拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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晴天の雷

 

 この世界が『リベリオン/戦禍の夜明け』であると気付くとほぼ同時に、生まれ故郷はカエレスティス帝国から侵略をうけた。

 

 当時、オレはまだガキだった。

 まだ猶予があると勘違いして、対策を怠った。すぐにでも逃げるべきだったのに。

 

 当然だろ? 幾らこの世界が残酷だからと知ってはいても、実際に目にするまで実感がなかったんだ。オレの生まれた周りが平穏過ぎたから。

 

 だから火の海に染まる故郷、ゴミのように殺される人々を、オレに逃げろと言いながら、囮となって死んだ父母を見ていることしか出来なかった。 

 

 歯を食いしばり、涙を流しながらオレはその光景を後ろにして必死に逃げたんだ。

 

 だがダークファンタジーを味としていた『リベリオン/戦禍の夜明け』のこの世界。逃げた先に安寧の地などある訳もなく。

 

 行った先々で、碌でもない目に遭った。

 

 帝国からの残党狩りにあった。森に逃げ込み、足を切った。喉の渇きに耐えきれず、泥を啜った。逃げる過程で負っていく怪我の痛みに呻いた。空腹に苛まれ、葉っぱだろうがゴミだろうが漁った。

 

 それでもなお、生きていくために一縷の望みをかけてアスデブリになったが、それもまた上手くいくわけもなく。日々の苦しい訓練に対して、とても足りない量の食料しか与えられず。

 

 さらには強大な晶獣を倒す為の捨て駒とされた。

 

 最も、そのように作戦を組んだカエレスティス帝国軍も結局壊滅したがな。理由は簡単だ。

 

 相手が晶獣なんかじゃなくて、その遥か上の〝星晶霊〟だったからだ。

 

「馬鹿野郎、〝星晶霊〟とかこんな簡単に出て良いやつじゃないだろうがよ……! くそっ、討伐なんてはなから無理に決まってんだろ。せめて《サイデリアル》の一人や二人連れてこいってんだ」

 

 〝星晶霊〟は、自然そのもの──厄災(・・)だ。

 

 これを討伐するとなると最低でも《サイデリアル》クラスが4人はいる。そして、今この場に《サイデリアル》はいない。《天刑護騎士(アストロノーツ)》ならいたが、それすらも焼け石に水。

 

 結果、残ったのは死屍累々(ししるいるい)(しかばね)の山。

 

 相手を〝星晶霊〟と認識してなかったが故に、隷属人(イクリプス)も、アスデブリも、カエルム人も、人種問わずに全員生き絶えた。どんだけ偉そうなやつも、弱いやつも死ねば皆同じってか。

 

 あぁ、なんでこんな世界に転生したんだ。

 

 理不尽に終わった人生に続きがあったのは喜ばしいが、それがこんな世界じゃ単に苦痛が長引いただけじゃねぇか。

 

「こりゃ、もうだめだな……」

 

 〝星晶霊〟からの攻撃が始まったと思った次の瞬間、オレは吹き飛ばされた。

 

 目を覚ませば脇腹から木の枝が大きく突き刺さっていた。びちゃりと、血を吸った服がやけに重い。これ全部、オレの血かよ。

 

 せっかく、死んだと思ったら『リベリオン/戦禍の夜明け』の世界に来れたと思ったのに。

 結局はこうなるのか。この世界に転生してから碌な目にあってない。あぁ、原作主人公にせめて一目くらいは会いたかったな、と考えていた。

 

 この世界はくそだ。

 

 転生してから幾度となく思ったことだ。

 

 よかったと思えることなんて数えるくらいしかない。その幸せも、もはや遠い昔だ。

 この世界がくそだという思い、それは変わらない。それならさっさと死んじまえば良い。だけど。

 

「死にたく、ねぇなぁ」

 

 死を目前にして、やっぱり死にたくねぇと悪あがきをする。やっぱり、死ぬのはこわかった。その一心でほぼほぼ動かない身体を動かす。単なる足掻きに過ぎなかったオレの行動は、しかし悪運を掴んだようだった。

 

「あったけぇ……なんだこれ……?」

 

 触れたのは、透明な液体。だが暖かい。もしかしてこれは、血か?

