……」

 

 ふさぁ、と自らの髪をたなびかせながら現れたのはヴァンサン。助けられたのはわかっているのだけれど、わたしはドン引きした声をしたのだった。

 

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