拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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第一次ヤンデレキャットファイト

 

「どういうつもり?」

 

「出会って開口一番の言葉がそれかい? ふふっ、おもしろいね」

 

 対峙するメリスとセレスティアラ。

 

 しかし両者の表情は対照的で、メリスは険しく、セレスティアラは余裕のある微笑を浮かべている。

 

 そしてそのそばで胃を痛めているオレとサラ。

 

 なんでこんなことに……。

 

 

 

 オレが南方に異動させられると知ったメリスは、それはもうすごかった。

 

 背後に鬼の姿を幻想するくらいに、凄まじい圧があった。

 

 宥めようにもなしの(つぶて)。荒れ狂うサイクロンと化したメリスを止められるはずがなかった。

 

 結果、セレスティアラに直訴するという暴挙に出る。流石に一人で行かずとなにが起こるか見当もつかないので、オレもついて行った。

 

 正直、オレは断られるだろうなと思っていた。

 

 しかし普通ならばセレスティアラが会う必要はないのに、まさかの面談を許可されるという事態。

 

 なんかやたらと疲れているサラに案内されて、今に至る。

 

「手紙の通りさ。彼には南方の基地へと向かってもらう。向こうは今、人手が足りなくてね。手だれである彼に行ってもらうのが、もっとも合理的だと判断した」

 

「だったらわたしも」

 

「それはできない。きみは既に《特務兵装開発部(アルカナム)》に配属された。戦戎具(サテライト)のテストもして欲しいと、トイープからも催促があってね。きみにはそちらに回ってもらいたい」

 

 そしてオレそっちのけで二人が会話している。

 

 てかあんな状態のメリス久々に見たな。狂犬モードだ。噛みつく相手を考えたらやめてほしいんだが。セレスティアラも普通なら不敬だと断じるところを、むしろ面白そうに受け流してやがる。

 

 相手によって臨機応変に変えるところ、それなセレスティアラの強みだとわかってるが怖いんだよな。他の皇族、第三皇子ヌービルムか第五皇子シャヨウだったらバチくそにキレてたぞ。

 

「メリス、無茶言うな。これはもう決まったことだ。今更どうにもできねぇよ」

 

「ゲドウ! でもおかしいよ! 何も役に立たなかった兵士たちはお咎めなしなのに、ゲドウだけが左遷されるなんて!」

 

 それはオレもそう思う。

 

 ぐうの音もでねぇ正論に、何も言えなくなる。

 

「……ほぅ」

 

 何故かセレスティアラが感心するように呟いた。

 

「サラ、ゲドウ。すまないが少し席を外してくれないか? 彼女とふたりで話したい」

 

 ばかかあんた?

 

 あの状態のメリスを見て、よくふたりきりになりたいと思ったな!? 命知らずにも程があるだろう!?

 

「ま、まってください殿下! ふたりきりになるだなんて危険ですよ!」

 

「そうだぜ、その通りだ」

 

「何かあったらどうするんですか! あたし(・・・)に!」

 

「そうそ……あ?」

 

「大丈夫だよ、サラ。彼女とは気が合いそうだから」

 

 なにを見てそう思ったのかまるで理解できねぇ。これだから天才ってやつは! そこに至るまでの過程を話しやがれ! 凡人に優しくしやがれ!

 

 結局セレスティアラに押し込まれ、オレらは部屋の外に出されたのだった。

 

 しょうがねぇ……なるようになるのを祈るしかないか。

 

「ところでサラさんよぉ、さっきの言葉なんだが」

 

「ひっ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「さて、さっそく会話をしたいところなんだが……」

 

 セレスティアラは振り返る。

 

 そこにはメリスがすぐ目の前にいて、己を壁にへと追いやり、喉に自らの爪を突き出していた。乳同士が触れ合うほどの近距離にいる両者。

 

 しかしその表情は対照的であった。

 メリスは睨みつけ、セレスティアラは余裕の笑みを浮かべている。

 

「ふふっ、手早いね。私は会話をしたいだけなんだけどね」

 

「そんなの必要ない。あなたが言うのは、ゲドウが行くのならわたしもついていくのを認めること。それだけよ」

 

「随分と手荒いね。トイープらの話とは随分違う。それがきみの本性かい? それとも、なにか(・・・)に突き動かせられているのかな?」

 

「茶化さないで……!」

 

