拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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メリスサイドのお話です。


特務兵装開発部(アルカナム)》での一幕

 

 カエレスティス帝国には様々な機関が存在する。

 

 国そのものの行く末を決める皇帝を始めとした行政機関に各種統治機構。それらは高度に組織化され、拡大する領土に伴い、常日頃から膨大とも言える仕事を処理する必要があった。

 

 中でも帝国が一際力を入れているのが医療技術と武器開発部門である。

 

 世界の3分の1を支配しているといっても良い帝国であるが、度重なる戦争による被害は決して無視出来るものではなく、じわじわと真綿で首を絞めるかのように財政に影響を与えてはいた。

 

 確かに虎の子である輝征装(エアラリス)は存在する。

 

 だが、その半数は長きに渡る戦乱により行方知れずとなっており、更には敵対する勢力に渡っていることもあり、それにより大きな損害を受けたこともあった。

 

 近年は、帝国に対抗する為に幾つもの国家が同盟を組むこともあり、領土拡張の方も停滞しつつある。

 

 それ故に輝征装(エアラリス)程とは言わずとも、今までに替わる武器の開発を急かされていた。同時に、兵器ではなく人そのものをより強化出来ないかと、非道かつ残虐な研究も進められていた。

 

 しかし、その筆頭であった《国家機密研究局(ゲマトリア)》が壊滅の憂き目にあい、この試みは停滞してしまっている。

 

 そこで注目を集めているのが特務兵装開発部(アルカナム)。天才と名高いトイープ・ホルミスを主任とした開発機関である。

 

 同時にメリスが配属された場所である。

 

 《レイ=スペクトール工廠》とは別の、宰相セレスティアラによって作られたこの組織は、日夜新たな兵器の開発に勤しんでいた。

 

「そこッ!」

 

 そんな《特務兵装開発部(アルカナム)》の兵器実験施設にて。

 

 メリスは戦戎具(サテライト)を手に、襲いくる絡繰式の仮想敵を倒していく。

 

<ジ、ジジジ……>

「よし。……あ」

 

 順調そのもの、絡繰人形を次々と撃破するも途中で戦戎具(サテライト)が限界を迎え、破損する。

 

「ねぇ、トイープ。また壊れたんだけど」

 

「えぇ〜!? またかいっ!?」

 

 メリスの言葉に、《特務兵装開発部(アルカナム)》の主任トイープ・ホルミスは不満げな声をあげた。

 

「扱いが雑なんだよぉ〜! もっと丁寧に扱ってくれたまえよぉ。それこそハンカチで包んで、幼子に頬の涙を拭いてやるくらいに扱ってくれたまえよぉ!」

 

「それ、武器としての本質忘れてない?」

 

「ボクにとってそれは我が子も同然なんだよ。よよよ、かわいそうにボクの戦戎具(サテライト)。……ふむ、やはり接合部の錬金技術がまだ改善の余地ありだね。しかし、今の技術力ではこれが限界か……。いや、最近発掘されたあれを使えば……」

 

 見せていた涙はどこへやら、直ぐに研究者の顔となる。

 

「ずっとその顔でいたら尊敬しないであげても良いのに」

 

「にぇ〜!? むりむり! なんであたしに全部向かってくるのぉ〜!!?」

 

 呆れていると、情けない悲鳴が聞こえてくる。

 

 《サイデリアル》ではなく、《特務兵装開発部(アルカナム)》へと配属になったニェーニだ。

 

 ニェーニも輝征装(エアラリス)の《五罰一誅/スタウロス》ではなく、それに似た形状の戦戎具(サテライト)を構えていたが、凄まじい数の絡繰り人形に追われていた。これでは多勢に無勢、なすすべなく追いかけ回される。

 

「うむぅ? 誤作動かい? おかしいねぇ、メンテナンスは昨日したばかりなんだがねぇ」

 

「ほんとうに、運の悪さの相変わらずね」

 

「どうでも良いからはやく止めてぇ〜!?」

 

 泣き言を言うニェーニを、ため息を吐きながらメリスは助けるのだった。

 

「お疲れ様です。《特務兵装開発部(アルカナム)》宛に差し入れが届いております」

 

 戦戎具(サテライト)が壊れたこともあり、休憩をとっているとやってきたのは、ヴェルヌントである。相変わらず生真面目そうなヴェルヌントが持ってきたのは、切り分けられた円形のチーズであった。

 

「お〜やまぁ、中々に豪華じゃないか。ちなみに差出人は?」

 

「ヴァンサン・フーディ卿ですね」

 

「え。それってつまり……」

 

「つ、つかれた……。あ! チーズなんて良いじゃない! もらうわね!」

 