 

 視線を向けると、半透明になりつつあるこの場をこんな惨状にした元凶の〝星晶霊〟がいた。思わず戦慄するが、様子がおかしい。

 

 〝星晶霊〟は、死んでいた。

 

 《天刑護騎士(アストロノーツ)》が致命傷を与えたわけがない。寿命だったのか何なのか、検討もつかねぇ。

 

 半透明になっていく身体の中心には、一際輝く星のような結晶があった。やがて完全に姿が消え、輝く星の結晶がオレの側まで転がってくる。思わず触れると、凄まじいほどの生命力を感じた。

 

 それを見て、ふと思い出したことがある。

 

 《星晶魂(・・・)》。

 

 〝星晶霊〟が生命を終えた時に残るという存在、それじゃねぇかって。

 

 

 実のところ〝星晶霊〟については、『リベリオン/戦禍の夜明け』でも謎が多い。

 

 

 何せ、輝征装(エアラリス)に使われているなどと大層な設定では語られていたのに、作中に実際に〝星晶霊〟が登場したのは一体しかいない。輝征装(エアラリス)ですら一種類だけ。ほとんどフレーバーテキストにしかなっていなかった存在だ。

 

 それでも『リベリオン/戦禍の夜明け』にとって、星魂晶はとんでなく貴重なモノだ。

 

 それこそ輝征装(エアラリス)の動力に使われている、《霊耀晶(マテリアルーツ)》だって比じゃねぇくらいに。

 

 自然の化身、或いは災厄そのものの〝星晶霊〟。なら、その源となる《星魂晶》。これを飲めば助かるかもしれない。何故なら『リベリオン/戦禍の夜明け』でも死にかけた人物が、変化型の輝征装(エアラリス)に適合したことで、一命を取り留めたことを知っているからだ。

 

 古来より人魚の肉を、或いは不死鳥の血を啜ったものは不死身になるという。

 前世では単なる御伽話にしか過ぎなかったそれらの逸話は、この世界では紛れもない事実として存在しているのを知っていた。

 

 無論、賭けだ。《星晶魂》を呑んだとしても、身体が耐えきれず爆発四散する可能性だってある。いや、そちらの方が高い。何せオレは、輝征装(エアラリス)に適合するだなんて選ばれた存在じゃなかった。

 

 死ぬかもしれねぇ。

 

 でも、やらなくたってどうせ死ぬんだ。

 

 なら少しでも出目が良い方に賭けたって良いだろう?

 

 覚悟を決めて、オレはそれを口に含んだ。

 

「ぐ、ががあぁぁッ!?」

 

 瞬間、身体中に雷撃が走ったような衝撃が駆け抜けた。

 

 痛い。

 

 熱い!

 

 苦しい……!!

 

 意識が消えかける、頭が真っ白になっていく。だが、それでもオレは消えそうになる意識を必死に保つ。

 

 実際、前世で落雷の巻き添えで死んだ身からすれば、この程度の衝撃はなんともなかった。

 

 そうして、どのくらい雷に苛まれ続けただろうか。やがて、オレの身体に変化が起きた。

 

 身体が軽い。いつのまにか腹の傷口も塞がっている。

 

 そして何より、バチバチと身体から雷《いかずち》が迸っていた。

 慌ててそばにあった水溜まりを覗けばそこに映ったのは、黒から金(・・・・)に変わっていた己の髪色。瞳は、まるで落雷そのもののように煌めく。そして何より、身体に迸る雷の傷痕(・・)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、ゲドウの過去……」

 

「何とも滑稽だろ? 結局オレは、我が身可愛さにそのことを秘匿し、それでも人間ぶろうとした。カエルム人達のこと、笑えやしねぇぜ」

 

 自嘲する。

 

 流石に前世のことは省いたが、〝星晶霊〟やオレの身体に起きた変化については全て語った。オレの話を聞いたメリスは呆然とこちらを見ていた。

 