 メリスにとって、セレスティアラは仇敵(・・)といっても間違いではない。

 

 直接的な危害を加えたのはナクアら《国家機密研究局(ゲマトリア)》であり、大多数のカエルム人は関係ないとはわかっている。

 

 だが、国を仕切る皇族とあっては別だ。

 

 カエレスティス帝国が《天帝》主導の元、現在の領土拡張戦争を仕掛けているのはメリスも知っている。そのせいで母親が自らを孕み、そして殺されてしまったのも、直接この目で見ている。

 

 だからこそ、戦争を起こした皇族に対して嫌悪感があった。

 

 これが他の、何も知らないような幼子の皇族であれば話は別だった。しかし《帝国宰相》という地位に務くセレスティアラが、戦争についてまったく関わっていないということはないだろう。そういう思い込みもあった。

 

 そして何より。

 

 《悪魔の心臓/デモゴルゴン》から湧きあがる、苛烈なまでの怒りが連動してしまい、メリスをこのような短慮な行動にへと駆り立ててしまっていた。

 

 セレスティアラの喉に、爪が触れる。

 

 しかし爪を突きつけられても、セレスティアラは微塵も揺らがない。星のような煌めきの目で、メリスの赤い目と見つめ合う。

 

「きみにはできないよ」

 

「そんなことっ……!」

 

「いいや、できない。私の地位も、帝国に弓引くことも、確かにきみにとって何の障害にもならないだろう。だが、彼の信頼を裏切ることだけはできない。違うかい?」

 

 その言葉は図星だった。

 

 今ここでセレスティアラを殺せば、ゲドウに迷惑をかける。そのことに気付き冷静になりかける。しかし、

 

『何をしている? やれ! やるのだ! あの男の血を引く者が目の前にいるのだ! やつにわからせるのだ! ワレの怒りを!!!』

 

 自身の胸にある《悪魔の心臓/デモゴルゴン》が騒ぐ。視界が赤く染まり、怒りで血が沸騰しそうになる。その爪で、セレスティアラの喉を切り裂きそうになる。

 

 そうだ。

 

 別に今この人を殺したって何の問題も……。

 

 

 

『その力を受け入れたら、オメェそこで終わりだぞ』

 

 

 

 いつかのゲドウの言葉が頭をよぎった。

 

「うるさいっ……! わたしは……!」

 

 メリスは怒りを振り払うように、自らの胸を叩いた。《悪魔の心臓/デモゴルゴン》からの干渉が揺らぐ。そのままセレスティアラから離れ、荒い息を吐き、汗を流す。

 

 先程までの憤りが消えた。そしてすぐに自分が何をしているのかわかり、顔を青くした。

 

「わた、しは……」

 

「まぁ、落ち着きたまえ。私は別に、きみと仲違いしたくて態々二人になったわけじゃない」

 

「……」

 

 セレスティアラに促され、メリスは不満不承ながらも席に着く。セレスティアラは先程の行動を気にも止めず、反対側の席へと座る。

 

「一つ言っておく。私はね、ゲドウ・マルドラーク……彼を認めているよ。フーディー卿を退け、カネイジーを討伐し、そしてさらに《エニアグラム》を撃退した上に輝征装(エアラリス)を奪取した。値千金な働きと言っても良いだろう」

 

「当然。ゲドウなんだもん」

 

 自分のことのように機嫌良く語るセレスティアラ。そしてメリスも同じように、誇らしげに胸を張る。

 

「しかし、彼の身分が足枷となる」

 

 一転して、低い声となる。

 

「アスデブリ。征服した統治領(コルニア)の民を、我々カエレスティス帝国の臣民として迎える制度。名目上はこの上ない素晴らしい制度だけど……実態は、きみの方がよく知っているだろう?」

 

「……統治領(コルニア)に住む隷属人(イクリプス)たちの、裏切り者(・・・・)

 

 メリスは『キュクレウスの眼』の出来事を思い出す。

 

 あの時、『キュクレウスの眼』のメンバーは、ゲドウに在らん限りの罵倒を浴びせてきた。向こうからすれば、誇りを捨てて帝国に尻尾を振った裏切り者だからこその反応だった。

 

 そしてカエルム人たちの態度。

 

 アスデブリのことを、明らかに同じ同胞としてではなく見下していた。

 