 名前を聞いた途端に身構えるメリス。

 

 対してそこに疲れ果てたニェーニがやってきて、なんの疑問もなくチーズを口に含んだ。

 

「んぅ〜! すっごく濃厚で美味しい! 食べたことない味だわ! ん? でも、なんかプチプチと弾ける食感が……、これってな……に…………」

 

 疑問に思ったニェーニが手に残るチーズを覗き見る。

 そこにあったのは美味しそうなチーズと、中を縦横無尽に蠢く虫の幼虫(・・・・)の姿。

 

「に〝ぇ〝ッ」

 

「ニェーニ!!?」

 

 自分が何を食べたのか悟ったニェーニ、哀れ彼女はそのまま卒倒した。トイープはしげしげとチーズを観察する。

 

「これは確か統治領(コルニア)・Ⅲで有名だったチーズだねぇ。幼虫の力を借りて発酵させているとか。あっはっはぁ! とんだ奇食だねぇ! ……さすがにボクもこれは良いかな」

 

「わたしも絶対食べないから」

 

「ではしまっときますね」

 

 何事もなかったかのように、ヴェルヌントがチーズをしまう。犠牲になったのは、ニェーニだけである。

 

「随分と退屈そうじゃぁ〜な〜いか?」

 

「そりゃ、来る日も来る日も同じことの繰り返しだもの。わたしは強くなる、そう決めたのに。相手をするのはヒトもどきの、絡繰り人形ばっかり」

 

 これで歯応えがあるなら別だったが、相手は意志のない絡繰人形。たまに兵士が来ても、メリスには遠く及ばない。

 

「ふぅ〜む。やっぱり、君が焦がれている彼と離れたのが不満なのかなぁ?」

「んな!? こ、焦がれてるって……!?」

 

「おやお〜や、当たりかい? んふふ〜、この天才美少女にかかれば恋模様について見抜くことなどお茶の子とさいさいさぁ」

 

「嘘つかないでください。貴方、恋したことないでしょう」

 

 戻ってきたヴェルヌントは、メリスに紅茶を渡す。

 メリスはぺこり、とヴェルヌントに頭を下げた。一方で否定されたトイープは、不満気に唇を尖らせる。

 

「なら、きみはどうなんだい? モルモットくぅ〜ん? きみは胸が高鳴る恋をしたことがあるのかね?」

 

「生憎と必要がございませんので。恋は、所詮生物が繁殖するための手段に過ぎません。当方には、意味の無い行為(・・・・・・・)です」

 

「ボクより人の心がないことを言うねぇ、きみ……」

 

「えぇ……」

 

 流石に常識人のヴェルヌントからそんな、にべもない返答が来ると思っていなかったので、メリスも何とも言えなくなる。

 

「でもまぁ、確かに気にはかかるねぇ。なにせ、彼が派遣されたところは帝国でも屈指の危険地帯だからね」

 

「そんなにやばいの?」

 

「そうだねぇ〜。晶獣がひしめき合うし、アスデブリの死傷率もやばい、正に激戦区と言っても過言ではないねぇ」

 

「やっぱそうなんだ……」

 

 ゲドウが異動となったカンネビュラ大樹海は、かつて一緒に通っていたオルビス大森林よりも、遥かに危険かつ広大な樹海と聞いていた。ゲドウのことは信頼しているし、強さのこともわかっているけども、それでも心配してしまう。

 

『なんだそんなにもあの男が心配か? くかか、ワレからすれば多少痛い目にあえばいい。何せ、あやつは不敬にもワレに、何度も雷を喰らわせてきよったからなぁ』

 

「ふんっ」

 

『ぐへぇあっ!?』

 

「いかがいたしましたか。急に胸を叩いて」

 

 《悪魔の心臓/デモゴルゴン》が嘲笑うのを物理で黙らせる。側から見て奇行なので、ヴェルヌントが心配する。メリスはなんでもない、と手を振った。

 

「ふぅむ。仕方ないねぇ」

 

 その様子を見たトイープが考え込む。

 

「確かに戦戎具(サテライト)の方のテストはもう十分と言って良いだろう。きみのおかげで幾つかの問題点も洗えた。つぎは晶獣と実戦で確かめたかったんだぁよ」

 

「貴方。そんなこと言って、本当は貴重な晶獣の素材を欲しがっているだけでしょう」

 

 ヴェルヌントがトイープの言葉を、ばっさり切り捨てる。

 

