「我々南方軍はカンネビュラ大樹海への調査について難航している。理由は知っての通り、晶獣によるものだ」
ウィルディが指を鳴らすと側にいた軍人達が地図やら何らかの書類やらを広げる。
「今現在、我々が被害が無く地下資源や希少植物を採取できる区域は、この部分まで。それ以上いくと、晶獣によって採れる量に対して被害の方が多く出てしまっている。この状況を打破すべく、新たな領域への進出を決めた。これはガメツイ将軍直々の指令だ。拒否は認められん」
「そりゃ、命令なら従いますが。……オレにそんな内情話してよかったんですか?」
「構わない。情報に齟齬があっては部隊の運用に差し支えがでるからな」
おぉ……まともだ。
少なくとも今まで会ったカエルム人の軍人の中では最もまともな人物だ。原作の登場時が
「それを指示したガメツイ将軍は?」
「……将軍殿は現在、街の商人達と攻勢に向けた軍議を重ねている。よって此度の作戦については我々に一任するとのことだ」
「つまりー、思いつきで方針だけ決めて作戦は現場に丸投げ。良い所は自分の成果、悪ければこっちの責任ってことー」
「うぉっ、生き返ってやがる」
いつのまにか復活したルルカが、言葉を補足する。
身も蓋もねぇ言い方をするじゃねぇか。
つーか、誰だよガメツイ将軍。
オレが知る限り『リベリオン/戦禍の夜明け』で《
ガメツイ将軍を語るウィルディの表情は、不満に満ちている。
こりゃ、将軍からは軽んじられているな。その理由については大まかに予想がつく。何せ、裏切り者の妹だからな。
肩身の狭さは察するものがある。
「《
不敵な笑みをウィルディは浮かべたのだった。
逆にオレは乾いた笑みで承諾の返事をするのだった。
◇
生い茂る草木を、マチェットで切り拓きながら一同は進む。その行軍速度は、アスデブリだけで進んでいた時の比じゃねぇ。
現れる晶獣もすぐに兵士によって倒されている。
「よくもまぁ、こんなズンズン進めるな」
「この程度のことで驚いていては先が思いやられる。ウィルディ隊長が目をかけてくれたのだ。その面を潰すようなことはするなよ」
「へぇへぇ、そりゃもちろん」
「ゲドくんの面は既に悪いから、タイチョーと違って潰れる面はないね」
「そうそう、オレの顔みたら大抵の奴らは泣いて逃げるんだよ……ってオメェ、こらふざけんな!」
「わー」
ひょこっと話題に入ってきたルルカを追い返す。
オレのぼやきに答えたカエルム人の軍人も、こちらを見て呆れてはいるがそれだけだ。
そう、意外なことにウィルディが率いている軍人たちは、オレのこと侮ってはいるが、蔑んではいねぇ。
元々の設定でも南方の軍団は、《
脳裏に『アニキ』と呼んでくるライフ達が思い浮かんだが、慕って欲しいとは思ったがあぁいう慕われ方はごめんだ。
そうやって順調に大樹海の開拓を進めていく。
精鋭揃いなだけに順調そのものだ。
このままなにもなければなー、オレも楽できるんだが。
「うげっ、最悪だ!」
一人の兵士が、声をあげる。
見れば彼の右腕には、鳥の糞がかかっていた。空にはご丁寧に、落とした鳥が呑気に鳴きながら飛んでいた。
それを見た周囲の兵士達が笑い声をあげる。
「ぼーっとしてるからだよ」
「おいおい、ここで手で払うなよ? 指が臭くなっちまうぞ」
「くそっ、川まで耐えるしかないか」
嫌そうにしながら、兵士がそれでもと近くの葉っぱで拭おうとした。
事態が急変したのは、ひょこっと当たった糞から植物の芽が出てからだった。
「あ? なんでもう芽が出て……ぐあぁぁぁあぁぁぁッ!!?」
<キシャアァッ>