「その通りだ。アスデブリは肩身の狭い存在だ。そんな彼が革命軍の《エニアグラム》を撃退するという活躍をした。当然、カエルム人たちは面白くない。今回のことも、司政官暗殺の責任を押し付けようと役人があれこれした結果さ」

 

「そんなの、あなたがゲドウを認めると口にすれば……、そもそも皇族なんだから、そんな役人の言葉なんて突っぱねればそれで終わりじゃ」

 

私だからこそ(・・・・・・)ダメなのだよ(・・・・・・)

 

「……?」

 

 首を傾げる。

 

 セレスティアラはカエレスティス帝国の皇族だ。その存在がアスデブリの功績を認めることのなにがダメなのか、メリスにはわからない。

 

「帝国の第二皇女。《帝国宰相》である私が彼を認めると一言言えば、たしかに肯定する者もいるだろう。しかし、それは私に取り入ろうとするのを目的とした者だけだ。故に、根回しも済んでいない私が、今この瞬間認めれば必ず角が立つ。それこそ、下手をすれば国を揺るがすほどに。兄上(・・)は同調してくれるかもしれないが、弟妹たちは反発するだろう。皇族ですら割れるのだ、民がどう思うのか考えたくないね」

 

 セレスティアラは理解している。

 

 今現在のカエレスティス帝国の状況を。

 

 世界に冠するほどの大国であるがゆえに、カエルム人は増長し、他を見下している。自分たちこそが、文字通り天に立つ民族だと信じている。

 

 当然、これをおかしいと言える人材はいるにはいるが、ディグル……革命軍の方に流れている。それでも母国のためと残っているまともな人材も多くいるものの、やはり総人口を考えると足りない。

 

 民は流されやすいことを、セレスティアラは理解している。

 

 人は他人をすごいと認めることよりも、下に見ることの方がはるかに容易いのだ。

 

「必要なのは、彼を認めるという強者(・・)。立場のある人間と言っても良いだろう。彼にはそれが足りない」

 

「それだったらあの変な人……、やたらとゲドウに執着してる人に頼めば……」

 

「フーディー卿のことかい? 確かに彼は歓迎するだろうね。しかし、フーディー卿はあくまで《サイデリアル》の一人であって、彼と同じ身分の人間は他に11人いる。一人だけ認めたところで意味はない」

 

 《サイデリアル》の人数は12人。

 

 中にはもちろん生粋の帝国至上主義者だって入っている。むしろ、ヴァンサンはかなり隷属人(イクリプス)やアスデブリに対して穏健な方である。もっともその理由の9割が、自国にない奇食文化をもたらしてくれているからという、身も蓋もない自身の都合からくるリスペクトからではあるが。

 

「同じようにトイープと……あぁ、一応フラグラッシャーもか。彼女らが認めようとも、多勢に無勢。国とは、人の集合体だ。アスデブリを認めない、大多数を占める民を蔑ろにしては成り立たない」

 

 ニェーニもトイープも、輝征装(エアラリス)を持とうとも、あくまで一組織の人間に過ぎない。

 

 数的劣勢を覆すほどの力はない。

 

「彼の存在を帝国に刻む込む。その為には、もう少し彼の味方が欲しい。南方に向かわせるのは、彼の人となりを知れば味方になってくれそうな人材が一人(・・)、心当たりがあるからだ。彼女(・・)を認めさせることができれば、それは大きな彼の助けになる。私も目をかけている人物だからね」

 

 何かを思い出すように、懐かしむように遠い目をするセレスティアラ。

 

「安心したまえ。この考えがうまくいこうが、いかまいがどの道時期を見て彼は一度戻ってきてもらうよ」

 

 その言葉はメリスに安心感を与えた。

 しかしセレスティアラの顔は険しい。

 

「だけどそれでもまだ足りない。彼を取り立てるには、もう一風必要だ。そして、そのために必要な人材はもう見つけた(・・・・・・)

 

「なにそれ」

 

きみだよ(・・・・)

 

「は?」

 

「きみがなるのだよ。彼の後ろ盾に」

 

 その言葉は、深く重みがあった。

 

「先ほど言った通り、帝国はカエルム人以外には狭量な部分がある。しかし、我々の血を引く者であれば別だ。そしてきみは輝征装(エアラリス)を有し、カエルム人の血を引いている。半分とはいえ、それでも血を引くという事実に意味がある」

 

