まだお読みじゃない方は、是非お読みください。
ヒロイン(漢)が覚醒するよ!
そんなこんなで新章を開始します。
《要人殺し》のクロエ・ドットサイト
武闘大会から二日。この間にいろいろなことが起きた。
まずは
バルザックの討伐失敗など失態を重ねていたが、そこにセレスティアラをいる《武闘大会》の最中に、『キュクレウスの眼』残党からの襲撃を許した時点で、基地長はついに罷免。新たな基地長へと変わることとなった。
慌ただしい日々を送る
そこに《エニアグラム》の構成員が目撃されたという情報があった。
慌てた司政官はすぐさま自身の命を守るために軍に、自らの身を守る為の兵士を要請。落ち目とはいえ、まだ現時点では司政官である要請に、軍は兵を出すが革命軍の暗殺組織が付近にいるとなれば、優先されるはセレスティアラの方である。
セレスティアラに懇願しようにも、既に不正の証拠は握られており、自らの護衛に《サイデリアル》が動くはずもない。
進退に
使えるモノはなんでも使え。
それがたとえ、見下していたアスデブリであろうとも。
こと自らの命の保身に至っては、先見の明があった司政官は一人のアスデブリを招集させたのであった。
付近で《エニアグラム》のメンバーの目撃情報があった。
目撃情報の位置から、狙いはセレスティアラではなく司政官であるらしい。実際どうだかは知らない。そもそも本当に《エニアグラム》が目撃されたのか? 人違いじゃねぇのか?
だが、それだけで小心者の司政官は大層怯えたらしい。
そんなこんなで今、司政官のいる建物では厳戒態勢が敷かれている訳だが……。
「やる気でねぇぇぇ……、なんでオレがこんな司政官の命を守らなきゃならねぇんだ」
革命軍の暗殺部隊である《エニアグラム》だが、市民からの依頼も受けてはいる。もっぱら暗殺対象はカエルム人ではあるが。それだけ、恨み辛みがあるということだ。
そして『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』でも《革命軍》ルートでは暗殺依頼がある司政官であるが、自身の護衛のために兵力を割くように要請した。んで、オレもその中に含まれたわけだ。
とはいえ、流石にアスデブリを側に置く訳もなく、オレは複数ある裏口のうちの一つを任されていた。
自分の身を守る為に、近辺は信頼の厚い兵士に任せている。
オレが配置されたのは、中央への道の一つだ。それは良い。問題は、だ。
「オレ一人なのおかしくね? せめて、同じアスデブリでも良いから周りに配備しておけよ」
因みに此処を任されているのは、オレ一人であることだ。
いや、本当になんで? 普通こういうのは連絡要員も含めて、複数人組むのがベターだろ。なんでオレだけ? 手の込んだ嫌がらせか?
あまりにひどいブラックな環境に、遠い目になる。
まじやってらんねーわ。
「飾られている鎧や調度品も大したものだな。下手しなくても、オレが使っているのより上じゃねぇか?」
手持ち無沙汰から、付近に飾られている鋼鉄の鎧を軽く叩く。
良い質のを使っているのだろう。無駄に装飾を凝っているのを抜きにしてもかなり高品質な鎧だ。
その金を兵士の待遇改善に使ってくれたらなぁ、と現状から現実逃避染みた思考をする。
「……あん? 何の音……いや、声か?」
静寂なはずの空間に微かに声が聞こえた。
しかも声は、外からではなく反対方向の内部から聞こえてきた。
あれ、普通に侵入されてね?
「ったく、上は何やってんだ? しょうがねぇなぁ」
肩に担いでいた武器を構える。
あっ、因みにカネイジーとの対決で前の槍はおじゃんとなったので新しい(帝国からすれば旧式)の武器を与えられた。
因みにその分の給料天引きである。戦いを生業とする職なのだから、そこは国が支払うべきでは?
まぁ、良いけどよ。
結局どれだけ高性能であろうとなかろうと、人は心臓に刃を突き立てりゃ生きていられねぇんだ。使い慣れないモノよりも、使い慣れたモノの方がマシだ。
そう前向きに考えつつ、近づいて来る侵入者を待つ。
「……! クロエちゃんっ、先に、兵士がいる……よ……!」
「あら!? もうっ、めんどくさいですわね! あとは逃げるだけですのに!」
やがて通路から姿を現したのは、二人組だった。
長く先の丸まった髪をツインテールとした、如何にも気が強そうな吊り目がちな少女が、お嬢様口調でため息を吐く。
反対に気が弱そうに、今も己の同じ大きさの盾からちらちらと、こちらを窺っているグラマスな女性。
オレはその姿に見覚えがあった。
クロエ・ドットサイト。
マチルダ。
もしかしなくても、マジで《エニアグラム》のメンバーじゃねぇか! マジか、本当にあの司政官狙われてたのかよ。単なる見間違いかと思ってたわ。
てか、逃げるだけだと?
