「カヤノスィノの厄介さは、自由自在に植物を操れるということだ。その範囲は、奴に近づけば近づくほどに増していく。つまり、この大樹海は奴の格好のフィールドというわけだ」
ウィルディの視線の先にあるのは、例の大樹。
メリスへの説明を兼ねての現状確認に、オレは頷く。
「あそこにはカヤノスィノ本人、そして人質たちが捕らえられていることが予想される。本来であれば、そこに辿り着くまでに相当な抵抗が予想されるが……これがあるならば、大幅に短縮できるな」
ウィルディが見るのは〝走行騎ケブラー〟。その速さは先ほど証明済みだ。
「帝国が新たなる交通手段を開発中だとは噂で聞いていたが……、まさかここで見ることになるとはな」
「ヴェルヌントが置いて行ったのも含めて2台あるし、何とかなりそうだな」
「えっ、ゲドウ運転できるの?」
「あー、昔似たようなのを触ったことあんだよ。流石に、速度とかは色々違うけどな」
まぁ、前世でバイクをバイクを乗り回していたし、似たようなもんだろ。
「そういや、メリス。オメェの乗ってきた方の〝走行騎ケブラー〟はどうした?」
「え? ……あっ」
メリスが思い出したような顔をする。
そこには地面に突き刺さったままの、〝走行騎ケブラー〟が! メリスは何度かハンドルを握るがうんともすんとも言わない。
「……壊れちゃった」
「
「しかし、これでは残った一台に全員が乗るしかないか」
「そう! そうだよ! しかたない、本当に仕方ないからわたしの後ろに乗せてあげるよ!」
「なんで仕方ないと言いつつ、嬉しそうなんだよ。そもそも壊れたのはオメェのせ」
「あーあー聞こえなーい! それよりも、安心して。わたしのドライブテクニック、見せてあげるよ!」
むふー、とメリスはどや顔をした。
「…………なんで?」
不満そうなメリス。
〝走行騎ケブラー〟に乗ったオレたちだが、順番はメリス、ウィルディ、オレである。
「そりゃ、バランス考えたらこの順番になるだろうがよ」
「わかるけど……! わかるけどぉ……! うぅ、初めて背中に乗せるのはゲドウって決めていたのに……」
なんだその車の助手席には、奥さんしか乗せないみたいなこだわりは。
「悪いが頼むぞ。この中で運転をしたことがあるのは貴様だけだ。我々の命、委ねるぞ」
「そう言われたら無下にできないよ。わかった、まかせて」
折り合いをつけたのか、真面目な返事をしたメリスが操作する。すると、〝走行騎ケブラー〟は駆動音を鳴らしつつ、地面から徐々に離れ始める。
すっげぇ! 浮いてる!
そのままメリスは慣れた手つきで運転し始めた。すっげぇ、バイクとは全然違うわ。こりゃ、オレが操作してたら事故ってたかもしれん。
加速した〝走行騎ケブラー〟の速さは、オレが昔バルザック討伐作戦の時に乗った晶獣を使った移動手段の比ではない。
ぐんぐんと大樹の元へと迫ってくる。
「下! 来るぞ!」
ウィルディの張り詰めた声。
大樹林の頭上を走り抜けていると、妨害するように眼下の樹木から枝や蔓が伸びてきた。そりゃ、黙って見過ごすわけないか。
「任せて!」
メリスがそう叫ぶと同時にまたもハンドルを操作。急加速をする。一度はそれで振り切るも、すぐさま別の枝が妨害してくる。メリスはそれを隙間を通り抜けるように加速したり、急ハンドルで躱したりした。
「この程度でわたしに追いつこうなんて10年早いよ!」
オメェまだ〝走行騎ケブラー〟を渡されてから多分半月も経ってねぇだろうにその自信はどこから来てるんだ。
そしてオレとウィルディはというと。
「うぇぇぇ、よ、酔いそうッ……!」
「っ……!」
酔いかけていた。ウィルディも何も言わないが、顔をしかめていた。
全て躱す技術はすげぇが、その分左右激しく動くからその度に負荷が掛かる。ハンドルを握るメリスはともかく、オレらを固定するためのものがない。
ウィルディが気を利かせて《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》で、〝走行騎ケブラー〟とオレの身体を繋いでくれてなきゃ、放り出されていたかもしれねぇ。
大樹までもう少し、このままならなんとかなる。
「えっ……!?」
その時だった。メリスの驚く声。
正面から襲いくる樹々の枝、葉、根っこ、その他諸々。
「ぐっ!?」
「ちぃ!」
間一髪、メリスは真正面から衝突は避けられたが、衝撃で《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》の固定が外れ、ウィルディとオレが放り出された。
「ゲドウ! ウィルディさん!」
「いや、良い! いけ! オメェは人質を探し出せ!」
オレの言葉にメリスは迷ったものの、頷いてそのまま突き進んだ。
オレは落下の衝撃を、枝や葉にぶつかりつつ緩和し、地面へと着地する。
「やっぱりそう簡単にはいかねぇか」
「無事か、マルドラーク」
「ウィルディ隊長もな」
お互いの無事を確認して、周囲を警戒する。
「おいでやすぅ? 待っておったでぇ?」
多種多様な樹々を従え、現れたのはカヤノスィノ。
あの時と同じ、巨大な花の中心部に生えているように現れた。
「遂に捉えたぞカヤノスィノ!!!」
怒気に満ちたウィルディの声。
カヤノスィノはくすくすと、嘲笑う。
「おぉおぉ、えらい形相やのう。そんな顔、乙女がしたらあらへんよ?」
「黙れ。ようやく、その面を拝めたのだ。これまでの屈辱を返すまで逃さんぞ」
「大層な言葉を吐きよるのぉ。強がっても、あんさん此処に来るまでに部下を失いはった。頼りの
「この格好は正装だ!? それに貴様にだけは言われたくない!」
「いや、どっちも痴女──」
「「は?」」
「すいません、なんでもないです!」
すげぇ顔で睨まれた。
「ま、確かにあんさんらがここまで怪我らしい怪我をせずに来れるとは思うてへんかったわぁ。分断したとはいえ、あの力の強ぉ娘も厄介やし」
「はっ、ならば降参するか?」
「冗談。くすくすくす、けど何の問題はないわ。妾には力強い
カヤノスィノが笑いながら、《息吹ノ杖/アミニズム》を掲げる。
すると草木が分けられ、姿を現した人物は……!
