拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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パイオニア駐屯地、陥落

 

 パイオニア駐屯地は、帝国にとってカンネビュラ大樹海を進行するための橋頭堡である。

 

 大樹海から齎される資源、晶獣の素材。

 当然危険も跳ね上がり、それらを得る為に、大樹海へと向かう者達は精強な精鋭に限られていた。

 

 逆に言えばこの駐屯地に配備された守備隊は、よくも悪くも守ることだけを目的とした兵士達だ。

 

 もちろん、ガメツイが語った通り晶獣がこの駐屯地を攻めようとも、(おと)すことは容易ではない。

 

 普段であれば、それで十分だった。

 

 だが、今日は違った(・・・・・・)

 

「なんだあの鳥の群れは!?」

 

 目の良い一人のカエルム人兵士の言葉を発端に、周りも異常に気づき始めた。空を覆い尽くすレベルの、あらゆる鳥が駐屯地の空を舞っていた。

 

「多い……! 空を覆い尽くす程だぞ!」

 

「こんなに大量な鳥、見たことがねぇっ」

 

「だが、見た限りあれらは全て小さな鳥だ。群れでの移動か? だとしてもあの数は見たことがないが」

 

 此処にウィルディが居れば、すぐさま臨戦体制に臨むように指示を出したであろう。何故なら彼女は、大樹海で同じような鳥相手に苦戦を強いられたからだ。

 

 しかし、ここに勤めている兵士達はわかりやすく巨大な晶獣でなく、単なる小さな鳥の大群であるだけで、それが脅威だとは思わなかった。

 

「何? 鳥だと? そんな程度でいちいち報告してくるな」

 

 ましてや、《四軸将軍(グランドクロス)》であるガメツイは駐屯地に招いた商人達をもてなすのに忙しく、「鳥ごときさっさと追っ払え」程度にしか指示を出さなかった。

 

 当然、そんな指示だけでは大型の兵器を使うことなく、それぞれの手持ち武器で対処することになる。

 

 それでも多少は駆除できるがやはり数が多い。

 

 よってアスデブリも駆り出されることになり、そこにはライフ、リグ、バレルといった面々もいた。

 

「なんで俺達、鳥を追いかけてるんだろうな」

 

「大樹海に問答無用で連れて行かれた、ゲドウの兄貴よりはマシですよ」

 

「そりゃ同意だな。んで、バレル。お前は何をずっと見てんだ?」

 

 ジッと、険しい顔で空を見上げるバレルにライフが問いかける。

 

「……いや、妙だと思ってな。あの鳥達、何が目的で此処に来た?」

 

「そりゃ単なる移動だろ」

 

「しかしさっきからこの鳥はずっと我々の上を旋回している。まるで囲むように……」

 

 バレルの言葉を待っていたかのように、頭上から大量のきのみ、そして糞が降り注ぐ。

 

 誰もがそれを見て、厄介そうに顔を顰めるだけで脅威に気付かなかった。

 

 しかり、降り注ぐのは鬱陶しい。

 なので各々が、空の鳥を仕留めようと躍起になる。

 

 そう、全員が()しか見ていなかった。

 

「……!? 全員! 足元に注意しろ!」 

 

「はぁ? いきなりなにを言って……なに!?」

 

 バレルが叫ぶ。訝しげにしたライフだが、すぐに異常に気付いた。

 

 地面へと落ちた種が瞬く間に発芽。バキバキと、地面を割り、多種多様な植物が姿を現した。

 

「植物!? なんでいきなりこんな育つのですか!?」

 

「空からのに当たるな! さっき身体中の栄養を根こそぎ吸い取られたカエルム人兵士を見た!」

 

「んなむちゃな!?」

 

 バレルの言葉に、ライフは叫ぶ。

 

 空からは種が降り注ぐ。それを躱そうとも落下した種はすぐに成長し、植物により連絡路すらズタズタに引き裂かれた。堅牢な防衛施設は何の役にも立たず、部隊は散り散りになる。

