必殺のタイミング(別に殺す気はない)で放った刺突を、大盾で防がれた。自慢じゃねぇが、オレの刺突を受けて全くの無事で済む事は通常であれば不可能だ。
当然、からくりがある。
ガラス張りの天井から差し込む月光に照らされて、鈍く光るオレの一撃を防いだ大盾……いや、
「《不沈楯/アイギス・スクトゥム》、あれを食らっても傷ひとつつかねぇか。こっちの腕の方が逆にイカれちまいそうだ」
「クロエちゃんに、手出しはさせない、よ……!」
「勇猛なこったぁ。おぉ、こえぇ。さっきとはえれぇ違いだ」
ビリビリと、腕に伝わる感触。
《不沈楯/アイギス・スクトゥム》。ありとあらゆる攻撃を防ぐ、
ちらりと、自らの槍を見る。
柄先が折れちまった。さらばオレの愛器……付き合ってまだ2日くらいだが。そもそも型番は同じだがもう何代目なのか覚えてねぇけど。なんて感傷に浸っていると、マチルダはそのままの勢いで《不沈楯/アイギス・スクトゥム》を振るって、オレにぶつけようとしてきた。
「おいおい、こっちはもう得物がおしゃかになったんだぜ!? 見逃してくれたっていいだろ!」
「クロエちゃんのこと、傷つけようとした……! 許すこと、できないよ……!」
「正当防衛だろ! そうじゃなきゃ、オレの方が額に風穴開けられてたわ!」
くそっ。温和で心優しい性格のマチルダだがそれ故に、クロエを傷つけようとして火をつけちまったか。
ブンブンと、《不沈楯/アイギス・スクトゥム》を小枝のように振り回す。無論、当たれば骨が折れるどころじゃすまない。てか、なんつー怪力だよ! あれ、バルザックでも持てねぇほどの重量なんだぞ!?
「うぉッ!? あっぶね!?」
「くっ、また躱されましてよッ……! 如何にも力だけにかまけた悪人みたいなのに、なんて勘の良さですこと!」
「顔は関係ねぇーだろ!? くそっ、どうしたものか。武器はおしゃかになっちまったしなッ」
さらに間を縫ってクロエが撃ってくる。
目論見は外れ、マチルダも仲間を傷つけられそうになったことに激昂してやがる。
ほんとピンチ。
正直言って、クロエの方は大したことない。
銃撃は確かに厄介だが、致命打となるのは黒い方の銃で連射も出来ない。幸いにも今は距離が近いから曲射も曲がる範囲が緩い以上、発砲さえ見逃さなきゃなんとかなる。
問題はマチルダの方だ。
内気な様子とは裏腹に、自身に匹敵する巨大な盾を苦もなく持ち運びしているのがわかるように、力に関しては《エニアグラム》でも突出している。腕相撲ランキングでも1位らしいと、漫画でのおまけ話で語られていた。
つまり、捕まれば確実に逃げられない。
そもそもオレは再三戦う気はないと言ってるのに、なんでこんなに狙われなくちゃならんのだ。
「あぁ、もういい加減にしてくれ! なんでオレを殺すのに躍起になっているんだ!? 殺すべき輩は他にいるだろ! オレァ、善良なアスデブリだぜ!?」
「マチルダ、耳をかしてはいけませんことよ。わかってる? あの御方、強いですわ。必ずここで仕留めますわよ!」
「うん、わかってる……!」
「くっそ、話を聞かないガキ達めッ」
「誰がガキですって! お嬢様とお呼びなさいよ!」
めっちゃキレた。
うっせー! やたらと発育の良いキャラが多い『リベリオン/戦禍の夜明け』で
オメェより歳がいってないのに巨乳のキャラはめちゃくちゃいるんだぞ!