兵士の腕が一気に痩せ、骨と皮だけになる。そして急激に成長した植物が文字通り牙を剥く。
ぐばっと開かれた植物の口が、兵士の頭を鋭利な棘で貫こうとして。
オレはすぐさま槍を薙ぎ、既に植物の苗床と化していた兵士の肩肉ごと切断した。
「悪りぃな。緊急事態だったもんで」
「ふ、ぐぅ……い、いや、助かった。あのままだと植物の苗床になる所だった」
兵士は恨み言一つぶつけなかった。すぐに自分の懐から布を取り出し、止血しようとしている。
他の兵士たちはすぐに、空からの糞に注意し始める。
その飲み込みと判断の速さ。流石はウィルディ・バレットリガーが率いる精鋭部隊だ。
「わぁー!? わぁー!? 空からうんちがいっぱい降ってくるー! ルルカちゃんが汚れるー! やだー!」
……なんか一人騒いでいる奴がいるけども。
その後、別の者が負傷した兵士の治療に入る。植物によって一気に身体のあらゆる栄養を吸われたせいか、腕を切ったにも関わらず驚くほど出血は少なかった。
「全員、空からの糞に当たるな! それには植物の種が含まれている! 頭にでも当たれば即死するぞ!」
「しかし、隊長! 周囲の植物が動き出して邪魔をッ」
「まずいっ、包囲されているぞ!」
「くっ、なんてことだ……!」
糞は至る所にすでに落下していた。
すぐに辺り一面が瞬く間に襲い来る肉食植物の群生地と化す。
足の踏み場すら探すのが困難なほどに、周囲を埋め尽くす植物の猛攻。さっきの植物と言い、この世界の植物はどいつもこいつもおっかねぇなぁ。
「バルザックのしごきの方がまだ歯応えはあったなァッ!」
槍を振るい、背後から溶解液を吹きかけようとした植物を薙ぎ斬る。
確かに襲い来る植物は脅威だが、動きはそこまででもねぇ。寧ろ、まずいのは。
「周囲に気を取られ過ぎるな! 所詮は、根を張った位置からは動けぬ木偶の坊だ! こちらから近付かねば奴等にはどうしようもない。適切な距離を保ち、死角を塞げ!」
<ギャッ!?>
そう指揮をしているウィルディを狙っていた鳥に、拾った石をぶつける。
「ご苦労」
「そりゃ、どうも。でも、避けてもあんまし状況は良くないようですぜ」
地面に落ちた糞からは、また別の植物が急激に生え襲い掛かってくる。絶え間無い空からの糞を避けながら、それらを対応するのは至難の業だ。
<ゲェー! ゲェゲェゲェッッッ!>
そんな様子を見て嘲笑うかのように鳴く鳥達。むかつく鳴き声しやがる。
「態とだな。恐らくあの鳥、狙ってこの状況をつくってやがる」
「禿鷲め、自ら襲って我々を骸にして喰い漁るつもりか。ならばこのまま耐え凌ぐのは悪手という訳か。上等だ」
このまま耐え凌いでも意味はない。《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》も広範囲に広がった戦域全ての頭上を覆えるほどの量もない。
だがウィルディには何か考えがありそうだった。
「貴様達! 少しの間、植物から私を守れ!」
「「「仰せのままに!!!」」」
「あいあいさー!」
ウィルディの指令に、一糸乱れぬ返事をする兵士達。
オレですら、思わず返事しそうになった。
「マルドラーク、貴様は遊撃だ。空から落ちてくる奴らの糞を私に当たらぬようにしろ」
「はっ、無理強いをしやがる」
「ふんっ、あの《
「それを言われちゃ、無理ですとは言えねぇよなァッ、と!」
周りの兵士達は、円陣を組み殺到する植物からの猛撃を防ぐ。無論、オレもだ。つーか、オレの所が一番植物多い! やめろ、こっちウィルディを鳥の糞から守るのに忙しいんだぞ!
鳥どもめ! いやな予感がしているのか集中して狙ってきやがる!