 いつ自身がハーフであると知られたのかメリスは戦慄する。しかし、セレスティアラにとってそんなことは本題ではない。彼女がハーフであるならば、それを押し出して策を講じるだけである。

 

「カエルム人のきみが彼を認めるんだ。もちろん、ただの一般人が認めるだけでは意味がない。だからこそ、輝征装(エアラリス)を持つきみがなるんだ(・・・・・・・)。《天刑護騎士(アストロノーツ)》、《サイデリアル》、《四軸将軍(グランドクロス)》、《天都直参防衛軍(カーマンライン)》、我が帝国が誇る輝征装(エアラリス)を用いし精鋭(ほし)たち。それらを全て乗り越え、跳ね除け、誰もが見上げる星──、一番星(プリマステラ)に」

 

 そうすれば誰も彼の台頭を拒めなく、セレスティアラはそう告げる。

 

 その言葉を聞いたメリスはしばし考えんだ。

 

「わたしが……ゲドウのための後ろ盾になる……」

 

 カエルム人の血を引くことを認めるのはいやだ。でも、ゲドウには返しきれない恩がある。それを返せるチャンスだ。

 

 そう。

 

 そうだよ。

 

 ゲドウがわたしのおかげで、その身をたてることができる。ゲドウが、わたしを頼ってくれる。

 

 

 他の誰でもない。

 

 

 わたしだけが(・・・・・・)

 

 

 それはそれで、なぜかゾクっとした。ドキドキと心臓が高鳴り、言いようのない(よろこ)びの感覚が自らを包み込む。

 

『おろかものめッ……! 甘言に惑わされよって……!』

 

 《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に宿る《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の悪態吐く言葉も、メリスにはもはや聞こえなかった。

 

「その顔を見るに、どうやら私の提案に前向きみたいだね」

 

 その言葉にハッ、とするメリス。

 

 誤魔化すようにかぶりを振る。ところどころに赤いメッシュの入った灰の髪が揺れた。

 

「……わたしは正直、まだあなたの考えを完全に理解できていない。それでもゲドウのために動こうとしていること。それだけはわかった」

 

「そうかい、理解してくれて嬉しいよ」

 

「でもやっぱりわたしは、あなたのことあまり好きじゃない。トイープ以上に、なにを考えているかわからないから」

 

 一見すれば不敬とすらなる言葉。

 

 しかし、セレスティアラは目を細めるだけ。メリスはそんなセレスティアラをまっすぐに見つめる。

 

「さっきのこと、ごめんなさい。そして、貴女の思惑に乗ってあげる。──なるよ、この国頂点に。もっともつよい人に。そうなれば、もうだれもわたしを止められない。止めることなんてできない」

 

 強くなる。守りたいと思うモノのために。

 

 メリスにとって守るべきモノ、それはゲドウだ。

 

 だから強くなる。ゲドウに並び立つために、ゲドウのそばにいるために、逃げられない(・・・・・・)ようにするために。

 

 メリスはセレスティアラの提案を呑んだ。セレスティアラは心底嬉しそうに見える(・・・)、完璧な微笑をもってしてそれを受け入れた。

 

「そうか、うれしいよ。きみに話してよかった。ならば、私たちは共犯者だ。よろしくたのむよ」

 

 差し出された手。

 

 メリスはほんの僅かに葛藤しつつつも、握り返す。柔らかい手だ。自分とは違う。女性らしさに満ちた身体。ほんの少しだけ嫉妬する。

 

「これで会談は終わりだ。あまり時間をかけると外の二人に不審がられるだろう。そろそろ退出してくれたまえ」

 

「わかった。……ねぇ」

 

「ん?」

 

「──ゲドウのこと、一番よく知っているのはわたしだから」

 

「……ふふっ」

 

 メリスはそれだけを告げて、部屋を出ていった。

 

 後に残されたのはセレスティアラただ一人。

 

「なるほどね、交渉に私情を持ち込むことはしない主義なのだけど……これが気に入らない(・・・・・・)ってことなのかな?」

 

 ただ、楽しそうに、それでいてほんの僅かな苛立ちを込めながらも優雅に笑った。

 

 

 

 




ちなみにゲドウのことを一番よくわかっているのは、バルザック。彼は別にゲドウが上に立ちたいとか、思ってないことをわかってます。

つまり、このヤンデレ二人は不毛なマウントを取りあってます。

ヒロインの姿か、これが…?
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