拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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《狂犬》メリス

「あれ、いねぇ……服だけか? なら、どこにっうごっ!?」

 

 まさか湯船の中かと、覗こうとすると背後から一撃。

 

 オレはそのまま倒れ伏し、何者かが背中に乗りオレの腕を拘束する。

 

 バシャリッと、濡れていた床に頬があたる。あつぅい!?

 

「動かないで。動いたら、刺すよ」

 

 常人よりも、いくらか鋭い爪を眼前に突き出された。

 そこに居たのはメリスだ。どうやら風呂場の天井の角に身を潜めて居たらしい。

 

 髪は濡れたせいか、少女に見合わない色気を漂わせていた。元々主人公にされるくらい見た目は良いのだから当たり前か。だが、それよりも目を引くのはメリスが素っ裸であったことだ。

 

 そりゃ、風呂に入れたんだから裸だよなと何処か達観した考えをしつつもオレは態とらしく抵抗しない。

 

「おーけー、抵抗しねぇよ。それで、何が望みだ?」

 

「わたしを、どうするつもり」

 

「あん? どうするって」

 

「とぼけないで。何か目的があるんでしょう? でなきゃ、こんなふうに自由になんてしない」

 

「目的ねぇ」

 

 そもそもここでメリスを拾ったこと自体が偶然だったのだ。

 

 方針もさっき決めたばかりで、正直これからどうするかは何も考えちゃいない。行き当たりばったりだなと自らを自嘲する。

 

「オメェを拾ったのは単なる偶然だ。意味はねぇよ」

 

 オレの言葉にメリスが力を強める。

 

「そんなはずがない! 何が目的だ……!」

 

「何だ、自由には誰かに追われる理由でも有るのか?」

 

「そ、それはっ」

 

 あぶね、目的とか聞かれたからつい質問を質問で返しちまった。

 

 実際、施設から逃げ出したから本人の口から言えんわな。そしたら、連れ戻されると思ってるだろうし。

 だが、それをオレは指摘しない。今の時点でオレが知っているのは不可解だからな。

 

「話を逸らさないで! わたしのことはどうでも良い。貴方の目的を教えて。出ないと、酷い目に合わせるわ……!」

 

「既にひどい目にあわされてるが……まぁ、良いさ。正直言って小汚い犬を拾ったみたいなモンだな」

 

「い、いぬ?」

 

「そう犬だ」

 

 実際、オメェプレイヤー間で狂犬って呼ばれてるし。

 

 敵味方問わず絶対に一度は噛み付くような態度をすることからそう呼ばれていた。敵と認定したあとの対応もあまりにスイッチが切り替わるようにナチュラルに殺すという選択肢が出るあたりもそう思われてしまう印象があった。

 

「ふ、ふざけっ」

 

「まぁ、冗談はさておいてだ」

 

「あぅっ!?」

 

 怒りのあまり、力を込めようと変な体勢になったメリス。その隙をつき、オレはメリスからの拘束を逃れる。

 そのまま返《かえ》す刀で、オレは逆にメリスを壁に押し付け、背中から拘束した。

 

「もうちょい自分の状態を把握しておくんだな。不意をついたのは見事だが、肝心の力がそれじゃ意味がないぜ」

 

「うぐぅぅ……!」

 

 暴れられないように、力を込める。なんか絵面がやべぇけど、こうしないとまじでコイツ暴れるからしかたない。

 

 そして、いやでも目に入る。

 

 腕や足に点滴を打たれた箇所に、一部変色した身体。どんな目に遭わされていたか、嫌というほど理解できた。……ちっ、いやなもん見たぜ。

 

「ま、汚れが取れたんなら良い。そもそも、オレが此処に来たのはオメェの様子を見にきただけだしな」

 

「は、はぁ? いきなり何を、わぷっ」

 

「さっさと、タオル(それ)で身体を拭いて服を着な。あぁ、悪りぃが女物の服なんてないからオレの普段の部屋着だが許せよ。そして、さっさとこっちの部屋に来いよ。用意してあるからな」

 

「用意って、何を」

 

「何って飯だが」

 

「……ごはん?」

 

 その単語を呟くメリスは、初めて険のある表情から年相応の顔に見えた。

 

 

 

 

「オメェの見た目から、胃に重いモノじゃなくて優しいのを中心にしたけど、味にはそれなりに自信があるんだぜ?」

 

 とりあえずメリスにオレの服を着せた。ぶかぶかだが、がまんしてもらうしかない。

 

 そして、メリスの目の前には数々の料理が並べられている。

 

 前世が美食に囲まれていた為に、この世界に生まれ変わって生活レベルが下がったが故にそれはもう耐え難かった。

 これらの料理はそんなオレが、自ら足を運び、選び抜いた調味料と比較的安価で美味い食材を使った料理だ。まずいとは言わせねぇぜ?

