拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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過去の栄光

 

 あの後、倒された兵士はそのまま別の軍人に渡された。

 オレたちは称賛する民衆から離れ、今は壁の近くで会話している。

 

「しかし、よかったのか? 新しいアイスをもらわなくて」

 

「ふん、私は別に報酬が欲しくてあぁしたのではない。帝国軍人として、当たり前のことをしただけだ」

 

 あの後、アイス屋から新たなアイスを提供すると申し出があったが、ウィルディは頑なに受け取らなかった。多分、軍人としての責務を果たしただけとしか思っていないのだろう。真面目なこって。

 

 顔はキリッとしているが、眉が八の字で完璧にしょんぼりしてるのがわかるんだよなぁ。

 

「じゃあ、オレのを渡しますよ」

 

「! 良いのか?」

 

「まぁ、ちょっと溶けてる上に一口オレが齧っちまってるが……」

 

「いや、構わない。ありがたくいただこう」

 

 言葉では冷静だが、口元は喜びが隠しきれていない。

 オレから受け取ったアイスを躊躇なく、口に含もうとする。

 

「でよぉ〜、ほんと最近晶獣がやばくってさぁ。毎日死ぬって思ってんだよ。ま、あんたみたいな美人に会うために、死ぬわけにはいかないけどさー」

 

「なにそれ、へんなのー」

 

 その時視界の隅に見覚えのある顔を見つけた。

 

 うげぇ!!? ライフ! あのやろうがいやがる!

 

 しかも女を連れてやがる! あいつ、そのせいで左遷されたとか言ってたのに懲りずにまた女口説いたのかよ!?

 てかこのままくるとあいつにバレる! それはまずい!

 

「むぐっ!?」

 

 オレはウィルディごと、視線から逃れるように壁側へと向かう。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、知り合いの声が聞こえた気がしたんだ」

 

「へぇ〜、ともだち?」

 

「おうよ。顔は俺みたいなイケメンフェイスじゃないが、面倒見は良いやつでなぁ。口ではあーだーこーだ言いながらも、見捨てずに付き合ってくれるんだぜ。この間も──」

 

 ライフたちは、そのまま通り過ぎていく。

 壁際にいたオレたちには気付いていないようだった。ほっと、息を吐く。すると下から凄まじいまでの視線を感じた。

 

「きさま……」

 

 見ればウィルディを壁ドンする体勢になっていた。

 不満気に、変に迫ったせいで口元にアイスがついた状態で睨みあげてくる。……やっべ。

 

「すいません! ほんとうにすみません!」

 

「……はぁ。かまわん、ただし次はないぞ」

 

 そのままぺろり、と舌で唇についたアイスを舐めとる。

 よ、よかった。殺されるかとおもった。

 

「えっと、さっきのことだが」

 

「裏切り者の妹ということか?」

 

 いや、違うんだけど。

 

 壁ドンした理由を言おうとしたら勘違いされた。

 

 しかし、否定するのも怖かったので曖昧に頷く。

 

「貴様も聞いたことがあるだろう。私の姉上はかつての《四軸将軍(グランドクロス)》の一人、ディグル・パトリシア・バレットリガーだ」

 

 知ってる。

 けどまさか本人の口から語られるとは思わなかった。

 

「姉上はすごかった。貴族の通うことができる帝国最高峰の学園においても、セレスティアラ殿下に次ぐ成績を残していた。バレットリガー家の最高傑作と言われても不思議ではなかったし、実際私とて姉上に憧れていた」

 

 だが、その目は何処か遠くを見つめている。

 

「《紅血の先槍》事変。姉上が起こしたあの事変により、帝国西方に広がる軍の半数(・・)が姉上側に付き、そのまま革命軍へと合流してしまった。結果、カエレスティス帝国はあと少しで決着がついた〝アライアンス同盟〟との戦いに敗れた。結果、今も続く泥沼の戦争を強いられている」

 

 くしゃり、とアイスを入れていた紙コップを握りしめる。

 

 〝アライアンス同盟〟は、帝国南方に位置する、帝国の脅威に対抗すべく連盟を組んだ諸外国の集まりだ。作中ではほとんどフレーバーテキストに過ぎなかったが、劇場版では舞台となったりもした。