「あの時……わたしに、力に呑まれるなって言っていたのは」

 

オレがそうだからだ(・・・・・・・・・)。オレは、雷の力を使えば使うほどに自分が人間から外れていくのがわかった。皮はまだ人間だが、中身は既に人ならざるものに近づきつつある」

 

 雷の力を使えば、身体に迸っている雷の痕が大きくなっていった。そしてオレ自身がだんだん人から離れているのがよくわかった。この雷の痕は、生きている(・・・・・)。オレという肉体を糧に、〝星晶霊〟が復活しようとしているのだ。

 

 今のオレの身体は、〝星晶霊〟にとって卵、あるいは繭といっても良い状態だ。

 

 なぜなら昔のオレは、強い肉体ではなかった。

 それがやがて、明らかにおかしいほどに強靭な身体へと変貌していった。

 

 身体が変化していっている。

 

 人間ではなく、〝星晶霊〟に近しい存在にへと。それを誰よりも認識しているのはオレだ。

 

 毎日、寝るのがこわかった。

 

 夜眠りについて、朝になったらオレがオレであるという保障もない。

 

 雷の力を使うたびに、身体の雷の傷痕が疼く。

 いずれ、オレは〝星晶霊〟へと成り果てるのか。それとも死ぬのか。どちらにせよ、オレという存在は消える可能性が高い。

 

 ヴァンサンがオレの血を飲んで狂気……あ、いや狂喜(・・)に打ち震えていたのはそのせいだ。オレの膨大なまでの生命力を吸ったせいでアイツの脳が処理しきれなくなった(オーバーヒート)

 

 それほどまでに〝星晶霊〟の力は強すぎる。人の身で扱おうとすれば、必ずどこかに歪みが生じるくらいに。

 

「ギャバババッ!!! 生き抜く為に、血肉の糧にしたのであろう? ならば問題ないではないか! うむうむ、我としては汝に親近感を覚えるなぁぁぁ」

 

 カネイジーは愉快そうに笑う。

 

「オレとしては、全くオメェに共感は覚えねぇがな。それに、わからねぇか? オメェにその秘密を語った理由が」

 

「なにぃ?」

 

「これはな、オレの覚悟の表れだよ。オメェを逃さねぇ、ここで仕留めるっつーオレ自身のなぁ!」

 

 どの道、ここで会ったのならばこの異常殺人者を放っておくことは出来ねぇ。原作改変だとかどうだとか、それよりもコイツを生かしておいたら失われる命の方が大切だ。

 

 セレスティアラたちは問題ない。オレの言葉はあそこには届かないからな。

 

 そんな思いからの宣戦布告。そしてカネイジーは、その言葉を受け取り醜悪に、獣の笑みを浮かべる。

 

「良いぞぉ、良いゾォ! 弱者を一方的に痛ぶるのも好きだがぁ! 好敵手と戦うのはもっともっと好きだぁぁぁ! 野生の戦いを! 原始の戦いをォッ! 血湧き肉躍る獣同士(・・・)殺し合いを始めようじゃあないかぁぁぁ!!!」

 

「悪いが、オレは人間(・・)だ。だから、頭を使ってさせてもらうぜ。《蛮獣》退治」

 

 お互いに構える。

 

 オレは槍を。奴は、凶悪な爪と牙を剥き出しにする。

 

 そうして再び、激突する。だが、力の差は歴然だ。カネイジーの力は、オレを凌駕している。

 

「こりゃ、メリスも苦戦する訳だな」

 

 力という意味ではメリスも負けていないが、晶獣の特性を合わせ方が上手過ぎる。〝不浄の魔焔(アグリアル)〟でも使えれば勝機も十分あっただろうが……、まぁオレが来るまでに五体満足なだけ御の字か。

 

 ……冷静に考えなくても、メリスの対戦相手がどいつもこいつもインフレが過ぎる。なんでネームドとばっかかち合ってんだ。ムメイも、ヴァンサンも、カネイジーもこんな序盤に出て良い相手じゃねぇよ。

 

 ナクア? あいつはどうでも良い。その技術力はともかく本人自体は輝征装(エアラリス)込みでも弱ぇし。

 

