拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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第54話

 

「メリス!!!」

 

 大樹にたどり着いた時には、遅かった。

 

 まるで果実のように、人質だった人々が頭を植物に咥えられている異様な光景。その中心、気を失ったメリスが木の枝によってがんじがらめにされていた。

 

 ギリっと歯を食いしばる。

 

「なんだこの光景は……!」

 

「オメェ、今すぐにメリスや他の人々を解放しやがれ!」

 

「くすくすくす、いやに決まっとるやないの。せっかく、こうして手に入れたんやしなぁ」

 

 メリスのそばにいたカヤノスィノ。間違いなく本体だ。

 奴はわざとらしくメリスの頬に手を当て

 

「めちゃくちゃ生意気やし、心底気に入らへん人やったけど……やっぱり手駒にすることにしたわ」

 

「なんだと?」

 

「今はこうして眠っているだけやけど、次第に彼女の記憶は無くなっていく。〝寄生種〟でもよかったんやけど、あの将軍みたいに頭がパーとなっても困るしなぁ。このまま完全に記憶を失ってもろて、妾の手先として教育してやるわ。くすくす、楽しみやねぇ?」

 

 最悪だ。

 

 『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』での《改革》ルート、カヤノスィノ戦でもあったBAD ENDと同じじゃねぇか。そのENDじゃ、メリスは文字通り手先として、帝国に牙を向く。

 

 《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の所有者たるメリスの力は並大抵ではない。カヤノスィノの言葉通りだとして、早く助けなければメリスの記憶がなくなる。

 

 それに、やっと自らの人生を歩み始めた少女が。

 

 肉まんが大好きで、ちゃっかりしていて、未来のために自身を鍛えあげて、色んな人と交流をもって、なんか俺の服を着服していたメリスがいなくなる(死んでしまう)

 

 そんなこと断じて許すわけにはいかねぇ。

 

「まぁ、それまでの間アンタさんらの相手をしてあげようやないの」

 

「来るぞマルドラーク!」

 

 ウィルディが声を張り上げる。

 

 先程ガメツイ将軍の時にいた偽物とは比べ物にならないくらい、洗練された動きと速さで植物が襲いかかってくるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 ぐるぐるぐるぐる。

 

 ふわふわふわふわ。

 

 ここはどこだろう。なんだが、すごく気持ちが良い。まるで、湯船に浸かっているみたい。わたしはそのまま揺蕩うように、流れに身を委ねる。

 

 ……でも、なんだろう。

 

 このままじゃいけない気がする。

 

 そうだ、わたしは何をしていたはず。誰かに頼まれて、誰かと対峙していたはず。なんだっけ……?

 

 

 

『その力を受け入れたら、オメェそこで終わりだぞ』

 

 不意に。

 

 雷の音と同時に、悪人面を思い出した。

 

 

 

「ゲドウ……!」

 

 そうだ、思い出した!

 

 わたしはパイオニア駐屯地を襲ってきたカヤノスィノと戦っていた! そして、そいつに不意を突かれて囚われた。

 

 一気に意識が覚醒する。

 

 それでも身体が揺蕩う感覚は、そのままでわたしは流されるように漂い続けた。その最中様々な光景を見た。

 

『メリス、逃げて……!』

 

 あの時、お母さんがわたしを逃がそうとして扉の前でカエルム人兵士に刺された光景だ。

 

『キミの身体に埋めたのは、かつては帝国を震撼させた最強の怪物《嘯き欺く悪魔獣デミウルゴス》! その力は軽く他の輝征装エアラリスを凌駕する!』

 

 ナクア。

 

 忌々しいあの男の声が聞こえてくる。どこまでよ嘲笑うようにわたしの身体を好き勝手にしてきた。

 

『カエルム人のきみが彼を認めるんだ。もちろん、ただの一般人が認めるだけでは意味がない。だからこそ、輝征装(エアラリス)を持つきみがなるんだ。《天刑護騎士(アストロノーツ)》、《サイデリアル》、《四軸将軍(グランドクロス)》、《天都直参防衛軍(カーマンライン)》、我が帝国が誇る輝征装(エアラリス)を用いし精鋭(ほし)たち。それらを全て乗り越え、跳ね除け、誰もが見上げる星──、一番星(プリマステラ)に』

 

 次に聞こえたのは、セレスティアラの声。

 

 あの時個室で聞かされた彼女の提案。わたしはその手を取って、《特務兵装開発部(アルカナム)》で武功をあげることを決めた。

 

『今あたしの名を呼んだかしら!? 呼んだわよね! そう! 至高でありカエレスティス帝国を誇りし剣! 《サイデリアル》…… になる予定……のニェーニ・フラグラッシャーとはこのあたしのことよ!』

 

 ドヤ顔のニェーニが映った。これはどうでも良いかな。

 

『頼むぅぅぅ、あれを味わって以来、何を食べても物足りなさを感じるんだぁぁぁ!!! そう、それは乾いたパンにカピカピのハムを包んだサンドイッチを食べたのと同じくらいに味気ないのだ!!!』