 

「姉上が何を見て、この国に反旗を翻したのかは知らない。だが、その結果としてバレットリガー家は辺境伯の地位を剥奪された。かつては、帝国の先槍とまで称されたバレットリガー家は最早見る影もない」

 

 ウィルディは知らないが、オレは知っている。

 ディグルがカエレスティス帝国を裏切ったのは、帝国の腐敗と虐げられる人々を見捨てられなかったからだ。

 

 その上でウィルディを連れ出さなかったのは巻き込みたくなかったからだ。当時まだ幼いウィルディは、親達の非人道的な行いも帝国の腐敗も知らなかった。だからこそ、家が取り潰しになった際にも、親と違って罪には問われなかった。

 

 ウィルディには才能がある。

 

 当時既に《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》の所有者だったウィルディは、そのまま育てば《サイデリアル》にも到達できると確信していた。

 そしてだからこそ、苦手としつつも、当時から頭角を表していたセレスティアラが能力をあるウィルディを無碍(むげ)にしないだろうという思惑があった。

 

 ディグルとセレスティアラは、貴族学校時代からの知り合いであるのだ。つまり、ディグルはセレスティアラの本質──良くも悪くも平等に判断し、帝国の利益となることを選ぶということを、見抜いていたからこその行動だった。

 そうじゃなきゃ、連座で処刑の可能性があるのに帝国に置いていったりはしねぇ。

 

 だが、結果としてウィルディはそんな姉の内心など知らず、裏切った姉への増悪を募らせた。何故なら、ディグルの裏切りによって、己を除いた親族全てが極刑に処された。

 

 まぁ、ディグルやウィルディ以外の腐敗したバレットリガー家はいらないとセレスティアラの思惑があったんだがな。

 

 帝国の先槍。それはかつてのバレットリガー家の名誉の称号。しかし、その栄光は過去のもの。先祖の財産を食い潰し、立場に驕った今のバレットリガー家に価値はない。ディグルとウィルディを除けば必要ないとされたのだ。

 

 ディグルも作中で《錆槍》と自嘲したくらいには、もはや過去の栄光に縋っていただけの家系だったらしい。

 

「もし今ディグル将軍と会えたらどうするんですか?」

 

「……決まっている。私の手で決着をつける。それがケジメだ」

 

 何処か遠くを見ながらハッキリと告げた。その目の先にあるのは、幸せな頃の思い出か、それとも姉を自らの手で討つ未来か。

 

 どちらかは知らねぇ。でもな、はっきりとオレは知っていることがある。

 

 アンタはただ、姉にどうして置いて行ったのかを直接問いかけたいだけだって。それを、帝国に利用されたに過ぎないってことを。その結果が滅霊装(パルバースト)に呑まれ、狂気を振り撒き、姉に討たれた最期だってことを。

 

「アイス、美味しかった。また、明日はより深く大樹海へと向かう。英気を養っておけよ」

 

「どうしてどいつもこいつも不器用なのかねぇ」

 

 ただでさえ、残酷で厳しいこの世界。

 

 肉親同士で殺し合わねばならぬ現実に、ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 そんな日があってから、後日。

 パイオニア駐屯地にて。

 

「何をしている! キビキビ走れ! 晶獣の相手にそんな体たらくで、なんとかなると思っているのか!」

 

「ひぃ、ひぃ、なんで俺らまで、こんなことしなくちゃならないんだよぉ〜!」

 

「知り、ませんよぉ! いつもの、無茶なっ、命令よりはましでしょう……!?」

 

 今現在、アスデブリたちは走らされていた。しかも重り付きで。

 

 教鞭をとっているのは、やはりウィルディだった。てか、自分の部隊があるだろうに、なんでアスデブリの鍛錬の指揮までやってんだ。

 

「……ウィルディ・バレットリガーは我々アスデブリにも、たまにああして稽古をつけてくれる。損耗率を抑えるための必要なことだと。キツイが、理不尽ではない。きちんと褒美もくれるからな」

 

「へぇ、そうなのか。ま、これくらいで根をあげてたら生き残れねぇよな」

 

「うるせぇぞ、そこの二人!」

 

