拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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告げられる正体

 

「騒ぎが起きて来てみれば、これはとんだ大物がいたものだ。帝国の指名手配犯、《蛮獣》カネイジーとはね」

 

 芝居かかった演技をするあの変な人。うぅん、《サイデリアル》のヴァンサンだけど、その目はカネイジーに向けられたまま。

 カネイジーは不意打ちを喰らったにも関わらず、大きな傷はない。

 

「今、この闘技大会で騒ぎを起こしているのは『キュクレウスの眼』の残党だ。きみは、奴らに雇われたのか?」

 

「フシャハハハ! 確かにぃ、我は奴らに囮になるようにも頼まれた。だが、それはもはやどうでも良い。貴様、見ただけでわかるゾォ! 強者であるな! 雑魚の血を啜って滾ってきた所だ! 歓迎するぞ!」

 

 空気が轟くくらいに、カネイジーが叫ぶ。

 そしてわたしには気になることがあった。

 

「あの、ゲドウは?」

 

「私の生涯の心の友である彼には、『キュクレウスの眼』の対応を任せた」

 

 勝手にゲドウを心の友呼ばわりしてる。多分、ゲドウが聴いたらすごく嫌な顔するんだろうなぁ、とわたしは思った。

 

「しかし《蛮獣》か……なるほど、それに相応しい荒々しさがある。だが、雄々しさはない。きみはただの獣だ。よって排除ではなく駆除させていただこう」

 

「ギャバババ! 自らを強者と驕る家畜が! ほざくなよ! 〝蛮獣跋扈(プレデター)〟!」

 

 カネイジーの両肩から、湾曲を描いた角が生え筋肉が肥大化する。足は筋肉質な馬みたいになって、そのままの勢いで突進をしてきた。

 

 それを見てわたしは、あぁやって能動的に身体の一部を変化させているのだと理解した。

 

「荒々しいね。まるで闘牛のようだ。このまま被害が広がるのは私の本意ではない。早急に決着をつけるとしよう」

 

 ヴァンサンは、自らの親指を《吸血牙/ヴァンピール》へと押し当てる。同時に口から細かな霧状の血を噴き出す。

 

「〝|弾けて飛び散る血飛沫の霧《ブラッドリー・ブリュイヤール〟」

 

 飛び散った血飛沫が、細かな棘となってカネイジーの動きを封じる。だけどそれは僅かな時間。すぐにカネイジーは振り払ってこちらに向かってくる。

 

「〝飛び交う血蝙蝠(フルーツバット)〟」

 

 ヴァンサンが噴き出した血が集まると同時に、妙にまんまるとした蝙蝠へと変化しカネイジーへと殺到する。

 

「フシャハハハァッ! この程度、何ともないわ!」

 

 肥大化した角は、殺到した〝飛び交う血蝙蝠(フルーツバット)〟をものともせずに、そのまま蹴散らす。

 しかし、ヴァンサンには微塵も焦りはない。

 

「あぁ、構わないよ。それは前菜(オードブル)に過ぎないからね」

 

「なんだとぉ? ぐうっ!? 鼻と目が……ッ」

 

 捌かれた〝飛び交う血蝙蝠(フルーツバット)〟が単なる血液となってカネイジーの顔にかかり、彼の視界と嗅覚を奪った。

 

「あまり優美な技ではないが、私が優先すべきは民の安寧と敵の排除。故に、早急に排除させてもらおう」

 

 その隙に剣を抜き、ヴァンサンはカネイジーの喉と心臓に向けて剣を突き刺した。決まった、少なくともわたしにはそう見えた。

 

 パキィンと硬質な音が鳴る。音の発生源は、カネイジーに突き刺した剣。ヴァンサンの剣が折れていた。

 

「なんだこれは、鱗だと?」

 

 必殺の一撃、それを防いだのは先程までなかったはずの鱗であった。そのことに驚くヴァンサン。対して凶悪な笑みを浮かべるカネイジー。

 

「良い力だぁ、だがなぁ、足りない足りない足りないなぁ! 圧倒的な欲求! 本能がなぁぁぁ!!!」

 

