拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした   作:異星人アリエン

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その時溢れ出した、存在しない記憶

side:ウィルディ

 

 状況は最悪だ。

 

 結局、カヤノスィノに痛手を与えられぬまま大樹の元に来てしまった。

 

 今なお周辺の植物が襲いかかってくる。

 私は残り少ない《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》を駆使し、剣や槍と変形させながら捌いていく。

 マルドラークも同じように自身の槍で迎撃しているが、際限がない。

 

「くそが! 時間もねぇってのに……!」

 

 マルドラークも悔しそうにしていた。

 

 視線は奴の同居人だという女が囚われている植物。

 

 カヤノスィノが何をしているかわからないが、ろくなことでないのは確かだ。

 

 メリスといったか。

 何の輝征装(エアラリス)かは知らないが、その力の強さは目の前で見た。

 ガメツイ将軍のように操られてしまえば、向こうは輝征装(エアラリス)使いが二人になる。勝ち目がなくなる。

 

「ならば……、マルドラーク! 合わせろ!」

 

 突貫する。マルドラークも驚いていたが、私の動きに合わせて動いた。

 

 やはり優秀だな。

 

 そのまま進むと、カヤノスィノは植物を集中させて攻撃をしてくる。私はマルドラークの元に向かう。一瞬、ギョッとしたがヤツはすぐに私の意図に気付いた。

 

 槍の柄の部分を突き出し、私はそこを掴む。

 

「いけ!」

 

 そのままマルドラークはフルスイング。私は宙へと打ち上げられた。

 

 宙からカヤノスィノの姿がよく見えた。

 

 奴は杖を構えたまま、飛んできた私に驚いていた。その隙に、カヤノスィノに小型のナイフを投げようとするが。

 

「おぉ、おぉぉおぉ! これ、ほんとうに全部食べて良いのか!? 素晴らしい!」

 

「くっ……!」

 

 遮るように、頭を植物に咥えられた人質が目の前に現れる。

 

 まただ。数少ない隙を狙おうにも、人質が邪魔だ。

 おかげでマルドラークも雷の本領を発揮できていない。どこまでも卑怯な女め……!

 

「隙だらけやでぇ」

 

「がっ!?」

 

「ウィルディ隊長!」

 

 しかもその人質ごとぶつけにきた。

 

 武器を持っていては殺傷してしまうので、《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》を解除するしかなかった。おかげでもろに喰らってしまう。しかも、飛ばされる最中枝や葉で身体が傷つく。

 

 そのまま地面に叩きつけられる。

 

 息が詰まる、身体が激痛を訴える。立てない。

 

「まずは一人脱落や」

 

 差し迫る私を貫通しようとする鋭い木の根っこ。

 

 立ち上がるだけの時間はない。防ぐために必要な《戦装銃刃/メタリック・アーマメント》もない。

 

 ここまでなのか?

 

 私、わたしは。

 

 まだあの背中に追いつくことすらできず。

 

 こんな場所で。

 

「お、ねえちゃ──」

 

 ぶしゅっ、と鮮血が舞った。

 

 熱い血が、私の顔にかかった(・・・・・・・・)

 

「っ、あァッ…………!」

 

「マルドラーク……!? 何をしている!?」

 

 目の前で、アスデブリの男が自分を庇い、脇腹を貫かれていた。

 苦痛にうめく声が聞こえる。私の顔にかかった血が、熱く垂れる。

 

「馬鹿者が! なぜ私を庇った!? 今、この場でもっとも現状を打破できるのは自分だとわかっているのか……!? 私を庇って傷を負うなど、言語道断だ!」

 

「悪りぃな。アンタのこと、見捨てられねぇんだわ……!」

 

「愚か者っ、戦場では役に立たないモノは淘汰される。捨て置けばよかったんだ……!」

 

 《帝国の先槍》。

 

 かつてのバレットリガー家の名誉。

 

 役に立てないのなら、死ぬべき。

 そうだ、それこそが正しい。なのに、なぜ私を庇う。この場でもっとも価値があるのは、お前なんだ。なのになぜ……!