「人聞きの悪いことを言わないでほしいなぁ、モルモットくぅん。ボクはひとえにこの国を想ってこそさぁ。人々は晶獣を退治されて助かる。メリスくんは、ゲドウ氏に会えて喜ぶ。ボクは晶獣の素材が手に入って嬉しい。みんな、ハッピーハッピーハッピィ〜ではないかい?」

 

「確かに仰ることは正しいですね。ただ、あそこは《四軸将軍(グランドクロス)》ガメツイ殿の管轄です。我々が口を挟むと、難色を示すのでは?」

 

「大丈夫だよ〜、東の《四軸将軍(グランドクロス)》ならともかく、南の彼は俗物だからねぇ〜。完成された暁には、優遇して配備するって言えばいいさぁ」

 

「……因みに口約束で?」

 

「当然だろぉ? ボクが殿下の指示なしに、勝手に新兵器の融通なんてするわけないじゃないかぁ?」

 

 悪びれもせず、約束を反故すると語るトイープ。最も、彼女からすれば証拠もない単なる世間話──それも向こうが勘違いしただけの話だ。

 

「そんなんだから敵を増やすのですよ。学院から追い出された理由がわからないのですか?」

 

「違うねぇ、自ら出て行ったんだよ。もう得るものはなかったからかねぇ」

 

「学院?」

 

「そぉ〜ともぉ! 帝国屈指の学院さぁ! セレスティアラ殿下も通っていたところだぁよ。そういえば、きみも何処かに通っていたのかい? 言葉使いもかなり流暢だし、頭の回転の悪くないよねぇ?」

 

 無駄に語彙量が増えたのはナクアの所為である。

 

 彼は、メリスに人体実験を行う際に今から何をするのか、それがどうやって作られたのかを長々と語っていたのだ。

 

「わるいけど、あんまり思い出したくないの。それよりも行くって、どうやって? ここからじゃ、ゲドウのいるところまでかなり距離があるんじゃ」

 

「ふっふっふ、実はそれも問題ないのさ。来たまえ」

 

 したり顔でトイープは笑い、メリスを《国家機密研究局(ゲマトリア)》の倉庫の一つへ案内する。

 

「……え、なにこれ?」

 

「じゃ〜ん! みたまえ! これが帝国の次世代の交通手段である、〝走行騎ケプラー(・・・・・・・)〟さぁ!」

 

 そこにあったのは、奇妙な物体。

 ゲドウから見れば、タイヤのないバイクであると語っただろう。タイヤ部分は代わりに円形のリングが取り付けられ、後部には大型の推進ユニットが備え付けられ、車体の半分を占めている。

 

 一目見て異形の形に、メリスも困惑した。

 

「のんのん。コイツをこれまでの晶獣を使った存在と、一緒にしてもらっては困るねぇ。これはね、個人で操作できる移動手段なのだよ。百聞は一見にしかず、とりあえず乗ってみなよぉ」

 

 そのまま言われるがまま、ハンドルを軽く捻る。

 

「わわっ!?」

 

 浮いた(・・・)

 

 もちろんそれはメリスの足首程度の高さではあるが、確かに浮いている。

 

「驚いたかい? 〝走行騎ケプラー〟は浮遊(ホバー)する車両さぁ! その移動速度はこれまで晶獣を使った交通手段とは、比べ物にならない! 道だって、舗装されてなくても関係ない! これが量産化された暁には、《天刑護騎士(アストロノーツ)》がこれまでの比ではない速度で現地に向かうことができる! 戦場の図式が変わるよぉ!」

 

「代わりに1台あたりの値段が、凄まじいことになってますけどね」

 

 いつもの調子で話す二人に対して、メリスは複雑そうな顔をした。

 

 カエルム人はプライドが高い。しかし、やはりその技術力の高さには目を見張るものがあった。

 

「ま、それはそれとしてまずは慣れないと話にならないけどねぇ。で、どうだい? やる気はあるかい?」

「もちろん、やるよ」

 

 これを扱えるようになれば、これまでよりも早いスピードで移動することができる。

 

 そしてなにより。

 

「なんか、カッコいい……! ゲドウとあったら、後ろに乗せてあげて一緒に疾走(ドライブ)するんだ……!」

 

 目を輝かせる、そんな野望を胸にメリスは、〝走行騎ケプラー〟の練習に励むのであった。

 

 

 

 

「わ、わわわ!? 飛んでる、すごっ、あたし飛んでるわ! 飛んで……いや、飛びすぎぃ!? た、たたた、たすけてぇ〜!!!」

 

 途中不具合でもおきたのか、ニェーニの乗った〝走行騎ケプラー〟が暴走することがあったものの、メリスは着実に腕を磨き続けるのであった。

 

 向かう先は、カエレスティス帝国南方、カンネビュラ大樹海。

 

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