「この力ッ、まさに野生の力! 原始の暴力! 不覚ッ、見誤ったかッ……!?」

 

「この世で最も強いのはァッ! 小細工じゃなァァイッ! 圧倒的な、暴力であるぅぅぅ!」

 

「ぬっ、ぐっ、おおぉぉぉぉっ!!?」

 

 雄叫び、渾身の力でより肥大化し凶悪な棘の鱗で覆われた身体のまま、カネイジーはヴァンサンへと突進した。あまりの威力にヴァンサンはいなすことすら出来ずに、そのまま吹き飛ばされた。

 

 そのまま観客席まで飛ばされたヴァンサンだが、ぴくりとも動かない。

 

「あの変な人が負けた……!」

 

 その事実に目を見張る。

 

 正直、あの人のわたしの評価は変な人で固定されている。優雅に貴族らしい振る舞うかと思えば、ゲドウの血を得る為に土下座もする。

 

 よく考えなくてもやっぱり変な人だ。

 

 それでもその強さはよくわかっている。少なくとも今のわたしでは到底敵わないことはわかった。

 

「咄嗟に後ろに跳んだなぁ。フシャハハ、だぁがぁそれでも無駄だったな。所詮は、脆弱な肉体を持つ人間。晶獣の力を得たワレに敵う道理はない。さて、次は貴様だ。半端者」

 

「くっ……!」

 

 カネイジーの視線がわたしに向けられた。思わず一歩後ずさる。

 

 ヴァンサンでも勝てなかった相手にわたしが勝てる? むりだ。冷静に理性が告げている。

 

『くくく、苦戦しているようだなぁ?』

 

「あんたは……!」

 

 頭に響き渡る声。

 《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の力の源、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の声だ。

 

『ワレの力を引き出しておきながら、あのような輩に遅れを取るとはな。所詮は、童に過ぎんということか』

 

「なにを……」

 

『事実であろう? あの妙な男が介入せねば、最初の時点で貴様は死んでいた。ワレに身体をあけ渡せ。さすれば、すぐにアヤツなんぞ殺してくれようぞ』

 

 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の言葉に下唇を噛む。そのことを誰よりもわかっているのは、わたし自身だ。

 

 

 

『キミの身体に埋めたのは、かつては帝国を震撼させた最強の怪物《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》! その力は軽く他の輝征装(エアラリス)を凌駕する!』

 

 

 

 ナクアの言葉が頭を過ぎる。

 言っていることはうそじゃないのだろう。《悪魔の心臓/デモゴルゴン》のほんとうの力を解放すれば、カネイジーに勝つことはできる。だけども。

 

「そんな提案お断りよ」

 

 わたしはその言葉を振り払う。《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が苛立った様子なのが伝わった。

 

『死ぬぞ? 何も果たせず、何も得ず。そのままここで骸を晒すことになるぞ! よこせ! ワレにその身体を!』

 

 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が騒ぐ。わたしは、その言葉には耳を貸さず、ただ一つのことだけを考えていた。

 

 目の前には醜悪に雄叫びをあげるカネイジーの姿。

 

 あれは、未来にあったかもしれないわたしだ。力に頼り、力に酔いしれ、力に呑まれた自分自身の。

 

「うるさいなぁ……!」

 

『なんだと……!?』

 

「例え、この身が果てようとも! わたしはアンタみたいにはならない! 矜持は捨てない! わたしの人生はわたしだけのモノだ! それを横からごちゃごちゃ言うなァッ!」

 

『くっ、この分からず屋の大ばかモノめが!』

 

 だからこそ、わたしは《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の言葉を跳ね除けた。

 《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の力を受け入れる。そう決心はしていた。けど、それでわたしが乗っ取られるとなると話は別だ。

 

「わたしは強くなるんだ! 誰にも負けないくらいに! 強くなる、強くなって──ゲドウとずっと一緒(・・・・・)にいるんだ!」

 

『はぁ……!? こ、のぉ! 色ボケ娘がぁ!』

 

 うるさい! 恋は人を強くするの!