 ニェーニは論外。そもそもまともな戦闘が起きるのが稀で、経験値にならんし。

 

「ギババッ! 〝狂熊の深爪(ベア・スラッピング)〟ッ!」

 

 肥大化し、変形したカネイジーの凶悪の一撃。

 

 オレは咄嗟に槍で受け流すが、予想よりも湾曲を描いていた爪がオレの脇腹を掠め、切り裂く。

 

「ちッ!」

 

「貴様を骨の髄まで喰らってェッ、血肉の糧としてくれる! そして、我はより上位の存在へと進化するのだぁぁぁ!」

 

 何度も振るわれ、迫り来る爪。捌ききれずに、オレの身体は徐々に傷が大きくなる。

 

 だが、問題ない。

 

「確かにオメェの輝征装(エアラリス)はすげぇよ。晶獣の力、それを遺憾無く発揮してやがる。タイマンでオメェに勝てる生物(・・)はそうはいねぇだろうよ」

 

「諦めたか! ならば素直に贓物を引き摺り出せェッ!」

 

 んなわけないだろ。

 

 カネイジー、お前は晶獣の力を使えるが故に勘違いしてるんだ。

 

「どれだけ強靭な肉体を得ようと、どれだけ肉体を変化させようとも、オメェは人間(・・)だ! なら、そこに勝機はあるんだよォッ!」

 

「ギィィッッッ!? おのれ、死に体の分際で……あぁ?」

 

 返す刀の形で奴の肩をえぐり斬る。怒った顔をするもすぐに奥歯に物が詰まったような顔をするカネイジー。

 

「なんだ? 変な顔して。腕が上がらないのがそんなおかしいか?」

 

「ナニをしたァッ……!」

 

「斬ったんだよ、()をな」

 

 正確には肩腱板という部位だ。

 ここを断裂させられると、人は肩をあげるのが困難になる。特にあんな巨大な腕を持つカネイジーなら、より顕著になる。

 

 オレの答えにカネイジーは睨みつけてくる。

 

「幾らオメェの身体が変化しようとも、人の形を無くすことは出来ねぇ。《蛮獣》だぁ? いいや、オメェは単に姿形が変わっただけの人間(・・)だ。決して、晶獣のような異形には本当の意味でなれはしねぇんだよ」

 

「貴様ァッ!」

 

「遅ぇんだよ!」

 

 激昂し、剛爪を生やした残った腕を振るったカネイジーの脇を切り裂く。

 

 剛毛と筋肉に、鱗に覆われた肉体の鎧だが、関節だけは鱗で覆うこともできない。力任せに、筋ごと断つ。これでもう、奴は両方の腕を失ったに等しい。

 

 追い込まれている。そのことに気づいたカネイジーが焦り始めた。

 

「馬鹿な、馬鹿なァ! 晶獣の力を得た我が! 《蛮獣》の我がぁ! こんな人間風情にィッ!!?」

 

「あまり人の可能性舐めんなよ、終わりだ」

 

「まだだ、終わるのは貴様だァッ! 【裂ける太牙(サーベルタイガー)】ァッ!」

 

 虎のような巨大な牙を形成し、ウサギのような足に変形したカネイジーが恐るべき跳躍で迫り来る。

 

 それを見て、オレは槍を構え──そのまま投擲した。

 

「グオォォォオォォッッッ、ガァッ……!?」

 

 全身全霊で投げられた槍は音を置き去りにし、認められぬと叫ぶカネイジーの口を貫通、突き刺した。カネイジーは、牙を届かせることすらできなかった。声すら出せずにオレに届く前に倒れ伏し、血の池の中でやがて人間の姿へと戻っていった。

 

 ふぅ、と息を吐く。

 

「よぉ、メリス。見てたか? 勝ったぜ」

 

「うん……うんっ……!」

 

 オレの言葉に、メリスは目に涙を浮かべながらも頷いた。

 

 綱渡りだったが、これで決着が着いたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……面白いね、彼」

 

 一室で、第二皇女がつぶやいた。

 

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