「鳥どもめ、その少ない脳みそで考えた奇襲は確かに我々に損害を与えた。それは認めよう。しかし、その上で言おう──だから、どうした?」
ズズズッと、ウィルディの鎧から離れた銀色の液体は形が変化する。
ウィルディの両腕に集まり、変化したそれはまるで連なるように突き出た金属の棒。しかし、その実態が何かオレはよくわかる。
あれは
「飛んでいてうざったらしいッ! まとめて落ちるがいい! 〝拡散機関銃掃射〟!!!」
凄まじい勢いで放たれた弾丸の嵐が、鳥を貫いていく。
ウィルディの
いやいやいや、オメェだけ戦闘が近代戦なんだが。
周りが
クロエは泣いて良いよ。
実際シドウに、『クロエとは比べ物にならない』『どういう意味でして!?』ってギャグやってたし。
あっという間に、空に飛んでいた鳥がすり減り、糞の代わりに肉片があたり一面に降り注ぐ。
それにしても、そもそも火薬はないのにどうやって撃ち出してるんだ? 《双挺拳銃/ケルベロス》といい、まったく見当もつかん。
「これでもう空に気を配る必要はない。そして、植物の追加もない。総員! 兵士としての本分を見せろ! 一切合切掃討せよ!」
上空へ意識を割かなくて良くなった部隊は、瞬く間に食虫植物を制圧したのだった。
「川があったのは
部隊は一度川辺で休憩をとっていた。
さっきの奇襲で何人か負傷者が出たせいである。
「ねぇねぇ。ルルカちゃんについてない?」
「おー、全くついてねぇな。よくもまぁ全て避け切ったもんだ」
「むふふん、もっと褒めるがよろし」
「変わりに毛虫はついてるがな」
「にぴょー!!?」
ルルカが珍妙な声をあげる。
そのまま他の軍人達に取って取ってと騒ぐルルカを他所に、オレはウィルディへと話しかける。
「大丈夫ですかい、隊長殿」
「愚問。私をそんじょそこらの者と一緒にするな。この程度で疲弊するほど、柔な鍛え方はしていない。侮るな」
「そういう訳じゃねぇんだが……。《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》も随分消費してしまったのでは?」
ウィルディの姿であるが、先ほどとは違う。
太ももの露出はいつも通り(そもそも虫や植物が大量にいる大樹海でその格好な時点でおかしい)だが、今は鎧に覆われていたはずの肩から手まで、完全に素肌を晒している。
無敵に近い《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》だが、弱点として力を使えば使うほどに面積が狭くなっていく。それはすなわち、自らの
先ほどの攻防でウィルディは、《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》を消費した。言い換えれば露出度があがった。
太ももの露出と相まり、ちょっと痴女の領域に一歩踏み込んでいる。
《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》は攻防一体であるがゆえに、継戦能力に乏しい
「それこそ杞憂だ。このくらいであれば直ぐに元通りとなる」
不快げに言い切るウィルディ。素肌を晒していることに、なんの羞恥も感じていないようだった。
言っている間に弾として撃たれ、拾いあげた弾を手の上で握る。すると再び結合して《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》は元の重厚な鎧に戻っていった。
「なら良いんだが……」
「なんだ、まだ心配するのか? それ以上は侮蔑と受け取るぞ」
それでも何故オレが執拗に気にするのかってゆーと、原作における『リベリオン/戦禍の夜明け』のウィルディの結末のせいだ。
ウィルディ・バレットリガーは《
この辺りになると《
当然、それを弾圧すべく帝国も動き出した。
しかし残念ながら腐った地方統治軍では抑えきれず、しかも帝国と戦争中の〝アライアンス同盟〟がこれを機として攻勢を強めた。
そこで、《
とはいえ、如何に《
《
だが、情勢がそれを許さなかった。
不安定になりつつある
だが、その為には対峙する相手をどうにかする必要がある。
その兵器の名前は、〝
あの忌々しい《レイ=スペクトール工廠》も設定では携わったという、
トイープが
《
既存の
その一つに選ばれた《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》。
使用者によってあらゆる武器へと姿形を変形させる、銀の液体。
これが基本だ。それ故に弱点である継戦能力の低さを補うべく、自身の身体に《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》を取り込み、その血肉そのものを〝
それ故にウィルディは身体が鋼鉄に匹敵する硬さになり、更には付近の金属をその柔軟性、液体性から飲み込み、触れた物をそのまま
『リベリオン/戦禍の夜明け』においては、身体どころか心までもが鋼鉄になったウィルディは、《エニアグラム》との決戦時、敵を葬り去る為に《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》の銀の液体を都市全体に侵蝕、味方ごと攻撃に巻き込んだ。
因みにこの時に
『兵士とは、国家をあだなす敵を撃つ
もはや自軍で立っているのは自分だけにも関わらず、支離滅裂な狂面で、そう叫んでいた。
それこそが〝
次第に〝
当然だ。元々変化型の
〝
己の武器とするために、都市を取り込み、あらゆる兵器と人命を素体とした。当然、自軍諸共武器とするウィルディに最早ついて行く者はおらず、兵士達は逃走。
それでも一人で《エニアグラム》とも激闘を繰り広げ、最期はディグルによって討たれたが、同時にディグルに消えぬ心の傷を残した。
そして、その隙を突かれセレスティアラによって《エニアグラム》の位置がバレれ、結果が半壊という有様だ。
つまり『リベリオン/戦禍の夜明け』がダークファンタジーとして物語が加速していく為の、ターニングポイントだと言えるだろう。
今のウィルディにその予兆は無いが油断は禁物だろう。
いつ〝
バレットリガー姉妹の、悲劇的な最期を迎えさせないために。
「そうだ、〝
誰にも聞こえない小声で呟く。
〝
《