 

 

 

 ──それは側から見れば愚かな選択だっただろう。抗うことが難しい力への渇望、誘惑をメリスは退けた。

 そして今、この瞬間。メリスが本当の意味で《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》に身体を乗っ取られる未来はなくなった。

 

 

 

「ギバババァッ……何やら一人でに騒ぎおって奇怪な。良いだろう、同類としてでは無く、敵としてキサマを食らってくれよう!」

 

 だがそれはカネイジーには関係ない。鰐のように変化した顎でわたしへと齧り付くべく、迫り来る。

 

 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》からの提案を跳ね除けた以上、わたしにそれを避ける術はない。だけど、せめて目の一つや二つ道連れにしてやる……!

 

 

 ガチンッ。

 

 

「……あぁ?」

 

 しかし、その牙は空かされる。

 

「遅くなって悪りぃ……いや、ちがうな。よく、耐えたな。流石だ」

 

 わたしを抱えて避けたのは、普通の人なら泣き出すくらいに怖い顔。だけどわたしにとっては誰よりも頼りになる人の顔だった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 響き渡る轟音と悲鳴。

 その混乱は内部にいたオレたちにも伝わっていた。

 

『ふむぅ、これはいかん。我が生涯の友よ、私は中心部に向かう。貴公にはあたりで騒いでいる輩を頼みました』

『あぁ!? なに勝手に言ってやがる!? つーか、友じゃねぇ!』

 

 大会で騒動が発生した際、オレは鎮圧を命じられた。

 

 犯行に及んだのは『キュクレウスの眼』の残党。アジトが破壊され、大半の仲間が捕まった奴らが乾坤一擲をかけて、セレスティアラの確保をすべく事を起こした。まぁ、ソイツらは既にオレが打破したが。

 

 人質取ろうとしやがって、無駄に時間を食っちまった。だが、それだけだ。すぐに鎮圧自体はできた。

 

 問題は、一際騒がしいとヴァンサンが行った、つまりはメリスと対峙していた人物。

 

「また乱入者か! 次から次へと、フルコース料理か何かかぁ? だったら食わせるべきだろぉ! お預けばかりは、癪に障る!」

 

 吼え猛る、晶獣の特徴が混じり合った男を見る。オレはそいつを知っている。

 

 《蛮獣》、カネイジー。

 

 『リベリオン/戦禍の夜明け』における、難敵(・・)だ。

 

 『リベリオン/戦禍の夜明け』において、輝征装(エアラリス)を扱う敵は何人も出て来る。

 

 最初の輝征装(エアラリス)を扱う敵が、《天刑護騎士(アストロノーツ)》のヘッドギア(・・・・・)であり、最初の《サイデリアル》がメヌエット(・・・・・)メラムプース(・・・・・・)であるならば。カネイジーは初めての無所属かつ変化型の輝征装(エアラリス)使い。

 

 理想も、欲望もなく、己の本能のみに従い殺戮を繰り返した超危険人物。原作では、《天刑護騎士(アストロノーツ)》との戦いの最中に乱入して、双方に大きな被害をもたらした。

 

 戦場こそが、己の魂の居場所と豪語するコイツがなんでこんな場所にいやがるんだ。

 

「いや、それはこの際どうでも良いか」

 

 ヴァンサンは既にやられている。

 見る限り、呼吸はしているので生きてはいるが完全に戦闘不能だ。

 

「ゲドウ……」

 

 オレの名を呼ぶメリス。死にかけたからか、その声色は幼い。

 

 遠くから微かに聞こえただけだが、メリスは確実に《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》からの侵蝕を跳ね除けた。

 

 これだけ追い込まれても、メリスは力という誘惑から手を払ったのだ。ほんとうにすげぇよ、オメェは。

 

「よくやった。遅くなっちまってすまなかった。あとは任せろ」

 

「無粋な乱入者め! 貴様の臓物を引き摺り出してくれるわァッ!」

 

「そりゃごめんこうむるな!」

 

 メリスを降ろした後、オレはカネイジーとぶつかり合う。

 爪、角、あらゆる凶器を使ったヴァンサンとは違う荒々しさしか感じない力押し。オレは槍を巧みに捌くことで、真正面からのぶつかり合いを回避する。だが。

 

「こっちの方がもたねぇか」

 

 槍がすでに軋み、凹み始めている。

 やっぱり純粋な力だと敵わなねぇ。

 

「ギャバババッ! とんだ鈍らの武器だなぁ! そんなので、ワレの爪を防げると思うなよぉ!」

 

「ちぃっ……!」

 

「ゲドウ! なんであれ(・・)使わないの!? あれ(・・)さえ使えば、すぐにたおせるでしょ!?」

 

 あほかぁ!