 

「悪ぃな、オレは軍人である以上に人間だ(・・・)。親しい間柄の奴を、見捨てておけねぇよ。それに…… あんたに、二度も置いていかれるようなことをさせてやりたくなかったんでな」

 

 安心させるように笑みを浮かべる。

 まるで犯罪者のような凶悪な笑み。だが、その優しさは伝わっていた。

 

 そして、その姿は。

 

「姉上……」

 

 私のよく見ていた姉上と同じだった。

 

 姉上のように私を導いてくれた。

 姉上のように私を気遣うその姿。

 姉上のように笑顔が苦手なのに、私には笑みを見せてくれていた。

 

 マルドラークと姉上の姿が重なっていく。

 だが、マルドラークは()ではない。

 

 そうか。

 

 そうだったのか。

 

 至った結論がすとん、と胸に落ちた。

 

「マルドラーク、お前は……私の兄上(・・)だったのだな……!」

 

「…………ん?

 

 私にはもう一人兄がいたのだ!!!

 

 

 

◇◇◇

 

 何言ってんだこいつ。

 

 やべぇ、ウィルディが錯乱した! いや、それともカヤノスィノが花粉か何かで幻覚でも見せてるのか!? 誰が兄だ、オレはそんなのになった覚えはねぇよ!

 

 くっそ、腹もいてぇ。

 

 なんでウィルディがそんなバカな結論に至ったのか、考える暇もねぇ……!

 

「話していて結構やけど、あんさんら詰んでいるのわかっております?」

 

 カヤノスィノが嘲笑う。自らの勝利は揺らがないとばかりに。

 そうだ、今はこっちに集中すべきだ。オレはカヤノスィノに向き直り、歯を見せながら笑う。口からは一筋の血が流れているが関係ねぇ。

 

「わかんねぇか?」

 

「なんやと?」

 

「此処には人質たちがいて、オレの力を発揮できなかった。だが、今ならオレとオメェとしか繋がっていねぇってことだ! 〝アン・ブレイカー〟ァッッッ!!!」

 

 雷が迸る。

 

 周囲に影響を及ぼさず、ただ一直線に根を伝りカヤノスィノへと差し迫る。カヤノスィノは焦ったが、どうしようもない。

 

 果たして、オレの雷はカヤノスィノ本人には届かず。カヤノスィノの持つ《息吹ノ杖/アミニズム》に大きな亀裂が走った。

 

「っ、妾の輝征装(エアラリス)が……ッ!」

 

「くそっ、仕留める気だったのに。このザマかよ……ッ!」

 

「兄上!」

 

 誰が兄上だ。

 

 肉体を酷使し過ぎた。身体に走る雷の傷跡がいてぇ。頭がぐらぐらする。だが、それでいて、謎の高揚感が身体を包み込む。

 

 オレの身体が、少しずつオレでなくなっていく。

 星晶霊へと、変化していく。これ以上使えば、オレは。

 

「やってくれたなぁ……! やけど、このくらいで……なっ!?」

 

 憎々し気にカヤノスィノが半壊している杖をこちらに向けた瞬間。

 

 カヤノスィノの横、メリスが囚われていた場所から黒い炎が燃え上がった。

 

「なにごとや!?」

 

「発火しただと……!?」

 

 カヤノスィノも、ウィルディも突然の炎、それも自然界ではありえない黒い炎に呆気にとられる。

 

 一方でオレは、目を輝かせた。

 

 あの黒い炎。知っている、オレは知っている。

 

「おはよう、よくもやってくれたね!」

 

 メラメラと、自然界ではあり得ない黒い焔がメリスから燃えている。彼女はそれに熱がる様子もなく、ただカヤノスィノだけを見据えていた。

 

「あの、黒い焔は……!」

 

 〝不滅の魔焔(アグリアル)〟。

 

 『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』において、メリスが会得できる《嘯き欺く悪魔獣(デミウルゴス)》の力の一つだ。

 

「はっ、そうか。引き出せたんだな」

 

 メリスの目は乗っ取られていない。

 

 いったい何があって〝不滅の魔焔(アグリアル)〟の力を使えるようになったか皆目見当

もつかないが、それでもその自信満々な表情から何かを乗り越えたんだと悟る。

 

 ほんとう、この土壇場で覚醒とか主人公みたいだ。いや、外伝ゲームの主人公なんだけどさ。

 

「なんやそれは? あんさんは、妾の術に眠っていたはず……!」

 

「見てわからない? そんなのもう解いたのよ」

 

「くっ、だとしてもこれでもやれるかいな?」

 

 カヤノスィノが植物を動かす。

 自身を守るように人質たちを、自らの前に展開する。それを見たメリスは、ただ右手に黒い焔を宿し、構える。

 

「関係ないよ。〝不滅の魔焔(アグリアル)〟!!!」

 

 メリスの身体が燃えあがる。

 そのまま放たれた黒い焔は人質ごと植物を飲み込んだ。

 

