やっちまった。
原作知識が万能でないのは百も承知。これまでが偶々うまいこと転がっていただけだ。メリスを筆頭に出会ったネームドキャラたちはこの世界に生きている人間である以上、予想だにしない動きをすることがあるのは理解はしていた。
何せ、既にオレはメリスの因縁の相手であるナクアを序盤に倒させちまっている。元々放置しても悪影響しかない男だったとはいえ、早期に退場させた所為で幾つかのイベントは潰れてしまった。
その件に関しては、オレがメリスの側にいることである程度成長イベントに関しては修正が効くからよしとしていたが、今回に関しては違う。
マチルダの《不沈楯/アイギス・スクトゥム》を奪取してしまった。
いや、マジどうしよう……。
ナクアに関してはほんとどうでも良いが、マチルダに関しては影響がデカすぎる。
マチルダは、主人公のシドウが最初の《
シドウの加入前にその硬さで何度も助けられてきたと、バルザックも明言している。そんな彼女が《不沈楯/アイギス・スクトゥム》を失っちまった。
下手すればシドウが最初の《
よしんばなんとかなっても、その後の《サイデリアル》メヌエット・メラムプースに対抗出来なくて、クロエとマチルダの二人とも死ぬ可能性が出て来てしまった。そうなったら、原作崩壊所の騒ぎじゃなくなっちまうぞ。
クロエは『リベリオン/戦禍の夜明け』における最終決戦にだって参加するし、その前から要所要所で活躍する《エニアグラム》において無くてはならないキャラクターだ。クロエがいなくなったら最悪、主人公のシドウだって死ぬかもしれねぇ。
「うおぉぉ……! どうすんだこれ……《不沈楯/アイギス・スクトゥム》も接収されちまったし、これから《エニアグラム》がどう動くかも予想できねぇ……!」
「なに帰ってから、ずっとうんうん唸っているの?」
オレが頭を痛めていると、ひょっこりとメリスが顔を覗かせた。両手には作ったのか、料理の乗った皿を持って……っておい!?
「オメェ、怪我してんだから無茶するんじゃねぇ!」
カネイジーとの戦いの際、メリスは怪我を負った。その為、療養させていたのだが、こいつ全然大人しくしねぇ。
オレの目を盗んで勝手に己を鍛えるために、晶獣のいる森林にだって行ってやがる。隠しているつもりだが、頭に葉っぱ乗ってたりするから普通にわかるわ、あほ。心配するからやめろ。
だけどどれだけ詰めても反省しないから、代わりに家にいる間は絶対に安静にするように言いつけたのに、家事をするのは譲らねぇ。
特に服の洗濯。オレ、帰るたびに身ぐるみすぐに剥がされるんだけど。いや、洗濯してもらっている身でなに言ってるんだと思うだろうが、オレの服剥ぐときのメリスの目が怖いのよ。
帰ってきて最初の言葉が「おかえり」じゃなくて「脱いで」と言われた時は、そんなに臭いのかとショックうけたわ。
とにかくだ。
メリスが動き回るのを禁止しているのに、こいつ自分で料理しやがった。だから咎めようとしたのだが。
「大丈夫。もう治ったから」
「あぁ? バカ言ってんじゃねぇ。そんな簡単に治るわきゃないだろ」
「本当だよ、疑うなら見てよ。ほら」
メリスは自身の服の一部を捲る。
現れたのは白くほっそりしたメリスの腹。だがそこにあったはずの傷がない。まじまじと眺めるも、本当にない。
「……まじで傷がなくなってやがる。《悪魔の心臓/デモゴルゴン》と深く融合したから再生力も増したのか……?」
「だからもう心配しなくて大丈夫だよ」
「だとしてもだ。何かあれば直ぐに知らせろ。それこそ身体の不調だけじゃなくて、何か変化が起こったら事細かくだ」
「……えっち」
なんでだよ!
そんな会話をしながら、オレはメリスとともに食事にする。内容はもちろん肉まん。コイツと暮らしてから、二日に一度は肉まんなんだが。
しかしメリスは一口食べるなり、眉を顰める。
「皮が硬い……お肉もぱさぱさ……おかしい、食材は同じなのに。やっぱゲドウみたいにうまくいかない……」
「そりゃ年季がちげぇんだよ、年季が」
メリスは不服そうだが、こちとらあまりにアスデブリで手に入る食材が悪いから、まともに食えるように料理スキルあげるためにめっちゃ頑張ったんだぞ。
そんなすぐに超えられてたまるかってんだ。
食事を終え、ひと息ついたタイミングでメリスが切り出す。
「ゲドウ、お風呂入る? それなら背中洗ってあげるよ」
「しなくて良いわ、あほ」
「そう? ならわたしにする?」
「なに言ってんだ、オメェ?」
メリスは心底不思議そうに首を傾げる。
「帰ってきた人に食事か、お風呂か、自分かって尋ねるのが普通じゃないの?」
「どこからそんなの偏った知識仕入れてきてんだよ!」
「でも、もうわたししか残ってないよ。ほら、はやく」
「まてまて!? そもそも、もっと自分の身体を大事に……!」
ぐいぐいと引っ張るメリス。
力強っ、こいつどれだけマジなんだ……!?