 

 土下座する変態(ヴァンサン)が映った。うわぁ……。

 

 その後も色々な光景が流れては消えていく。

 

 これは記憶だ。

 

 わたしの記憶。わたしは今、記憶の波というべきところを漂っているんだ。ただ、今はこんなのを見ている暇はない。

 

「なんとか……起きないと……!」

 

 現実のわたしはまだカヤノスィノに囚われて眠っている。

 なんとか目覚めようともがくけども、身体は一向に目覚めない。

 

 その間にもまた、記憶が流れていく──。

 

『退くなぁ! ヤツ(・・)は我らが帝国の敵だぁ! 倒さねば未来はないぞ!』

 

 不意に誰か兵士が叫んでいる姿が見えた。武器を持ち、多くの兵士が立ち向かってくる。

 

 ちがう。

 

 これはわたしの記憶じゃない。誰の記憶?

 

 その間にも映像は進んでいく。兵士たちの中には妙な力を使う人たちがいた。もしかしなくても、あれは輝征装(エアラリス)? なら、彼らは《天刑護騎士(アストロノーツ)》? そしてそれを、なにかが一蹴していく。

 

 強い。強過ぎる。

 あれだけの《天刑護騎士(アストロノーツ)》がいるのにまるで歯が立たない。誰がこんなことをしているの?

 

『はははは! この程度でワレに敵うと思ったか。この愚か者がぁ!』

 

 嘲笑うような声。

 この声をわたしは知っている。わたしに埋め込まれた《悪魔の心臓/デモゴルゴン》、その素材となった《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の声だった。

 

 

 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の本当の姿を初めて見た。

 

 巨大な体格に、太く強靭な翼に、天を貫かんとばかりに聳える角。まさしく悪魔獣というに相応しい風貌と力強さを感じる姿だった。それはまるで、竜という生物にも似ていた。

 

 場面が変わっていく。

 

 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》はずっと戦っていた。

 

 はるか昔から、現代に至るまで。

 木の槍といった昔の武器から、精錬された剣や弓、そしてありとあらゆる輝征装(エアラリス)を持つ《天刑護騎士(アストロノーツ)》たちが敗北していく。

 

 強い、強すぎる。

 

 わたしはまだ輝征装(エアラリス)を持つ相手に苦戦しているのに、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》はその相手を一蹴した。

 

『どいつも、こいつも、まるで歯応えがない。崇めたり、恐れたり、同じような反応しかせん』

 

 不遜に、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が嗤う。

 

 月夜の背景も相まって、まるで悪魔そのもの──

 

『今日も独り(・・)か……』

 

 その声色は、その表情は。

 

 傲慢でも嘲笑でもない。ただ、どうしようもなく寂しそうな響きだった。

 

 わたしが何かを感じる前に、またもふわふわぐるぐると落ちていく。

 

『くはははは、またやってきたか人間が! 懲りないモノだなぁ! また殺してやる』

 

『わぁ、あなた喋れるのね。晶獣が喋るのなんて、初めて見た……。ねぇ、友達にならない?』

 

『…………は?』

 

 最後に、そんな会話が頭上から聞こえてきた。

 

 

 

「ここは……」

 

 やがてたどり着いたのは真っ白の空間。

 

 あたりにはわたしの記憶から全く知らない記憶までさまざまな光景が、まるで美術館に飾られているみたいに周辺に浮かんでいる。わたしはその中心に立っていた。

 

『ふん、よもやこんなところまで深入りしてくるとはな』

 

「あなたは……!」

 

 声が聞こえてくる。

 

 見上げると、そこにいた。さっき見た全く同じ姿の《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が。ただ、違ったのは鎖みたいなのに四肢を繋がれているのと、胸部に当たる部分にわたしに埋め込まれた《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の赤い宝石が、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》にもあることだった。

 

『初めまして、とでも言うべきかな? まさかこんなところで直接相見えるとは思わなかったが。あの女(カヤノスィノ)、なかなかの使い手らしいな。不快だ』

 

 語りながら《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》はどこか、宙を見ていた。わたしもその視線の先を追う。たくさんある記憶の映像。そこにある一つを《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》は見ていた。

 

 そこには《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》と、二人の男女がいた。性別も、年齢も、種族も何もかもちがうのに、三人は楽しそうだった。

 

 

 

 場面が変わった。

 

 

 

 そこにいたのは血濡れの《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》。満身創痍、もはや死ぬ一歩手前。それを成したのは、先ほどまで楽しそうに話していた二人の男女だった。

 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の瞳が、二人を見る。

 

『何故だ、何故だ、何故だぁぁぁぁ!? うそだったのか! ワレと、友達になろうと言ったのは……!?』

 

『あの言葉に嘘はない。だが、きみは……強すぎたんだ。国を背負う者として、僕はきみを討たねばならない。脅威を取り除かねばならない。……それがたとえ友であろうとも………!』