「な、貴様なにをしている!?」

 

「へぇ? 意外やなぁ。あんさんあんなに人質を気にしていたのに。くすくすくす、どうやらあんさんも妾と同じ側やったみたいやねぇ?」

 

 俺の身体を支えつつ驚くウィルディ。

 

 カヤノスィノは驚いたようだったが、人質ごと焼き払ったと思ったのか満足げだった。同じ穴の狢とでも思っているんだろうな。

 

「呆れた、何もわかっていないのね」

 

「はぁ? ……んな!!?」

 

 黒い焔に包まれた人質たち。

 

 だが、彼らは全員無傷(・・)だった。ただ、捕らえていた植物だけが燃え尽きていた。

 

不滅の魔焔(アグリアル)〟の最たる特徴。

 それは使用者が、燃やすものを識別し、判別してそれだけを燃やすことが出来る焔だ。

 

 バルザックの《火焔魂/イフリート》ほどの火力はないが、それを抜きにすれば使い勝手の良すぎる力だ。そもそも、《火焔魂/イフリート》が炎の温度が高すぎるだけで、人に使えば余裕で死ねる火力を〝不滅の魔焔(アグリアル)〟は持っている。それが対象を識別できるとか、使い勝手が良いにも程がある。

 

「これなら、あんたがどれだけ人質を盾にしようとも関係ないね」

 

「くっ、舐めるんやないッ! それだけの威力、連発はでけへんやろ!」

 

 カヤノスィノは諦めずに、植物を操る。

 

 だが。

 

「くぅぅ、操作が……この、ブサイク男めぇ……!」

 

 俺が《息吹ノ杖/アミニズム》を半壊させたからか、その精度は明らかに落ちている。当然、そんな状態じゃメリスは止められない。

 

 メリスは植物の隙間を掻い潜り、〝不滅の魔焔(アグリアル)〟で焼き払い、カヤノスィノに迫っている。

 

「あなたは強かったよ。そう思う。でも、それ以上にムカついている。だから、ここで終わらせる」

 

「っ、待ちなはれ!」

 

「じゃあねッ!!!」

 

 〝不滅の魔焔(アグリアル)〟を纏った拳が、カヤノスィノを貫いた。

 カヤノスィノは、呻いたあと身体が黒い焔に包まれる。

 

 これで終わりだ。

 

「ははっ、ったく、かっけぇなぁ」

 

「兄上ッ!」

 

 腹部からの失血と、痛みにオレは膝をつく。ウィルディが心配そうにオレを支えた。

 

「は? 兄……え???」

 

 困惑するメリス。

 

 いや、ほんとうに。だれが兄だっての。

 

「ま……だやぁ! まだ、終わらへん……!」

 

 絶叫混じりにあがる怨嗟の声。

 

 カヤノスィノだ。奴は黒い焔に身を包まれながらも、こちらを睨んでいた。

 

「張り巡らせた植物は全焼……、手先にした晶獣は全滅……、捕らえた人質は解放……。でも、まだやぁ……! まだ、終わってへん……!」

 

 すっ、とカヤノスィノが半壊した《息吹ノ杖/アミニズム》の先端を自らの胸部に向けた。

 

 ──まずい。

 

「メリス!!! はやくトドメを刺せ!!!」

 

 オレの言葉に、メリスはさっき以上の〝不滅の魔焔(アグリアル)〟を纏ってカヤノスィノに接近する。

 

 だが遅かった。

 

 カヤノスィノは自らの胸を《息吹ノ杖/アミニズム》で貫いた。

 

 途端に、あたりに地響きが響き渡る。

 

「〝不滅の魔焔(アグリアル)〟ッ!」

 

 メリスが、〝不滅の魔焔(アグリアル)〟を放った。しかし、それは地面から急に生えてきた巨大な木の根っこが着弾し、燃えながらもカヤノスィノを守った。

 

 バキバキと音が鳴る。

 

 数多の根っこがカヤノスィノを包み込み、大樹と一体化していく。くそっ、こうなるのか! これが行われてる前に倒したかったのによ……!

 

 『シャヘル=シャレム/薄明の境界線』におけるカヤノスィノの最終形態、滅霊装(パルバースト)と同程度の力を持つ奥の手。

 

「〝森羅の母樹(ヤマツミノミコト)〟、調子に乗るのもそこまでにしぃや。猿が」

 

 大樹と一体化したカヤノスィノが、こちらに向けて大きく叫んだのだった。

 

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