抵抗するも、それ以上の力で連れていかれるオレ。てか、こいつなんでそんな乗り気なんだよ。ゲンコツでもして説教しようかと思っていたが、連れて行かれたのは部屋にあるオレとメリスの槍がある一角。
「また槍の稽古つけて欲しいんだ。わたしはまだまだ強くなりたいから」
「さっきのわたしっていうのは……」
「もちろん、わたしと稽古してってことだよ。ふふっ、ねぇゲドウ。なにを思い浮かべてたの? ねぇ?」
「……」
なんかもう、自分が恥ずかしくなってきた。
すいません、頭まっピンクやろうですみません。
「ねぇ、ゲドウ」
「なんだよ、今自分のアホさ加減にうちひしがれてんだ。そっとして置いてくれ」
「元気出た?」
……こいつ、もしかしてオレが悩んでいるのを心配していたのか?
変なこと言い出したの、わざとかよ。そんなに深刻そうに見えてたのか。いや、『リベリオン/戦禍の夜明け』からしたら深刻な内容なんだけどさ。
心配かけるのはよくないよな。
頬を数回軽く叩く。
「あぁ、出たよ。から元気だけどな。悪かったよ、ありがとう」
「ううん、大丈夫だよ。…………それに、そっちの方でもわたしは良いから」
「あん? 誰か来たのか?」
「……むぅ、タイミングが悪い」
メリスが何か言ったタイミングで、家のチャイムが鳴る。おかげでメリスの言葉を聞き逃した。
とりあえず来客を出迎える。
「どうも、ゲドウ殿」
「ヴェルヌントじゃねぇか」
現れたのは《
部屋に上がらせると、丁寧に靴を揃えて入ってくる。
これだけで好感度あがるわ。オレの家に来る奴ら
「どうぞ」
「ありがとうございます」
座ったところでメリスが飲み物を机の上に置いた。
こいつ気がきくな。ヴェルヌントは礼を言う。そのまま飲み物を飲んで、ひと息ついたところを問いかける。
「それでなんの用だ? 一人なんて珍しいじゃねぇか」
「トイープは少々
言い辛そうに、懐から何かを手渡す。
「失礼。本来であれば、軍の方から正式に通知されるのが筋なのですが先の司政官暗殺を受けて、ゴタゴタとしておりまして。そこで一時的にですが、セレスティアラ殿下が代行として執務を行なっております。つきましては私がその代理として、セレスティアラ殿下から指令を授かりましたのでお伝えします」
うーわ、いやな予感しかしねぇ。
しかし悲しいかな、オレにそれを拒否することはできない。ヴェルヌントから渡された指令書を見る。
『拝啓、いかがお過ごしでしょうか? 最近頬を撫でる柔風が、だんだんと暖かくなってまいりました。ふと道に目をやると花が咲いていて、色鮮やかな様子に思わず穏やかに気持ちになってしまいます。貴方と出会った日から、こうも世界が変わるとは不思議な気持ちになります。今にして思えば、世界はこれほど魅力に満ちていたのに前までの私は、これら全てがすんで見えておりました。今でも心臓に手を置くと、あの日のことを思い出します。夜空に流れる流星のように、あるいは曇天に煌めく雷のように、目蓋に焼きついているのです。今思えば、あの時に私は生まれ変わったと言っても良いでしょう。そう、すべてはあの時から始まったのです。人生誰しもが転機というものがあると言いますが、私にも当てはまるとはやはり人生とは面白いものですね。あなた様にもそのようなことがあるでしょうか? また聞かせてもらいたく思います。会話をするのが楽しみだとは、これもまた以前の私にはなかったものです。そういえば、この間──』
いや、なげぇよ。
めちゃくちゃ達筆なくせに、本題に全然入んねぇ。なんだこの長文、平安時代の貴族か? それでももう少し中身があることを書くだろ。
てか、この手紙横に広げてなお床につくくらい長いんだが。これ書くのに何分掛かるんだよ。
前半の部分をすっ飛ばし、オレは指令の部分を読み取る。
なになに……?
「此度の司政官の暗殺の責任をとってして、トリンガース区の守備隊を解任、南方の大樹海への異動を命ずる……」
有り体に言えば、左遷された。
ほんと、この国ってクソだな。
気の毒そうにこちらを見ているヴェルヌント。
普段なら皮肉や愚痴の一つや二つ、言ってやってもよかったんだが今のオレにそんな余裕はなかった。
だって。
「…………は?」
大魔王みたいな威圧と地獄から轟くような声が、隣から聞こえたのだった。