「自分たちにできること、ボクらもできると思わないでくださいよ……!」

 

 バレルと一緒に余裕で会話してたら、ライフとリグからツッコミがはいった。

 だって本当にこの程度で根をあげてたら、オレこれまで生き残れなかったし。

 

「よし! 5分の休憩をやろう。息を整えておけ!」

 

 その言葉と共に、ほとんどのアスデブリが膝をついた。

 死屍累々、荒く呼吸する音とうめき声だけが響き渡る。

 

「ほい、どうぞー。ほい、どうぞー。ルルカお手製の、汲んできた水だよー。よきにはからえー、ちゃんとルルカちゃんに感謝して拝むのだー」

 

「うおぉぉぉ! あ、ありがてぇ……!」

 

「女神だ、女神がいる……!」

 

「ぶい! ルルカちゃんは、みんなのアイドルなのです! もっと褒めて、崇めて、推すがよろし」

 

 そんなアスデブリに対してルルカは水を振る舞って、崇められていた。あいつなにやってんだ、乗せられる方も乗せられる方だが。そもそも、アスデブリが疲弊しているのそっちの上官のせいだろ。マッチポンプじゃねぇか。

 

 水はありがたくいただくけどよ。

 

「ぷはっ、うめぇー……。そうそうゲドウの兄貴。お前さ、昨日なんか女性と一緒にいなかったか?」

 

「ぶっ!」

 

 思わず口に含んでいた水を吹き出す。

 

「ごほっごほっ、オメェ、いきなりなにをっ。てか、気付いてたのか!?」

 

「いや、なんかお取り込み中だったから気付かない方がよいかなーって。それに女性とデート中に他の女に見惚れるのは、マナー違反だろ?」

 

 変なことで気を使うんじゃねぇよ!

 

「で? で? どういう関係なんだよ?」

 

「ちょっと気が合っただけの女性だ。オメェが勘繰ってるようなヤツじゃねぇよ」

 

「じゃあ、アドバイスしといてやるよ。女ってのはこわいぞぉ。こっちの変化に機敏に気付きやがる。好きになってくれたんなら、きちんと対応するんだぞ。言わなくてもわかってくれるとか論外だ。ちゃんと、感謝を口に出すんだぜ。釣った魚には餌をやれよ」

 

「あいにくとオレはそんな仲になった女性がいる覚えはねぇな」

 

 殺しにくる(ムメイとクロエ)なら覚えがあるが。

 

「そうかぁ? 俺の見立てじゃゲドウの兄貴は、なんかめんどくさそうな奴に好かれそうな気があるが。あれだ、ギャップ萌えってやつだな。人相悪いし、口も悪いのに、面倒見が良くてわりと気遣いができるからより良く見えるんだ」

 

「褒めるのか貶すのかどっちかにしやがれ。それに、オレは女よりもどちらかというと、(バルザックやヴァンサン)にケツを追われてる覚えしかねぇよ」

 

「え゛っ。そ、そうか。まぁ、モテるってのは悪いことじゃないぞ、うん。それが男相手でも、うん」

 

「ゲドウの兄貴……苦労しているのですね」

 

 オレの言葉にライフはドン引き、リグは痛ましいものを見る目で見てきやがる。うるせぇ、なんでオレもろくな連中が周りにいないのかわからねぇんだよ。

 

「……ドンマイ」

 

 バレル、テメェも慰めるように肩に手を置くんじゃねぇ!

 

「休憩は終わりだ! 次の鍛錬を始めるぞ! さっさと配備につけ!」

 

 ウィルディから号令がかかる。

 うへー、すげぇ厳しさ。前日見たウィルディは、幻だったのかも知れねぇ。

 

「あのアイス屋だが、どうやら新しいアイスを発売したらしい。だから、機会があればまた付き合え。わかったな?」

 

 すれ違う時、小声でそんなことが聞こえた。

 

 なんか、思ったよりも気に入られた……のか? とりあえず、オレは曖昧に苦笑いしておいた。




コメントに笑いました。
ヒロイン(メリス、セレスティアラ)と同数の男(バルザック、ヴァンサン)が悔しがるとか、ゲドウは変なのに好かれ過ぎている。
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