あっ(察し)。
すぅ……どうやら既に司政官は暗殺されたみたいだな。可哀想に。心の中で冥福を祈っておこう。顔も知らねーけど。
「あれ……一人……だけ……?」
「でしたら好都合ですわ。一人ならさっさと倒して、トンズラいたしますことよ!」
そう語りながら、クロエがこちらに手を向ける。その手には白と黒の棒が握られていた。
いや、棒じゃねぇな。それはこの世界では殆ど見かけない、そして前世の記憶があるオレにとっちゃ馴染みのある形をしたもの。
最も無骨で鈍色をしているような代物でなく、犬の牙のような造形を模した銃。オレはそれを知っている。
「《双挺拳銃/ケルベロス》、やっぱカッコいいなぁ。おい」
「ふぅ〜ん。学のなさそうな顔しておりますのに、知っておりますのね」
「なんで褒めたのに貶されるの???」
ふふんと得意げな顔をするクロエ。対してオレの心は傷ついた。
話を戻して暗殺組織である《エニアグラム》だが、何人か面が割れている。
その中でも、クロエ・ドットサイトはディグル・パトリシア・シルバレット、バルザックと並びその悪名を轟かせていた。もちろん、その
何故なら、己の腕を誇示するかのようにターゲットとなった相手は皆、額に風穴を開けられていたからな。
同じ手口で殺されるってのは、相手側に対して相当な心理的重圧を与える。それは世間に己の存在を示す示威行為であり、実際頭に風穴を空けて殺された者がいれば、それはクロエによるものだと『リベリオン/戦禍の夜明け』でも語られていた。
ついたあだ名が《
全く大したあだ名だよ。
「まぁ、これでもそこそこ有名な自負はございますし、当然ですわ。御礼にたっぷりとくれてあげてくれますことよ、──鉛玉をね!」
クロエが《双挺拳銃/ケルベロス》を構えると共に鳴る発砲音。
銃という音の大きい武器と特徴とは裏腹に、極めて小さい音だった。しかし、予期していたことであり、オレは槍を
「はいぃッ!?」
「おいおい、この程度驚くことじゃねぇだろ」
「
いや、だって『リベリオン/戦禍の夜明け』じゃクロエの銃撃は割と防がれてたし。《双挺拳銃/ケルベロス》の奥の手ならともかく、単なる銃撃じゃ今のオレでも防げる。
「くっ、次こそ風穴を開けてあげますわ!」
「おいおい、やめてくれよ。オレはアンタらと戦う気はねぇって!」
「不真面目ですわね! 兵士であるなら、己の使命を全うしなさい!」
クロエが銃撃を繰り返す。
一度弾き飛ばしたせいか、ムキになってやがる。流石にやべぇ、オレは横に飛び、あの飾られていた甲冑を盾にする。幸い、この甲冑をクロエの《|双挺拳銃/ケルベロス》は撃ち抜くことはできねぇようだ。
「兵士だって命は惜しいっての! あと、オレはゲドウ・マルドラークだ!」
「あ、えっと、わたしは、その、マチルダです……」
「返事しなくてよろしくてよ、マチルダ!」
「ひゃうっ、ご、ごめんねクロエちゃん」
「それでいきなり自己紹介して何かしら? 死ぬ前に名前でも覚えて欲しいって訳です? 残念ですけど、雑魚に記憶力を割くほどわたくしは優しくないのですわよ!」
一縷の望みをかけて対話を望むも、にべもない返答。こりゃ、バルザック経由でオレが知り合いだと知ってないな。
そもそも《エニアグラム》の秘密基地に戻る最中に、手土産とばかりに司政官を暗殺したのかもしれねぇ。
何故ならこの二人、割と《エニアグラム》の実行部隊的存在であるが故に組織にいないことも多い。
『リベリオン/戦禍の夜明け』でも、主人公のシドウが《エニアグラム》に入団してからこの二人が合流したのは数話後の話。そのせいで最初はシドウが《エニアグラム》の新しい入団者ということに気付かず、侵入者だと勘違いして殺そうとしていた。
銃弾をシドウによって斬られるという高等技術を見せられ、意地になったクロエは、《双挺拳銃/ケルベロス》の力を遺憾無く発揮して対抗。両者は次第に戦闘の熱が熱くなり、最後にはバルザックに止められるまで続いた。
あ、マチルダは二人が戦ってる最中に薄々シドウが新しいメンバーだと気付いたが、日頃の気の弱さと熱くなったクロエには届かなかったようだ。可哀想に。
因みに二人が戦った所為で《エニアグラム》の秘密基地に被害が出たので、仲良く掃除をさせられてた。
アニメを視聴していた頃はゲラゲラその光景を見て笑ってたが、実際に自分が《双挺拳銃/ケルベロス》の銃口を向けられる立場になると、まったく笑えねぇな!