「だ、だいじょうぶだよ。クロエちゃんが、素敵な女性だってこと、わたし知ってるからっ」
「……あなたに言われても嫌味にしか感じませんわ」
「あぅ。育ち過ぎてごめんなさい」
「わかってるなら言わないでくださいまし! そこ! あなたも笑うんじゃありません!」
「やべっ」
ちんちくりんなクロエと、色々とボインボインなマチルダと対照的な二人はよくその身体の差についてネタにされてたが、確かにこうして直接見るとその差が歴然だ。
「頭きましてよ。もうプッツーンですわ。このまま、戦っても
「あぁ? 何をして……んなぁ!?」
クロエが《双挺拳銃/ケルベロス》の黒い銃を構える。
おいおい待てよ!?
なんでそんな本気になってんだよ、おかしいだろ!?
《双挺拳銃/ケルベロス》の特徴、それは放つ銃によって特性が異なるということ。
白い方の銃は曲射。
黒い銃は鋼鉄すら貫く一撃。
地獄の番犬ケルベロスの名を冠するように、つまりは手数の多さの
「待て待て!? こちとら、ただの一般兵士だぜ。なんでそんなやる気になってんだよ!」
「ここまで撃ち抜けなかったのは初めてですことよ。あなたを撃ち抜かなきゃ、わたくしの沽券に関わりますわ!」
「おいおいプライドを持つことには否定しないが、引くべき時に引けないのは、慢心だろ!」
クロエは、その気の強さが売りの
それはどんな困難な任務であろうとも諦めない
それが今この場に現れてやがる。
「あぁ、くそっ! 見覚えがある光景だぜ……!」
『戦禍の夜明け/リベリオン』もそうだった。
原作で登場する《
結果、暗殺は成功。あとは逃げるだけ。
そこに現れたのが《
『リベリオン/戦禍の夜明け』では初めて登場する《サイデリアル》。メヌエットは消耗していた所を強襲してきたことにより、クロエとマチルダの二人は追い込まれていく。
《鉄脚才女》とも呼ばれたメヌエットの
それでも彼女は、自身の心臓が貫かれようともその筋肉を利用してメヌエットを封じ込め、逃げる時間を稼いだ。
結果、クロエは生き残ったがマチルダは《エニアグラム》で初の戦死者となる。
気の強さは鳴りを潜め、冷徹に冷酷に相手を撃ち抜く落ち着きを手に入れた。だが、それは己の感情のせいで仲間を失ったから押さえつけているかのような、ある種痛々しさすら感じられた。
「マチルダ! 奴の動きを少しでも封じておいて!」
「うん……! わかった……!」
マチルダは、クロエを守るようにオレへと迫り来る。
「あぁ!? オメェ、何素直に従ってんだ!!?」
「頼まれたから……!」
「バカ言いやがれ、射線につっこめって言われてるようなもんだぞ!」
「それが、わたしの役割……! わたしなら大丈夫、頑丈だから……! それしか、取り柄がないんだから……!」
「んだと……!?」
その言葉にカチンと来る。
「死ぬことは恩返しじゃねぇ。生きて返すのが恩返しだろ! そこを履き違えるんじゃねぇよ!」
確かにマチルダの肉体強度と
それは信頼と言えば聞こえがいいが、体の良い肉盾だ。
勿論クロエもマチルダなら大丈夫だとは思っているんだろうが、その結果が原作の死亡だ。
しかもマチルダ自身も自己の価値を低く見積もっているせいで、しさんなり受け入れているのが気に入らねぇ。
オレは知っている。
マチルダが死んだことを悲しむ《エニアグラム》の面々のことを。
泣いてそのことを悔やみ、最後まで引きずっていたクロエのことも。
オレはその
「あと少し……ッ!」
「ちぃっ!」
クロエがオレに狙いを定め始めている。
もう考えてる暇はない。このままじゃ、オレは《|双挺拳銃/ケルベロス》に貫かれて死ぬ。
「仕方ねぇッ!」
セレスティアラからは、有事の際には好きにして良いと書状には書かれている。なら、非常事態の今なら使っても問題ねぇだろ! てか、つかわねぇと死ぬ!