 

 更には、その植物がまるで意思を持つかのように襲いかかってきた。

 

「おいおい、駐屯地の内部は安全じゃなかったのかよォッ!?」

 

「喋ってないで手を動かしてください!」

 

 襲いくる植物を、必死になって捌くリグとライフ。

 

 中でも一際目立つのはバレルだった。彼は無言で襲いくる植物の嵐を、返り討ちにする。その凄まじさは、彼のところだけ除草剤を撒いたかの勢いだ。

 

「流石バレルだぜ、アニキが来る前はアスデブリの中でトップの討伐保持者だっただけはあるな」

 

 動揺が激しいカエルム人兵士よりも、アスデブリの方が戦えていた。

 

 カエルム人も、装備は悪くないのだがいかんせん不意打ちに対する動揺が大きかった。

 

 なのでライフたちは、まだ余裕があった。

 

「こ、これならなんとかなりそうですね」

 

「だと良いけどな。てか、なんでこんなことが。鳥が駐屯地でも狙っているってか?」

 

 そんな風に会話していたからこそ、ライフは気付いた。

 疲弊しているリグの背後に、鋭い葉っぱの植物が今にも貫こうとしていることに。

 

「リグッ!」

「え──?」

 

 次の瞬間、鮮血が舞った。

 

 

 

◇◇◇

 

 全力で大樹海を疾走する。

 

「はひ、はひ、はひぃぃ〜っ、た、たいちょお〜……! 走るのきついよぉ……!」

 

「黙って足を動かせ! くそっ、なんたることだ。不在中に狙われるとは……!」

 

 バレットリガー隊は、晶獣調査の為に大樹海の奥へと向かっていた為、とんぼ返りをすることになった。

 

 だが言うは易しである。安全な道などないカンネビュラ大樹海で、早急に戻るなんて至難の業だ。

 

 何せ、道らしい道はない。装備を持っているからこそ、なおのことキツい。

 

 それでも足を動かしていると、肩に何かが乗っかる感触がした。

 

「ふぅ、一息つけた」

 

「なんでオレに乗るんだよ!」

 

「ルルカちゃんはもう足が棒なのです。だから小休憩が必要。乗り心地は悪いけど、速さは合格だよ」

 

「このっ」

 

「やかましいぞ! 黙って走れ!」

 

 くそ、オレまで怒られちまった。

 

 しょうがないのでそのまま走り、やがてパイオニア駐屯地が見えると同時に息を呑んだ。

 

「何だあの光景は……!?」

 

 駐屯地があるはずの場所は、巨大な植物が蔓延る箱庭と化していた。

 壁は壊され、多種多様な植物が跋扈する。まるでカンネビュラ大樹海と同じように。それを見たバレットリガー隊は絶句する。

 

 ウィルディも歯を食いしばった。

 

「時間がない、このまま突入する! 各員、隊列を縮めながら着いてこい! 離れれば孤立するぞ!」

 

「しかし、隊長! あそこを突破するのは至難かと!」

 

「問題はない。私が道を切り拓く! 〝穿ち突撃する刃槍(シェイスティンガー)〟!」

 

 《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》が変形し、巨大なドリルとなった。

 

 ウィルディの身長以上の大きさのドリルは、一直線上の植物全てを混ぜ斬った。

 

 よく見たら槍の先が数多の刃が飛び出し、ドリルのように回転していた。殺意たっけぇな。ミキサーに突っ込まれたようなもんだ、そりゃズタズタになるわ。

 

 そのまま開けた空間に突入する。

 

 途端に周囲の植物が蠢き出す。

 

「ツーマンセルを組め! 周囲全てが敵だ、互いに背後を守りあわねばあっという間に喰われるぞ!」

 

 ウィルディの言う通り、部隊は二人一組となって突き進む。もちろんオレもだ。襲いくる植物を撫で斬り、すぐに違和感に気づく。

 