 

「これは……?」

 

「そいつは、オレが作った料理だ。名前は……あー、まぁ、肉まんっつー奴だな」

 

 実際には肉まんもどき(・・・)だけど。

 

 だってこの世界に豚いねぇし。正確には豚に似た奴ならいるがどちらかというと猪だし、そうなってくると前世の肉まんと全く同一とは言えねぇしな。

 

 元々今日の飯の予定で生地を作っていたから、この短時間で作ることが出来た。メリスの視線は目の前の料理に釘付けだ。

 

「ほれ、こうして食うんだ」

 

 目の前で毒味も兼ねて、先に食べる。うん、我ながら上手くできた。うまいうまい。

 

 それでも警戒するメリスに、オレは食えっと顎をしゃくる。おそるおそる、メリスが一口食べると、やがてかき込むように口に頬張る。

 

「はむっ、……ふっ、ぐっ、おい、しい」

 

 一口食べることに、噛み締めるように味わい、遂にはぽろぽろと涙を流し始めた。

 

 あー……うん。

 

 やめろよ。

 

 心身共に、この世界に軍人として身を置いて擦り切れてきたオレでも子どもの涙見たら感傷的になっちまうんだよ。

 

「……美味しかった。ありがとう」

 

 飯を食い終わり、落ち着いたのかメリスはお礼を言ってきた。

 

「わたしはメリス。あなたは、何者なの?」

 

 メリスはまだ猜疑心を露わにしつつも、自らの名を名乗った。少しは信用したということか。

 もっとも、その名前は知ってるとは言わなかった。言ったらまた敵かと思われそうだし。

 

「ゲドウ・マルドラーク。それがオレの名前だ。そして軍人だ。〝アスデブリ〟のだがな」

 

「〝アスデブリ〟……」

 

「珍しくも何ともねぇだろ。生きていくには仕方がなかったってやつだ」

 

 オレの言葉にメリスがオレの腕章を見た。

 

 統治領(コルニア)の住人は、武器の所持を禁止されている。持つだけで収容所行きだ。

 

 〝アスデブリ〟。それは征服された土地の人間を名目・名義上カエレスティス帝国の臣民として迎え入れる制度。

 

 制度だけ見れば人権を認めてくれる素晴らしい制度に見えるが、当然そうじゃねぇ。そもそも捨て石(デブリ)という言葉からわかるようにようは捨て駒だ。当然、扱いは悪い。

 

 だが、〝アスデブリ〟の軍人になれば武器の所持を許可される。もっとも〝アスデブリ〟の持たされる武器は、1世代、物によっては2世代も古い代物だ。そんなせいで死傷率もすこぶる高い。

 

 そんな悪い扱いの中でオレが持ち家を持つほどにある程度融通を効かせて貰えたのは、ひとえにオレが強かったからだ。〝アスデブリ〟の軍人の中じゃ一目置かれる立場だった。

 

 真面目に鍛えていた甲斐があったぜ!

 ひとえに原作主人公シドウの師匠ポジションになりたいというモチベーションがあったからできた事だ。

 

「先に言っておくがオレはオメェの過去について詮索する気はねぇ。誰にだって触れられたくない傷の一つや二つあるもんだ」

 

 嘘だ。本当は詳しいバックボーンまで知ってる。

 

 カエルム人に無理矢理孕まされた母親を持つ、ハーフだってことも。

 

 その後、帝国に実験体として筆舌にし難い苦痛を味わわされてきたことも。

 

 でも、それを語ると絶対にメリスは逃亡すると目に見えているので黙っておく。

 

「とにかく、今日はもう休め。何があったのかは、後日聞く。オメェはこの部屋で寝とけ」

 

「あなたはどうするの」

 

「オレは隣の部屋のソファで寝ておく。なに、このくらいで寝られないくらい繊細じゃねぇよ」

 

 冷たい地面で寝たこととか数えきれないしな。

 

「そう。じゃあ先にお礼しないとね」

 

「あん?」

 

 そう言ってメリスは服を、っておい!?

 

「……なに?」

 

「何じゃねぇよ!? なんで脱いでるんだよ!」

 

 メリスは裸体になる。

 栄養不足で痩せてはいるが女性らしい胸や尻の肉つきはある。もっとも胸は《悪魔の心臓/デモゴルゴン》を見られたくないのか隠していたが。

 

「……わたしも、そっち方面は全然知らないけど。あなたのその顔の悪さなら手慣れてるでしょ」

 

「アホかぁ! 顔が悪いのは認めるが、オレに行き倒れた小娘に欲情するほど、道を外れてねぇっつの!」

 

 変なところで思い切りが良いのは、マジで主人公だな!

 

 オレはメリスをそのままに隣の部屋に行き、扉を強く閉めた。

 

「まだ信頼はねぇか。ま、仕方ねぇか。せめてゆっくり寝れたら良いんだがな」

 

 結構寝心地が悪かったが、まぁ寝れるだけマシだ。メリスの野郎も、少しは疲労が取れるといいが。そう思いつつ眠りについた。

 

 

 

 

 

「……なによ、へんなの」

 

 隣の部屋で、メリスがひとり呟いていた。

 

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