「だれ???」
知らねぇ。
『リベリオン/戦禍の夜明け』でも、『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』でも知らない。
マントを羽織った
大凡強者の貫禄も何もない、本当に太ったおっさんだ。
一瞬身構えていたオレが馬鹿みてぇじゃねぇか。しかし、隣でウィルディが驚愕の表情を浮かべる。
「
「あれが!!?」
その名前はここに来てから聞いたものだ。
パイオニア駐屯地の《
しかし、『リベリオン/戦禍の夜明け』にもいなかった人物だったので、オレはさして気にも留めていなかった。それだけウィルディとの出会いが印象的だった。
改めて太ったおっさん……もとい、ガメツイ将軍を観察する。
まったく鍛えられていない腹の出た体に、ぷよぷよの足。しかも腰の褌と身体の周囲に浮くマント以外は全裸という事実。そのくせ、体毛はクルンとした髭以外は見当たらず、そのせいで鮮明に贅肉の乗った身体がわかるという悪循環。
み、見るにたえねぇ。
なんで中年おっさんの、それもたるんだ身体見ねぇといけねぇんだ。
つーか、なんで黒い褌とマントだけ残してんだよ! そのせいで変態具合に拍車がかかってるわ!
「くすくすくす、言葉もでえへんみたいやねぇ。その通り、あんさんらの駐屯地の将軍様やよ。まったく強くなかったんやけど、
「が、がばば、か、金、名誉は、わた、わた、わたしのもの、ののの」
がくがくと、口から涎を出しながら意味不明なことをガメツイ将軍が宣う。明らかに異常をきたしていた。
「〝寄生種〟。そこの顔の悪いあんさんにさっきはしてやられたからなぁ。悪いけど、脳に細工をさせてもろたわぁ。これでもう、あんさんでもどうすることはでけへんで」
「ちぃっ……!」
カヤノスィノの言葉に舌打ちする。
奴の言う通り、脳にまで植物に寄生されるとオレが雷で焼き尽くしても、脳にダメージを負ってしまう。
どうしようもねぇ。
ガメツイ将軍は向こうの手に堕ちた。それすなわち、
「けどなぁ、それだけであらへんのよ? さぁ、見てみぃな」
《息吹ノ杖/アミニズム》をカヤノスィノがこちらに向けた。
奴の植物か、そう思ったオレはカヤノスィノの周りの植物を雷で焼き払おうとして──
「違う! マルドラーク、
その言葉にオレはすぐさまその場から回避する。すると突き出た石の槍みたいなのが、オレの居たところに出現した。
「あっぶね、何だ今のは……?」
「ガメツイ将軍の
「なんだそのチートは!!?」
『リベリオン/戦禍の夜明け』にも出てきてない
人間が地面から離れられるはずがねぇ。
まて、地面隆起するってことはもしかして……!?
オレの予感を肯定するように、ガメツイ将軍が足を振り上げた。
「〝
「ずおぁっ!!?」
「ぐっ!」
凄まじい揺れが襲って来る。
立ってられないほどの衝撃だ。しかもそれだけじゃねぇ。
地面に押し上げられた植物が上下高低差をつけて襲いかかって来る。
「マルドラーク! 〝守護要塞〟」
ウィルディがオレごと《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》で球状に包み込み、襲いくる植物から守ってくれる。
「わりぃ、助かりました」
「かまわん。それよりも、厄介だな……。奴の植物ですら手間取るのに、ガメツイ将軍のせいで迂闊に近づくこともできん」
全くもってその通りだ。
しかも両方シナジーがある
最悪、遠距離から雷連打とかいう、力押しも考えていたがガメツイ将軍が地面を操るなら防がれる可能性がある。
……ほんとうにめんどくさいなガメツイ将軍!
なんでオメェ、『リベリオン/戦禍の夜明け』本編に出てこなかったんだよ!
「マルドラーク、わかっているな?」
「あぁ、厄介なのは間違いないが元凶がわざわざ出向いてくれたんだ。かえって手間が省けたってもんだ」
確かに厄介だが、チャンスだ。
てっきりカヤノスィノはあの大樹の元にいるとオレは思っていた。カヤノスィノの
しかし、カヤノスィノがここにいるならその心配はないってモノだ。
人質はメリスが何とかするだろう。
オレたちは、カヤノスィノに集中すべきだ。
「さぁさぁ、頑張ってぇなぁ。せいぜい、踊っておくれやす」
くすくすと、カヤノスィノは嘲笑うのだった。