「〝アン・ブレイカー〟ァッ!」
「あぎゅっっっ……!?」
「マチルダ!?」
態と槍を《不沈楯/アイギス・スクトゥム》に接触させ、電流を流し込む。痺れて《不沈楯/アイギス・スクトゥム》を落とすマチルダ。
クロエも、マチルダ自身が壁となったせいでオレが何をしたか気付いてねぇ。
よし、これで……うおっ!!?
《不沈楯/アイギス・スクトゥム》を落としたマチルダだが、痺れる身体なのにオレの手を掴んできやがった!?
「マチルダ!?」
「だい、じょうぶ……! 撃って……クロエちゃん!」
「でも、あなた盾がッ」
「もう、ここしかチャンスがない……! わたしのこと、いいからぁ……!」
待って待って待って!!?
やべぇ、本当にやべぇ!!?
黒い銃の方で撃たれたら、オレなんて肉片一つ残らず木っ端微塵になる!
〝アン・ブレイカー〟を再び流し込むが、マチルダは離す様子を見せない。そりゃ、心臓貫かれても動いた女だ、この程度屁でもねぇってか!?
クロエが銃をこちらに向ける。
いやー!!? 死ぬぅ!?
助けてメリス! いるわけない! そうだよなぁ! 当たり前だよなぁ! くっそ、バルザックの時みたいな勘の鋭さはどこにいったんだよ!
振りほど……けねぇ!
ほんとうにマズッ──
轟音が鳴り響く。
《|双挺拳銃/ケルベロス》の黒銃に溜め込まれたエネルギーは、遺憾無く発揮され跡形もなく吹き飛ばした。
「なんで……」
「撃てる訳ありませんでしょっ、《不沈楯/アイギス・スクトゥム》も無しにあなたが耐え切れるはずがないじゃないですのっ」
「クロエちゃん……うぐっ!?」
クロエは悲痛に満ちた叫びをする。
その隙にオレはマチルダを蹴飛ばして、距離を取る。
あっぶねぇ!!!
マチルダが離してくれなくてマジ焦ったわ。掴まれていた手首にくっきりと跡が残ってやがる。どれだけの力で、掴んできやがったんだよ。
「おい! 先程の轟音はこっちからだ!」
「司政官を守っていた部隊とも連絡が取れない……! 《エニアグラム》は既に逃げ出している! 絶対に逃すな!」
騒ぎを聞きつけ、兵士達が集まる音が聞こえてくる。
「くっ、新手が……!」
「潮時だな。さっさとそっちも退きな。このままだと兵士どもが集まってくるぜ」
「は? 見逃すって訳ですの?」
「追い込まれた獣は何よりも恐ろしいことを身をもって知ってるんでな。オレは、自分の命が惜しい」
実際、今まさにその恐ろしさを味わったばかりだしな。
オレの言葉にクロエは色々と言いたそうな表情をしていたが、本当に時間がないことを悟ったのか、やがて悔しそう顔をする。
「次は、貴方の額を撃ち抜きますことよ! わたしの名にかけて! ゲドウ・マルドラーク……覚えましたわよ。わたくしのこと、覚えておきなさい! 行きますわよ、マチルダ。立てる?」
「う、うん……ありがとうクロエちゃん」
しかもご丁寧に予告していきやがった。
撃つのは、悪人とカエレスティス戦禍の国旗だけにしてくれ。特にオレ、最後の決戦で帝国への宣戦布告として、国旗撃ち抜くシーン大好きなんだよな。『リベリオン/戦禍の夜明け』でも屈指の名シーンだ。
やがて去っていく二人を見送った後、さてどう言い訳するかと考えていると、
「ん?」
ガツンと足に固い何かぶつかる感触。足元にある《不沈楯/アイギス・スクトゥム》。
「えっ、置いて行ったのか?」
マチルダが持っていなければこの先の展開に影響が出る。
これまでと比較にならないほどの齟齬が生まれるに違いない。
そしてそれを自らが引き起こしたという事にオレは