こうなりゃ、マチルダに期待するしかないが……。
「あ、あのあの、この人本当にわたし達に敵意がないみたいだよ。これ以上騒ぎを大きくしたら、折角誰にも気付かれずに任務終えたのに、人が集まってきちゃうんじゃないかな」
「ちょっと黙っててくださいまし、マチルダ!」
「あぅ、ご、ごめんなさい」
「諦めんなよぉ!?」
ご覧の通り、マチルダは図体の割に気が弱いのだ。
予想はしていたが、やっぱだめかよ!
「どうにかして切り抜けねぇと。ちっ、なんでオレはいつもこうなるんだ」
背を向けて逃げてぇが、そしたら蜂の巣にされるのは自明の理。
銃撃は確かに怖いが、さっきオレが防いだみたいに視認することは難しいことじゃねぇ。
なら、やはり一発当ててとんずらこくのが妥当か。
「くっそ、こうなったらやるしかねぇかッ……。七、八、九……よし、いくぞ。オラァッ!」
腹を決める。
数を数えて、オレはタイミングを見計らい、クロエ達に向けて盾にしていた甲冑を思い切り弾き飛ばす。バラバラになった甲冑で目眩しにする。
「わわっ」
「くっ、小賢しい悪知恵ですわね!」
慌てて盾があるのに思わず屈んでしまうマチルダに対して、クロエは自身に当たるモノのみを迎撃して、オレに狙いを定め銃撃する。
それを何とか無駄に飾られた調度品や柱を盾に、躱し続ける。
「こりゃ、さっさと突っ込んだほうが良いな!」
《|双挺拳銃/ケルベロス》がリロードをする僅かな隙を突き、これまで横に躱していたのから一直線に、クロエに向かって走り抜ける。
「何? 動きが線から点になれば対応できないって寸法かしら? だったら舐められたものですわね」
クロエが発砲。
しかし、それらは明らかに見当違いな場所に放たれた。しかし、クロエは不適な笑みを崩さない。
「わたくしの弾は、
《双挺拳銃/ケルベロス》の特技、〝
「
「んなっ!?」
──なんてことはない。
オレは、甲冑の一部を懐にしまっていた。そこに銃弾が命中した。
いくら弾が曲がるって言っても直角に曲がる訳じゃねぇ。カーブを描いて曲がるんだ。なら、必ず必殺のタイミングで撃ってくると踏んで、一撃で仕留めると宣っていたから、頭を槍で、心臓を甲冑で防御を割いていたが正解だった。
「まさか最初から当たることを前提でッ」
「おうよ、これで間合いは詰められたぜ」
「しまっ……!?」
「悪りぃが、ちっとだけ痛い目にあってくれや。後遺症は残さねぇからよ!」
オレは槍を水平に構えた。
この距離ならば、クロエはリロードが間に合わない。
最も、槍先の方でなく柄の方だから当たっても打撲程度で済む。狙うは肩。脱臼させて、《双挺拳銃/ケルベロス》が使えない隙にオレは逃げる。
そしてオレは、クロエに向かって突きを放った。
「あ?」
硬質な重低音。
明らかに人体を突いたとは思えない感触。
「クロエちゃんを、傷つけさせない……よ……!」
先程の怯えた様子とは裏腹に、機敏かつ臆した様子もなくマチルダは巨大な盾でクロエを庇い、オレの攻撃を防いでいた。
ゲドウ「銃弾見てから防ぐの余裕」
因みに、本編では
銃撃を防いだのも《サイデリアル》の上位メンバー。この普通に弾を弾いたアスデブリは……?