 

 こんな不特定多数がいる現場で堂々と雷を扱えるかっての! 使ったの目撃された瞬間、オレは即人体実験コースだわ!

 

 視線を感じる。視線を感じる場所は、この辺りを見渡せる高いところにある一室。あそこに絶対セレスティアラがいる。

 

 そんな状態で使えるはずがないだろ!? この場に輝征装(エアラリス)持つ奴が何人いると思ってんだ!? 逃げるのは無理だ! いや、一人は伸びているが!

 

 とはいえ、このまま戦ってもジリ貧なのは確実。

 

 悔しいが、単純なパワーでは奴の方が上だ。

 

 カネイジーの輝征装(エアラリス)、《蛮獣変化/ジェヴォーダン》。

 

 肉体そのものを晶獣に変貌させる輝征装(エアラリス)。その力たるや、素材そのものとなった第一級晶獣にも匹敵する。流石に《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に使われた超級晶獣には及ばないが、メリスと違い完全に制御出来てやがる。

 

 おまけに、その変化は自由自在ときた。

 

 つまりは、馬並みの速さで走り抜けながら熊のような力を振るうことも出来るということだ。

 

 カネイジーは、角を構えこちらに頭を振り下ろす。

 

「この角で刺し貫いでくれる!」

 

「ふん、見え透いた突進だな。そんなの食らうわけが……、ッ!?」

 

 足が動かねぇ!

 

 視線を向けるとそこには、地面から現れていた蛇が牙を突きたてつつ、オレに巻きついていた。ぐっ、なんつー力だ。そもそも、蛇がこんな自然物がない闘技場にいるわけがねぇ。

 

「尻尾の先まで変えられるのかよッ……!」

 

 カネイジーの生えた尻尾が蛇の正体だ。

 

 それはもう、キメラだろ!?

 

 原作知識が仇となった。

 力押しだけが取り柄だと思っていたが、こんな搦手を使ってきやがるなんて。……仕方ねぇか。覚悟を決める。

 

「〝肉体超化(スパークリング)〟ッ!」

 

「なん、だとぉ!?」

 

 肉体の筋肉が膨張する。身体に電流を流すことによって、肉体を活性化させる。所謂、肉体強化というわけだ。当然負荷は大きいが、これなら奴に対抗することができる。そして何よりも、オレが雷を扱えることが側からはわからねぇままだ。

 

 オレは腹に突き刺さる寸前に角を掴み、そのままカネイジーの角をへし折った。あまりの衝撃に、カネイジーが唸る。その隙に、足に絡みついていた蛇を槍で引きちぎり、更に回し蹴りをしてカネイジーを吹き飛ばす。

 

「はッ! なんとか土手っ腹に穴空くのだけは回避させてもらったぜ」

 

「……おかしいなぁ」

 

「あん?」

 

「我の尻尾はお前の足を抑えるだけでなく、骨を折るほどに締め上げたはずだぁ。牙は間違いなく、肉を切り裂いたはずだぁ。なのになぁぜ、まだ動けるぅ? なぁぜ、まだ生きているぅ? んん〜?」

 

 すんすんと鼻を鳴らす。

 

 辺りには足からオレの流した血が付着している。それを嗅いだカネイジーの表情が、狂喜に歪み……。

 

「お前も我と同じィッ! まじっているなぁ(・・・・・・・・)!!? あんな小娘とは比較にならないほどにぃぃぃ!!!!」

 

「えっ……?」

 

 オレの正体を告げたのだった。

 

 

 

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