「殺意に溢れてやがる」

 

 植物に殺意や敵意はない。

 奴らはたしかに人を襲ってくるが、それはあくまで繁殖のため、あるいは防御のためだ。こんな殺気だった攻撃をしてくるはずがない。

 

 こりゃ、もしかして本当に当たりかもしれねぇ。

 

「タイチョー、ルルカちゃんらの道を塞ぐように植物がはえてる!」

 

「あぁ、明らかに何者かによって操作されている。そして、そんなことが出来るのは輝征装(エアラリス)しかない!」

 

 ウィルディもまたこの異常事態が、輝征装(エアラリス)によるものだと気付いたようだった。

 

「くすくすくす、驚いたわぁ。こーんなにも容易くここまで来られるなんてなぁ」

 

 そしてその言葉を待っていたかのように、場違いに笑い声が響き渡る。戦場に似つかわしくない、楽し気な女の声だ。全員がその声の持ち主を警戒する。

 

 そしてオレは、やっぱりかよと思った。

 

 この声の持ち主をオレは知っている。だって『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』で聴いたことがあるからな。

 

 やがて地面から一際大きな蕾が現れた。

 そこから蒼い薔薇のような花びらが開き、中心には一人の女がいた。

 

「さて、さて。愚かなる帝国はんの臣民ら諸君、ごきげんよう。妾の名はカヤノスィノ。尊き森の民の血を引く者でありしんす。以後、よろしゅうな」

 

 ころころと鈴の鳴るような声で名乗る、薔薇の花冠をつけた女──カヤノスィノがオレたちの前に現れた。

 

 

 その姿は『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』に登場する『三大罪人(シン・トリアス)』が一人、カヤノスィノで間違いなかった。

 

 

 カヤノスィノは薔薇の咲いた荊を、身体の至る所に巻き付けている。

 それによって局部を隠している。いや、隠しているっていうかそこしか(・・・・)隠してないというか。

 

 すごく、えっちだ。いや、えっちを通り越して破廉恥だ。

 

 どうでもいいけど痛くねぇのか、あの格好。薔薇の棘ってかなり鋭いはずだが。

 

 一方で下半身に関しては、負けず劣らずの痴女具合なウィルディが声をあげる。

 

「何が目的だ! このような暴挙に出るなど!」

 

「あらまぁ、怖いわぁ。でもまぁ、ここまで戻ってきたさかい聞かせてあげようやないの。──自然の天秤を元に戻すためや」

 

「何だと?」

 

 要領の得ない回答に訝しむ。実際オレもだ。

 

 カヤノスィノは滔々と語る。

 

「あんさんらはやり過ぎた。欲望のままの殺戮。大地の汚染。今、大樹海は怒ってはる。怨嗟の声をあげて、あんさんらに復讐をと乞いておる。そんなあんさんらを、自然へと還らせるのが、妾の役目や」

 

「何を語るかと思えば空想虚言か。貴様に必要なのは、医者の方だな」

 

「いいや、妾には聞こえてるんよ。木々の、森の声がなぁ」

 

 カヤノスィノは自身が手に持つ、先の丸まり中心に琥珀のようなものが嵌め込まれた輝征装(エアラリス)を掲げる。すると、言葉に呼応するように、周辺の植物が蠢く。

 

「それが貴様の輝征装(エアラリス)かッ……!」

 

「ご名答。流石にご存知みたいやねぇ? ここにいた軍人らとは大違いやわぁ」

 

「貴様、ガメツイ将軍をッ……!」

 

「くすくすくす。帝国の先槍を誇る《四軸将軍(グランドクロス)》やからと、慎重に物事を運んだのに蓋を開ければなぁーんも妨害もなく捕えることができたさかい。これならもっとはようコトを起こせば良かったわぁ。ほんま驕っておいてくれて、ありがとさん」

 

