拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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サイドストーリー:《火焔魂/イフリート》

 

「はぁー、はぁー」

 

「どうした? 息が荒いぞ? ま、無理もないことだ。この煉獄でまだ息があるだけ幸運であろう」

 

 とある村にて二人の男が対峙していた。

 

 方やカエレスティス帝国を裏切り、《九十九人斬り》の悪名を持つバルザック・ダレイオス。

 

 方や《天刑護騎士(アストロノーツ)》の精鋭である《サイデリアル》、《灼炎》の異名でも呼ばれる男。

 

「かつては統治領(コルニア)・Ⅵにおいて強者が居るとは聞いていた。口さがない者たちは我々《サイデリアル》に匹敵するとまで言っていたが……蓋を開ければこれだ。貴様如きが、我々と対等であろうなど烏滸がましいにも程がある」

 

 唾棄するように《サイデリアル》が一人、アンブロシオは吐き捨てる。

 

 彼の心象を表すかのように周囲に燃え盛る炎は轟々と燃え上がる。無論、この炎は自然に発生したのではない。

 

 アンブロシオが所持する輝征装(エアラリス)、《火焔魂/イフリート》。

 

 竜の鱗をあしらった鎧のような輝征装(エアラリス)は、焔を生み出すことを出来る力を持ち、それによってこの辺り一帯は火の海と化したのだ。

 

「所詮は一兵卒。いかに名を知られていようとも、やはり輝征装(エアラリス)に選ばれた私とでは、同じカエルム人であろうとも血からして違うのだ」

 

「はぁ、はぁ、血だと?」

 

「そうだとも。私は偉大なりし帝国の貴族でもある。貴様と私では、流れる血の尊さからして違うのだ」

 

 尊大に語るアンブロシオには、優越感に満ちていた。その言葉を聞いたバルザックが歯を軋ませる。

 

「それだけ大層な血を引くんならよぉ! この惨状を見て何も思わねぇのか!!!」

 

 青々とした空を埋め尽くさんとする黒煙が噴き上がり、豊かに実っていた作物は轟々と炎が燃え上がる。

 

 地面に時折転がる黒い炭のようなモノは、決して崩れ落ちた建物でも焼け落ちた木々でもない。かつては、言葉を喋り、笑顔で暮らしていたこの村の人であった。

 

「異なことを。こやつらは、我がカエレスティス帝国の敵である革命軍を匿っていた。しからば、その罪は万死に値する。ダムーディオの言葉を借りれば、裁くと言ったところか。どちらにせよ、奴等の罪は確定。あとは執行するのが早いか遅いかだ。そして、私は早さを好む」

 

 バルザックの言葉を、アンブロシオは異にも解さない。

 

 そのまま黒い炭と化した人を踏み潰した。

 

「我々は《サイデリアル》。国家を乱す不穏分子を排除するカエレスティス帝国の盾である。貴様を殺すことで、カエレスティス帝国は平穏な明日へと繋がるであろう」

 

「この惨状を見て何も思わねぇ奴が! 明日を守るだと!? 笑わせるな、足元を何にも見てねぇ奴なんぞに、平穏なんぞ作られるか! 踏み躙ることしか出来ねぇモンが、何かを生み出すことなんざできるはずがないだろうが!」

 

 バルザックがこの場に居たのは、単なる偶然だった。

 

 この統治領(コルニア)を統治する司政官のあまりにも横暴ぶりに、反乱軍へ窮状を訴える依頼が数多く届いた。その声に対し、革命軍の偵察チームを派遣するも消息を絶った。

 

 その調査に向かう為に、過程でこの村に滞在しただけだ。

 

 運悪くそこはかねてから革命軍と繋がりがあると見做されており、バルザックが実際にいたせいでアンブロシオは即座にこの村を黒と認定し、一切合切を焼き払った。

 

 そう、偶然なのだ。

 

 確かに立ち寄ったのをバレたのは迂闊だった。だが決して、話も聞かずに焼き払われる罪を犯したわけではない。

 

「テメェは俺がぶった斬る! その澄ました面を、叩き潰す!」

 

「何が出来る? 何をする? ならば見せてみよ、その生命の灯火を私の業火で焼き尽くしてくれよう」

 

 アンブロシオが腕を動かすと、呼応するように鎧から噴き出る炎。それは両腕にへと移り、そのまま左右からバルザックへと迫り来る。

 

 それを見たバルザックは真正面から突貫した。

 

「正面から? 舐められたものだな。熱い衣に抱かれて消えるがいい」

 

 アンブロシオは腕を交差する。追従するように炎も動き、やがてバルザックが炎の中に消えた。

 それを見てアンブロシオは、勝利を確信した。

 

「どれだけ吠えようとも、所詮は逆賊に過ぎん。ふっ、これでまた私を褒め称える逸話が一つ増えた」

 

「おぉぉおぉぉぉぉぉッッッ!」

 

「なんだと!?」

 

 炎を掻き分けるように現れたバルザックの姿を見て驚嘆する。

 

「ばかな!? 何故炎をその身に受けて無事でいられる!?」

 

 アンブロシオは目の前の光景に信じられず、目を見開くがすぐにその理由に気付く。

 

斬った(・・・)というのか、《火焔魂/イフリート》の炎を!?」

 