 

『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。わたしたちは、あなたの本当の友達にはなれなかった。ごめん……なさい…………!』

 

 二人は涙を流しながら、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》を斬った。あれだけ強かった《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が倒れていく。命が終わっていく。

 

『おのれ、おのれぇ……! 覚えていろ! 必ずやこの怨みと怒りを晴らしてやるからなぁ!!!』

 

 それは憤怒と憎悪に染まった声。

 

 だけど、どうしてだろう。

 

『覚えていろぉ! カエレスティスッ! オリエントォッ!』

 

 わたしには、哀しくて泣いているように見えた。

 

 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》は、流れていく記憶を忌々しげに睨んでいる。

 

『不愉快な記憶だ。思い出したくもない』

 

「あれはやっぱり、あなたの……」

 

『帝国はワレを殺したあとその力を自らのモノにしようと考えていた。だから、ワレはワレを扱おうとした人間どもを悉く発狂させてやった』

 

 わたしはそれを聞いて理解した。

 

 ナクアは確かに、《悪魔の心臓/デモゴルゴン》は適合者が現れなかった輝征装(エアラリス)だと言っていた。《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の強靭すぎる意志が、使用者の心を悉く蝕んだのだろう。

 

『だが、今はそれよりも不愉快なことがある。……貴様なんぞに見られたことがな!』

 

「うぐっ……!?」

 

 普通であれば、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の本体は《悪魔の心臓/デモゴルゴン》の赤い宝石でしかない。

 けど、この空間では《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》は全盛期と同じ姿でそこにいた。その存在に、わたしは首を絞められる。

 

『ここまで貴様の精神が来たのであれば好都合! このまま貴様を殺し! 貴様の肉体を乗っ取ってやる! そうすれば、ワレは甦れる! そして忌々しい帝国に復讐を……!』

 

「ちが……う……!」

 

『なに?』

 

 首を絞められながらも、わたしは言葉を紡ぐ。それが意外だったのか、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の手が緩んだ。わたしは必死になって息を吸いながら、言葉を続ける。

 

「誰かを憎むことを、否定しない。わたしだって、わたしの人生をめちゃくちゃにしたあいつ(ナクア)のことを、わたしは殺した(・・・)。そうしないと、前に進めなかったから……!」

 

 今でもナクアのことや、帝国のことを思うと怒りが湧いてくる。

 

「でも、あなたは違う。だって、あなたは悲しんでいた」

 

『はっ、何を言うかと思えば妄言──』

 

「違う! わたしにはわかる! だってわたしにはこれがあるから」

 

 胸にある《悪魔の心臓/デモゴルゴン》に触れる。わたしと《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》はこれで繋がっている。そのことを気付いた《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が、言葉に詰まった。

 

『はっ、だとしたらどうした? 同情でもする気か?』

 

「ううん、気持ちがわかっただけでそんなことはできない。だってわたしは……あなたのこと、何も知らないから!」

 

『なに?』

 

「あなたが恨む気持ちは本物だった! 怒る気持ちだって! でも、それ以上に悲しい感情がなだれ込んできた!」

 

 その言葉に、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が怯む。

 

「わたしは正直、なんで貴方と適合したのかわからない。でも、その理由を知るためにも、こんな所で死ねない! わたしは今、敵と戦っているの。こんなところで、寝ている場合じゃない。でも、悔しいけど、今のわたしじゃアイツに勝てない……!」

 

 大樹海を支配するカヤノスィノ。

 

 周りに人質がいて、相手に有利なフィールドじゃわたしは勝てないと強く認識した。それこそ力がいる。《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が複数の《天刑護騎士(アストロノーツ)》を蹴散らしたような、圧倒的な力が。

 

「だから、力を貸して……ううん、違った。一緒に戦って! 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》!」

 

『……く、くはははは! 己の力のみで勝てぬからと、ワレに力を乞うか! あれだけ自分の人生は自分のモノだと言っておった小娘が、笑わせる。矛盾だ、相反だ、なんとも業突く張りなことよ!』

 

 《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》が愉快そうに嗤った。

 

 わたしでも、自分が何を言っているのか理解している。それでも、この現状を抜け出すには、《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の力が不可欠だった。

 

『だが、一緒に戦えと言った愚か者は初めてだ。良いだろう。啖呵を切るその姿、気に入った』

 

「うわ……!?」

 

 わたしの身体が黒い炎に包まれた。

 一瞬、殺されるのかと思ったけども全然熱くない。寧ろ力が湧いてくる。そして、この黒い炎をどう使うのか、それすらも頭に入ってくる。

 

『お前の肉体は、ワレがいずれ貰う。そのために、あんな女にお前を殺させてたまるものか。精々、足掻いてみせろ。メリス(・・・)

 

 最後の言葉は、いつものすべてを嘲笑うようなものじゃない、ほんの少しだけ柔らかい声色で。

 

 わたしの意識は急浮上していくのだった。

 

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