 わざとらしく煽って来るカヤノスィノに、ウィルディが吐き捨てる。

 

「狂った女め……!」

 

「妾はなーんも、狂ってはありんせん。寧ろ、あんさんらの方が不可解やわぁ。自然の理から脱して、好き放題にしよってからに。あんさん達だけの繁栄の為にどれほどの生命が犠牲となったかお分かりかえ?」

 

「はっ、なんだオメェ。お説教のつもりか? 森の代弁者のつもりか?」

 

 オレの言葉に、カヤノスィノがこちらを見た。

 

「へぇ。言うてくれますこと。顔の悪いブサ漢が。晶獣にでも引っ掻けられたのかえ? あ、元からかぁ。くすくすくす、かわいそうやねぇ」

 

「うるせぇよ!」

 

 煽り返された。

 

 顔について指摘されたのでツッコミをするが、冷徹に考えを巡らせる。

 

 まだだ。

 

 距離が遠い。この位置からじゃ、植物にオレの雷は遮られる。冷静に、挑発しながら場所を調整する。

 

「人類の歴史は、積み上げて来た叡智によって築かれてきたんだぜ? オメェが扱うその力だって、業腹だが帝国による叡智の結晶なのに、笑わせるぜ」

 

「はっ、何が帝国の叡智の結晶や。元を辿ればこの輝征装(エアラリス)自体、代々妾達に伝わる秘術に教えを乞うて置きながら用が済んだら知らぬとばかりに、一族根絶やしにしようとしたさかいに」

 

「あぁ? なんだと?」

 

「知らへんとは言わせへんで」

 

 いや、本当に知らない。

 

 だが、なるほど。

 

 何故いの一番に帝国に対してこのような行動をしたのかこれでハッキリした。自然への回帰、これはカヤノスィノの言動と『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』における設定から間違いないだろう。

 

 なら、何故この世界において圧倒的に強いカエレスティス帝国国内で、行動を開始したかというと祖先の恨みという訳だ。

 

 カヤノスィノはあぁ言っているが、帝国の始皇帝の立場になればわかる。

 

 彼は《息吹ノ杖/アニミズム》を作り上げた際にその力を持つカヤノスィノの一族を恐れたのだろう。

 

 確かに国に繁栄をもたらすだろうがそれにより、一族に農業を握られてしまうことに対して恐れを抱いたのだろう。

 

 いつの世も、食糧を握る者は大きな力を得る。それゆえに、輝征装(エアラリス)を作り上げた後は用済みとばかりに始末したのだろう。

 

「同情するぜ、悪かった。不躾にオメェの心に土足で踏み込んだ。だが、それはそれとしてオメェがその力を利用しているのには変わりねぇぜ? つまりは、同じ穴のムジナって訳だ」

 

「くはっ、あんさん生意気どすなぁ。ま、ええわ。妾とて別に己が正義だとは自惚れてはおらんしぃな。だからこそ、此処は古き掟で決めさせてもらいんす」

 

「あぁ?」

 

「弱肉強食。太古の自然から続く、唯一の掟。なら、それに則って決着をつけましょうて」

 

「ほざけ! 貴様はここで終わりだッ!」

 

 ウィルディが吼えると同時に《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》を、変形させる。

 

「〝拡散機関銃掃射〟ッッッ!」

 

 カヤノスィノのいた蕾が閉じると同時に、ウィルディが《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》で作り上げた銃弾で蜂の巣にする。

 

 ありゃ、下手しなくても身体中穴だらけになると思っていたが。

 

「いない。消えた?」

 

 花びらだけを残して、カヤノスィノの姿は消えていた。

 

『くすくすくすっ! ほな。また会いましょう? 次はこんな殺風景な駐屯地じゃなく、自然豊かな大樹海でお待ちしてますえ』

 

 そんな言葉がどこからともなく聞こえてきた。

 

 カヤノスィノが去ると同時に、発生していた植物の動きは極端に衰えるのだった。

 

 

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