「これがテメェへと近づくと最短の道だ! この程度の炎で! 俺の熱い魂を掻き消す事は出来ねぇ!」

 

 バルザックは、至る所に火傷を負い、一部では未だ燃えながらも苦痛に顔を歪めることはなく、真っ直ぐにアンブロシオだけを見据える。

 

 動揺するアンブロシオは、炎を生み出そうとするが遅い。

 

 上段からの笠斬りで、バルザックはアンブロシオの両腕を切断した。

 

「ぐおぉぉっ!? き、貴様ァ……!」

 

 両腕を失ったアンブロシオは苦痛に顔を歪めながらも、バルザックを睨みつけた。息が荒いバルザックだが、それでも不敵な笑みを絶やさず指を突きつける。

 

「お前、さっきからその炎決して自らの側で使おうとはしなかったな?」

 

「ぐっ……、気付いていたのか……!?」

 

「炎を纏う(・・)扱う(・・)は違う。その力は、お前自身にもリスクのある代物だ。だからお前は、俺を決して近づけようとはしなかった」

 

「だからどうした!? 傷がつくのを恐れて何も出来ないとでも!? 舐められたものだな! そんなに焼かれたいのであれば、お望み通り焼き尽くしてくれる!」

 

 《火焔魂/イフリート》が光り輝く。

 噴き出る炎が、アンブロシオの身体を包み込む。異名通りの《灼炎》に相応しいあらゆるものを焼き尽くす炎の業火。しかし、

 

「この距離なら、俺の方が早い!」

 

 アンブロシオが力を発動するよりも速く、バルザックの剣がアンブロシオの首を貫いた。

 

「そんなはずは……私は《サイデリアル》だぞ……このような輩に…………」

 

 アンブロシオは倒れ伏した。

 

 最期まで見下すことをやめようとはしなかった男の惨めな最期だった。バルザックは膝をつく。いくら気合いで誤魔化しても火傷のダメージは大きい。今すぐにでも治療をしたいところだが、状況がそれを許さない。

 

 何故ならば周辺には燃え盛る炎で囲まれていた。

 

「奴を倒した所で消える訳じゃねぇのか。マズイな、このまま火災が広がっちまったら……!」

 

 この時期は空気が乾燥している。

 

 近くには木々もあり、山に燃え移ればどれほどの被害が出るか見当もつかない。しかし、炎を止めようにも水がない。井戸の水では到底足りず、水を扱えるような輝征装(エアラリス)もない。

 

 万事休す。

 

 普通ならばそんな言葉が頭を過ぎるだろう。この男がバルザック・ダレイオスでなければ。

 

「おい、《火焔魂/イフリート》。もしお前に意思があるならば、俺を選びやがれ。この炎を止めるためにだ」

 

 輝征装(エアラリス)の中には、意思が宿ると言われるモノや記憶が遺伝(・・・・・)するモノがあることをバルザックは与太話だが知っていた。

 《火焔魂/イフリート》に意思があるかはわからない。それでもバルザックは問いかける。

 

「応えな、《イフリート》! お前だってこのまま終わるのはごめんだろう!? なら、俺に力を貸せッ──!」

 

 その言葉に呼応するように《火焔魂/イフリート》がひとりでに動く。

 アンブロシオから、まるで意思を持つかのように勝手に抜け出し、バルザックの身体にへとまとわりついた。

 

 瞬間、身体中に迸る熱と痛み。

 

 先程の炎とは比べ物にならない、それこそ筋肉どころか骨まで焼き尽くすような凄まじいまでの熱。発狂すら生ぬるい、地獄の釜に身を突っ込んだかのような激痛。だが、バルザックは揺らがない。

 

「はっ、舐めんじゃねぇ! 俺の熱い魂は、この程度で止まらねぇ! 俺は決めたんだよ……アイツと共に並ぶってなぁ! その思いに比べたらこんなもん屁でもねぇッ!!!」

 

 彼の熱い魂は、屈しなかった。

 

 むしろ笑みさえ浮かべていた。

 

 どれくらい時間がたったのか、やがて熱が収まり、《火焔魂/イフリート》はバルザックと完全に一体化する。

 

 それをみたバルザックが手を突き出す。

 

 すると炎はまるで意志を持つかのように、バルザックの手に周辺の炎が集まり出し、拳を握ると共に消えた。

 これにより、周囲一帯を焼き尽くさんとする炎が完全に鎮火した。

 

「だあぁぁぁ! くそっ、疲れたぜ……」

 

 思わず地面に寝っ転がる。

 

 そのまま暫し荒い息をし、落ち着いたところで自身と一体化した《火焔魂/イフリート》に触れる。

 

「これからよろしく頼むぜ、相棒」

 

 《火焔魂/イフリート》には、意思はない。《悪魔の心臓/デモゴルゴン》ほどの強力な晶獣の素材を使っているわけではないからだ。

 

 されど、この時確かにバルザックの言葉に答えるようにほんの僅かに焔が揺らいだのであった。

 

「やっとお前と同じ視点に立てたぜ、ゲドウ。まってろ、すぐに追いついてやるからな」

 

 夜空を見上げるバルザック。

 

 その中で一際輝く星が見えた。

 

 




主人公への思いを胸に、ヒロインが覚醒する感動シーンですね(白目)
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